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「アイーシャ」
聞く耳を持たないこの二人を、どうやって相手にしようかと考えていたところで、声をかけられた。これはいいところに。
「ハロルド兄様」
マジックバッグを片手に、三揃いのスーツがパリッとしてかっこいい。商談の帰りですね。
「お前、なにこんなところで道草してるんだ」
「いえ。道草じゃなくて今日はマウロと出かける予定でした」
「ほう。仕事をほっぽって無駄なデートか。お前のような子供に、そもそもデートなんて百年早いんだ。仕事をしろ、仕事を」
「兄様、百年経ったら私、生きてないかもしれません」
「それでもお前には早いんだ。そんな痩せっぽっちで、似合わないワンピースを着込んでおきながら、くしゃくしゃの頭で外に出るとは。ライラはなにをしているんだ」
むう、と眉を寄せてメガネを中指でクイッと押し上げる癖のある兄は、ガッチリした体型で、騎士になるか商人になるかと悩んだ末、実家を取りました。なぜなら、当時婚約者だったモニカさん(今はお嫁さん)が騎士になれば、常に危険と向かい合わせになって、他人の為ばかりに働かなくちゃいけない、と文句を言ったそうです。そんな時間があるならば、私と一緒に他国へ行って楽しいものや役立つものを仕入れて、生活を豊かにしましょうよ、と。
モニカさんの方が商売人には向いていたようで、お父様のハートをガッチリ掴み、お兄様を懐柔しました。母様がいうには、『亭主は嫁の尻に敷かれるくらいがちょうどいい』のだそうです。マウロくらいなら簡単そうですが…。愛がないと結婚は続かないとも言われましたから、私には無理かもしれません。
「ライラ姉様はクレイド様と研究所にこもっていたので、私が自分で用意しました」
「はあ。またか、あいつらは…」
ライラ姉様は、学園を卒業したらクライド様と結婚をされるのだけど、爺様に似て錬金術が得意で、魔導士のクライド様と商品研究に余念がありません。たまに三日三晩研究所から出てこないなんてこともあり、監視カメラも置かれているくらい。イチャコラしてるんじゃないか、なんて余計な心配をするのは父様だけなんだけど。デバガメはやめろと母様によく怒られています。
「それでお前はその見窄らしい姿で街中の噴水前で、お前の婚約者に罵られているというわけか」
「えっと、今さっき、婚約を破棄されました」
「なに?」
ニヤニヤと兄様の毒舌を聞いていたマウロは、はっと気がついてパクりと口を閉じ、狼狽えて視線をはぐらかしました。そうですよね、お兄様に睨まれると怖いもの。何せ背は高いし、視力が悪いせいで目つきが鋭い。まだまだ騎士の感覚が抜けていないせいもあって、なんというか迫力満点、威厳があってマウロより高貴な感じがします。
「それで?」
「えっと、それでメロドラマ様をいじめた慰謝料と侮辱罪で金貨5千枚払えとか、水道使用権を差し出せとか、奴隷になれとか、言われました」
「あっ、いや!それはっ!」
「……色々ツッコミどころ満載だが…。メロドラマって誰だ?いじめとは?」
焦ったマウロが口を挟むが、兄の鋭い視線で真っ青になって口を閉じました。それを横で見ていたメロドラマ様が、すかさず揉み手ですり寄ってきましたが。
野生の勘なのでしょうか。強いものに媚を売る姿に、動物の本能を垣間見た気がしました。
「あのぅ、私メラドンナ・ソウヤーと申しますの。ライラ様とはお友達ですわ。どうぞお見知り置きを」
「…ライラの友と言う割に、我が妹をいじめていたようだが?」
「ま、まあ!それは逆ですわ!私、学園で彼女にいじめられていましたのよ」
「彼女、とは?ライラのことか?」
「え?いえ、そ、そこにいる、アイーシャ・エヴァダさんのことですわ。ライラと私の仲が悪いから、いじめるように言われていたのかもしれませんが、教科書を破られたり、池に突き落とされたり、靴を隠されたりしましたの。おかげで私の学園生活は散々ですのよ。そこでマウロ様に相談を「一つ聞きたいんだが」…えっ、な、なんでしょうか?」
ヨヨヨ、と悲しげによろめくメロドラマ様を見下ろし、お兄様が話をぶった斬ったせいで、パチクリとして涙も止まってしまったようです。さりげなくマウロがメロドラマ様の肩を引き寄せていますが、震えてますね。無理はしない方が身のためですよ。
「メロドラマ嬢、君は先ほどライラの友と言っておきながら、今、仲が悪いと言ったが?」
「……えっ?い、言いました?」
はい、はっきり言いましたね。お友達じゃなかったんですね。まあ、ライラ姉様が相手にするような人じゃありませんし?だって発情期のアバ…いえ、娼婦と言ったのは姉様ですし。ところで、兄様までメロドラマ嬢と言ってますが、そこは反応しないんですね。
「職業柄…有益な人物は家族全員で把握し、名を留めておくのが我が家のしきたりだが、ライラから君の名前が出てきたことはない」
ありますよ、兄様。悪評でしたけど。知ってて言ってますね?
「そ、それは、その。わ、私のような小さな子爵家ではお取引にもなりませんでしょ?だか「もう一つ」……え?は、はい」
「うちの妹は学園に通っていないのに、どうして君をいじめることができたのかな?」
「「え?」」
聞く耳を持たないこの二人を、どうやって相手にしようかと考えていたところで、声をかけられた。これはいいところに。
「ハロルド兄様」
マジックバッグを片手に、三揃いのスーツがパリッとしてかっこいい。商談の帰りですね。
「お前、なにこんなところで道草してるんだ」
「いえ。道草じゃなくて今日はマウロと出かける予定でした」
「ほう。仕事をほっぽって無駄なデートか。お前のような子供に、そもそもデートなんて百年早いんだ。仕事をしろ、仕事を」
「兄様、百年経ったら私、生きてないかもしれません」
「それでもお前には早いんだ。そんな痩せっぽっちで、似合わないワンピースを着込んでおきながら、くしゃくしゃの頭で外に出るとは。ライラはなにをしているんだ」
むう、と眉を寄せてメガネを中指でクイッと押し上げる癖のある兄は、ガッチリした体型で、騎士になるか商人になるかと悩んだ末、実家を取りました。なぜなら、当時婚約者だったモニカさん(今はお嫁さん)が騎士になれば、常に危険と向かい合わせになって、他人の為ばかりに働かなくちゃいけない、と文句を言ったそうです。そんな時間があるならば、私と一緒に他国へ行って楽しいものや役立つものを仕入れて、生活を豊かにしましょうよ、と。
モニカさんの方が商売人には向いていたようで、お父様のハートをガッチリ掴み、お兄様を懐柔しました。母様がいうには、『亭主は嫁の尻に敷かれるくらいがちょうどいい』のだそうです。マウロくらいなら簡単そうですが…。愛がないと結婚は続かないとも言われましたから、私には無理かもしれません。
「ライラ姉様はクレイド様と研究所にこもっていたので、私が自分で用意しました」
「はあ。またか、あいつらは…」
ライラ姉様は、学園を卒業したらクライド様と結婚をされるのだけど、爺様に似て錬金術が得意で、魔導士のクライド様と商品研究に余念がありません。たまに三日三晩研究所から出てこないなんてこともあり、監視カメラも置かれているくらい。イチャコラしてるんじゃないか、なんて余計な心配をするのは父様だけなんだけど。デバガメはやめろと母様によく怒られています。
「それでお前はその見窄らしい姿で街中の噴水前で、お前の婚約者に罵られているというわけか」
「えっと、今さっき、婚約を破棄されました」
「なに?」
ニヤニヤと兄様の毒舌を聞いていたマウロは、はっと気がついてパクりと口を閉じ、狼狽えて視線をはぐらかしました。そうですよね、お兄様に睨まれると怖いもの。何せ背は高いし、視力が悪いせいで目つきが鋭い。まだまだ騎士の感覚が抜けていないせいもあって、なんというか迫力満点、威厳があってマウロより高貴な感じがします。
「それで?」
「えっと、それでメロドラマ様をいじめた慰謝料と侮辱罪で金貨5千枚払えとか、水道使用権を差し出せとか、奴隷になれとか、言われました」
「あっ、いや!それはっ!」
「……色々ツッコミどころ満載だが…。メロドラマって誰だ?いじめとは?」
焦ったマウロが口を挟むが、兄の鋭い視線で真っ青になって口を閉じました。それを横で見ていたメロドラマ様が、すかさず揉み手ですり寄ってきましたが。
野生の勘なのでしょうか。強いものに媚を売る姿に、動物の本能を垣間見た気がしました。
「あのぅ、私メラドンナ・ソウヤーと申しますの。ライラ様とはお友達ですわ。どうぞお見知り置きを」
「…ライラの友と言う割に、我が妹をいじめていたようだが?」
「ま、まあ!それは逆ですわ!私、学園で彼女にいじめられていましたのよ」
「彼女、とは?ライラのことか?」
「え?いえ、そ、そこにいる、アイーシャ・エヴァダさんのことですわ。ライラと私の仲が悪いから、いじめるように言われていたのかもしれませんが、教科書を破られたり、池に突き落とされたり、靴を隠されたりしましたの。おかげで私の学園生活は散々ですのよ。そこでマウロ様に相談を「一つ聞きたいんだが」…えっ、な、なんでしょうか?」
ヨヨヨ、と悲しげによろめくメロドラマ様を見下ろし、お兄様が話をぶった斬ったせいで、パチクリとして涙も止まってしまったようです。さりげなくマウロがメロドラマ様の肩を引き寄せていますが、震えてますね。無理はしない方が身のためですよ。
「メロドラマ嬢、君は先ほどライラの友と言っておきながら、今、仲が悪いと言ったが?」
「……えっ?い、言いました?」
はい、はっきり言いましたね。お友達じゃなかったんですね。まあ、ライラ姉様が相手にするような人じゃありませんし?だって発情期のアバ…いえ、娼婦と言ったのは姉様ですし。ところで、兄様までメロドラマ嬢と言ってますが、そこは反応しないんですね。
「職業柄…有益な人物は家族全員で把握し、名を留めておくのが我が家のしきたりだが、ライラから君の名前が出てきたことはない」
ありますよ、兄様。悪評でしたけど。知ってて言ってますね?
「そ、それは、その。わ、私のような小さな子爵家ではお取引にもなりませんでしょ?だか「もう一つ」……え?は、はい」
「うちの妹は学園に通っていないのに、どうして君をいじめることができたのかな?」
「「え?」」
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