10 / 28
罪と罰
しおりを挟む
「エリザベス、君が私を呪っていたのか…」
「ハルバート様…!そのような事実は」
「汚らわしいその口で、私の名を呼ぶな…!私は起き上がれこそしなかったが、会話は耳に入っていた。魔女が言った、関係者に呪いが返るとはっきり聞いたぞ!その姿は、まさに呪いが返った姿ではないか!」
「違います!ハルバート様、わたくしは…っ!」
「やはり、君は帝国の王と繋がっていたのだろう!そうでなければ、あんなに執拗に君を譲れなどと強要して来るわけが無い!いかにも乞われたように怯えていたが、まさかお前が私を嵌めようとしていたとは……!!」
「ハルバート様…!」
七年もの間、ハルバートと共に国を見て、ハルバートのために己を高め、精進してきたはずなのに。二人の間の絆はこんなにも脆かったのか。エリザベスは口にできない言い訳を飲み込み絶望した。あの場にいたのはハルバートも同じ。あの時は、二人の心は確かに一つだった。エリザベスを守り、帝国の王に対し勇気を振るった立ち振る舞いを絵念話ざベスは覚えている。だけど、ハルバートは。
王は激昂に駆られ、唾を飛ばしながら衛兵を呼び、エリザベスは牢へ連行された。公爵が慌てて飛んできたものの、己の変わり果てた姿に魂を抜かれ、反論することもなく項垂れた。
「お父様、お母様」
「娘よ。一体何をしでかしてそのような姿に変わり果てたのだ」
「申し訳ございません…」
理由は言えないのです。魔女様との約束を破れば、ハルバート様は。
「親不孝をお許しください」
「エリザベス。言えない理由があるのよね?お母様にはわかります。あなたは人を呪うような子ではない。きっと山神様にも許されるはず。どうか強く。耐えて頂戴。きっといつか、私たちの元へ帰ってきてくれるわよね?」
「お母様。私を信じてくださること、感謝します。私はこのまま処罰を受けますが、断じて罪など犯しておりません。山神様と魔女様は存じておられます。どうか、あなたの娘を信じてください」
エリザベスの両親は、泣く泣くその場を離れたものの、娘の無実を信じ耐えることを選んだ。だが、ただ耐えるだけではない。根回しはせねば。たとえ、この公爵家が滅びようとも。公爵家も、のみをん住民と同じくセントポリオンの神を信じていた。それは、硬い絆となって公爵家にも受け継がれていた信仰だった。
そしてその三日後、エリザベスに罰が下された。
エリザベスは、罪人の着るチクチクと肌に刺さる毛織りのボロを纏い、足枷と手枷をつけられて、檻を乗せた荷馬車の後ろに繋がれて歩かされた。骨と皮の肉体に鉄の手枷は重く手首と足首の皮膚を裂き、王都を出る頃には裸足の足裏は血だらけになり、赤黒く染まった。城下町では腐った食べ物や石を投げられ、中には糞尿の入ったバケツをぶちまけてくる平民もいた。
ーー王太子殿下を呪ったそうだよ。
ーー呪い返しにあって、あんな醜い老婆の様な姿になったんだってさ。
ーー月の女神の様に綺麗だったって聞いたけど、心は魔女のように醜いね!
ーーなんでも帝国の王と繋がっていたっていうじゃないか。
ーーアタシ達の国税で贅沢しながら、それ以上に何がしたかったのかね。
ーーあんな醜い姿で生きたいとは、アタシなら思わないね。
ーーこわい、こわい。そんな物この国には要らないよ。
ーー山神様が裁いてくれるんなら、ありがたいこった。
ーー山神様に辿り着く前に死んじまうんじゃねえか?
血を流し汚物に塗れたまま、罪人行脚で王都を抜けた後、エリザベスは馬車につけられた檻に入れられ、セントポリオン山脈に向かう1ヶ月の間、日に一度、水と固いパンを与えられ、見せ物の様に街々を練り歩いて行った。風呂にも入れず、体を拭くことも許されず、排尿も便も床に開けられた穴で全て檻の中で済まさなければならなかった。その間も人々は石を投げ汚物を撒き、悪態をついた。その間、エリザベスは俯き、屈辱に耐えながらもハルバートのことを胸に想った。
『どんな扱いを受けようとも、これはわたくし自身が望んだ事。呪ったのがわたくしだと思われたのは、悲しいけれど。あのタイミングで代償を取られるとは思いもしませんでした。ハルバート様に呪いをかけた事に王妃殿下が関与していたとすれば、呪い返しがどこかに現れているはず。呪ったのが帝王であれば、呪い返しによってそれなりの打撃は受けているに違いないわ。となれば、残るは誰が帝国を引き入れたかになるけれど…。それも自ずと知るところになるでしょう。敵対していた者全てが排除されていたならば、いいのですが。ハルバート様の治世がどうか平和で輝かしいものでありますように。わたくしはお側で見守ることはできないけれど、魔女様が見守ってくれるはず。少なくともお命だけは……けれど、これからこの国は脅威に晒されることになる。魔女様の契約を塗り替えてしまった陛下は気づいておいでなのかしら…だって、魔女様はもうこの国を守ってはくださらない。王家に自由を与え、魔女様ご自身も自由になってしまわれたんだもの…白金貨千枚なんて、国庫の半分を空にしたようなもの。これからどのようにして国を切り盛りしていくのか……』
「ハルバート様…!そのような事実は」
「汚らわしいその口で、私の名を呼ぶな…!私は起き上がれこそしなかったが、会話は耳に入っていた。魔女が言った、関係者に呪いが返るとはっきり聞いたぞ!その姿は、まさに呪いが返った姿ではないか!」
「違います!ハルバート様、わたくしは…っ!」
「やはり、君は帝国の王と繋がっていたのだろう!そうでなければ、あんなに執拗に君を譲れなどと強要して来るわけが無い!いかにも乞われたように怯えていたが、まさかお前が私を嵌めようとしていたとは……!!」
「ハルバート様…!」
七年もの間、ハルバートと共に国を見て、ハルバートのために己を高め、精進してきたはずなのに。二人の間の絆はこんなにも脆かったのか。エリザベスは口にできない言い訳を飲み込み絶望した。あの場にいたのはハルバートも同じ。あの時は、二人の心は確かに一つだった。エリザベスを守り、帝国の王に対し勇気を振るった立ち振る舞いを絵念話ざベスは覚えている。だけど、ハルバートは。
王は激昂に駆られ、唾を飛ばしながら衛兵を呼び、エリザベスは牢へ連行された。公爵が慌てて飛んできたものの、己の変わり果てた姿に魂を抜かれ、反論することもなく項垂れた。
「お父様、お母様」
「娘よ。一体何をしでかしてそのような姿に変わり果てたのだ」
「申し訳ございません…」
理由は言えないのです。魔女様との約束を破れば、ハルバート様は。
「親不孝をお許しください」
「エリザベス。言えない理由があるのよね?お母様にはわかります。あなたは人を呪うような子ではない。きっと山神様にも許されるはず。どうか強く。耐えて頂戴。きっといつか、私たちの元へ帰ってきてくれるわよね?」
「お母様。私を信じてくださること、感謝します。私はこのまま処罰を受けますが、断じて罪など犯しておりません。山神様と魔女様は存じておられます。どうか、あなたの娘を信じてください」
エリザベスの両親は、泣く泣くその場を離れたものの、娘の無実を信じ耐えることを選んだ。だが、ただ耐えるだけではない。根回しはせねば。たとえ、この公爵家が滅びようとも。公爵家も、のみをん住民と同じくセントポリオンの神を信じていた。それは、硬い絆となって公爵家にも受け継がれていた信仰だった。
そしてその三日後、エリザベスに罰が下された。
エリザベスは、罪人の着るチクチクと肌に刺さる毛織りのボロを纏い、足枷と手枷をつけられて、檻を乗せた荷馬車の後ろに繋がれて歩かされた。骨と皮の肉体に鉄の手枷は重く手首と足首の皮膚を裂き、王都を出る頃には裸足の足裏は血だらけになり、赤黒く染まった。城下町では腐った食べ物や石を投げられ、中には糞尿の入ったバケツをぶちまけてくる平民もいた。
ーー王太子殿下を呪ったそうだよ。
ーー呪い返しにあって、あんな醜い老婆の様な姿になったんだってさ。
ーー月の女神の様に綺麗だったって聞いたけど、心は魔女のように醜いね!
ーーなんでも帝国の王と繋がっていたっていうじゃないか。
ーーアタシ達の国税で贅沢しながら、それ以上に何がしたかったのかね。
ーーあんな醜い姿で生きたいとは、アタシなら思わないね。
ーーこわい、こわい。そんな物この国には要らないよ。
ーー山神様が裁いてくれるんなら、ありがたいこった。
ーー山神様に辿り着く前に死んじまうんじゃねえか?
血を流し汚物に塗れたまま、罪人行脚で王都を抜けた後、エリザベスは馬車につけられた檻に入れられ、セントポリオン山脈に向かう1ヶ月の間、日に一度、水と固いパンを与えられ、見せ物の様に街々を練り歩いて行った。風呂にも入れず、体を拭くことも許されず、排尿も便も床に開けられた穴で全て檻の中で済まさなければならなかった。その間も人々は石を投げ汚物を撒き、悪態をついた。その間、エリザベスは俯き、屈辱に耐えながらもハルバートのことを胸に想った。
『どんな扱いを受けようとも、これはわたくし自身が望んだ事。呪ったのがわたくしだと思われたのは、悲しいけれど。あのタイミングで代償を取られるとは思いもしませんでした。ハルバート様に呪いをかけた事に王妃殿下が関与していたとすれば、呪い返しがどこかに現れているはず。呪ったのが帝王であれば、呪い返しによってそれなりの打撃は受けているに違いないわ。となれば、残るは誰が帝国を引き入れたかになるけれど…。それも自ずと知るところになるでしょう。敵対していた者全てが排除されていたならば、いいのですが。ハルバート様の治世がどうか平和で輝かしいものでありますように。わたくしはお側で見守ることはできないけれど、魔女様が見守ってくれるはず。少なくともお命だけは……けれど、これからこの国は脅威に晒されることになる。魔女様の契約を塗り替えてしまった陛下は気づいておいでなのかしら…だって、魔女様はもうこの国を守ってはくださらない。王家に自由を与え、魔女様ご自身も自由になってしまわれたんだもの…白金貨千枚なんて、国庫の半分を空にしたようなもの。これからどのようにして国を切り盛りしていくのか……』
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。
光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。
ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…!
8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。
同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。
実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。
恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。
自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。
私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ
もぐすけ
ファンタジー
シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。
あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。
テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。
夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します
もぐすけ
ファンタジー
私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。
子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。
私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
パーティー会場で婚約破棄するなんて、物語の中だけだと思います
みこと
ファンタジー
「マルティーナ!貴様はルシア・エレーロ男爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄そして、ルシアとの婚約をここに宣言する!!」
ここ、魔術学院の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、ベルナルド・アルガンデ。ここ、アルガンデ王国の王太子だ。
何故かふわふわピンク髪の女性がベルナルド王太子にぶら下がって、大きな胸を押し付けている。
私、マルティーナはフローレス侯爵家の次女。残念ながらこのベルナルド王太子の婚約者である。
パーティー会場で婚約破棄って、物語の中だけだと思っていたらこのザマです。
設定はゆるいです。色々とご容赦お願い致しますm(*_ _)m
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる