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キスの相手は
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アルヴィーナが目覚めたと聞いて、修練場にほったらかしにしてきてしまった。城の中でまで醜態は晒さないだろうと思ったし、騎士も魔導士もいるから大丈夫だろうと踏んでのことだった。宰相にも伝言は残したし、なんなら従者だって近くにいたはずだ。スカイも謹慎中だから、ワイバーンに乗ってお出かけなんてこともできなかっただろうし…。
いや、それよりもだ。
「あー…アルヴィーナ、その」
「私も行く」
俺が口を開く前に、アルヴィーナが俺に抱きついて顔を胸に埋めてきた。さっきは不意打ちで張り倒されたが、今度はちゃんと受け止めた。
「えっと…。ちゃんと聞こえてた、よな?」
「……うん」
「……そっか」
かなり恥ずかしい。必死だったというのもあるし、いつ地縛霊になるか気が気じゃなかったし。
「すごいドキドキしてる」
うわ。心臓の音聞かれてるし!
「あー、うん。まあ、な。それで、その…まずは、お帰り」
「……ただいま」
「心配した」
「うん、ごめん」
「いや。こっちこそ悪かった。その、全然気がつかなくて、というか、無視して、でもほら、俺、十も上のおっさんだし」
「おっさんでもいい」
「平民だし」
「関係ない」
「えっと、一応戸籍上は、兄だし?」
「養子縁組解消したんでしょ?私、エヴァン好みに仕上げられたし?責任とってよね?」
「あー……」
「今更嘘でした、なんて言わないよね?」
「…言わない」
「……愛してる?」
はあ。たまんね。なにこの甘酸っぱいの。
「アルヴィーナこそ、いいの?」
「エヴァンじゃなきゃダメ。エヴァンがいいの」
くっ。くっそ可愛すぎだろ。
顔隠してるけど、耳まで真っ赤にして。
ネグリジェで抱き付かれてるとか。
胸当たってるんだけど。結構でかいし。ボヨンボヨン。
うわー……。何、この試練。
ちょっとだけ抱きしめてもいい?いいよね?
「アル…。俺の、アルヴィーナ…」
ああ、だめだ。柔らかい。キュッと抱きしめたら「ふきゅっ」とか言ってるし。嫌がってない、よな?
抱擁とかデコチューくらい兄妹としてならいつでもしてたのに、なんで今頃になって意識するかな。鼻血でそう。
キスか。キス、いいかな。いいよな?ほっぺくらいなら、いつもしてるし、大丈夫かな。唇とか、いきなりはダメ、だよな。でも、デコチューとか日常だった気がする。俺、なんであんなに仏の心境だったんだ?
髪に触れて、両手で頬を包んで、上を向かせて。ああ、真っ赤っかだよ、アルヴィーナ。だめだ。やっぱ唇もらってもいいかな。キスだけで止めれるかな、俺。
体を離してちょっと覗き込もうと顔を傾けた時、視界の端に何かが映った。
横目でチラリと見ると、やっぱり。
「お前ら……っ。見るならもっと隠れて見ろよっ!チクショウ」
3人組が鼻血を垂らしながら、床に這いつくばって、キラキラした目でこちらの様子を伺っていた。
最低……。
ひとまず、ネグリジェ姿のアルヴィーナは目の毒なので、メイドたちに任せて湯浴みと殴られた傷の治療をかけ、俺は泣く泣く前のめりになって(なぜとは聞くな!)胃に優しい食事の支度をしに厨房へ行った。
◇◇◇
「で、シンファエル王子がアルの体を乗っ取ったっていうのは、マジか」
オートミールとキラービーの蜂蜜を合わせたポリッジに、アルヴィーナの好きなアップルソースを加えたものを持っていくとあっという間に平げ、貯蔵してあったキャベツのスープとパンナコッタを食べてようやく落ち着いたらしい。相変わらず甘いものが好きだ。
ついでにサリーたちも隣に座って同じ食事をしている。お前ら、メイドとしての立場わかってるか……?
「乗っ取ったというか、王子とエヴァン、魔力で繋がってるでしょう?」
「…あー。結界魔法かけっぱなしだったな、そういえば。筋トレの最中だったし」
「クソ王子の意識がハッキリしてるうちは当然幽体離脱なんてしないハズ。だからひょっとしてなんらかの理由で意識が飛んだか、飛ばされたかしたんじゃないかしら」
「誰かに襲われた、とか?」
「襲ったの間違いかもよ?」
「侯爵令嬢が怪しいですよね~」
「何かして気を失った可能性が高いわね」
「チッ。ひょっとしてまた魔獣化してるかな」
「魔獣化?」
ああ、そうか。アルヴィーナは意識不明だったから知らないんだった。
「ああ。瘴気の森でかなり悪質なの拾ってきたみたいでさ。緑竜の薬玉で治ったかと思ったんだけど、あれ以来、毎日なにかしら体から生えてきててな」
「……もう、魔獣として討伐した方が良くない?」
「一応王子だからね?」
「めんどくさいわね…。じゃあ、そのせいで魂が追い出されたって感じ?」
「今朝は身体中苔むしてた。その前は蚕になって繭の中で永眠しそうになってたし、その前は背中からコウモリの羽が生えてたな」
「……魔菌の温床?」
「明日の朝イチで確認行ってみるよ」
「私も行こうか?」
「あぁ。宰相が心配してたから、その方が良いな。体調は大丈夫そうか?」
「一週間も寝たから、魔力も十分補充できたし、聖魔法で浄化したから大丈夫だと思う」
「そうか。まあ無理しないなら一緒に行こうか」
「そうね。ハッキリさせるためにもそうしよう」
「……本当にいいのか?」
「くどいよ、エヴァン。たとえこの国が滅びると言われても、アレと結婚なんてイヤ。勝手に滅びて」
ま、そうだよな。
ただ、王族との魔法契約も解消しなくちゃいけないんだよな。どうしたものか。
「明日城に行ったら、すでに腐海になってたりしてな」
「あり得る」
それで全滅してたら一気に解決するんだけど。
それが笑えない冗談だったとはこの時の俺は、思いもしなかった。
いや、それよりもだ。
「あー…アルヴィーナ、その」
「私も行く」
俺が口を開く前に、アルヴィーナが俺に抱きついて顔を胸に埋めてきた。さっきは不意打ちで張り倒されたが、今度はちゃんと受け止めた。
「えっと…。ちゃんと聞こえてた、よな?」
「……うん」
「……そっか」
かなり恥ずかしい。必死だったというのもあるし、いつ地縛霊になるか気が気じゃなかったし。
「すごいドキドキしてる」
うわ。心臓の音聞かれてるし!
「あー、うん。まあ、な。それで、その…まずは、お帰り」
「……ただいま」
「心配した」
「うん、ごめん」
「いや。こっちこそ悪かった。その、全然気がつかなくて、というか、無視して、でもほら、俺、十も上のおっさんだし」
「おっさんでもいい」
「平民だし」
「関係ない」
「えっと、一応戸籍上は、兄だし?」
「養子縁組解消したんでしょ?私、エヴァン好みに仕上げられたし?責任とってよね?」
「あー……」
「今更嘘でした、なんて言わないよね?」
「…言わない」
「……愛してる?」
はあ。たまんね。なにこの甘酸っぱいの。
「アルヴィーナこそ、いいの?」
「エヴァンじゃなきゃダメ。エヴァンがいいの」
くっ。くっそ可愛すぎだろ。
顔隠してるけど、耳まで真っ赤にして。
ネグリジェで抱き付かれてるとか。
胸当たってるんだけど。結構でかいし。ボヨンボヨン。
うわー……。何、この試練。
ちょっとだけ抱きしめてもいい?いいよね?
「アル…。俺の、アルヴィーナ…」
ああ、だめだ。柔らかい。キュッと抱きしめたら「ふきゅっ」とか言ってるし。嫌がってない、よな?
抱擁とかデコチューくらい兄妹としてならいつでもしてたのに、なんで今頃になって意識するかな。鼻血でそう。
キスか。キス、いいかな。いいよな?ほっぺくらいなら、いつもしてるし、大丈夫かな。唇とか、いきなりはダメ、だよな。でも、デコチューとか日常だった気がする。俺、なんであんなに仏の心境だったんだ?
髪に触れて、両手で頬を包んで、上を向かせて。ああ、真っ赤っかだよ、アルヴィーナ。だめだ。やっぱ唇もらってもいいかな。キスだけで止めれるかな、俺。
体を離してちょっと覗き込もうと顔を傾けた時、視界の端に何かが映った。
横目でチラリと見ると、やっぱり。
「お前ら……っ。見るならもっと隠れて見ろよっ!チクショウ」
3人組が鼻血を垂らしながら、床に這いつくばって、キラキラした目でこちらの様子を伺っていた。
最低……。
ひとまず、ネグリジェ姿のアルヴィーナは目の毒なので、メイドたちに任せて湯浴みと殴られた傷の治療をかけ、俺は泣く泣く前のめりになって(なぜとは聞くな!)胃に優しい食事の支度をしに厨房へ行った。
◇◇◇
「で、シンファエル王子がアルの体を乗っ取ったっていうのは、マジか」
オートミールとキラービーの蜂蜜を合わせたポリッジに、アルヴィーナの好きなアップルソースを加えたものを持っていくとあっという間に平げ、貯蔵してあったキャベツのスープとパンナコッタを食べてようやく落ち着いたらしい。相変わらず甘いものが好きだ。
ついでにサリーたちも隣に座って同じ食事をしている。お前ら、メイドとしての立場わかってるか……?
「乗っ取ったというか、王子とエヴァン、魔力で繋がってるでしょう?」
「…あー。結界魔法かけっぱなしだったな、そういえば。筋トレの最中だったし」
「クソ王子の意識がハッキリしてるうちは当然幽体離脱なんてしないハズ。だからひょっとしてなんらかの理由で意識が飛んだか、飛ばされたかしたんじゃないかしら」
「誰かに襲われた、とか?」
「襲ったの間違いかもよ?」
「侯爵令嬢が怪しいですよね~」
「何かして気を失った可能性が高いわね」
「チッ。ひょっとしてまた魔獣化してるかな」
「魔獣化?」
ああ、そうか。アルヴィーナは意識不明だったから知らないんだった。
「ああ。瘴気の森でかなり悪質なの拾ってきたみたいでさ。緑竜の薬玉で治ったかと思ったんだけど、あれ以来、毎日なにかしら体から生えてきててな」
「……もう、魔獣として討伐した方が良くない?」
「一応王子だからね?」
「めんどくさいわね…。じゃあ、そのせいで魂が追い出されたって感じ?」
「今朝は身体中苔むしてた。その前は蚕になって繭の中で永眠しそうになってたし、その前は背中からコウモリの羽が生えてたな」
「……魔菌の温床?」
「明日の朝イチで確認行ってみるよ」
「私も行こうか?」
「あぁ。宰相が心配してたから、その方が良いな。体調は大丈夫そうか?」
「一週間も寝たから、魔力も十分補充できたし、聖魔法で浄化したから大丈夫だと思う」
「そうか。まあ無理しないなら一緒に行こうか」
「そうね。ハッキリさせるためにもそうしよう」
「……本当にいいのか?」
「くどいよ、エヴァン。たとえこの国が滅びると言われても、アレと結婚なんてイヤ。勝手に滅びて」
ま、そうだよな。
ただ、王族との魔法契約も解消しなくちゃいけないんだよな。どうしたものか。
「明日城に行ったら、すでに腐海になってたりしてな」
「あり得る」
それで全滅してたら一気に解決するんだけど。
それが笑えない冗談だったとはこの時の俺は、思いもしなかった。
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