窓際の君

気衒い

文字の大きさ
上 下
26 / 140
〜現代編〜

第二十六話:ストーカー

しおりを挟む

「細かいことは後回しにしましょ。今はこの事態を片付けるのが先」

「……………そうね」

 長月先輩はそう言うと肩に担いでいた傘をまるで竹刀を扱うように両手で持った。

 すると、それを見たクレア先輩も足元の傘を拾い、同じように持った。

 その時、何故かは分からないがクレア先輩の方が構えが馴染んでいるように感じた。

「お、おい!!さっきのを見てなかったのか?僕は昔、空手をやっていたって言っただろ!!」

「だったら、さっさとかかってくればいいわ」

「くっ……………」

 ストーカーは先輩達に挟まれ、前門の虎、後門の狼という感じになっていた。

 そして、クレア先輩達が包囲網をジリジリと狭めようとした瞬間、ストーカーは思い切って拳をクレア先輩へと突き出した。

「う、うおりやっ!!」

「ふんっ!」

「っ!?ぎや~っ!!い、痛ぇ~~!!」

 対するクレア先輩は傘を大上段から振り下ろし、その拳を叩いた。

 すると、ストーカーはその際の激痛で喚き散らした。

「く、くそっ!!覚えておろよ~~!!」

 そして、その直後、一目散にその場から逃げ出したストーカーはこちらに背中を向け長月先輩の横を駆けていった。

 その間、長月先輩はただただ黙って見送るだけで特に追い討ちなどはしなかった。

「…………あ、あの」

 私はこの時、束の間に流れた沈黙の時間を使って救ってくれた二人に何か言葉を掛けようと声を発した。

 しかし、それは当事者達によって、すぐに遮られてしまった。

「…………とりあえず、場所を変えましょう」

「それなら近くの公園がいいよ。そこなら軽い手当てもできるし」

 そう言う二人に従って、私達は移動を開始した。

 当然、気を失って倒れている拓也先輩も抱え上げて連れていった。




        ★





「…………ん?あれ?ここはどこだ?」

「っ!?拓也先輩!!」

「っ!?いてて…………おい、優梨奈。そんなにきつく抱き付くなよ。身体が痛いだろ……………って、あれ?俺、何で身体が痛いんだ?」

「ようやく目が覚めたのね。おはよう、寝ぼすけさん」

「クレア?あれ、俺達……………」

「覚えてないのね。あなた、ストーカー男に吹っ飛ばされて気を失ったのよ」

「…………あ、確かそうだったな。あいつに吹っ飛ばされて、硬いゴミ箱に当たったんだ」

「す、ずみまぜん拓也先輩~!!わ、私のぜいで拓也先輩が、拓也先輩が~~」

「落ち着け。俺は無事だ。それに……………お前に怪我がなくて良かった」

「拓也先輩~~~!!」

 俺は大泣きしながら抱き付く優梨奈を宥めつつ、今いる場所を確認する為、周囲に目を走らせた。

「ここは…………」

「近くの公園よ。あの後、何とかストーカーを追い返した私達は傷の手当てをする為にここに駆け込んだの」

「そうだったのか…………それにしてもよく無事だったな。あいつに吹っ飛ばされた時に感じたが、結構ガタイが良かったよな?」

「そうなんですよ!でも、クレア先輩が」

「彼女が助けてくれたのよ」

 興奮して捲し立てようとした優梨奈を制して、クレアはある一点を見つめながら言葉を放った。

 彼女の視線を辿るとそこは近くの茂みであり、次の瞬間、そこから俺達と同じ制服を着た女子生徒が現れた。

「っ!?な、長月!?何でここに……………」

 俺は今、ここにいるはずのない人物を見て驚いた。

 当の本人も若干、気まずそうな顔をしながら、こちらに視線を向けてきた。

「まぁ、なんというか…………成り行きで」

「そ、そうか」

 それ以上の会話を繰り広げることができず、少し沈黙の時間が漂った。

 しかし、それもすぐに終わりを迎えた。

 何故なら、この場には俺よりもよっぽど会うのが気まずい人物がいると気付いてしまったからである。

「あれ?そういえば、クレアと仲直りしたんだな」

「ええ。とはいっても、あなたが眠っている間にね。助けられている最中はとてもじゃないけど、そんな状況じゃなかったわ」

 俺の問いに答えたのはクレアだった。

 代わりに長月は軽く微笑んだ。

「そうなのか…………ふぅ~にしてもこれで一件落着……………いや、そんなことはないか。明日からも学園で会う訳だし、報復される可能性だって」

「いえ、大丈夫です」

「ん?」

「あの人はもう何もしてきません。だから、明日からはいつもの日常です!!先輩方、本当にありがとうございました!!」

 そう言って、満面の笑みを浮かべる優梨奈の言葉が嘘だとは到底思えなかった。

 俺はどこか釈然としない気持ちを浮かべつつもチラッと横へ視線をズラすとクレアと目が合った。

「ふふっ」

 その時の彼女の表情は"安心しなさい"と言っているように感じられた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

おしがま女子をつける話

りんな
大衆娯楽
透視ができるようになった空。 神からの司令を託され、使うことに......って、私的に利用しても一緒でしょ!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【完結】碧よりも蒼く

多田莉都
青春
中学二年のときに、陸上競技の男子100m走で全国制覇を成し遂げたことのある深田碧斗は、高校になってからは何の実績もなかった。実績どころか、陸上部にすら所属していなかった。碧斗が走ることを辞めてしまったのにはある理由があった。 それは中学三年の大会で出会ったある才能の前に、碧斗は走ることを諦めてしまったからだった。中学を卒業し、祖父母の住む他県の高校を受験し、故郷の富山を離れた碧斗は無気力な日々を過ごす。 ある日、地元で深田碧斗が陸上の大会に出ていたということを知り、「何のことだ」と陸上雑誌を調べたところ、ある高校の深田碧斗が富山の大会に出場していた記録をみつけだした。 これは一体、どういうことなんだ? 碧斗は一路、富山へと帰り、事実を確かめることにした。

処理中です...