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呪われた血筋

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「じゃ、そのハルバート様とやらのとこに連れて行っておくれ」
「は、はい!」

 エリザベスは魔女を連れて王宮へ戻っていった。首筋のあたりで短く揺れる髪に誰もが二度見をし、侍女などは悲鳴をあげて泣き出した。エリザベスはそれを見て苦笑し、「たかが髪よ」と宥めすかしながら王の間に急いだ。

「陛下、王妃殿下。エリザベスです。ハルバート様の病を治すために、魔女様を連れて参りました」
「ま、魔女?」
「エ、エ、エリザベス…!?その髪は一体…!」

 国王は訝しげな顔でジロジロと魔女を見、王妃は目を皿の様に開き、慌てて扇で口元を隠したものの、短く刈り取られたエリザベスの髪に絶句した。

 魔女が冷ややかな目で国王と王妃を見上げ、「嫌ならいいんだよ」と言ったため、王は慌てて視線を逸らし、ハルバートの部屋まで魔女を促すことにした。

 ハルバートは青白い顔のまま呼吸も浅く、蔦のような赤黒い跡が首筋から右頬にかけて這い上がって来ていた。病に侵されてから頬はこけ、目は落ち窪みすっかりやせ細り、艶のあった焦茶色の髪も薄茶色に変わり、以前のような精悍さは見る影もない。

「ああやっぱり呪いだね…。しかもこれは、王族の血の呪いじゃなく新しいものだ。あと一週間持つかどうかと言うところだったよ。エリザベスに感謝しな」
「の、呪い…!?一体誰がこんな…!魔女よ、呪いは解けるのか!?もし、もしこれが嘘だったら、どうなるか分かっておるな?」
「はっ。こんな状態になったのも、あんたたちが忘れたせいだろ?アタシはヴェルマンに伝えたはずだよ。この国を出てはいけないとね!」
「ヴェルマン…?初代国王か…!」
「わ、私も王太后様から聞いたことがあります。初代国王と魔女の話…。童話だとばかり思っていたけど…!」
「童話!童話だって?アタシはそこまで忘れられたのか」

 犬猫の方がよっぽど覚えがいいよ、と魔女が呆れたところで、エリザベスが慌てて前に進み出た。

「魔女様。初代国王からすでに三百年ほどの時が過ぎているのです。それまで王家はおそらくこの地を出たことはなかったのでしょう。此度は帝国からの招待を受け、行かざるを得なかったのです。王太子殿下をお守りできなかったわたくしが罪を背負いますゆえ、どうぞお許しを…」
「三百年?!もうそんなに立ってたのかい…道理で容姿も衰えるはずだ。人間の三百年は長いからね…忘れられても仕方ないのか…」

 魔女は歳を取らないのだろうか。確かに老人の風貌ではあるが、三百年も生きている様には到底見えなかったし、魔女自身も驚いている様だった。不老なのか魔法で時間を止めていたのか。今度、魔女についても調べてみよう。そんなことをふと考えたエリザベスだったが、王妃は歪んだ笑みを貼り付け、ほっとした様子でエリザベスを指さした。

「そ、そうよ。エリザベスの言うとおりだわ。お前がもっと事前に調べておけば、ハルバートを帝国などに行かせなかったものを!王太子妃としての役目も果たせんとは。しかも帝王に目をつけられるなど、一体どんなはしたない格好をしておったのか!それにその髪型は何?帝国の流行なの?恥を知りなさい!公爵令嬢ともあろうあなたが、ましてや王太子の婚約者であると言う身分で、婚姻前に髪を切り、その様にうなじを晒すとは、娼婦にでもなるつもりなの?本当に!そのまま帝国の申し出を受けて妾にでもなんでもなっていればよかったものを」
「王妃よ!止めぬか!」

 王妃の言い分にギョッとしたが、顔には出さず「申し訳ございません」と頭を下げるエリザベスと国王夫妻を交互に見て、魔女は瞬時に理解した。

「あーそうそう。アタシにあんた達の息子のハルバートを治してもらいたいのなら、代償が必要だよ。この子からはすでに貰ったが、あんた達からはまだだったね。王子にかかった呪いを解く前に、白金貨千枚を貰うとするかな」
「白金貨千枚ですって!?ふざけたことを!」
「それっぽっちであんたたちの息子と王国が助かるんだろ?このままだと王子は呪われたまま死んでしまうよ?ああ、それにヴェルマンとアタシとの契約は破られた。これから帝国や隣国が押し寄せてきても、アタシゃ知らないよ。帝国にとって王国は邪魔な存在だ。帝国の地があんた達を見つけて、息の根を止めないことには安心できない呪いにかかっているからね。王妃様はまあ、血は濃くないけれど、何せこの国王妃だからねえ。逃げられないかもねえ。ああ、それに王様、あんたには血の呪いというのも入ってる。血筋そのものが呪われているから、この国を出たら帝国の蛇の目に狙われるよ」
「な、な……っ!」

 クックと笑う魔女を睨みつけ、王は苦々しくも頷いた。
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