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口元から紫煙の溢れるアルヴィーナが近づいてきた。
もちろん、俺はこんなチンケな闇魔法に引っかかるほど間抜けではない。
ーーとか言いつつ、結構危なかったけど。
ギリギリのところでピアスにつけた防御魔法が発動した。
闇魔法を使うやつは実は結構多い。商売人には特に、軽い暗示魔法や魅了の力を持っている奴がいて、本人も気づいていないことがある。大体商売上手な悪どい商人なんかはこれを持っているから、騙されない様にピアスに魔法無効の防御石を埋め込んであるのだ。アルヴィーナの部屋だからと油断した。催眠魔法は滅多にお目にかかれないが、この魔力を辿れば誰のものかはハッキリする。
魔力紋というのは指紋と一緒で一人ずつ違う。それを逆行して突き止めるのは難しいが、無理ではない。特にアルヴィーナほどの魔力を持った人間の隙をついて乗っ取りを試みるような命知らずな奴はそうそういないはずだ。でなければ返り討ちに遭い、アルヴィーナの聖魔法で大打撃を負うから。下手をすれば命を奪われる。
もちろん、偶然ということもあり得るが(その場合追跡難度が跳ね上がる)、そうでない場合はアルヴィーナが魔力暴走で意識喪失を知っている者で、よほど腹に抱えるものがある人物ということになる。だとしたら、追跡の範囲はかなり狭まることになる。つまり王城内の誰か。可能性として一番高いのはセレナ嬢だが、動機がわからない。俺はそのチャンスを待った。
幸い、アルヴィーナが俺に触れてくれたおかげで、魔力を辿れる。紫色の闇魔法を手繰り寄せ、追跡を開始ーー
「フッザケんじゃないわよーーー!!!」
ーーしようとしたところで、アルヴィーナが耳元で叫び、立ち上がりがてら横っ面を思いっきり蹴り上げられた。
「グフゥッ!?」
アルヴィーナが張り倒した反動で、俺は床を転がりベッドの足で後頭部をしこたま打ちつけ、一瞬本気で意識が飛びかけた。
そしてなにを思ったのか、立ち上がったアルヴィーナが顔を真っ赤にして自身の頬に張り手を食らわし、自分を吹っ飛ばした。
「はぅあっ!?」
俺は目を丸くして、頭をさすりながら反対側に吹っ飛んだアルヴィーナを見ると、豆鉄砲を喰ったような顔のアルヴィーナと視線が合う。
「エヴァン!?」
「アルヴィーナ!?」
「エヴァン様!?」
「お嬢様っ!?」
「ご飯っ!?」
テーブルに突っ伏していたサリーとメリーが飛び起き、床に転がっていたローリィもがばっと目覚め寝ぼけた事を言い、片頬を抑える俺とアルヴィーナを凝視した。紫煙は綺麗さっぱり霧散し、追跡は不発。
だが。
「エヴァン!?」
「アルヴィーナ!?」
「「「お嬢様っ!?」」」
同じセリフを繰り返し、四つん這いのまま、お互いに擦り寄った。
「アル、か?」
「わたくしよ!」
「お嬢様!」
「サリー!」
「お嬢様!」
「メリー!」
「お嬢様!」
「ローリィ!」
「「「なぜご自身に平手打ちをっ!?」」」
おお。息あってんなあ、3人とも。
「あの男!わたくしの体を乗っ取って!エヴァンを!」
ん?今、聞き捨てならん言葉が。
「あの男?」
俺がそう聞き返すと、アルヴィーナはブルブルっと体を震わせ両腕を擦り回した。
「きもっ!まじ、キモい!あの猿男!変態が!わ、わたくしの体に入り込んでエヴァンを手籠にしようとしたのよ!許せない!」
………は?
「ま、待て待て待て!猿男って、まさかの王子!?」
「そうよ!どうやって闇魔法なんか覚えたのかしら?ボンクラのくせに!」
「え?あの、女っぽいお嬢様の正体が、」
「クソ王子…?」
「蛇女みたいな、あの動きが、クソ王子…だったと?」
「わ、私ちょっと、吐き気が……っ!」
サリーが駆け出して部屋を出て行った。どうでもいいけど、「クソ王子」ですでに定着してるの?
「わ、わたしは湯浴みの準備をっ!」
「薬草茶をいれてきますっ!!」
メリーとローリィも駆け出していった。
「お、俺、殿下にキスされそうになってたのか……っ」
「王子の奴、幽体離脱してエヴァンに会いに来たのよ。そこで私の体に取り憑いたの。私が気付くのが遅すぎて、ああ!気持ち悪い!」
アルヴィーナが両腕をさすり身震いをした。まあ、わからないでもない。
「昼間っから幽体離脱…?」
「執念だわ!私に嫉妬して、エヴァンを手に入れたかったんだと思うの。たまたま私の体に乗り移ったからあんな事になったけど」
「嫉妬」
「闇魔法に包まれていたけど、あの感情は王子のものだった。追い出すときに聖魔法を使ってやったから押し戻されたはずだけど、無事じゃ済まないかもね。闇魔法なんて正反対の魔力だもの」
「闇魔法といえば…」
俺とアルヴィーナは顔を見合わす。
「「フィンデックス侯爵令嬢」」
「……」
「……」
嫌な予感がする。まさかと思うが、あの猿男、また……。
もちろん、俺はこんなチンケな闇魔法に引っかかるほど間抜けではない。
ーーとか言いつつ、結構危なかったけど。
ギリギリのところでピアスにつけた防御魔法が発動した。
闇魔法を使うやつは実は結構多い。商売人には特に、軽い暗示魔法や魅了の力を持っている奴がいて、本人も気づいていないことがある。大体商売上手な悪どい商人なんかはこれを持っているから、騙されない様にピアスに魔法無効の防御石を埋め込んであるのだ。アルヴィーナの部屋だからと油断した。催眠魔法は滅多にお目にかかれないが、この魔力を辿れば誰のものかはハッキリする。
魔力紋というのは指紋と一緒で一人ずつ違う。それを逆行して突き止めるのは難しいが、無理ではない。特にアルヴィーナほどの魔力を持った人間の隙をついて乗っ取りを試みるような命知らずな奴はそうそういないはずだ。でなければ返り討ちに遭い、アルヴィーナの聖魔法で大打撃を負うから。下手をすれば命を奪われる。
もちろん、偶然ということもあり得るが(その場合追跡難度が跳ね上がる)、そうでない場合はアルヴィーナが魔力暴走で意識喪失を知っている者で、よほど腹に抱えるものがある人物ということになる。だとしたら、追跡の範囲はかなり狭まることになる。つまり王城内の誰か。可能性として一番高いのはセレナ嬢だが、動機がわからない。俺はそのチャンスを待った。
幸い、アルヴィーナが俺に触れてくれたおかげで、魔力を辿れる。紫色の闇魔法を手繰り寄せ、追跡を開始ーー
「フッザケんじゃないわよーーー!!!」
ーーしようとしたところで、アルヴィーナが耳元で叫び、立ち上がりがてら横っ面を思いっきり蹴り上げられた。
「グフゥッ!?」
アルヴィーナが張り倒した反動で、俺は床を転がりベッドの足で後頭部をしこたま打ちつけ、一瞬本気で意識が飛びかけた。
そしてなにを思ったのか、立ち上がったアルヴィーナが顔を真っ赤にして自身の頬に張り手を食らわし、自分を吹っ飛ばした。
「はぅあっ!?」
俺は目を丸くして、頭をさすりながら反対側に吹っ飛んだアルヴィーナを見ると、豆鉄砲を喰ったような顔のアルヴィーナと視線が合う。
「エヴァン!?」
「アルヴィーナ!?」
「エヴァン様!?」
「お嬢様っ!?」
「ご飯っ!?」
テーブルに突っ伏していたサリーとメリーが飛び起き、床に転がっていたローリィもがばっと目覚め寝ぼけた事を言い、片頬を抑える俺とアルヴィーナを凝視した。紫煙は綺麗さっぱり霧散し、追跡は不発。
だが。
「エヴァン!?」
「アルヴィーナ!?」
「「「お嬢様っ!?」」」
同じセリフを繰り返し、四つん這いのまま、お互いに擦り寄った。
「アル、か?」
「わたくしよ!」
「お嬢様!」
「サリー!」
「お嬢様!」
「メリー!」
「お嬢様!」
「ローリィ!」
「「「なぜご自身に平手打ちをっ!?」」」
おお。息あってんなあ、3人とも。
「あの男!わたくしの体を乗っ取って!エヴァンを!」
ん?今、聞き捨てならん言葉が。
「あの男?」
俺がそう聞き返すと、アルヴィーナはブルブルっと体を震わせ両腕を擦り回した。
「きもっ!まじ、キモい!あの猿男!変態が!わ、わたくしの体に入り込んでエヴァンを手籠にしようとしたのよ!許せない!」
………は?
「ま、待て待て待て!猿男って、まさかの王子!?」
「そうよ!どうやって闇魔法なんか覚えたのかしら?ボンクラのくせに!」
「え?あの、女っぽいお嬢様の正体が、」
「クソ王子…?」
「蛇女みたいな、あの動きが、クソ王子…だったと?」
「わ、私ちょっと、吐き気が……っ!」
サリーが駆け出して部屋を出て行った。どうでもいいけど、「クソ王子」ですでに定着してるの?
「わ、わたしは湯浴みの準備をっ!」
「薬草茶をいれてきますっ!!」
メリーとローリィも駆け出していった。
「お、俺、殿下にキスされそうになってたのか……っ」
「王子の奴、幽体離脱してエヴァンに会いに来たのよ。そこで私の体に取り憑いたの。私が気付くのが遅すぎて、ああ!気持ち悪い!」
アルヴィーナが両腕をさすり身震いをした。まあ、わからないでもない。
「昼間っから幽体離脱…?」
「執念だわ!私に嫉妬して、エヴァンを手に入れたかったんだと思うの。たまたま私の体に乗り移ったからあんな事になったけど」
「嫉妬」
「闇魔法に包まれていたけど、あの感情は王子のものだった。追い出すときに聖魔法を使ってやったから押し戻されたはずだけど、無事じゃ済まないかもね。闇魔法なんて正反対の魔力だもの」
「闇魔法といえば…」
俺とアルヴィーナは顔を見合わす。
「「フィンデックス侯爵令嬢」」
「……」
「……」
嫌な予感がする。まさかと思うが、あの猿男、また……。
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