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潜んだ闇は

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『エヴァンお兄様はわたくしのものよ!渡さないわ!わたくしのものよ!』



 アルヴィーナの体に入り込んだやつがいる?誰だ?

 俺たちが瘴気の森に入ってから、伯爵領に戻ってくる間に?いや、それはない。だって俺は転移魔法を使って戻ってきた。じゃあ、館に帰って来てから?

 結界を解いて、アルヴィーナの部屋の扉を開けると同時に3人のメイドが転がり込んできた。こいつら、扉に耳を押し付けてたな。防音結界張っておいてよかった。

「こら」
「ひゃわわあぁっ!すみません、エヴァン様~!メリーが気になって仕方ないっていうから」
「わっわたしのせいにしないでよっ!元はと言えばローリィが!」

「ああもう、そういうの良いから。それより、俺とアルヴィーナが帰って来てから誰かこの部屋に入れた?」
「え?い、いえ。誰も入れておりません。私たちの誰かはずっとこの部屋にいましたし」
「そう…。それじゃ、アルヴィーナが寝てる間におかしな動きとかあった?寝言でも良いんだけど?」
「いいえ。死んだように寝ていらっしゃったので、気にかけてはいたのですが、寝言どころか身動き一つとっていませんわ」
「というか、エヴァン様!?なんでお嬢様、また白目剥いて倒れているんですか!?」

 ローリィが大慌てでアルヴィーナに洗浄魔法を唱えた。



 ◇◇◇



?そう言ったんですか?」
「なんてことでしょう!どこのどいつがお嬢様を呼び捨てに!」
「詰るのソコじゃないしぃ」
「うん。でも、心当たりもないんだよね」
「え。どこぞで落とした女性に恨まれてるわけじゃ…」
「落としてないからね?お前ら、俺のことなんだと思ってんの?」
「歩くまたたび?」
「顔面凶器?」
「ハエ取り紙?」

 随分じゃねーか、おい!?

「だってエヴァン様ですよ?知らないうちに撃ち落としてるって考えられません?」
「魔物と間違えて殺しちゃったとか?」
「人と魔物の違いくらいわかるし!?殺人じゃないか、それ!」
「いやあ、囲まれちゃうとわかりませんよ?中には妖怪っぽい御令嬢だっているかもしれないし?」
「妖怪っぽいって…。囲まれたこともねえよ!一体どこでそんな情報を」
「屋敷のメイドの中でもエヴァン様を狙ってる人多いんですよ?知らないんですか?」
「神出鬼没ですからねえ、エヴァン様」
「知らねーよ!」

 メイドに狙われるってなんだよ、それ!こえぇ!

 疑わしい目で俺を見てくる3人だが、知らんものは知らん!アルヴィーナ以外の女に興味もなかったし、特に馴れ合った覚えもない。仲がいいと言えるのなんて、せいぜい肉屋のおばちゃんくらいだ!オークが取れた時によく卸すから。そもそも、あのおばちゃんはアルヴィーナの大ファンだし。

「だとしたら、アルヴィーナ様に嫉妬している誰かでしょうか」
「王子絡みだとすれば、考えられるな」
「う~ん。エヴァン様の隣にいつもアルヴィーナ様がいらっしゃるから妬ましく思ったのかしら。でも、乗り移るってことは、その人すでに死んでるってこと?」
「いや、生き霊ということも考えられるんじゃないです?」
「い、生き霊?なんか、魔獣より厄介になって来てない?」
「眠っている間に愛しのエヴァン様に会いに来て、空っぽのアルヴィーナ様を見つけて入り込んだとか」
「それ、幽体離脱より怖ぇし!愛憎以外、考えない!?」
「だって、『アルヴィーナなんかに渡さない』ってことはそれしかないでしょう?」
「…うっ」

 俺は額に手を置き天井を見上げた。

 確かにそうだ。俺の気が付かないところで何かしら恨みを買ったのかもしれない。いや、恨みというか、なんだ、えっと。恋情?慕情?みたいなやつか。でも学生の頃ならいざ知らず、最近はそういうことで呼び出されることも減った。バッサリ切ってるし、相手にしないからわからない。

「必要ないと思って覚えなかったけど、闇魔法も覚えておけばよかったな」
「闇魔法?これ、闇魔法の一種ですか?」
「わからん。でも闇魔法に乗っ取りとか入れ替えの禁忌魔法があるのは知ってる」
「……闇魔法といえば、フィンデックス侯爵家の十八番おはこですよね」
「「「っ!!」」」

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