窓際の君

気衒い

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〜現代編〜

第十一話:自信

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 霜月に協力を仰ぐ上で俺は彼女に現在の片想いの状況を全て話した。

 すると、話を聞き終わった霜月はポカンとした表情を浮かべ、しばらくの間、呆けていた。

「如月…………あなた、随分と高望みをするのね」

「うるせぇ!ほっとけ!」

「あら?ほっといていいのかしら?あなたのそんな無謀な賭けには私の力が必要なんじゃないの?」

「すみません。嘘です。協力して下さい。霜月様」

「全く、よく言うわ……………それで?長月さんとはどんな仲なの?」

「それなんだが、聞いてくれよ!なんと二年生になった初日に向こうから挨拶してきたんだぜ?」

「どうせ、長月さんの話でもしていたんじゃないの?それで自分の名前が出た時にたまたま聞こえた彼女がやってきたとか」

「っ!?お前、エスパーか!?」

「ちょっと考えれば、分かるわよ。だって、そうでもしないとあの長月さんがあなたなんか相手にするはずないもの」

「おい!!」

「はっきり言ってあげるわ。彼女、一切あなたに興味ないわよ」

「ぐはっ!?」

 その瞬間、俺は多大な精神的ダメージを負い、思わず後ろに仰け反った。

 こいつ、本当に容赦ないな。

「それで他にはどんな会話をしたの?」

「いや、他っていったら、この間の……………あ」

 その時、俺は自分がとんでもなくデリカシーのない発言をしたと気が付き、ひどく後悔した。

 と同時に自分が嫌になった。

 "この間の"とは紛れもなくビンタ事件の時のことだからだ。

「すまん」

「別にそんな気を遣わなくたって大丈夫よ。全然気にしてないから」

「……………そうなのか?」

「ええ。あんなの大したことじゃないわ」

「えっ!?」

「はぁ。これは恋のアドバイスの前にまずは女のことを色々と教えないと駄目ね」

「その発言は周りに聞かれたら、色々と誤解を生む気がする」

「男子の前では隠してるけど、女子の裏側って大抵あんなものよ?例えば、好きな人が被っただけでトイレに呼び出して複数で問い詰めたり、陰湿な嫌がらせがあったり、それこそビンタのように直接手が出てくる場合もあるわ」

「ヒェッ」

「だから、結構ドロドロしてるのよ。面倒臭いでしょ?」

「い、いや。俺は何とも」

「炎上したくないコメンテーターがするような無難なコメントね。あなたは一体何に配慮しているの?」

「誰が聞いてるか、分かりゃしないだろ?なんせ、ここは学校なんだから」

「でも、保健室(密室)に二人きりよ?」

 その瞬間、俺は霜月の言葉にドキッとし、心臓がやけに早い鼓動を刻み始めた。

 落ち着け。

 こいつの言葉に他意はない。

 ただただ事実を言っているだけだ。

 心を掻き乱されるな。

「は、話を戻すぞ?」

「ええ」

「じゃあ、ちゃんと二人は和解したってことだな?」

「いいえ?」

「は?それはどういうことだ?」

「だって、私は長月さんに"大嫌い"って言ったのよ?そんなに簡単に和解できるはずないじゃない」

「でも、女子の間じゃ日常茶飯事なんだろ?」

「それは一般例。考えてもみなさい。あの日のことが本当にそれほど珍しくもないことだとしたら、どうして次の日に周りの女子達は長月さんを遠巻きに見ていたのかしら?」

「そ、それは…………何故だ?」

「まず第一に私と長月さんが痴話喧嘩する程仲が良い訳でもないし、かといって敵対する程、仲が悪い訳でもない。次にそんな間柄にも関わらず、一方は相手を言葉で挑発し、もう一方はそれに対して武力でもって反撃した。そして、最後に長月さんに対して周囲が抱く印象はどんなの?」

「何でもできる完璧超人で誰もが羨む高嶺の花的存在」

「そう。それに性格も穏やかで誰も怒ったところを見たことがない。そんな人が手を上げてみなさいよ」

「……………」

「とにかく、これはそんなに単純な問題じゃないの………………っていうか、あなたはそんなことよりも自分の心配をしなさいよ」

「その前にさ、霜月。もう一度、あの時のことを謝らせてくれ……………あの時は本当にごめん」

「あなたねぇ……………」

「いや、霜月の言いたいことも分かる。だが、あの時の話をした以上、もう一度言っておきたいと思って」

「はぁ。だから、あなたのせいではないと何度も……………まぁ、もういいわ」

「……………ちなみにあの時、ぶたれた頬は大丈夫なのか?」

「もうとっくに治ってるわよ。元々、軽くヒリヒリする程度だったから」

「そっか…………良かった」

「今は私のことなんて、どうでもいいでしょう?あなたは長月さんのことを第一に考えるの」

「そ、そうだよな。あれ?何で俺……………」

「それで?今、挙げた以外で長月さんとは他にどんな会話をしたの?」

「いや、それが何も…………」

「…………呆れた。あなた達、去年も同じクラスだったんでしょ?この一年、一体何をしていたのよ」

「そ、そんなのしょうがないだろ。そりゃ霜月や長月、圭太に神無月はそれぞれ美人やイケメンだから自分から話し掛けるなんて簡単だろ。でも、俺はイケメンじゃない。顔が良くない奴はそもそものスタートラインが違うんだよ」

「この期に及んで言い訳?顔なんて大した問題じゃないわ。大事なのは行動力よ。あなた、私に対してしたような行動力はどこにいったのよ」

「あの時は無我夢中だったからな。それに長月に対しては緊張が凄くて」

「はぁ。そんな状態でよく恋のアドバイスとか求めたわね。あなた、スタートラインにすら立ててないじゃない」

「そんなの俺が一番よく分かってるよ。俺なんかがあの長月をって……………」

「あなた、今何て言ったの?」

 俺がそう言った瞬間、霜月は怒りを滲ませながら静かに言った。

「確かに行動力も大事よ。でも、その前に自分に自信があることが大前提なの。いくら、いろんなところを取り繕ったって自信がない者は魅力的に映らないわ」

「自信かぁ…………」

「あなた、今度の土日は空いてる?」

「ん?ああ、空いてるな」

 霜月はそこから少し間を空けて、こう言った。

「じゃあ、土日は私とデートをしましょう」







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