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やっぱりあの日かな?

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『お主は女心がわかってないようだの』
『ドラゴンにまで言われたかねえけど、緑竜のあんたには分かるのか』
『まあな。伊達に長生きはしとらん。女は種族を超えて強くて怖い。とっとと機嫌を直さんことには、魔性のものが生まれるかもしれんぞ』
『ええぇ!?』

 アルヴィーナから生まれる魔性のモノってなんかとてつもなく強くて、ダメな気がする!俺でも勝てる気がしない!終焉の天使とか生まれそう!

「アルヴィーナ!俺が悪かった!アルの気持ちを無視した俺が悪かった!押し付けるわけじゃないんだ。嫌なら、ええと、国を追われることになるかもしれないけど、一緒に逃亡する手もある。ただ俺は、アルに幸せになってもらいたいだけだ。だから機嫌を直してほしい」
「幸せ?わたくしの幸せはお兄様と一緒にいることですわ。5歳の時からそれだけは変わっていません!」
「それはもちろん、」
「エヴァンがいれば他に何もいらないと、わたくしは言っているのです!」

 えっと…?

「いや、アルヴィーナ。それはとても嬉しいけど、俺はお前の兄貴だし…」
「エヴァンはっ!」

 涙目になって睨みつけるアルヴィーナを見て、もしかして俺が養子だって知っているのかと訝しんでしまった。俺が本当の兄じゃないと親父様達しか知らないと思っていたけれど、考えてもみれば王宮に出入りしている限り、王妃や宰相からそんな情報くらいは聞いているかもしれない。隠しているわけでもないのだ。知っていてもおかしくない。

 でも俺は、アルヴィーナを義妹としてしか見ていない、筈で。

 俺はもともと平民で鍛冶屋の息子だ。血筋が一番大切と言われる貴族のアルヴィーナには、俺は到底似つかわしくない。アルヴィーナの兄でいるからこそ、こうして一緒にいられるということもわかっている。親父様も俺を跡取りにしようなどとは考えていないし、俺は領地を立て直すために都合よく使われている身なんだ。目処が立てば、俺はおそらくお払い箱だ。

 俺はいざとなれば平民でも生きていけるが、アルヴィーナは違う。こいつは貴族の中にいて初めて光る才能を持った女の子だ。正義感が強くて、頭がいい。魔力も多ければ、コントロールもうまく、度胸もあるし勉強家だ。大体、国を支える人から認められているのに、なんで平民なんかに引き落とさなければならないんだ。

「俺は、アルの兄貴だよ?ずっと一緒にいられるわけじゃない。いずれアルヴィーナは結婚して国を引っ張っていくか、伯爵領を栄えさせて行かなきゃいけない立場にあるだろ?」
「エヴァンが兄様なら、伯爵領はお兄様が後を継ぐのが普通でしょ?」
「それは……親父様次第だからな。とにかく、俺はアルヴィーナが幸せになってくれればそれでいい」
「……もういい。エヴァンがそんなに望むんなら、王子と結婚する。それでいいんでしょ」
「投げやりになるなよ。お前の人生だぞ?」
「わたくしの人生?わたくしの人生って、両親に駒にされ、大好きな人から引き離されても我慢して、好きでもない男と結婚すること?どこにわたくしの意見が?

 権力のある人間に、ああしろこうしろと突かれて矯正されて、人形のような人生がわたくしの人生?わたくしのは、好き勝手なことをやって、好きな人と結婚して平民に落ちた!今どうしてるのか知らないけど、それは兄が選んだ自分のための人生よね!?兄にはそれができてどうしてわたくしはダメなの!?兄がそうしたから!?わたくしの人生は兄の尻拭いのためにあるの!?」
「アルヴィーナ。それは違う」
「バカに仕事はない?仕事がなければ金がない?金がなければ遊べない?美味しいものも食べられない?
 はっ。笑っちゃうわ!は仕事もしなければ、責任も持たないけど、遊び呆けているわよね?お金にも困ってなさそうよ!たかが権力者の元に生まれたからってだけで!わたくしがその尻拭いを押し付けられているのよ!わたくしの方が頭がいいから?役に立つから?果たしてバカはどっちなのかしらね!?使えないバカ?それともバカにならないようにと煽てられて、頭でっかちになったわたくしかしら!?それとも頭が良くなったと自負していたけれど、やっぱりわたくしはバカなのかしら?」

「アルヴィーナ!」

 頭に血が上ったのか、アルヴィーナの魔力がどんどん高まって暴走した。アルヴィーナがこんなに感情的になるなんて、いつぶりだろうか。俺は考えるよりも先にアルヴィーナを抱きしめていた。

 本当のバカは俺だ。アルヴィーナの気持ちには気がついていた。でも、だけど、アルヴィーナは貴族で俺は平民の生まれだ。俺は十も上だし、幸せに出来るとは思えない。王族になれるだけの能力があるのに、俺と一緒に平民になってくれなんて言えないだろ?

 ずっと、アルヴィーナだけ見てきたんだ。他の誰よりも可愛くて俺だけに懐いて、独り占めしたかった。子供から、妹からどんどん成長して大人になっていくアルを、俺が認める誰かの横に立たせることだけ考えていた。

「もういい、大丈夫だ。無理しなくていい。ごめんな。デリカシーがなかった」
「エヴァンなんか嫌い!大嫌いよ……っ!!」

 結構な力で胸を叩かれたけど、本気で嫌がっているわけではないようだった。シーっと耳元で囁いて落ち着かせる。わんわん泣いて、嫌い、と繰り返すアルヴィーナを俺は落ち着くまで抱きしめて、頭を撫でた。

 俺のアルヴィーナ。
 俺だけのアルヴィーナ。
 俺は、手を伸ばしてもいいのだろうか。

 ボンクラはまだ白目を剥いて倒れていて、黒い魔蝶がひらひらとあたりを飛んだ。

『……どれ、我があの黒いのを捕まえようかの?』
『すみませんが、頼みます』
『まあ、オナゴの感情は起伏が激しいからの。どの種も同じじゃな。……ところで、あそこにいるチビこいトカゲは仲間か?』

 あそこ、と言う緑竜が示す方を見ると、スカイが匍匐ほふく前進をするように近づこうとして固まっていた。

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