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王国崩壊の兆し

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 スッと俺の顔から笑顔が消え失せた。

 ふざけんなよ、このジジイ。俺のアルヴィーナをこんなど阿呆共の巣窟に置き去りにさせるわけないだろう。室内の温度が急激に下がり、俺が口を開こうとした時、アルヴィーナの方が一足早く口を開いた。

「お言葉ですが、陛下。以前にも申し上げました通り、わたくし、シンファエル殿下にはついていけませんの。学園で感情の赴くまま女生徒に襲いかかり腰を押し付け、怠惰で何一つ覚える気もなく遊び歩き、公務は全てわたくしに押し付け、我が義兄の力を借りてさえも常識すら身につけることができず、瘴気の森ではわたくしの魔力を全て吸い上げ、一週間も意識不明にさせられた上に、今回またしてもフィンデックス侯爵令嬢と関係を持たれましたね?」

 そうか。最後まで行っちゃったのか。俺は僅かに目を見開きアルヴィーナを見るとコクリと頷いた。どうやら王様が唾を飛ばしてクビだと言っている間、千里眼で探りを入れたようだ。さすが俺のアルヴィーナ。行動が早い。

「な、なぜそれを…っ」
「知らないとお思いですか。わたくし6年もこの王宮で奴隷のようにこき使われていましたのよ。騎士団、魔導団の行動は全て把握しておりますわ」

 うん?これは、千里眼ではなく誰かとテレパスしてるのかな?魔導士あたり得意とする奴もいるからな。ちょっとムカッとするが、ありえない訳ではないか。

「わたくしの仕入れた情報では、とうとうセレナ侯爵令嬢の貞操を散らし、昨日は午前中、教本にある全ての体位をお試しになり存分にお楽しみだったとか。そういうところには記憶力を発揮なさるのですね。そこは素晴らしい事だと思いますが、セレナ様が意識を失っても止めることをせず、労ることもなく猿のように繰り返し腰を打ちつけていたとの情報が入っております。それで、陛下はその尻拭いをわたくしにさせようというのですか?」
「そ、そ、それは……っ」

 途端に王様は狼狽えて視線を泳がせた。扉前にいる騎士はさりげなく視線を逸らし、侍従は俯いた。

 マジか。若いって、なんというか凄いなあ。全ての体位って46だっけ、48だっけ?それを昨日の午前中だけで?どんなだよ。

 いやぁ、何かやらかしたとは思っていたけど、お盛んなことで。自分で百獣の王と言うだけの事はある、とか感心している場合じゃなかった。

「今度ばかりは、と何度も申し上げますが。わたくし、この際ですのではっきりと申し上げますわ。『あんま、ふざけたこと言ってるとてめえの首も締めるぞ、ゴラァ』と」
「ひっ!?」

 ア、アルヴィーナ!いくらヘッポコでボンクラでクソな王子の親で、そいつ自身も頭沸いてんのかと思うほどボンクラでクソだけど、仮にも国王だぞ。言葉遣いが淑女らしくないだろう。

「なっ!?」
「エヴァン…。思ってることが口に出てますわよ?」
「あれっ?動揺しすぎた。すまん」

 失敗、失敗。久々の汚い口調のアルヴィーナにちょっと興奮しちまった。いや、堂に入ってるわ。兄ちゃんの知らないところで誰かを脅してるとか、そう言うことないよね?

「な、な、な、なんて口を!わしは王だぞ!お、お前達も死刑になりたいのか!?」
「「できるもんならしてみやがれ、腐れ王族が」」

 ペッと吐き出さんばかりに雑言を吐いたアルヴィーナは、完璧なカーテシーをして王に向かってにっこりと微笑んだ。俺もうっかり昔取った杵柄でカーテシーをしそうになって、思いとどまる。

 癖って怖い。

「それでは、わたくしたちも国外追放で構いませんわ。たった今、エヴァンとアルヴィーナは貴族から抜け、この国からも籍を抜く事にいたします。殺せるものならば、どうぞご自由に。エヴァン、行きましょう」

 目を大きく見開いて固まってしまった王様に背を向け、アルヴィーナは堂々と王の執務室を出ていき、騎士達も恭しく頭を下げた。

「あ、アルヴィーナ様!いよいよ出て行かれるのですか!?」

 後ろ手に扉を閉めた騎士が、慌ただしく駆け寄った。

「ええ。アレク様。お世話になりました。ようやくですわ」
「皆にも伝えます!これからどうなさるので?」
「わたくし、エヴァンについていきますの。これから平民にでも冒険者にでもなって国外を旅したいと思っているのよ」
「そ、そんな!アルヴィーナ様とエヴァン様がいなくなったらこの国は!」
「あら、宰相がいるもの。あの方が後からなんとでもするでしょう?王妃様だってそのうち戻っていらっしゃるでしょうし?」
「そ、それが…!陛下は昨日宰相殿にも国外追放を言い渡し、宰相殿はすでに隣国へ旅立たれたのです!」


「「えっ!?」」

 思っても見なかった言葉に俺たちは固まった。
 
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