6 / 140
〜現代編〜
第六話:イケメン
しおりを挟むイケメンというのは生まれてきた時点で勝ち組である。
特に苦労もせず、異性からチヤホヤされ、凡人が願っても叶わない告白ラッシュというものも経験する。
嘘か本当か、バレンタインデーの当日なんか、チョコを貰いすぎて学園と家を何往復もしたなんて都市伝説まであるくらいだ……………まぁ、そんなこと流石にある訳ないだろと圭太は言ったが。
ちなみに我が親友、睦月圭太もまたイケメンと言われる部類に属する人間である。
だから、以前言ってやったのだ。
「いいよなイケメンは。人生、楽しそうで。俺らが味わう苦労なんて微塵も感じないだろ」
と。
すると、圭太は珍しく真剣な顔をしながら、こう言ったのだ。
「そっちもこっちの苦労を知らないだろ…………俺だって色々とあるんだよ」
確かに相手側の立場に立たないと見えないことは多々ある。
俺はその場ですぐに謝り、イケメンの苦労を色々と考えてみたのだが、その日は何も思い浮かばず終わった。
そして、今日までそれは続いている。
つまり、俺は未だにイケメンを羨んでいるのだ。
「はぁ…………」
何故、俺がそんなことを考えているのかというと理由は教卓に立つ一人の男子生徒にあった。
名を神無月広輔といい、彼は学園での女子生徒人気NO.1の男だった。
神無月は同じクラスであり、クラス委員と生徒会の会長を兼任している。
周りからの人望も厚く、もちろん成績優秀、運動神経抜群である。
天は一体彼に何物与えているんだ?という状態のハイスペック男子だった。
そんな神無月だが、彼は登校するなり、教室内の不穏な空気を察知するといきなり教卓に立ってこう言ったのだ。
「みんな聞いてくれ!!」
そしてこれから、神無月の演説?が始まろうという訳だった。
ちなみに不穏な空気というのは昨日、起きた"長月のビンタ事件"が原因だった。
今まで誰にでも明るく優しかった長月が突如怒りながら手を上げたのだ。
それはみんな困惑するだろう。
現に今も遠巻きに長月を見ているだけで誰も彼女の側に近付こうとはしない。
長月も長月でそれを仕方ないとでも思っているのか、ただ俯いて座っているだけだった。
「昨日の件で長月さんをそういう目で見る気持ちは分からないでもない。でも、僕達は今まで見てきたはずだ。長月さんの誰にでも明るく接するその心や人柄を……………それを思い浮かべれば、こんな空気にはならない。もう一度、思い出してみて欲しい……………彼女の今までを」
全くもって流石だ。
神無月の演説はクラスメイト達の心を鷲掴みにしていたのだ。
現に誰もが彼の信徒のようにうんうんと頷いている。
そして、それはどうやら長月にも届いたらしい。
長月もまた神無月を微動だにせず見つめている……………って、それにしても見つめすぎじゃないか?顔を上げたまま一切動いていないぞ。
「……………馬鹿馬鹿しい。こんなの一時凌ぎにしかなっていないわ。根本の問題を解決にせずに上辺だけ取り繕ったって、いつか絶対にその綻びは現れる」
「え?それって、どういうことだ?」
「……………ぷいっ」
突然、横から聞こえた声と内容に俺は思わず聞き返したのだが案の定、無視されてあらぬ方を向かれてしまった。
俺は霜月の言った内容をそこまで深くは考えておらず、その意味も理解できなかった。
それがまさか後に霜月の言ったことがあのような形で現れるとはこの時の俺は思いもしなかったのである。
「あれが……………如月先輩」
そして、教室の外から俺を見つめる視線があることもこの時の俺は気付きもしなかったのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる