窓際の君

気衒い

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〜現代編〜

第一話:窓際の君

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 今さらながらに思う。

 おそらく、一生のうちで使う人間の方が圧倒的に少ないであろう言葉。

 それを何故、あの時、あのタイミングで言ったのだろうと……………。

 しかし、そんなことはいくら考えたところでどうしようもない。

 どれだけ過去の行いを悔やんだとて、歯車は既に動き出してしまったのだ。

 それに気が付けば俺は……………開け放たれた窓から吹き込む春の心地良い風を受けながら、外を見る彼女を見た瞬間、咄嗟にその言葉を口にしていたのだから。

「その瞳には一体、何が映ってる?」

「……………別に」

 教卓から見て一番右端の列、その最後尾に座る彼女は軽く俺を一瞥した後、素っ気なくそう答えた。

 それが俺と窓際の彼女がした最初の会話だった。




        ★



 突然だが、俺こと如月拓也きさらぎたくや十七歳は現在とある1人の女子生徒に恋をしている。

 その女子生徒の名は長月華恋ながつきかれんその美貌はこの学園で一、二を争う程の美少女であり成績優秀、スポーツ万能といったまさに完璧超人だ。

 しかも本人はそんなことを一切鼻にかけず、常に上を目指して努力しており、生徒からだけではなく教師からの評価も良い。

 誰もが憧れ、恋をする高嶺の花的存在。

 もちろん、それは何の取り柄もないどこにでもいるごくごく普通の高校生である俺にとっても同じだった。

「はぁ~……………今日も長月、可愛いな」

「よくもまぁ、飽きもせず毎日同じ台詞が吐けたもんだな」

 俺の呟きに反応したのは同じクラスの睦月圭太むつきけいたである。

 去年、同じクラスとなり、一年を共に過ごした友人だ。

 それが二年生になった今回も何の因果か、同じクラスとなり、こうしてよく俺にダル絡みをしてくるのである。

「ダル絡みって、ひどいな!!」

「え?口に出てた?」

「顔がそう言ってるんだよ!!」

 圭太は軽く憤慨して、明後日の方向を向き始めた。

 俺は「冗談だ」と言いつつ、一瞬圭太へと向けた視線を再び長月へと戻した。

「でも、お前も凄いよな~」

「ん?何が?」

「いや、だってあの長月に対して一年も片想いをしているんたぞ?」

 そう。

 何を隠そう俺は彼女を一目見たその時から今日に至るまでの約一年もの間、片想いを続けていたのだ。

 そして、ひょんなことから、序盤で俺が長月に対して向ける気持ちを圭太に知られてしまい、それから圭太は密かに俺の恋を応援してくれていた。

「悪いかよ?」

「そうは言ってねぇよ。ただ、相変わらず変わってるよなって」

「は?俺のどこが変わってるんだよ」

「普通は途中で我慢できず玉砕覚悟で告白しちまうか、自分には釣り合わないと諦めるかのどちらかだよ。しかし、お前はそのどちらでもない。ただただ、毎日彼女に熱視線を送り続けるだけ。特にこれといったアクションも起こさず、流れに身を任せ、いつか彼女が自分へと振り向いてくれるのを待っている」

「最後の部分だけ聞くとただのヘタレなストーカーみたいだな」

「いいや。"ただの"ではない。お前は救えない程の妖怪ヘタレストーカーだ!!」

「余計悪いわ!!ってか、ストーカー行為なんてしてねぇし!!軽く目で追いかける程度で」

「いいか?憧れはただ待ってるだけじゃ、振り向いてくれないぜ?」

「はいはい。分かってるって。だから、今年も奇跡的に同じクラスになれたし、今度こそ長月と」

「ん?なになに?私の名前、呼んだ?」

 と、その時だった。

 圭太といつものようなやり取りをしていると向こうから、俺達が今まさに話題として挙げていた人物がやってきたのは。

 薄桃色の長髪に緑色の綺麗な瞳、鼻筋はスッと通っており、ほんのりとピンクがかった小さな唇が可愛らしい。

 そんな同性なら誰もが羨むような容姿をしている美少女がニッコリと無邪気に微笑みながら、俺達に近付いてきた。

「っ!?長月!?」

「うん。そうだよ。私は長月華恋。君達と同じクラスだよ、如月くん、睦月くん」

「お、おぅ」

「おい、拓也。しっかりしろ!!……………あ、長月よろしく」

「うん。これから一年間、よろしくね~……………っと、如月くんとは確か二年続けて同じクラスだよね?」

「えっ!?そ、そうだな。でも、よくそんなこと覚えてるな」

 少し期待して長月を見る俺。

 もしかしたら、長月も俺のことを意識して……………

「だって、私と同じ旧暦の名字だもん。それは覚えるよ。だから、睦月くんもすぐに覚えられたし」

「あっ……………なるほど。そういう」

「拓也…………お前って奴はなんでそう単純なんだ」

「?」

 二人してため息を吐く俺達を見て、可愛らしく首を傾げる長月に「何でもない」と言い、俺は次の授業の準備を始めた。

 季節は春。

 満開の桜の花びらが風に乗って、どこまでも遠くへと運ばれていった。





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