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罪と罰
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「エリザベス、君が私を呪っていたのか…」
「ハルバート様…!そのような事実は」
「汚らわしいその口で、私の名を呼ぶな…!私は起き上がれこそしなかったが、会話は耳に入っていた。魔女が言った、関係者に呪いが返るとはっきり聞いたぞ!その姿は、まさに呪いが返った姿ではないか!」
「違います!ハルバート様、わたくしは…っ!」
「やはり、君は帝国の王と繋がっていたのだろう!そうでなければ、あんなに執拗に君を譲れなどと強要して来るわけが無い!いかにも乞われたように怯えていたが、まさかお前が私を嵌めようとしていたとは……!!」
「ハルバート様…!」
七年もの間、ハルバートと共に国を見て、ハルバートのために己を高め、精進してきたはずなのに。二人の間の絆はこんなにも脆かったのか。エリザベスは口にできない言い訳を飲み込み絶望した。あの場にいたのはハルバートも同じ。あの時は、二人の心は確かに一つだった。エリザベスを守り、帝国の王に対し勇気を振るった立ち振る舞いを絵念話ざベスは覚えている。だけど、ハルバートは。
王は激昂に駆られ、唾を飛ばしながら衛兵を呼び、エリザベスは牢へ連行された。公爵が慌てて飛んできたものの、己の変わり果てた姿に魂を抜かれ、反論することもなく項垂れた。
「お父様、お母様」
「娘よ。一体何をしでかしてそのような姿に変わり果てたのだ」
「申し訳ございません…」
理由は言えないのです。魔女様との約束を破れば、ハルバート様は。
「親不孝をお許しください」
「エリザベス。言えない理由があるのよね?お母様にはわかります。あなたは人を呪うような子ではない。きっと山神様にも許されるはず。どうか強く。耐えて頂戴。きっといつか、私たちの元へ帰ってきてくれるわよね?」
「お母様。私を信じてくださること、感謝します。私はこのまま処罰を受けますが、断じて罪など犯しておりません。山神様と魔女様は存じておられます。どうか、あなたの娘を信じてください」
エリザベスの両親は、泣く泣くその場を離れたものの、娘の無実を信じ耐えることを選んだ。だが、ただ耐えるだけではない。根回しはせねば。たとえ、この公爵家が滅びようとも。公爵家も、のみをん住民と同じくセントポリオンの神を信じていた。それは、硬い絆となって公爵家にも受け継がれていた信仰だった。
そしてその三日後、エリザベスに罰が下された。
エリザベスは、罪人の着るチクチクと肌に刺さる毛織りのボロを纏い、足枷と手枷をつけられて、檻を乗せた荷馬車の後ろに繋がれて歩かされた。骨と皮の肉体に鉄の手枷は重く手首と足首の皮膚を裂き、王都を出る頃には裸足の足裏は血だらけになり、赤黒く染まった。城下町では腐った食べ物や石を投げられ、中には糞尿の入ったバケツをぶちまけてくる平民もいた。
ーー王太子殿下を呪ったそうだよ。
ーー呪い返しにあって、あんな醜い老婆の様な姿になったんだってさ。
ーー月の女神の様に綺麗だったって聞いたけど、心は魔女のように醜いね!
ーーなんでも帝国の王と繋がっていたっていうじゃないか。
ーーアタシ達の国税で贅沢しながら、それ以上に何がしたかったのかね。
ーーあんな醜い姿で生きたいとは、アタシなら思わないね。
ーーこわい、こわい。そんな物この国には要らないよ。
ーー山神様が裁いてくれるんなら、ありがたいこった。
ーー山神様に辿り着く前に死んじまうんじゃねえか?
血を流し汚物に塗れたまま、罪人行脚で王都を抜けた後、エリザベスは馬車につけられた檻に入れられ、セントポリオン山脈に向かう1ヶ月の間、日に一度、水と固いパンを与えられ、見せ物の様に街々を練り歩いて行った。風呂にも入れず、体を拭くことも許されず、排尿も便も床に開けられた穴で全て檻の中で済まさなければならなかった。その間も人々は石を投げ汚物を撒き、悪態をついた。その間、エリザベスは俯き、屈辱に耐えながらもハルバートのことを胸に想った。
『どんな扱いを受けようとも、これはわたくし自身が望んだ事。呪ったのがわたくしだと思われたのは、悲しいけれど。あのタイミングで代償を取られるとは思いもしませんでした。ハルバート様に呪いをかけた事に王妃殿下が関与していたとすれば、呪い返しがどこかに現れているはず。呪ったのが帝王であれば、呪い返しによってそれなりの打撃は受けているに違いないわ。となれば、残るは誰が帝国を引き入れたかになるけれど…。それも自ずと知るところになるでしょう。敵対していた者全てが排除されていたならば、いいのですが。ハルバート様の治世がどうか平和で輝かしいものでありますように。わたくしはお側で見守ることはできないけれど、魔女様が見守ってくれるはず。少なくともお命だけは……けれど、これからこの国は脅威に晒されることになる。魔女様の契約を塗り替えてしまった陛下は気づいておいでなのかしら…だって、魔女様はもうこの国を守ってはくださらない。王家に自由を与え、魔女様ご自身も自由になってしまわれたんだもの…白金貨千枚なんて、国庫の半分を空にしたようなもの。これからどのようにして国を切り盛りしていくのか……』
「ハルバート様…!そのような事実は」
「汚らわしいその口で、私の名を呼ぶな…!私は起き上がれこそしなかったが、会話は耳に入っていた。魔女が言った、関係者に呪いが返るとはっきり聞いたぞ!その姿は、まさに呪いが返った姿ではないか!」
「違います!ハルバート様、わたくしは…っ!」
「やはり、君は帝国の王と繋がっていたのだろう!そうでなければ、あんなに執拗に君を譲れなどと強要して来るわけが無い!いかにも乞われたように怯えていたが、まさかお前が私を嵌めようとしていたとは……!!」
「ハルバート様…!」
七年もの間、ハルバートと共に国を見て、ハルバートのために己を高め、精進してきたはずなのに。二人の間の絆はこんなにも脆かったのか。エリザベスは口にできない言い訳を飲み込み絶望した。あの場にいたのはハルバートも同じ。あの時は、二人の心は確かに一つだった。エリザベスを守り、帝国の王に対し勇気を振るった立ち振る舞いを絵念話ざベスは覚えている。だけど、ハルバートは。
王は激昂に駆られ、唾を飛ばしながら衛兵を呼び、エリザベスは牢へ連行された。公爵が慌てて飛んできたものの、己の変わり果てた姿に魂を抜かれ、反論することもなく項垂れた。
「お父様、お母様」
「娘よ。一体何をしでかしてそのような姿に変わり果てたのだ」
「申し訳ございません…」
理由は言えないのです。魔女様との約束を破れば、ハルバート様は。
「親不孝をお許しください」
「エリザベス。言えない理由があるのよね?お母様にはわかります。あなたは人を呪うような子ではない。きっと山神様にも許されるはず。どうか強く。耐えて頂戴。きっといつか、私たちの元へ帰ってきてくれるわよね?」
「お母様。私を信じてくださること、感謝します。私はこのまま処罰を受けますが、断じて罪など犯しておりません。山神様と魔女様は存じておられます。どうか、あなたの娘を信じてください」
エリザベスの両親は、泣く泣くその場を離れたものの、娘の無実を信じ耐えることを選んだ。だが、ただ耐えるだけではない。根回しはせねば。たとえ、この公爵家が滅びようとも。公爵家も、のみをん住民と同じくセントポリオンの神を信じていた。それは、硬い絆となって公爵家にも受け継がれていた信仰だった。
そしてその三日後、エリザベスに罰が下された。
エリザベスは、罪人の着るチクチクと肌に刺さる毛織りのボロを纏い、足枷と手枷をつけられて、檻を乗せた荷馬車の後ろに繋がれて歩かされた。骨と皮の肉体に鉄の手枷は重く手首と足首の皮膚を裂き、王都を出る頃には裸足の足裏は血だらけになり、赤黒く染まった。城下町では腐った食べ物や石を投げられ、中には糞尿の入ったバケツをぶちまけてくる平民もいた。
ーー王太子殿下を呪ったそうだよ。
ーー呪い返しにあって、あんな醜い老婆の様な姿になったんだってさ。
ーー月の女神の様に綺麗だったって聞いたけど、心は魔女のように醜いね!
ーーなんでも帝国の王と繋がっていたっていうじゃないか。
ーーアタシ達の国税で贅沢しながら、それ以上に何がしたかったのかね。
ーーあんな醜い姿で生きたいとは、アタシなら思わないね。
ーーこわい、こわい。そんな物この国には要らないよ。
ーー山神様が裁いてくれるんなら、ありがたいこった。
ーー山神様に辿り着く前に死んじまうんじゃねえか?
血を流し汚物に塗れたまま、罪人行脚で王都を抜けた後、エリザベスは馬車につけられた檻に入れられ、セントポリオン山脈に向かう1ヶ月の間、日に一度、水と固いパンを与えられ、見せ物の様に街々を練り歩いて行った。風呂にも入れず、体を拭くことも許されず、排尿も便も床に開けられた穴で全て檻の中で済まさなければならなかった。その間も人々は石を投げ汚物を撒き、悪態をついた。その間、エリザベスは俯き、屈辱に耐えながらもハルバートのことを胸に想った。
『どんな扱いを受けようとも、これはわたくし自身が望んだ事。呪ったのがわたくしだと思われたのは、悲しいけれど。あのタイミングで代償を取られるとは思いもしませんでした。ハルバート様に呪いをかけた事に王妃殿下が関与していたとすれば、呪い返しがどこかに現れているはず。呪ったのが帝王であれば、呪い返しによってそれなりの打撃は受けているに違いないわ。となれば、残るは誰が帝国を引き入れたかになるけれど…。それも自ずと知るところになるでしょう。敵対していた者全てが排除されていたならば、いいのですが。ハルバート様の治世がどうか平和で輝かしいものでありますように。わたくしはお側で見守ることはできないけれど、魔女様が見守ってくれるはず。少なくともお命だけは……けれど、これからこの国は脅威に晒されることになる。魔女様の契約を塗り替えてしまった陛下は気づいておいでなのかしら…だって、魔女様はもうこの国を守ってはくださらない。王家に自由を与え、魔女様ご自身も自由になってしまわれたんだもの…白金貨千枚なんて、国庫の半分を空にしたようなもの。これからどのようにして国を切り盛りしていくのか……』
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