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俺を舐めてかかると痛い目に遭いますよ?
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「……私が断った場合、どうなりますか?」
「そうだなあ。違約金として一生働いても払えないだけの金額を払ってもらうか、奴隷商に売りつけるか。ああ、そこの大富豪はなかなか苛烈な気性の持ち主でな。下手したら監禁されて拷問にあうかも知れないなあ。何せ娘を袖にしたとなればなあ」
ブレないな。やっぱり金か。ってかその行き遅れの娘さんが嫁に行けないのは、主にそれが原因なんじゃないのか?
しかし親父様。
これは、あまりにも考えがなさすぎる。
何せ領地を経営しているのはこの俺だ。親父様は何一つとして領地の経営する事業について首を突っ込んだことがない。下水についても地下に何があるかなど知らなければ、領地と瘴気の森との線引きについても知らないだろう。なにせ、商売と金にしか目が向いていないからな。
そもそも俺が、親父様の実の息子を領地で使っていることすら知らないのだ。実はこれは違法である。
廃嫡追放した血筋の者は、その領地で匿ってはいけないと法律で決まっているのだが、親父様は全く意に介していない。法律くらいは知っているだろうが、息子がどこで死に絶えようが知ったことではないと放っておいたせいだ。放逐された息子は国外追放を言いつけられていたのにも関わらず、自領の貧民街で暮らしていた。
そこへ俺も知らなかったとはいえ雇ってしまったのだから、バレたらそれ相応のお咎めがある。しかし領主は親父様で、俺は養子という肩書きだが結局は代行官と変わらない。全ての雇用契約、事業契約は領主の認知のもとに行なっているのだ。つまりお咎めは親父様に降りかかる。
しかも。
俺はもう未成年の子供ではなく、自分で養子縁組を切ることができる。次期領主としての確約もされていないし、養子縁組の際の契約にもそれは記されていない。それを今までしなかったのは、恩義を感じていたからというのもある。だけど、ひとえにアルヴィーナが成人するまでは見守りたいというのがあったからだ。
これで踏ん切りはついた。書類はたった今この手にある。
俺は考えを巡らせた上で、慎重に言葉を選んだ。
「瘴気の森を私に預けてくださるのなら、そのお見合いを一度だけ受けて立ちましょう」
「瘴気の森だと?」
「ええ。親父様もご存知のように、伯爵領にはいくつかの瘴気が湧き上がるスポットがあります。これまでは押さえつける方法でなんとかしてきましたが、本日久しぶりに領地の見回りに行きましたところ、西の森で複数の瘴気沼が発生しており、凶暴な魔獣が住処を作っておりました。
これは国に提出しなければならない案件です。今日はアルヴィーナも連れていたため、いくつかの沼は浄化できましたが、アルヴィーナは魔力切れで寝込んでしまいました。目が覚めるまで王宮での公務はできませんので、宰相には報告をしなければなりません。
これが続くとなると流石の私も、アルヴィーナに毎回負担をかけられません。私が王子の再教育をしてる間、担当をつけてくださるようにお願いしていたはずですが、どうやらその者では手に負えなかったと見受けられます。ですから、今後のため、結界で切り捨てることを考えた方が良いのではとご意見を伺いに参った次第なのです。でなければ、領主である親父様の名で宰相殿に文書を送り、然るべき対処をして頂かなければ、無過失責任処分対象物件となりましょう」
「…そ、そうか…ふむ」
わかってるよ。俺の代理なんて用意してなかったんだよな。だからあそこまで被害が広がっていたんだよな。それを国に報告したらどうなるかなんて、この人は考えていないんだよな。だって金にならないんだもんな。んで持って、なんの罪かもわかっていませんよね?
「それは、あれか。賠償責任とか関係してくるのかね」
「そりゃもう。下手をすれば魔人が生まれる可能性もありますから、そうなったら賠償責任どころじゃありませんね」
「魔人…」
「ええ。人間が瘴気を浴びすぎて魔物に変化した形態のものです。国からは領主責務として討伐をするよう命令されますし、それができない場合は王宮魔導士もしくは討伐隊を組むことで資金を要求されます」
「……む」
魔人第一号は王子になるところだったから、その場合の過失はいくらになるのかな。
「そ、そうか。そんな土地はあっても役に立たんどころか、」
「害になります」
「それをお前はどうすると?」
「それを私の名義にして仕舞えば良いのです。ハイベック伯爵領から切り離して仕舞えば、親父様に損害は出ませんし、近隣に被害が出た場合は私が責任を取って伯爵領に賠償金を支払うことになります。そのためにはもちろん、私は伯爵との養子縁組を解消しなければなりませんが」
「西の森というと、山脈に挟まれたあの土地か」
「はい」
「キャラバンも通らんのだろうな」
「現在のところ森と村の間は草地になっていますが、大蛇《パイソン》系、蜘蛛型の魔物の被害が上がっていたので立ち入り禁止エリアになっています。冒険者が数人入り込んだようですが、帰ってきたものはいません」
「わかった、好きにするがいい。だがその前にお嬢さんには会ってもらうぞ」
「わかりました。ありがとうございます。ここに書類を作成しましたので了承のサインをお願いします」
これでとっとと手続きをとって、あの森を俺のものにすれば、ドラゴンについてはとりあえず問題はない。竜と契約を結んでから、例のいかず後家の人と会ってみるか。魔物や竜を見ても俺と結婚するというならあの森に家を建てて住んでやる。それでも食いついてくるなら意外と馬は合うかもしれない。嫁にする気はないが。
全く相手にしたくはないが、どこで役に立つかわからない。会うだけ会ってみよう。
こんな話をアルヴィーナの耳に入れたら魔力暴走どころか魔王が生まれるかもしれんけど。
親父様は知らないかも知れないが、俺は結構、根に持つ方なんだ。恩も忘れないが仇も忘れないからな。
さあ、ここにサインをと渡した書類を見もせずに書き込んでいく。その中には養子縁組解消の旨も書かれているし、西の瘴気の森だけでなく、周辺一帯の草原も含まれている。実はその土地は領地の主要の町より広いと親父様は知っているだろうか。
飼い犬に手を噛まれるというのはこういうことを言うんだ。
俺を舐めてかかると痛い目に遭いますよ、親父様?
「そうだなあ。違約金として一生働いても払えないだけの金額を払ってもらうか、奴隷商に売りつけるか。ああ、そこの大富豪はなかなか苛烈な気性の持ち主でな。下手したら監禁されて拷問にあうかも知れないなあ。何せ娘を袖にしたとなればなあ」
ブレないな。やっぱり金か。ってかその行き遅れの娘さんが嫁に行けないのは、主にそれが原因なんじゃないのか?
しかし親父様。
これは、あまりにも考えがなさすぎる。
何せ領地を経営しているのはこの俺だ。親父様は何一つとして領地の経営する事業について首を突っ込んだことがない。下水についても地下に何があるかなど知らなければ、領地と瘴気の森との線引きについても知らないだろう。なにせ、商売と金にしか目が向いていないからな。
そもそも俺が、親父様の実の息子を領地で使っていることすら知らないのだ。実はこれは違法である。
廃嫡追放した血筋の者は、その領地で匿ってはいけないと法律で決まっているのだが、親父様は全く意に介していない。法律くらいは知っているだろうが、息子がどこで死に絶えようが知ったことではないと放っておいたせいだ。放逐された息子は国外追放を言いつけられていたのにも関わらず、自領の貧民街で暮らしていた。
そこへ俺も知らなかったとはいえ雇ってしまったのだから、バレたらそれ相応のお咎めがある。しかし領主は親父様で、俺は養子という肩書きだが結局は代行官と変わらない。全ての雇用契約、事業契約は領主の認知のもとに行なっているのだ。つまりお咎めは親父様に降りかかる。
しかも。
俺はもう未成年の子供ではなく、自分で養子縁組を切ることができる。次期領主としての確約もされていないし、養子縁組の際の契約にもそれは記されていない。それを今までしなかったのは、恩義を感じていたからというのもある。だけど、ひとえにアルヴィーナが成人するまでは見守りたいというのがあったからだ。
これで踏ん切りはついた。書類はたった今この手にある。
俺は考えを巡らせた上で、慎重に言葉を選んだ。
「瘴気の森を私に預けてくださるのなら、そのお見合いを一度だけ受けて立ちましょう」
「瘴気の森だと?」
「ええ。親父様もご存知のように、伯爵領にはいくつかの瘴気が湧き上がるスポットがあります。これまでは押さえつける方法でなんとかしてきましたが、本日久しぶりに領地の見回りに行きましたところ、西の森で複数の瘴気沼が発生しており、凶暴な魔獣が住処を作っておりました。
これは国に提出しなければならない案件です。今日はアルヴィーナも連れていたため、いくつかの沼は浄化できましたが、アルヴィーナは魔力切れで寝込んでしまいました。目が覚めるまで王宮での公務はできませんので、宰相には報告をしなければなりません。
これが続くとなると流石の私も、アルヴィーナに毎回負担をかけられません。私が王子の再教育をしてる間、担当をつけてくださるようにお願いしていたはずですが、どうやらその者では手に負えなかったと見受けられます。ですから、今後のため、結界で切り捨てることを考えた方が良いのではとご意見を伺いに参った次第なのです。でなければ、領主である親父様の名で宰相殿に文書を送り、然るべき対処をして頂かなければ、無過失責任処分対象物件となりましょう」
「…そ、そうか…ふむ」
わかってるよ。俺の代理なんて用意してなかったんだよな。だからあそこまで被害が広がっていたんだよな。それを国に報告したらどうなるかなんて、この人は考えていないんだよな。だって金にならないんだもんな。んで持って、なんの罪かもわかっていませんよね?
「それは、あれか。賠償責任とか関係してくるのかね」
「そりゃもう。下手をすれば魔人が生まれる可能性もありますから、そうなったら賠償責任どころじゃありませんね」
「魔人…」
「ええ。人間が瘴気を浴びすぎて魔物に変化した形態のものです。国からは領主責務として討伐をするよう命令されますし、それができない場合は王宮魔導士もしくは討伐隊を組むことで資金を要求されます」
「……む」
魔人第一号は王子になるところだったから、その場合の過失はいくらになるのかな。
「そ、そうか。そんな土地はあっても役に立たんどころか、」
「害になります」
「それをお前はどうすると?」
「それを私の名義にして仕舞えば良いのです。ハイベック伯爵領から切り離して仕舞えば、親父様に損害は出ませんし、近隣に被害が出た場合は私が責任を取って伯爵領に賠償金を支払うことになります。そのためにはもちろん、私は伯爵との養子縁組を解消しなければなりませんが」
「西の森というと、山脈に挟まれたあの土地か」
「はい」
「キャラバンも通らんのだろうな」
「現在のところ森と村の間は草地になっていますが、大蛇《パイソン》系、蜘蛛型の魔物の被害が上がっていたので立ち入り禁止エリアになっています。冒険者が数人入り込んだようですが、帰ってきたものはいません」
「わかった、好きにするがいい。だがその前にお嬢さんには会ってもらうぞ」
「わかりました。ありがとうございます。ここに書類を作成しましたので了承のサインをお願いします」
これでとっとと手続きをとって、あの森を俺のものにすれば、ドラゴンについてはとりあえず問題はない。竜と契約を結んでから、例のいかず後家の人と会ってみるか。魔物や竜を見ても俺と結婚するというならあの森に家を建てて住んでやる。それでも食いついてくるなら意外と馬は合うかもしれない。嫁にする気はないが。
全く相手にしたくはないが、どこで役に立つかわからない。会うだけ会ってみよう。
こんな話をアルヴィーナの耳に入れたら魔力暴走どころか魔王が生まれるかもしれんけど。
親父様は知らないかも知れないが、俺は結構、根に持つ方なんだ。恩も忘れないが仇も忘れないからな。
さあ、ここにサインをと渡した書類を見もせずに書き込んでいく。その中には養子縁組解消の旨も書かれているし、西の瘴気の森だけでなく、周辺一帯の草原も含まれている。実はその土地は領地の主要の町より広いと親父様は知っているだろうか。
飼い犬に手を噛まれるというのはこういうことを言うんだ。
俺を舐めてかかると痛い目に遭いますよ、親父様?
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