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魔力比べ
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「後は任せた、メリー」
「わかったわ、ジャック。あなたも王太子殿下を必ずお止めしてね」
王族に会いに行くジャックと別れ、メリアンは魔導士団長と共に魔導宮へと向かう。王宮魔導士の団長であり、ジャックの父親でもあるライアットはチラリとメリアンを見てコホン、と咳払いをした。
「あ~。まずは、侯爵令嬢を愛称で呼んでいるジャックの無礼を謝罪する」
「いえ。了承済みですから。わたくしもジャックを呼び捨てていますので、大丈夫です。わたくし、学園ではジャックの研究論文を全てを読みましたの。とても興味深い研究がたくさんあって。実は尊敬しておりましたの」
「へぇ。そうでしたか。それはまた……貴族令嬢としては変わったご趣味で?」
ジャックの研究はかなり専門的な内容が多い。高位貴族令嬢が興味を持つ様なものではないのは重々承知の上だが、他人から見れば酔狂な令嬢なのだろう。しかもメリアンは悪魔付きとも呼ばれる曰く付きの令嬢だ。魔導士団長ならばその話も既に知っているはず。おそらく穿った目で見られている。
「よく言われますわ」
メリアンはそれを聞き流し、にっこりと微笑んだ。
ライアットは騎士団を下がらせ、魔導士の精鋭のみでティアレアを回収し、ひとまず魔法無効の結界檻を用意することにした。魔法無効の檻は魔獣専用のものだが、ドラゴンでも壊せない強度を誇るらしい。加えて、魔力を吸い取る腕輪と足輪、首輪までも用意され、騎士達は心なしかほっとした顔をしていた。厄災レベル5と警告を出し、緊急以外の外出禁止令を大急ぎで王宮に伝達、騎士や衛兵が早足で王都へ向かった。これにより学園も沙汰が降りるまで休みになるだろう。
ジャックの言葉がそれほどまでに威力があるのか、とメリアンは内心驚いた。魔導士団長だけでなく、騎士団までもジャックの言う通りに動いていく。
――もしかして、彼こそがこの国で一番危険なんじゃないのかしら。
そんな考えがふとよぎったメリアンだったが、頭を振り、今は皆を説得させることが先決だとばかり、魔導宮を歩いていく。
先ほどティアレアによって吹き飛ばされた壁は、そんなことがあったとも思わせず、堅固に直立している。通路を挟んだ反対側は結界でできた扉。こちらも壊れたような欠片すら見えていない。当然、あれは前回の事。今回ではなかった事になっていた。
ライアットは聴取の為、記録石を発動させた。尋問室にはそれぞれの部屋に魔石が埋め込まれており、部屋の様子が録画され、言語は録音される。もしまた今回、自分が死んでもこの証拠魔石が残っていればいいのだけど、とメリアンは頭の隅で考えた。時間が巻き戻ったらおそらく無理よね、と。そしてまた、この過程を繰り返さなくちゃいけないのかと思うと、うんざりもした。
――ほんと勘弁してほしいわ。
「先ほど、……この中にいたティアレア―降臨してくる少女にそう名付けたのは教皇なんですが、まあそこはまず置いといて―が魔力を放ち、この結界のドアをまるでねり飴のように溶かして壊し、魔力の塊をわたくしとジャックに叩きつけ壁に激突、その壁毎破壊し何度目かの死を迎えました」
そんな言葉から始まり、メリアンはこれまであった事を全て話し始めた。最初は訝しげに聞いていたライアットが、ティアレアの使った慈愛の雨が、実は神々の雷で王都を壊滅状態にした(と思われる)と言ったところで眉を顰めた。
「わたくしはその際にすでに事切れていたので、実際に王都が壊滅したかどうか調べることは叶いませんでしたが」
「なるほど?それでメリアン嬢は女神の声を聞き、気がついたら蘇っていたと?」
「そうですわね」
「我が息子は、その時そのティアレアという妖魔に魅了されていたと?」
「……妖魔、かどうかはわかりませんが、半年ほどの内にほとんど全ての独身の貴族子息は魅了でもされたかのように振る舞い、数十人の御子息はティアレアの周りに侍っておいででした。その中にジャックも見受けられました。ですが、最後の神々の雷が降り注ぐ際、目を覚まされたのか、その…とある特殊魔法を使って押し留めようとしておいででした」
「……その魔法は、メリアン嬢も知っているものだったか?」
「……いえ。それまで聞いたことのない魔法でした」
ジャックには内密にと言われている暗黒結界のことには一応触れていない。メリアンは視線を泳がせた。
「……それは、暗黒結界、ではなかったのか?」
ライアットが言った言葉に、メリアンは無言で微笑んだ。
「他言無用と言われたのか?」
「ええ、まあ」
「ふ。まあいい。で、その魔法は失敗だったのか」
「……あの、おそらくですが、まだ完成されていなかったのかも知れません。魔力の広がり方が歪でしたし、咄嗟のことでしたから。それに、もしジャックが魅了を無理矢理断ち切り、自我を持ったのだとすれば、万全な体調だったとも言えませんし」
「ふむ」
「わたくし、それはもううんざりする程、何度も死んでは蘇りを繰り返しているのです。女神は『正しい道を選べ』と言いました。私が命を落とすのは、間違った道だから、と理解しています。通常、個人の人生において間違った道というものはなく、選択肢を選んだ結果を歩みますが、この件に関しては、違うとはっきり示されるのです。その度に、わたくしの命はジャックに助けられ、前回はわたくしが死んだことをジャックも覚えていたのです。……まあ、彼も命を落としましたが。
先ほど、ジャックが総勢100名はいたであろう騎士や魔導士、団長様も含めまして拘束魔法を使ったのだと体感致しました。それほどまでの魔力を持ったジャックが、例の魔法を使った時にそれほどの魔力を感じさせなかったのは、何かしらの理由があるのだと思うのですわ」
「ほう」
ライアットの目が細められ、蛇に睨まれたカエルのように居た堪れなくなったメリアンは首を竦めた。
「メリアン嬢はあの拘束魔法がわかり、それに掛からなかったという事か」
「あれは、わざとわたくしを省いたのだと思います」
下手に拘束魔法をかけて防御できなければまた振り出しに戻るので。
とメリアンは首をすくめたその時、ぬるりとした魔力がメリアンに纏わり付き、次の瞬間霧散した。
圧迫感を感じたメリアンがさっと手を振ったせいだった。それを見たライアットは目を見開き、更に強力な魔力をメリアンに向ける。
それはジャックが練った繊細な拘束魔法より、雑な荒縄のようで無理矢理押さえつけようとするものだった。ぞわりとする魔力に嫌悪感をあらわにしてメリアンも対抗する。
メリアンはすぐ様魔力を練り上げ、ライアットの作った荒縄をコーティングするように絡め、イバラのような棘をつけ押し返した。ピシャリ、と鞭を打つような音が部屋に響き、ライアットの手前にあったティーカップがぱりんと割れた。
「!?」
ライアットが飛び上がるように立ち上がり、護衛のために居た二人の魔導士もギョッとして構えた。
「魔導士団長殿。どう言った理由でわたくしを拘束しようというのです?」
「い、今何をした?」
「何をしたかですって?逆にお聞きしたいですわ。あなたがわたくしに放った拘束魔法の意図が分かりませんでしたので、わたくしの魔力で包んでお返ししただけです」
「「「え…?」」」
3人の魔導士達は素っ頓狂な声を上げた。
「女性を力づくで調教しようとする、ねとりと纏わり付くようないやらしい魔法でしたわね。オイタが過ぎませんか?」
ふふ、と口元だけで微笑むメリアンに、同室にいた魔導士達は白い目で団長を睨みつけた。
「わかったわ、ジャック。あなたも王太子殿下を必ずお止めしてね」
王族に会いに行くジャックと別れ、メリアンは魔導士団長と共に魔導宮へと向かう。王宮魔導士の団長であり、ジャックの父親でもあるライアットはチラリとメリアンを見てコホン、と咳払いをした。
「あ~。まずは、侯爵令嬢を愛称で呼んでいるジャックの無礼を謝罪する」
「いえ。了承済みですから。わたくしもジャックを呼び捨てていますので、大丈夫です。わたくし、学園ではジャックの研究論文を全てを読みましたの。とても興味深い研究がたくさんあって。実は尊敬しておりましたの」
「へぇ。そうでしたか。それはまた……貴族令嬢としては変わったご趣味で?」
ジャックの研究はかなり専門的な内容が多い。高位貴族令嬢が興味を持つ様なものではないのは重々承知の上だが、他人から見れば酔狂な令嬢なのだろう。しかもメリアンは悪魔付きとも呼ばれる曰く付きの令嬢だ。魔導士団長ならばその話も既に知っているはず。おそらく穿った目で見られている。
「よく言われますわ」
メリアンはそれを聞き流し、にっこりと微笑んだ。
ライアットは騎士団を下がらせ、魔導士の精鋭のみでティアレアを回収し、ひとまず魔法無効の結界檻を用意することにした。魔法無効の檻は魔獣専用のものだが、ドラゴンでも壊せない強度を誇るらしい。加えて、魔力を吸い取る腕輪と足輪、首輪までも用意され、騎士達は心なしかほっとした顔をしていた。厄災レベル5と警告を出し、緊急以外の外出禁止令を大急ぎで王宮に伝達、騎士や衛兵が早足で王都へ向かった。これにより学園も沙汰が降りるまで休みになるだろう。
ジャックの言葉がそれほどまでに威力があるのか、とメリアンは内心驚いた。魔導士団長だけでなく、騎士団までもジャックの言う通りに動いていく。
――もしかして、彼こそがこの国で一番危険なんじゃないのかしら。
そんな考えがふとよぎったメリアンだったが、頭を振り、今は皆を説得させることが先決だとばかり、魔導宮を歩いていく。
先ほどティアレアによって吹き飛ばされた壁は、そんなことがあったとも思わせず、堅固に直立している。通路を挟んだ反対側は結界でできた扉。こちらも壊れたような欠片すら見えていない。当然、あれは前回の事。今回ではなかった事になっていた。
ライアットは聴取の為、記録石を発動させた。尋問室にはそれぞれの部屋に魔石が埋め込まれており、部屋の様子が録画され、言語は録音される。もしまた今回、自分が死んでもこの証拠魔石が残っていればいいのだけど、とメリアンは頭の隅で考えた。時間が巻き戻ったらおそらく無理よね、と。そしてまた、この過程を繰り返さなくちゃいけないのかと思うと、うんざりもした。
――ほんと勘弁してほしいわ。
「先ほど、……この中にいたティアレア―降臨してくる少女にそう名付けたのは教皇なんですが、まあそこはまず置いといて―が魔力を放ち、この結界のドアをまるでねり飴のように溶かして壊し、魔力の塊をわたくしとジャックに叩きつけ壁に激突、その壁毎破壊し何度目かの死を迎えました」
そんな言葉から始まり、メリアンはこれまであった事を全て話し始めた。最初は訝しげに聞いていたライアットが、ティアレアの使った慈愛の雨が、実は神々の雷で王都を壊滅状態にした(と思われる)と言ったところで眉を顰めた。
「わたくしはその際にすでに事切れていたので、実際に王都が壊滅したかどうか調べることは叶いませんでしたが」
「なるほど?それでメリアン嬢は女神の声を聞き、気がついたら蘇っていたと?」
「そうですわね」
「我が息子は、その時そのティアレアという妖魔に魅了されていたと?」
「……妖魔、かどうかはわかりませんが、半年ほどの内にほとんど全ての独身の貴族子息は魅了でもされたかのように振る舞い、数十人の御子息はティアレアの周りに侍っておいででした。その中にジャックも見受けられました。ですが、最後の神々の雷が降り注ぐ際、目を覚まされたのか、その…とある特殊魔法を使って押し留めようとしておいででした」
「……その魔法は、メリアン嬢も知っているものだったか?」
「……いえ。それまで聞いたことのない魔法でした」
ジャックには内密にと言われている暗黒結界のことには一応触れていない。メリアンは視線を泳がせた。
「……それは、暗黒結界、ではなかったのか?」
ライアットが言った言葉に、メリアンは無言で微笑んだ。
「他言無用と言われたのか?」
「ええ、まあ」
「ふ。まあいい。で、その魔法は失敗だったのか」
「……あの、おそらくですが、まだ完成されていなかったのかも知れません。魔力の広がり方が歪でしたし、咄嗟のことでしたから。それに、もしジャックが魅了を無理矢理断ち切り、自我を持ったのだとすれば、万全な体調だったとも言えませんし」
「ふむ」
「わたくし、それはもううんざりする程、何度も死んでは蘇りを繰り返しているのです。女神は『正しい道を選べ』と言いました。私が命を落とすのは、間違った道だから、と理解しています。通常、個人の人生において間違った道というものはなく、選択肢を選んだ結果を歩みますが、この件に関しては、違うとはっきり示されるのです。その度に、わたくしの命はジャックに助けられ、前回はわたくしが死んだことをジャックも覚えていたのです。……まあ、彼も命を落としましたが。
先ほど、ジャックが総勢100名はいたであろう騎士や魔導士、団長様も含めまして拘束魔法を使ったのだと体感致しました。それほどまでの魔力を持ったジャックが、例の魔法を使った時にそれほどの魔力を感じさせなかったのは、何かしらの理由があるのだと思うのですわ」
「ほう」
ライアットの目が細められ、蛇に睨まれたカエルのように居た堪れなくなったメリアンは首を竦めた。
「メリアン嬢はあの拘束魔法がわかり、それに掛からなかったという事か」
「あれは、わざとわたくしを省いたのだと思います」
下手に拘束魔法をかけて防御できなければまた振り出しに戻るので。
とメリアンは首をすくめたその時、ぬるりとした魔力がメリアンに纏わり付き、次の瞬間霧散した。
圧迫感を感じたメリアンがさっと手を振ったせいだった。それを見たライアットは目を見開き、更に強力な魔力をメリアンに向ける。
それはジャックが練った繊細な拘束魔法より、雑な荒縄のようで無理矢理押さえつけようとするものだった。ぞわりとする魔力に嫌悪感をあらわにしてメリアンも対抗する。
メリアンはすぐ様魔力を練り上げ、ライアットの作った荒縄をコーティングするように絡め、イバラのような棘をつけ押し返した。ピシャリ、と鞭を打つような音が部屋に響き、ライアットの手前にあったティーカップがぱりんと割れた。
「!?」
ライアットが飛び上がるように立ち上がり、護衛のために居た二人の魔導士もギョッとして構えた。
「魔導士団長殿。どう言った理由でわたくしを拘束しようというのです?」
「い、今何をした?」
「何をしたかですって?逆にお聞きしたいですわ。あなたがわたくしに放った拘束魔法の意図が分かりませんでしたので、わたくしの魔力で包んでお返ししただけです」
「「「え…?」」」
3人の魔導士達は素っ頓狂な声を上げた。
「女性を力づくで調教しようとする、ねとりと纏わり付くようないやらしい魔法でしたわね。オイタが過ぎませんか?」
ふふ、と口元だけで微笑むメリアンに、同室にいた魔導士達は白い目で団長を睨みつけた。
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