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王国の膿

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 ハルバートは目を白黒とさせた。自分の枕元でされた会話は耳に入ってきていたが、こんな話は聞いていない。白金貨千枚など、国庫の半分ほどではないか。そんな大金を自分たちの外遊のために払ったのか。

「ち、父上、つまり父上は輸出入の取引先に当てがあるという事でしょうか。国庫の半分ほどの金を魔女に支払い、それでも採算が取れるほどの取引があると?」
「い、いや、それはこれからおいおい……」

 口籠る王に、ハルバートはめまいを起こしそうになった。自分の両親がここまで考えなしだったとは。

「何を考えておいでですか!?我が国は、自給自足の国なのですよ!これまで近隣国とは海産物と農産物の加工品、わずかな工芸品の取引しかしていません。これから隣国と流通をするのにだって、小型漁船で行うわけにはいかないのですよ!?これまでは、商人の方からここまで来てくれるからやってこれましたが、わが国の湾岸沿いに大型船は近づけない。大きな取引はできないのです。先日帝国の様子を見た時、我が国は国力も経済的にも数十年、いや、世紀単位で遅れていると感じました。彼の国の街道は平に整えられており、魔石とやらを使い魔道具も一般的に普及していました。昼も夜もなく明るく、土地も人口も我が国の何十倍もある!我が国の様な農産物だけでは、到底太刀打ちできないものが帝国にはあったのです。このまま帝国との外交を許してごらんなさい、この国は抵抗する術も流通の術もない!街を守る兵士は居ても、国を守るべき騎士と呼ばれる者すらいない!帝国のそれにはまったく及ばないのですよ!それに、開港するには金もかかる。色々な面で我が国は遅れているのです!エリザベスは実際に見聞し、わかっていた!彼女と私はこれからの国を…!」

 そこまで言って、ハルバートは口をつぐんだ。本当にエリザベスは私を裏切ったのだろうか。あの帝王に媚を売る様な真似を彼女がしたというのか。

「残念ねえ、王子様があの子を信じてあげれば、ここまですぐに行き着いたでしょうに」

 はっと振り返ると、そこに妖艶なる魔女がいた。

「ど、どうやってここに」
「魔女だもの。神出鬼没もお手の物よ。ねえ、ハルバート、様だったかしら。あの子が自身の命に換えても守りたかったあなたに、特別に教えてあげるわ。今世界で何が起こっているか」
「あ、あの子?」
「月の光を編んだ髪に、冬の雪山のように研ぎ澄まされた精神の持ち主のお姫様よ」
「エリザベス…」
「あの子の髪が短かったのは、私に会うための貢物にしたため。私がもらったのよ、ほらこれ」

 魔女はにっこり笑って、自身の髪をふゎさっと後ろに流す。その艶と輝きは確かにエリザベスが持っていたものだった。それによくみれば、魔女の持つ白磁器のような肌も容姿もエリザベスのものとよく似ている。

「その容姿は…まさか、」
「あの子があんたを助けるために私に差し出した代償よ。若いっていいわねえ、みずみずしい肌といい、艶のある髪といい」

 魔女が自身の頬を撫でながらくすくすと笑う。

 ーーねえ、誰かの犠牲の上で命拾いをした自身の感想は?
 ーーその潔いまでの想いを否定し、疑い、そうして得た命の重さと、これから押し寄せる責任の重さは?

「そんな…私は。なんという罪を…っ」

「アタシはヴェルマンとの約束は果たしたわ。尤もあいつはアタシをこの国から出さないように、アタシを山から引き摺り出して契約させて、閉じ込めて。アタシも馬鹿みたいに騙されたんだけど。ま、若気の至りというやつね。まさか三百年も経ってるとは思いもしなかった…。ま、いいわ。それから、あんたとそこのおバカな男と女の希望も叶えたの。この際だから教えてあげる。あの子のように、王家自ら自分で調べれていれば、すぐにわかっていたでしょうけど」

 魔女がそう言って嘲笑するように王妃を見て、ハルバートを凍りつく様な視線で見下ろした。

「そこの女が若さと美貌に嫉妬して、エリザベスを裏切った。それに手を貸したのは、エリザベスに横恋慕をしていたあんたの側近と、その男に恋していた侍女の一人。あんたの母親が産んだ何人かの種違いの兄弟達も帝国の息が掛かってるわね」
「た、種違いの兄弟!?」
「は、母上は浮気をしていたのか!?」
「っ……!う、嘘よ!そんなの嘘だわ!」

 青ざめて打ち震える王妃を見て、ハルバートは更に愕然とした。

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