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つれない義妹

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 報告日がやってきた。

 宰相と約束をしたのは週に1回。最初の数週間は大して書くことがなかったのだが、王子ボンクラが騎獣ワイバーンを得てから報告することが随分増えた。

 正直なところ、シンファエル王子は言われるほどボンクラではない。

 確かに自分に(かなり)甘いし、勉強嫌いだし、頭悪いし、僻みっぽいし、飽き性だし、だらしが無いし、流されやすいし、おだてに乗りやすいし、フェロモンは異常値を叩き出すし、自己愛はナルシストレベルだし、すぐに無理だだの出来ないだのと喚くし、体臭は公害だし、貧乏ゆすりもするけれど。

 ……いや、やっぱボンクラか。

 だけど、根は素直だ。

 アルヴィーナの出来があまりに良すぎて比べられた弊害というか、自己顕示欲が強いのが性的に傾いただけなのでは無いだろうか。

 なんたってアルヴィーナは令嬢で、誰にでも股を開く様に躾けてはいない。俺の前ではパンツ丸出しだったこともあるが、それは子供の頃の話だ。国母になるべく(そんなつもりは元々はなかったが)貴族令嬢として正しい見本になる様に仕上げたから、隙がない。魔力も、頭脳も、体力も、全てにおいて(今の所)アルヴィーナの方が遥か上をいく。そのアルヴィーナと張り合おうとしたら、まあ、股間しか顕示欲を満たせるところがなかったという事か。

 あと、よくブツブツいっているのは、「男として守るべきものを見つけさえすれば、私は王太子になれるのだ」という言葉。あれはきっと国王や王妃、宰相あたりからのプレッシャーなんだろうな。

 まあ、その守るべきものを『アルヴィーナ』と考えたというのが王子の運の悪さだけどな。他の令嬢を選んでいたのなら――例えば例の侯爵令嬢あたりだったなら、『守るべきもの』の中に収まって、案外立太子されてたかもしれない。だとしたら、俺はこの国を出てた可能性が無きにしも非ずだが。

 あの事件が起こるまでは、王子がどんな人間だったかなんて知らなかったから、まだのほほんとしてたかも知れないけど。

 国の重鎮達がきちんと褒めて飴と鞭を使い分けていれば、あんなふうに極端にいじけることもなかっただろうに、ちょっと可哀想な気がした。出自は選べないからな。しかも親がちゃんと面倒見ていないんじゃな。王妃なんてどう見たってアルヴィーナを贔屓して自分の娘のように扱ってるし、王子として面目丸潰れだ。

 数日前、王宮でアルヴィーナと鉢合わせて立ち話をしていたら、王子が俺たちを廊下の先で見つけて、ものすごい形相をして睨みつけてきた。アルヴィーナが軽蔑した視線で睨み返したら、途端に弱気になって視線を外して逃げ出してしまった。

 こりゃ、先々思いやられるなあ。マジで義妹好みの男に仕立て上げれるのか心配になってきた。


「お兄様、あの猿・・・の調教はどんな塩梅ですの?」
「こらこら。王宮ではちゃんと敬称をつけなきゃダメだぞ」
「むぅ。わかりましたわ。では、王子殿下の調はいかがですの」
「アルヴィーナ?」
「……訓練はいかがですの」
「よろしい。殿下は最近ワイバーンを気に入られてね。空の散歩を楽しんでいるよ」
「まぁ!ワイバーンですって!?猿を煽てて空を飛ぶとは存じませんでしたわ。猿は木に登るだけで、飛ぶのは豚じゃありませんでしたこと?」

 聞いたことねえよ、空飛ぶブタなんて。魔物か?

 っていうか、義妹アルヴィーナよ。だんだんお前の方が悪役っぽくなってる気がするんだけど、大丈夫か。最近伯爵領にも帰っていないし、会う時間がなかったからな。侍女《サリー》たちにちょっと気をつける様言っとくか。帰ったらマカロンでも作ってやるかな。

 俺がちょっと引いていると、それに気がついたのかアルヴィーナは扇子を広げて口元を隠した。

「お義兄様、今度はいつ領地に戻っていらっしゃるの?わたくし、お義兄様の手料理が食べられなくて寂しいですわ」
「ああ、うん。これから宰相と会議があるけどその後、一旦帰る予定だ。明日は休みをもらうから、久々に領地を見て回ろうか?」
「素敵ですわ!でしたらわたくしも、お休みをいただきます!そうと決まったら明日の分の書類も整理してきますわ」

 ぱあっと花が開く様に笑ったアルヴィーナは、スキップをするかのように執務室に戻っていった。その仕事って、本来ならシンファエル王子がやるべきヤツなんだよな。

 1年の期限付きで、俺がシンファエル王子の再教育をする間、アルヴィーナは王子がするべき公務をという名目で王宮に毎日通っている。本当ならここで暮らしてもいいのだけど、王子妃の部屋とか絶対嫌、と固辞して伯爵領から通っている。とはいえ、瞬間移動で来るからあまり問題はないけど。

 さすがは俺のアルヴィーナである。伯爵令嬢の我儘が通ってしまうこの国、やっぱりやべぇんじゃねえかと思うこともあるが、細かいこと気にしていたら、俺の立場もおかしなことになるから、問い詰めないことにしている。

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