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眠り姫の居ぬ間に

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 朝になり、いつも通り王子の部屋に行くと王子の頭から若木が生えていた。ヤドリトレントだ。俺をみて慌てて逃げ出そうとしたところで幹を伐採、結界で包んで焼却した。

 根が頭蓋骨を守るように包み、耳から脳内に根を伸ばそうと蠢いていたところで頭に除草剤を撒いて退治した。脳天ハゲになってしまったが仕方がない。またしても白目を剥いて倒れていた王子に回復魔法をかけ、様子を見ること1時間、いつもと変わりなく王子は目を覚ました。

 どうでもいいけど、こいつマジで生命力が強いと思う。魔物化の心配はまだあるし、その上トレントにまで体を奪われそうになっていたなんて、ちょっと笑えない。瘴気の森で一体何を拾ってきたんだか。

 記憶の確認をしてみたが、まあ、これと言って忘れていることもなく(というか、覚えていることの方が少ないんだろうな)、ひとまず名前と自分の立場さえ覚えていてくれればオッケーだったので、よしとした。これも宰相には報告案件だが。

 正直、まだまだ拾って育ててる魔物が体内にいそうな気がする。このまま何も起こらなければいいんだが、まあ、何かしら問題は起こすんだろうな、王子のことだから。はあ。

 ひとまず今日は安静にということで暇をもらったので、早速ハイベック伯爵領の瘴気の森と隣接する山脈付近をレベル5の危険地帯レッドゾーンにし、領地の分割書類を作成した。これで緑竜の森は、俺の管轄ものになり、親父様の管理下から外れることになる。一先ずこれですぐさま緑竜に殺されることはない。

 そういえば名前も考えないといけなかったな。ドラゴとかゴンタでいいかな。

 俺は今の所、書類上は伯爵家の養子だし、事実上王宮でもハイベック伯爵領は俺が領主代行運営していると知っているので、書類選考も手続きもすぐにできた。昨夜のうちにサインをもらっておいてよかった。まずは領土の分割を提出して、それに紛れ込ませるように、俺の養子縁組の解消の書類も混ぜる。今はアルヴィーナが休んでいるせいで、官吏も文官もてんてこ舞いのはず。どさくさに紛れて承認をもらい、無事承認された。これで俺は平民にして、領地持ちとなった。

 それから俺は、アルヴィーナの伯爵家の離縁手続きの書類に進んだ。これに関してはちょっと慎重にしなければならない。何せアルヴィーナは未成年だから、親の承認もいる。今すぐ提出する書類ではないので、機を見て提出する予定だ。アルヴィーナにも相談しなくちゃいけないし、アルヴィーナの目が覚めないうちは無理がある。もしアルヴィーナが俺についてくるとなったら、婚姻手続きも準備しておかないと。そのためには宰相と王妃を納得させ、シンファエルとの魔法契約を解消させなければ、俺たちに自由はない。

 宰相は現国王の兄で、実質国を握っているのも奴だ。どういう理由があったのか、能力は十分にある兄のくせに、王に向かない弟に国王の座を譲り自分は裏から操っている。そんな面倒なことなどせず、国王になればよかったのに。そうすれば、こんなボンクラが王子になることもなかっただろうし、アルヴィーナも俺もこんな苦労はしなかった。

「俺はいつも片手落ちだな」

 とはいえ、10歳からアルヴィーナは王妃に拉致されて、王宮住まいだったから俺がどうこうできる立場にはなかった。できれば留学もさせたかったし、外国に一緒に行こうと昔は話していたのにそれすらできなかった。俺は領地のためにあちこちの他領にも飛んだし、なんなら隣国にも島国にも出向いた。でもアルヴィーナの人生は狭い王宮と学園の中だけだったんだ。

「目が覚めたら、やっぱり旅行に連れて行こう。緑竜に乗せて貰えば案外簡単かもしれないな。それまでに例の大富豪の婚約者いきおくれの話もなんとかしないといけないし、王族との魔法契約の解消も進めていかないと…」

 もし、アルヴィーナが全てを捨ててでも俺についてくると言うのなら、アルヴィーナを養うことぐらいはできると思う。そうでなければ、兄妹としていろんな世界を見て歩いて、自分に似合った男性を見つけて結婚すれば、幸せにもなれるだろう。何せアルヴィーナはまだ16歳だし、平民になっても生きていく能力は十分ある。独り立ちするまで俺が保護者としてそばにいれば良いだけのことだ……と、自分で言ってて落ち込むけど。

 ただし、この国にはいられないかもしれないから、それなりの準備は必要か。あとは、緑竜の森に転移はいつでもできるようにしておけば、契約を違えることもないし…。なんならあの森に住んでもいいか。俺とアルヴィーナなら多分問題ないし、誰も近寄れないと思うし。アルの好きなリンゴの木も植えて、畑を作れば自炊できる。俺のもらった領土には地下湖水がある。例のサラマンダーの住処のアレだ。あそこから水路を引けば、森でも十分綺麗な飲水が手に入るし、俺とアルヴィーナの魔力があればなんでも出来る。

 ……そうすれば、他のやつに会う事もなくアルヴィーナと二人でずっと…。いや、そりゃ選択肢はあげるけど。シンファエルか俺かって言ったら、地位がなくても俺、だよな?

 早く目覚ましてくれないかな。

 ちゃんと謝るから、機嫌直してくれよ、俺の可愛いアルヴィーナ。


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