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プロローグ
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「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
嫌です、と言って逃げ出したいのは山々ではあるが、この国で実質権力を握っている宰相、エリクソン・ハルバード公爵、その人から睨まれて動けないでいる。
人の好い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され、開口一番王子の側近になれと言われた。
「え、俺…私がですか」
「任されてくれるな?」
「え…お、私がですか」
「任されてくれるな?」
「……」
質問と応答のループに、俺は黙り込んだ。ごくりと喉がなる。
部屋に入るなり威圧され、ガチガチになりながら頭を下げ挨拶をした形である。頭を上げたくても上げられない。
こえーよ。悪いこともしてないのに、なんだってこんなに威圧されなきゃなんねぇんだ!?ここで嫌だと言ったらバッサリ切られるなんてことはねぇよな!?
「エヴァン・ブラックスミス改め、エヴァン・ハイベック。鍛冶職人の息子として生まれ、平民でありながら膨大な魔力を持ち、ハイベック伯爵家の養子になり伯爵領を補佐。その間、王国学園に首席で入学、高成績で卒業したとある。偽りはないな?」
「あ、はい」
「ふむ。その割には過度に目立つこともなく常に裏役に周り、情報操作も上手いと聞く」
「左様で……」
だって俺、魔力を買われて無理矢理伯爵家の養子にさせられて、表向きは領地の補佐、裏では影の仕事してんだもん。
国にはまだバレていないはずだけど、この宰相はすでに知ってそうな気がしないでもない。色々やってるけど、まだギリギリ悪事に足は突っ込んでいないはず。
なんでも俺が拾われる前、伯爵家の一人息子がバカやらかして廃嫡され、国に対し莫大な慰謝料だか損害料だかを払ったせいで、財政難に陥ったらしい。
だから、養子になって長男として書類上は扱われても、金がないから奨学金で入学しろと言われ、頑張りすぎて首席入学した後で、親父様に「目立つな、だがサボるな」と無理難題を言われて、学園では常に上位5位くらいでウロウロした。
あまり落とすと奨学金制度から外されるから、と他人の成績調べたり上位の連中と勉強会をしたり色々するうちに、隠密と隠蔽、情報操作が得意になったと言う曰く付きのスキルだ。
落ちぶれていた伯爵家は俺が来てからすっかり立ち直り、今では左団扇といってもいい。伯爵家の商売敵は、徹底的に調べ上げてあらかた潰すか取り込むかしたし、情報操作で領地のためになることならなんでもやらされた。
小麦の品種改良から原価率の割り出し、商品の開発に土地改革、農地の灌漑に地脈調査、高火力魔法を使って透明なガラス瓶を作り、銀を磨くしか無かった鏡も魔法で新たに平面鏡を作り出した。
これをコンパクトにして手持ち鏡に仕上げたら馬鹿売れし、伯爵家の収入に役立てた。
領地改革の一環として平民学校を作り、領民の識字率を上げ、簡単な生活魔法を教え、織物や絵画も発展させた。
伯爵家の直属経営の店は俺の情報操作でうまく切り盛りし、他領でも真面目に働いていた店ほど大繁盛したようだ。
おかげで現在の伯爵領はザール国内で最も住みやすく、芸術と商売の町と言われ活気に溢れている。
商売がうまくいって金の回りが良くなると夫婦仲も良くなったらしく、俺に義妹ができた。
アルヴィーナと名付けられた10歳も下の義妹だが、可愛かっただけに甘やかされ、我儘で癇癪持ちに育ってしまい、親である伯爵夫妻は両手放しで俺に丸投げした。
我儘になる前になんとかして欲しかったが、「これも仕事だ」と言われては仕方がない。
当時まだ5歳だったじゃじゃ馬の義妹の手綱を握り、貴族令嬢としての躾を施し(平民だった俺がなんで貴族令嬢の躾をせにゃならんのか!)10歳の初顔合わせでこの国の王子の婚約者にまで仕立て上げた。
見た目だけは美の女神の化身とまで言われたアルヴィーナにボンクラの王子はのぼせあがった。
アルヴィーナは多少金にうるさいとはいえ、公爵令嬢にすら負けない気品があり(俺比較)、ついでに負けん気もめちゃくちゃ強い。魔力も俺特製の訓練で伸ばしたし、ついでに体術も剣術も(騎士の)平均並には教育した。
王子妃位争奪戦は、アルヴィーナの圧倒的勝利で終わった。
あん時はいい仕事をした、と我ながら満足もした。
幸せになれよ~と義妹の背を押したものだ。
で、つい数日前、そのアルヴィーナが「王子の出来があんまりなので、婚約破棄いたします!」と、堂々と国王と王妃に申し立てしたのだ。
臣下の者からそんなことを言われて、王妃は屈辱で真っ赤になってその笑みを歪め、なぜか王子をタコ殴りし、張り倒された王子は肋骨を3本も折って寝込み、その上王妃に「実家に帰らせていただきます!」と言われ慌てた国王は慌ててアルヴィーナを引き留め、「婚姻式までにきっちり教育するから、お願い待って!見捨てないで!」と泣きながら縋り付いた(らしい)。
この国、大丈夫だろうか。
アルヴィーナほどできのいい令嬢(俺比較)はそうそういないから、わからないでもないけどね。
だけど、その時にアルヴィーナが「お兄様の爪の垢を煎じて飲ませたいですわ!」みたいなことを言ったらしい。
それが国王から宰相の耳に入ったと言うわけだ。
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
嫌です、と言って逃げ出したいのは山々ではあるが、この国で実質権力を握っている宰相、エリクソン・ハルバード公爵、その人から睨まれて動けないでいる。
人の好い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され、開口一番王子の側近になれと言われた。
「え、俺…私がですか」
「任されてくれるな?」
「え…お、私がですか」
「任されてくれるな?」
「……」
質問と応答のループに、俺は黙り込んだ。ごくりと喉がなる。
部屋に入るなり威圧され、ガチガチになりながら頭を下げ挨拶をした形である。頭を上げたくても上げられない。
こえーよ。悪いこともしてないのに、なんだってこんなに威圧されなきゃなんねぇんだ!?ここで嫌だと言ったらバッサリ切られるなんてことはねぇよな!?
「エヴァン・ブラックスミス改め、エヴァン・ハイベック。鍛冶職人の息子として生まれ、平民でありながら膨大な魔力を持ち、ハイベック伯爵家の養子になり伯爵領を補佐。その間、王国学園に首席で入学、高成績で卒業したとある。偽りはないな?」
「あ、はい」
「ふむ。その割には過度に目立つこともなく常に裏役に周り、情報操作も上手いと聞く」
「左様で……」
だって俺、魔力を買われて無理矢理伯爵家の養子にさせられて、表向きは領地の補佐、裏では影の仕事してんだもん。
国にはまだバレていないはずだけど、この宰相はすでに知ってそうな気がしないでもない。色々やってるけど、まだギリギリ悪事に足は突っ込んでいないはず。
なんでも俺が拾われる前、伯爵家の一人息子がバカやらかして廃嫡され、国に対し莫大な慰謝料だか損害料だかを払ったせいで、財政難に陥ったらしい。
だから、養子になって長男として書類上は扱われても、金がないから奨学金で入学しろと言われ、頑張りすぎて首席入学した後で、親父様に「目立つな、だがサボるな」と無理難題を言われて、学園では常に上位5位くらいでウロウロした。
あまり落とすと奨学金制度から外されるから、と他人の成績調べたり上位の連中と勉強会をしたり色々するうちに、隠密と隠蔽、情報操作が得意になったと言う曰く付きのスキルだ。
落ちぶれていた伯爵家は俺が来てからすっかり立ち直り、今では左団扇といってもいい。伯爵家の商売敵は、徹底的に調べ上げてあらかた潰すか取り込むかしたし、情報操作で領地のためになることならなんでもやらされた。
小麦の品種改良から原価率の割り出し、商品の開発に土地改革、農地の灌漑に地脈調査、高火力魔法を使って透明なガラス瓶を作り、銀を磨くしか無かった鏡も魔法で新たに平面鏡を作り出した。
これをコンパクトにして手持ち鏡に仕上げたら馬鹿売れし、伯爵家の収入に役立てた。
領地改革の一環として平民学校を作り、領民の識字率を上げ、簡単な生活魔法を教え、織物や絵画も発展させた。
伯爵家の直属経営の店は俺の情報操作でうまく切り盛りし、他領でも真面目に働いていた店ほど大繁盛したようだ。
おかげで現在の伯爵領はザール国内で最も住みやすく、芸術と商売の町と言われ活気に溢れている。
商売がうまくいって金の回りが良くなると夫婦仲も良くなったらしく、俺に義妹ができた。
アルヴィーナと名付けられた10歳も下の義妹だが、可愛かっただけに甘やかされ、我儘で癇癪持ちに育ってしまい、親である伯爵夫妻は両手放しで俺に丸投げした。
我儘になる前になんとかして欲しかったが、「これも仕事だ」と言われては仕方がない。
当時まだ5歳だったじゃじゃ馬の義妹の手綱を握り、貴族令嬢としての躾を施し(平民だった俺がなんで貴族令嬢の躾をせにゃならんのか!)10歳の初顔合わせでこの国の王子の婚約者にまで仕立て上げた。
見た目だけは美の女神の化身とまで言われたアルヴィーナにボンクラの王子はのぼせあがった。
アルヴィーナは多少金にうるさいとはいえ、公爵令嬢にすら負けない気品があり(俺比較)、ついでに負けん気もめちゃくちゃ強い。魔力も俺特製の訓練で伸ばしたし、ついでに体術も剣術も(騎士の)平均並には教育した。
王子妃位争奪戦は、アルヴィーナの圧倒的勝利で終わった。
あん時はいい仕事をした、と我ながら満足もした。
幸せになれよ~と義妹の背を押したものだ。
で、つい数日前、そのアルヴィーナが「王子の出来があんまりなので、婚約破棄いたします!」と、堂々と国王と王妃に申し立てしたのだ。
臣下の者からそんなことを言われて、王妃は屈辱で真っ赤になってその笑みを歪め、なぜか王子をタコ殴りし、張り倒された王子は肋骨を3本も折って寝込み、その上王妃に「実家に帰らせていただきます!」と言われ慌てた国王は慌ててアルヴィーナを引き留め、「婚姻式までにきっちり教育するから、お願い待って!見捨てないで!」と泣きながら縋り付いた(らしい)。
この国、大丈夫だろうか。
アルヴィーナほどできのいい令嬢(俺比較)はそうそういないから、わからないでもないけどね。
だけど、その時にアルヴィーナが「お兄様の爪の垢を煎じて飲ませたいですわ!」みたいなことを言ったらしい。
それが国王から宰相の耳に入ったと言うわけだ。
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