窓際の君

気衒い

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〜現代編〜

第二話:霜月クレア

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 俺が彼女に思わず声を掛けてしまったのは長月との記念すべき初挨拶を終えてから、1週間程が経った頃だった。

 その頃になれば、通過儀礼でもあるクラス内での自己紹介も既に終わり、それぞれが気の合いそうな者達とつるみだす頃である。

 だが、どこにでも例外というものは存在する。

 こと彼女…………霜月クレアに至ってはそれが当てはまらなかったのだ。

「……………」

 ここ一週間、何故か彼女のことが気になって観察していたのだが、一切誰とも仲良くしようとしない。

 それどころか、会話をしているのすら見ていない。

 一体、何故彼女はそうまでして孤高でいたいのだろうか……………あ、気になるといっても別に深い意味はない。

 彼女もまた長月と同じく文武両道、才色兼備であり、学園の有名人なのだ。

 噂ではどこかとどこかのハーフだとからしい。

 それが証拠に長く美しい銀髪をしており、それでいて肌もとても白く、目鼻立ちが非常にハッキリとしている。

 正直言って、長月よりも美人であると思っている男子は多い。

 悔しいが俺もその一人だ。

 そして、これまた噂だが去年、入学してから数え切れない程、男子達が告白をしてきたのだが、そのどれもがことごとく跳ね除けられてしまったらしい。

 それでつけられたあだ名が"冷女れいじょ"である。

「……………ったく、外にそんな珍しいもんでもあるのか?」

 そんな彼女と今年、初めて同じクラスになり、初日から今日に至るまでずっと同じことを続けている彼女に遂に我慢ができなくなった俺は彼女の席まで近付き、同じ景色を見ようとした。

 ところが、近くまで行って彼女の瞳を見た瞬間、気が付けば俺は彼女に向かってこう言っていたのだった。

「…………なぁ」

「……………?」

「その瞳には一体、何が映ってる?」

 その直後、窓際の席で春の麗かな風に吹かれながら、どこか遠くを見る彼女がゆっくりとこちらを向き、素っ気なくこう言った。

「……………別に」

「…………は?」

「何?」

「いや、別にってことはないだろ。質問の答えになってないし」

「仮に私の見ているものが何かあるとして、何故それをあなたに教えなければならないの?」

「い、いや、それはクラスメイトとして」

「0」

「は?」

「二年生になって、私に話しかけてきたクラスメイトの数よ。それって、私のことをクラスメイトとして認識していないからじゃないかしら?」

「い、いやそんなことはないぞ。現に俺は初日からお前のことを観察してたからな」

「それでもあなたは話しかけてこなかった。それなのに今更、何の用?もう一週間も経ってるわ……………ってか、初日から観察してたって冷静に考えると気持ち悪いわね。あと、そのドヤ顔やめなさい」

「そりゃ、声掛けるのが遅くなったのは悪かったよ。でも、そんな突っぱねることはないだろ。せっかく同じクラスになったんだしさ」

「あなた、一つ勘違いしているわね。私はね……………このままずっと一人でも構わないのよ。いいえ、むしろその方がいいわ。他人と関わっても碌なことないもの」

「あぁ、あれだろ?お前も大変だな。なんせ、去年からずっと告白されっぱなしだもんな。まぁ、最近ではそれも落ち着いてきたけど」

「ええ。誰だか、不名誉なあだ名をつけてくれたからよ…………何?もしかして、あなたも私に告白する気?冗談じゃないわ。すみません。無理、気持ち悪い、その目が耐えられないのでお断りさせて頂きます」

「ちげーよ!ってか、何故告白してもないのにそんな酷いことを言われにゃならん!!」

「どうせ、"まだ"でしょ?あなたもそのうち…………」

「だから!!」

「っ!?」

 その時、俺はいくら今が朝のホームルーム前とはいえ教室内には何人かの生徒達がいるということも忘れ、霜月クレアの机を強く叩いてこう言った。

「霜月クレア!!俺はお前が何を見ているのか気になるって言ってんだよ!!端的に言うとお前のことが知りたいんだよ!!」

 何故か、この女を見ていると無性に放っておけなかったし、イライラした。

 この世の全てに退屈しているようなその態度を俺が変えてやりたいと思った。

 ふざけんな。

 世の中にはまだまだ楽しいことが沢山あるんだ。

 胸がときめくような、ドキドキが止まらないことだって……………た、例えば、恋なんかがいい例だな、うん。

「あなた……………」

「ん?なんだよ」

「よくもまぁ、こんな公衆の面前で"告白"みたいなこと言ったわね」

「……………は?」

「さっき、自分が言った台詞を思い出してみなさい」

「………………あ」

「はぁ。結局、あなたもその他大勢と一緒で私に告白したいだけじゃない」

「いやっ!ち、違う!!い、今のは」

「どうでもいいけど、静かにしてくれないかしら?これ以上、目立つのは避けたいんだけど」

「っ!?ど、どうもすみませんでした!!」

 俺は霜月の凍えるような瞳に耐え切れず、即謝罪し、なんとかその場を取り繕うと急いで自分の席へと戻った。







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