上 下
48 / 92

セレナの言い訳

しおりを挟む
 わたくしは、セレナ・フィンデックス。こう見えてもザール国の侯爵令嬢です。

 幼い頃からお母様に厳しい淑女教育を施され、必ずや玉の輿を狙うように言われて参りました。母は若い頃に婚約者がいたのですが、その方が男爵令嬢と浮気をしてお母様を蔑ろにしたそうなのです。ですが、その男爵令嬢は実は某国のスパイだとかで随分話題に上り、悪い意味で時の人になりました。

 結局元婚約者は廃嫡となり、国外追放を言い渡され姿を消しました。そのせいでお母様は婿養子を再び選ばなければならず、しかしその頃には高位貴族の子息は全て婚約済み、結局余っていた子爵家の三男だったお父様を婿養子に迎える羽目になったそうです。

 わたくしは、お父様にそっくりに生まれ、背は低く前歯が大きく、焦茶色の髪をしており、赤毛のお母様のお眼鏡には叶いませんでした。お父様は春ウサギのようで可愛いと溺愛してくれますが、お母様曰く、元婚約者の方はそれはそれは見目麗しく、その方によく似た金髪碧眼の美しい子供ができることを夢見ていたそうなのです。

 こう言ってはなんですが、お母様もものすごく美しいと言うわけではありませんし、お父様に至ってはまるで樽に頭を乗せたような方。赤毛で琥珀色の瞳のお母様と、焦茶の髪と緑の瞳のお父様との間に金髪碧眼は無理でしょう?

 わたくしにそれを求めること自体間違っているとは思うのですが、そんな口をうっかり滑らそうものなら、わたくし家を追い出されてしまうかもしれません。

 せっかく高位貴族として生まれてきたのだから、せめて位くらいは格上を狙いなさいと言われ、6歳の時に王家のお茶会に招かれたのを機に「王子妃の座を狙うのよ」とお母様は王妃様にわたくしを売りました。王妃様はぞくりとするような目で私の値踏みをし、「特技を身につけたら考えても良いわ」とおっしゃられました。

 特技とはなんぞや、と考えていたところお母様が侯爵家の十八番でもある闇魔法を学び、魅了を覚えなさいと詰め寄ったのです。わたくしに使える魔法は当時、水魔法のみ。お母様はどこかの薬師や魔女に頼み、わたくしに魅了魔法を覚えさせました。おかしな薬をたくさん飲まされ、わたくしはどんどんわたくしでは無くなっていったのです。わたくしの魔力は変色し、魔力路を傷つけ、そこから闇魔法が使えるようになりました。身体中が痛くて病気がちになったのもその頃です。

 ですが王子の婚約者はアルヴィーナ伯爵令嬢に決まったと発表があった時、お母様が狂ったように髪をかきむしり叫びました。

「またしてもハイベック伯爵が!私の邪魔をするというの!」

 お父様が、実はお母様の元婚約者は、廃嫡されたハイベック伯爵家の長男の方だったと教えてくれました。それはそれはハンサムな方で、さまざまな女性を虜にしたのですが、お母様がその方の婚約者の座を手にした時はそれはもう大喜びだったそうです。ですが先に述べたようにどこぞの国のスパイであった男爵令嬢と浮気をし、国を巻き込むほどの醜聞を立てたのだそうです。

 男爵令嬢はどうやら魅了使いだったようで、高位貴族の令息が皆揃って廃嫡になり、次男坊が次々と家を継いでいったため、お母様は代わりの婚約者をすぐさま見つけることができず、結局子爵家三男のお父様が婿養子に入ったとのことでした。

「だから、お母様は私に魅了魔法を覚えろとおっしゃったのですね」

 でもそれでは、わたくしがその男爵令嬢と同じような悪女になってしまいませんか?自分の娘を男爵令嬢と同じ目に合わせるつもりなのでしょうか。

「セレナは王子様を落とすだけだから問題はないのよ。一人くらい虜にできるでしょう!?なにも何人も侍らせろとは言っていないのだから!」

 一人くらいは、って一国の王子を捕まえて無茶苦茶なことを言うお母様でしたが、逆らうのも怖く、わたくしは頑張って魅了を使えるように努力をしました。そして学園に入る頃には、ほんのりと魅了魔法が使えるようになったのです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

奪われ続けた少年が助けたおばあちゃんは呪いをかけられたお姫様だった~少年と呪いが解けたお姫様は家族のぬくもりを知る~

ぐうのすけ
ファンタジー
冒険者ギルドが衰退し会社が力を持つ時代。 12才の『カモン』はポーション王子と讃えられる経営者、クラッシュに憧れ会社に入るが、会社では奪われ続けリストラ同然で追い出された。 更に家に戻ると、カモンのお金を盗まれた事で家を逃げ出す。 会社から奪われ、父から奪われ続け人を信じる心を失うカモンだったが、おばあちゃんの姿になる呪いをかけられたティアにパンを恵まれ人のぬくもりを思い出し決意する。 「今度は僕がティアおばあちゃんを助ける!」 その後覚醒し困ったティアを助けた事で運命は動き出す。 一方カモンのノルマを奪い、会社を追い出した男とお金を盗んだカモンの父は報いを受ける事になる

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...