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森の中で

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 俺とアルヴィーナは(嬉々として)魔獣を退治しながら森に入っていた。

 もちろん名目は王子救助だが、ここ数ヶ月やはり親父様は誰もこの森に討伐をよこしていないようで、魔獣で溢れかえっていた。後数ヶ月遅ければ、スタンピードが起きていたかもしれないという数だ。まだ森に入って数キロというのにちっとも先に進めないでいるせいで、流石の俺もちょっとイラついている。

「エヴァン!いた!右よ!」
「任せろ!」

 腰から下げていた剣を抜き、軽やかに走りすぱっと首を落とす。頭を失ったトビオウムカデが木に駆け上りながら絶命し、どしゃりと地面に落ちる。

 トビオウムカデは体長1メートルほどの毒ムカデで、朽ちた落葉樹のうろに好んで住む魔虫だ。寄生型のムカデで生きた動物に神経毒の針を刺し、体内に卵を生みつける習性がある。木の上から飛び降り大型の動物に襲いかかるので、エヴァンがこの森で最も注意する魔物だった。卵を生みつけられたが最後、何百という卵は一斉に孵化を開始し、生みつけられた方は生きながら餌になる。最後には体を食い破られて絶命するのだ。

 勿論、俺とアルヴィーナは常時薄膜の結界を張っているので、襲われても滅多なことで怪我をすることはないのだが。

「あの高さから落ちたせいで、かなり中央部に近いところに落ちたみたいなんだけど。私の探査にも引っかからない。まさか死んじゃったんじゃ…」
「俺の魔力とまだ繋がりがあるから、生きてるよ。身体強化と精神異常の無効化はかけてあるから怪我もしていてもかすり傷だと思う。ただ、魔獣に丸呑みされてたら助け出すのに苦労するかな」
「エヴァンの身体強化の術ごとだと、消化できないものね。魔獣の便秘なんて見たくないわぁ」
「糞まみれでいない事を祈るけど…。ひょっとしたらそのせいで体温が落ちてるのか?」
「ええ…やだなあ…」
「この前、サバイバルの授業をしたばかりだから、覚えている事を祈ろう」
「無理無理。ピーナッツほどの脳みそしか詰まってないんだから」
「……残念ながら、反論できないな」

 俺の魔法とシンファエルが繋がっているから、生きていることは確かだ。ただ時折そのつながりが揺らぐということは、怪我をしているか、何かしらの理由で魔法が断たれつつあるか。ここで王子が森に落ちて死にました、なんてなったら俺とアルヴィーナは極刑間違いなしだ。スカイだって処分される可能性がある。そんなことになれば、ワイバーンのオスの二匹も黙っていないだろうし、王宮が阿鼻叫喚に包まれるのが目に見えるようだ。

 俺はフルリと頭を振って、とにかく王子へ向かって先を急ぐことにした。

「ちまちま討伐していても埒があかない。とっととドラゴンを見つけるとしよう」
「わかった。…あと、数キロ先を南に…。泉の近く。かなり弱ってるみたいだよ。動かない」
「緑のドラゴンって言ったな。森の主か…?」

 この森はかなり古くからあり、山脈と繋がっていて奥も深い。俺も領地に近い部分は見回りをしていたけど、全貌は分かっていないのだ。そんな中で例え古竜がいたとしてもそう驚くべきことではない。ただ今までこんなに人間の近くまで出てきていなかっただけだ。何かしらあって逃げてきたか、何処か別のところから飛んできたか。

 ただ、緑のドラゴンということは、森の守り手ということもあり得る。もし怪我をしているのなら助けてやるのが森のためにもいいだろう。

「王子がサバイバルの授業を覚えていれば、川に沿って下流に来る筈だ。信じるしかないな」
「意外としぶといからね。あの猿シンファエル。きっとなんだかんだ言って元気に違いないわ」
「兎も角、この辺の魔獣は仕方がない…アルの聖魔法の力、貸してくれ」
「ん。わかったよ。仕方ないものね」

 俺は地属性の魔法を練り、アルヴィーナは聖魔法を練り上げる。俺の魔法にアルヴィーナが聖魔法を絡ませる俺とアルヴィーナの二人でしか出来ない混合魔法で、誰にも秘密の魔法だった。

「《アースウェイブ》」
「《ホーリーチェイン》」

 地を走る波動魔法に聖属性を乗せ魔属性のものにだけダメージを与えるのだ。何度目かの領地視察でアルヴィーナが聖魔法を使えることがわかり、二人で森の瘴気を浄化したのが最初だった。

 領地中の魔力だまりや瘴気だまりを解消して歩き、何年かかるか先の見えなかった領地改革が、かなり楽になったものだ。そのせいでアルヴィーナの魔力も劇的に増えてしまったのだが。アルヴィーナの聖魔法は今のところ誰も知らない。でなければ、王子妃の地位より聖女だなんだと騒がれて神殿に連れ込まれて、2度と出てこれなくなってしまうだろう。アルヴィーナはそれだけは絶対に嫌だと泣いた。

 子供の頃アルヴィーナは誰からも顧みられないで一人部屋で過ごしていたのだ。神殿に入れば待遇は違うだろうが、ひとり閉じ込められるのは同じこと。俺としてもそれは本意ではなかったから、二人の秘密ということにした。

 アルヴィーナは「二人だけの秘密」ごっこが大好きだったから、これもそのうちの一つということにした。おそらくサリーもメリーもローリィも多分気がついていないと思う。気がついていてもあの3人はアルヴィーナが大好きだから多分誰にも言わないと思うけど。

 ズズ、と地鳴りのような音がした後、あたりは静かになった。どうやら無事成功したようで、魔虫や魔獣は綺麗に消滅したようだ。ついでに瘴気も薄くなり、森が明るくなった。

「うん、成功みたいね」
「よし、急ごう」

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