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魂の抜けたアルヴィーナ②
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「いや、普通っていうのかしら、これ?メンヘラ入ってない?」
「メンヘラって何?」
「依存度が高いとか嫉妬深いとか心に闇を抱えてるとか、精神的不安定な人のことを言うみたいよ」
「あっ、聞いたことあるわ。奥様がそれ系よね!」
「それをいうならあの人、ほら侯爵令嬢のセレナ様!」
「ええっ?そうかしら?あの人はどっちかっていうとゲテモノ好き?」
「ああっ言えてるわぁ!」
サリーたちは、ああだこうだとおしゃべりをし出した。どいつも視線がうろついて会話をするものの、どうしていいのかわからないと半ばやけくそだ。
アルヴィーナの変化について来れず、現実逃避を始めたか。
てか、王子をゲテモノ扱いしてるよ?軽く不敬だよ?ボンクラも良い加減不敬だけどさ。
でもね、君たち。王子についてはまだしも、本人を目の前にしてメンヘラとか言って余計に怒らせてないか。天井の暗雲はますます淀んで重くなるばかりって気づいてない?
「エヴァンお兄様ぁ、メイドたちがひどいことを言いますぅ!アルヴィーナ悲しいわ!慰めてぇん」
ぎゃっ!肉体の方も負けていなかった!
「はーいはい、そこまで。アルの機嫌がどんどん悪くなるから、君たちちょっと外出てて。あとは俺がなんとかするから、誰もこの部屋に近づけさせないようお願い」
「エヴァン様!お嬢様に襲いかかる前にちゃんと許可を、」
「襲わないから!余計なこと言わない!出てった、出てった!」
全然緊張感のないサリーたちの背を押して部屋から追い出し扉を閉めた。結界を作り防音処置もする。これでしばらくは誰も入って来れないはずだ。
仕方がないな。ちょっと荒療治になるかも知れないけど。
俺は深呼吸をして椅子の背を前にして跨ぐようにして座り、アルヴィーナに向き合った。
「エヴァンお兄様」
うるうると歓喜に溢れアルヴィーナ(肉体)が前のめりになり手を伸ばしてきた。
ゾワゾワする。ここにいるのはアルヴィーナじゃない。ただの欲情した肉塊だ。
26年生きてきて、学園にも入り、それなりに貴族の御令嬢も見てきたし、なんなら年頃に関わらず平民の女性陣も周りにウザいほどいた。俺が、伯爵の養子だと知れてからは特に市井ではこのアルヴィーナ(肉体)と同じような視線をよく向けられた。
やたらと媚を売るように笑顔を向けてくるものもいれば、体に触れてくるものもいたが、気持ち悪い、というのが正直な心情だった。その行動は残念ながら貴族も平民も変わらなかったようだ。俺だって欲望の一つや二つはあるが、そんな甘ったるい罠は忙しさにかまけて無視し続けてきた。
俺にはアルヴィーナがいたから。
気にも留めなかったんだ。どの女も似たような人形みたいで、ちょっと髪の色が違うとか、目の色が違うとかその程度の違いでしかなかった。人形遊びに夢中になるような性格でもないし、それより楽しいことも夢中になることもたくさんあった。
今ならわかる。
「兄じゃないから」
「えっ?」
「俺、君の兄じゃないから」
アルヴィーナの肉体は狼狽えて視線を泳がせた。でも俺の意識は天井にある。アルヴィーナ(肉体)を見つめながら、天井にいるアルヴィーナ(魂)に語りかけた。
「あの、エヴァンお兄様?わたくし、記憶が」
「わかってるよ、アルヴィーナ。だから敢えて言う。俺は君の兄じゃない。だから君を抱き締めて慰めることもできないし、二人きりで部屋にいることも本当は良くない。だからアル。アルが戻って来たら、俺はこの屋敷を出て行くつもりだ」
「え、エヴァンお兄様?」
「俺の可愛いアルヴィーナ。馬鹿な俺を許してはもらえないか?アルヴィーナは俺のものだと、子供の頃からずっと思っていた。誰にも渡すつもりなんかなかったんだ。だけど、俺は平民だし、10歳も年上だし、手に入れるわけにはいかない、無理だと思った。こんな感情は持ってはいけないと心の奥深くに封じた。ずっとアルヴィーナの兄を演じ続けようとした。
「メンヘラって何?」
「依存度が高いとか嫉妬深いとか心に闇を抱えてるとか、精神的不安定な人のことを言うみたいよ」
「あっ、聞いたことあるわ。奥様がそれ系よね!」
「それをいうならあの人、ほら侯爵令嬢のセレナ様!」
「ええっ?そうかしら?あの人はどっちかっていうとゲテモノ好き?」
「ああっ言えてるわぁ!」
サリーたちは、ああだこうだとおしゃべりをし出した。どいつも視線がうろついて会話をするものの、どうしていいのかわからないと半ばやけくそだ。
アルヴィーナの変化について来れず、現実逃避を始めたか。
てか、王子をゲテモノ扱いしてるよ?軽く不敬だよ?ボンクラも良い加減不敬だけどさ。
でもね、君たち。王子についてはまだしも、本人を目の前にしてメンヘラとか言って余計に怒らせてないか。天井の暗雲はますます淀んで重くなるばかりって気づいてない?
「エヴァンお兄様ぁ、メイドたちがひどいことを言いますぅ!アルヴィーナ悲しいわ!慰めてぇん」
ぎゃっ!肉体の方も負けていなかった!
「はーいはい、そこまで。アルの機嫌がどんどん悪くなるから、君たちちょっと外出てて。あとは俺がなんとかするから、誰もこの部屋に近づけさせないようお願い」
「エヴァン様!お嬢様に襲いかかる前にちゃんと許可を、」
「襲わないから!余計なこと言わない!出てった、出てった!」
全然緊張感のないサリーたちの背を押して部屋から追い出し扉を閉めた。結界を作り防音処置もする。これでしばらくは誰も入って来れないはずだ。
仕方がないな。ちょっと荒療治になるかも知れないけど。
俺は深呼吸をして椅子の背を前にして跨ぐようにして座り、アルヴィーナに向き合った。
「エヴァンお兄様」
うるうると歓喜に溢れアルヴィーナ(肉体)が前のめりになり手を伸ばしてきた。
ゾワゾワする。ここにいるのはアルヴィーナじゃない。ただの欲情した肉塊だ。
26年生きてきて、学園にも入り、それなりに貴族の御令嬢も見てきたし、なんなら年頃に関わらず平民の女性陣も周りにウザいほどいた。俺が、伯爵の養子だと知れてからは特に市井ではこのアルヴィーナ(肉体)と同じような視線をよく向けられた。
やたらと媚を売るように笑顔を向けてくるものもいれば、体に触れてくるものもいたが、気持ち悪い、というのが正直な心情だった。その行動は残念ながら貴族も平民も変わらなかったようだ。俺だって欲望の一つや二つはあるが、そんな甘ったるい罠は忙しさにかまけて無視し続けてきた。
俺にはアルヴィーナがいたから。
気にも留めなかったんだ。どの女も似たような人形みたいで、ちょっと髪の色が違うとか、目の色が違うとかその程度の違いでしかなかった。人形遊びに夢中になるような性格でもないし、それより楽しいことも夢中になることもたくさんあった。
今ならわかる。
「兄じゃないから」
「えっ?」
「俺、君の兄じゃないから」
アルヴィーナの肉体は狼狽えて視線を泳がせた。でも俺の意識は天井にある。アルヴィーナ(肉体)を見つめながら、天井にいるアルヴィーナ(魂)に語りかけた。
「あの、エヴァンお兄様?わたくし、記憶が」
「わかってるよ、アルヴィーナ。だから敢えて言う。俺は君の兄じゃない。だから君を抱き締めて慰めることもできないし、二人きりで部屋にいることも本当は良くない。だからアル。アルが戻って来たら、俺はこの屋敷を出て行くつもりだ」
「え、エヴァンお兄様?」
「俺の可愛いアルヴィーナ。馬鹿な俺を許してはもらえないか?アルヴィーナは俺のものだと、子供の頃からずっと思っていた。誰にも渡すつもりなんかなかったんだ。だけど、俺は平民だし、10歳も年上だし、手に入れるわけにはいかない、無理だと思った。こんな感情は持ってはいけないと心の奥深くに封じた。ずっとアルヴィーナの兄を演じ続けようとした。
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