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生活改善教育開始!
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俺はしれっとした顔でヘチマタワシを手渡した。端を両手で持って左右に交互に引っ張れば、一人でも背中をゴシゴシできる優れものだ。
ちなみにこのヘチマ、植物魔物の一種で瓜状の実は、1メートルを超える。小動物くらいなら食ってしまう肉食植物だ。伯爵領の瘴気の森の川原に生えていた原生林で、現在は危険レベル5の立入禁止区域になっている。
もともとこの森は魔物が多く出没するせいもあって、手付かずになっていたのだが、俺がちょくちょく手入れをするようになって環境が変わってきている。自生している植物は肉食系が多いのだが、毒抜きをすれば美味しく食べられるし、薬の原材料も多い。ヘチマに限って言えば、サラマンダー区域(地底湖)に持って行き、そこで半日も乾かすと繊維だけが残るため、織物にしてタオルを作ったのだ。余分な角質を取り除いてくれるため、肌がすべすべになる。
「これは、なんだ?」
「これは瓜系の植物の繊維を乾かしたもので、体磨きに使います。乾布摩擦と言って、水を使わず毎朝ゴシゴシと体を擦れば、アラ不思議。肌が活性化され、若々しくツルツルなお肌に仕上がるのです。王妃様もお使いですがご存知ありませんか?」
「母上も?」
「はい。こちらのヘチマには魔蝶卵の粉がついてますから、ムダ毛も落としてくれます。隅々までしっかり磨いてください。股間と尻は特に念を入れてもらいましょう」
「なるほど…」
ケツの穴付近も本当は自分でやって欲しいんだが、ヘチマが腐るかも知れないな…。ミニスライムで汚物だけ食ってもらおうかな。親指大なら皮膚や肉まで食い破らないだろうし。あ、でも中に入られたら死ぬな。やめておこう。
俺はシャツを脱ぎ、手本を見せようとヘチマを両手に持った。
「お。お前…」
王子は顔を真っ赤にして、口をパクパクとさせる。
おい。おかしな反応するなよ。まさか両方いけるクチのやつか?
「何か?」
「い、いや。その。その体躯はどうやって作ったのだ?」
「体躯、ですか?」
自分の体を見下ろせば、確かに贅肉はついていない。つける暇などないからだ。
伯爵家で任された俺の仕事は多い。毎日3食ゆっくり食べる時間もないせいで、栄養素の高いものを手早く摂取する簡易食品を持ち歩くほどだし、魔法と剣術でかなりのカロリーを消費する。いちおうトレーニングは怠らないので、筋肉もほどよくつけている。
「王子も筋肉をつけたいと?」
「そ、それは。まあ。実は、その…そう、私は筋肉がつかないタチでな…」
嘘こけや。怠けてるからだろうが。
だけど、ちょうどいい。やる気があるのならそれだけでこの勝負は半分もらったようなもの。
「途中でやめないとお約束いただけるなら、伝授しますよ?」
◇◇◇
それから毎朝、バルコニーでせっせと乾布摩擦をする王子の姿があった。
もちろん魔力契約もしてもらったので、サボると癖にならない程度の電撃が体に走る。
風に靡く金髪もお気に召したようで、鏡の前に立っては己の髪を撫でているらしい。
ちょっと変な方向に走りそうだが、まあ美しいものを愛でる癖があるとは聞いてるし大丈夫だと思う……多分。
自分に優しくない人は、他人に優しくできないという。
これは自分に甘いというのとは違う。だらしがない人間は自分に甘い人間だ。
我慢して目標を達成しようと努力する人間は、自分に優しい人だと俺は思う。我慢して物事を成し遂げた達成感は、『よくやった』と自分自身が褒めることが出来る、何よりの褒美だ。
自分に甘い人間は我慢をせず、諦める。目の前の楽を手にしてしまう。その後に広がるのは『後悔』と『虚無感』で、自分自身でダメージを与えるのだ。自信をなくし、「どうせ俺なんか」と自虐する。
ボンクラはどう考えてもこの後者の方に類いされる。だから、ここから直していかなければ。
俺は毎朝6時出勤し、部屋の清浄をかける。目覚めがいいように柑橘系の香りもたす。
王子には規則性を持たせる為、毎朝起きたら自分でカーテンを開け、コップ一杯の水を飲むように言いつけた。そして乾布摩擦を始め、支度を整える。
その後、俺と庭の散歩をしてから俺が作った朝食を食べる。メインは食物繊維の高い野菜と、ナッツやシード類だ。ジュースではなく水を飲む。
王宮の侍従に聞いてみると、普段は朝からチョコレートケーキやらステーキやらを食べることもあれば、パンケーキやパスタも食べることがあるという。昼も肉食で夜もたっぷり穀類を食べるらしい。間食は甘い物が好きで、デザートも必ず食べる。
炭水化物と糖分の取りすぎだろう!
食生活の改善も必要不可欠だった。
筋肉の前にまずは体臭をなんとかしなければならない。
この体臭も口臭も足の臭さも、おそらく食生活を改善すれば解消される。もちろん風呂も必要だが。
怠け者の王子のことだ。初日からいきなり筋力トレーニングなどしたら、三日ももたないだろうから、乾布摩擦で新陳代謝を高め、食事を変え、王都での俺の仕事に付き合っていただくことにした。
アルヴィーナの再教育と同じで、遊びながら学ぼうという魂胆だ。
あの時はまだ五歳だったけどな。
ちなみにこのヘチマ、植物魔物の一種で瓜状の実は、1メートルを超える。小動物くらいなら食ってしまう肉食植物だ。伯爵領の瘴気の森の川原に生えていた原生林で、現在は危険レベル5の立入禁止区域になっている。
もともとこの森は魔物が多く出没するせいもあって、手付かずになっていたのだが、俺がちょくちょく手入れをするようになって環境が変わってきている。自生している植物は肉食系が多いのだが、毒抜きをすれば美味しく食べられるし、薬の原材料も多い。ヘチマに限って言えば、サラマンダー区域(地底湖)に持って行き、そこで半日も乾かすと繊維だけが残るため、織物にしてタオルを作ったのだ。余分な角質を取り除いてくれるため、肌がすべすべになる。
「これは、なんだ?」
「これは瓜系の植物の繊維を乾かしたもので、体磨きに使います。乾布摩擦と言って、水を使わず毎朝ゴシゴシと体を擦れば、アラ不思議。肌が活性化され、若々しくツルツルなお肌に仕上がるのです。王妃様もお使いですがご存知ありませんか?」
「母上も?」
「はい。こちらのヘチマには魔蝶卵の粉がついてますから、ムダ毛も落としてくれます。隅々までしっかり磨いてください。股間と尻は特に念を入れてもらいましょう」
「なるほど…」
ケツの穴付近も本当は自分でやって欲しいんだが、ヘチマが腐るかも知れないな…。ミニスライムで汚物だけ食ってもらおうかな。親指大なら皮膚や肉まで食い破らないだろうし。あ、でも中に入られたら死ぬな。やめておこう。
俺はシャツを脱ぎ、手本を見せようとヘチマを両手に持った。
「お。お前…」
王子は顔を真っ赤にして、口をパクパクとさせる。
おい。おかしな反応するなよ。まさか両方いけるクチのやつか?
「何か?」
「い、いや。その。その体躯はどうやって作ったのだ?」
「体躯、ですか?」
自分の体を見下ろせば、確かに贅肉はついていない。つける暇などないからだ。
伯爵家で任された俺の仕事は多い。毎日3食ゆっくり食べる時間もないせいで、栄養素の高いものを手早く摂取する簡易食品を持ち歩くほどだし、魔法と剣術でかなりのカロリーを消費する。いちおうトレーニングは怠らないので、筋肉もほどよくつけている。
「王子も筋肉をつけたいと?」
「そ、それは。まあ。実は、その…そう、私は筋肉がつかないタチでな…」
嘘こけや。怠けてるからだろうが。
だけど、ちょうどいい。やる気があるのならそれだけでこの勝負は半分もらったようなもの。
「途中でやめないとお約束いただけるなら、伝授しますよ?」
◇◇◇
それから毎朝、バルコニーでせっせと乾布摩擦をする王子の姿があった。
もちろん魔力契約もしてもらったので、サボると癖にならない程度の電撃が体に走る。
風に靡く金髪もお気に召したようで、鏡の前に立っては己の髪を撫でているらしい。
ちょっと変な方向に走りそうだが、まあ美しいものを愛でる癖があるとは聞いてるし大丈夫だと思う……多分。
自分に優しくない人は、他人に優しくできないという。
これは自分に甘いというのとは違う。だらしがない人間は自分に甘い人間だ。
我慢して目標を達成しようと努力する人間は、自分に優しい人だと俺は思う。我慢して物事を成し遂げた達成感は、『よくやった』と自分自身が褒めることが出来る、何よりの褒美だ。
自分に甘い人間は我慢をせず、諦める。目の前の楽を手にしてしまう。その後に広がるのは『後悔』と『虚無感』で、自分自身でダメージを与えるのだ。自信をなくし、「どうせ俺なんか」と自虐する。
ボンクラはどう考えてもこの後者の方に類いされる。だから、ここから直していかなければ。
俺は毎朝6時出勤し、部屋の清浄をかける。目覚めがいいように柑橘系の香りもたす。
王子には規則性を持たせる為、毎朝起きたら自分でカーテンを開け、コップ一杯の水を飲むように言いつけた。そして乾布摩擦を始め、支度を整える。
その後、俺と庭の散歩をしてから俺が作った朝食を食べる。メインは食物繊維の高い野菜と、ナッツやシード類だ。ジュースではなく水を飲む。
王宮の侍従に聞いてみると、普段は朝からチョコレートケーキやらステーキやらを食べることもあれば、パンケーキやパスタも食べることがあるという。昼も肉食で夜もたっぷり穀類を食べるらしい。間食は甘い物が好きで、デザートも必ず食べる。
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筋肉の前にまずは体臭をなんとかしなければならない。
この体臭も口臭も足の臭さも、おそらく食生活を改善すれば解消される。もちろん風呂も必要だが。
怠け者の王子のことだ。初日からいきなり筋力トレーニングなどしたら、三日ももたないだろうから、乾布摩擦で新陳代謝を高め、食事を変え、王都での俺の仕事に付き合っていただくことにした。
アルヴィーナの再教育と同じで、遊びながら学ぼうという魂胆だ。
あの時はまだ五歳だったけどな。
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