記憶にございません

里見知美

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12. 断罪の真っ最中でした

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 なんと土下座をしていたのは側妃様と護衛の方。これ、もしかして第二王子殿下のご両親!?

 側妃様は王妃様の侍女をしていたのだけれど、王様の護衛騎士と恋に落ちてしまい、隠れて密会を繰り返していた、らしい。

 ある日、国王夫妻が不在の際、誰もいないからと、お二人はついうっかり燃え上がってしまい、王様の執務室のカーテンの影で致してしまった。そこへ王様がお戻りになり、護衛騎士は慌てて隠れたものの、おっぱいポロリの側妃様は見つかってしまった。そこで王様も燃え上がってしまったらしい。

 って、ええ?自分一人で逃げたの、騎士様?恋人ほっぽって?

 うわー、ないわー。そりゃないわー。王様も、裸の女が部屋にいたから燃え上がるって何、その発情期の猿みたいな思考は。普通は疑うでしょ。もし刺客だったら、王様、今頃刺されて死んでるじゃん。やだわー、男の人ってみんなそうなのかしら。やだわー不潔だわー。生まれた子供もかわいそうだわ、そりゃあ。あ、それがエルドラン第二王子殿下?ないわぁ。

 その3ヶ月後、妊娠が発覚。側妃様は王妃の侍女から昇格(?)して側妃になったのだとか。ところが生まれた子供エルドラン様は側妃様に瓜二つ。どちらの子だかわからないまま、側妃様はずっと黙っていらした。

 エルドラン様はそんなことはつゆ知らず、ほんの半年違いなだけで、兄が国王になるなんてずるい、ずるいと思っていた。そりゃまあ、正妃様の産んだお子が王になるのは普通だけれど、エルドラン様は自分の方が優れていると思い込まれた。そこで、功績を上げれば我こそが王ぞ!と力んだのだ。

 が、最近になってアルフレッドが急にイキイキし始めて、工房を立てたり、平民の商会を重宝し始めた。

 その時期が、アナスタシア・レーノン公爵令嬢が婚約者になったからだ、と思い込んだエルドラン様は、兄から婚約者を奪ってしまおうと画策。そして時間をかけて攻略し、とうとう公女様をも手に入れた。が、なんという星の巡りか、そのたった一回で公女様が妊娠してしまわれたのだ。

 王妃の条件その一、乙女であること。それが婚姻前に奪われた。

 あかんわー。ダメなやつー。公女様、護衛とかいなかったの?っていうか、エルドラン様、鬼畜!

 いや。エルドラン様、思い込みが多すぎません?なんですか、そのずるい、ずるいって子供みたいな言い分は。そもそも兄の婚約者だから奪ってしまえって、何考えてんですか。女性をモノか何かと勘違いしてません?そんな暇があったら、ちょっとは国益になる事、考えましょうよ。

 公女様もおいくつ?17歳?子供じゃあるまいし、第一王子殿下の婚約者だったんですから、何流されてるんです?意志が弱すぎません?第二王子と恋に落ちちゃったから身体許してもよかったと?そりゃ、確かにアル様は商売に夢中になってましたけどね?一応公務で戦争回避に集中してたでしょ?なんで、お手伝いしようとか思わなかったのかな?まあ、この国の男尊女卑の風習じゃ、それも難しかったとは思いますけど。平民平民って馬鹿にするから、どれだけ偉いのかと思えば、

「あー、ナリエッタ?」
「あ、はい。アル様、なんでしょう?」
「えっと、全部口に出てるから」
「え”?」

 はっと気がつくと、全員がこちらを見てる。土下座をした側妃様と護衛の方も顔だけずらして、すっごい目でこちらを見てる。公女様は顔を両手で押さえてシクシクと泣いていた。

「あっ……あ、ご、ごめんなさい。すみません。私ったら、なんてこと!」

 どこから!?どこから声に出してたの、私!

「発情期の猿あたりから?」
「また声に出てた!」

 王妃様は涙を流してお腹抱えて笑っていたけど、王様はちょっと苦虫を噛み潰したような顔をしていた。もう、もう、死罪確定でもしょうがないよね、私。不敬よ不敬。
 
「落ち着けナリエッタ。俺は発情期の猿にはならん」
「そこじゃないのよ、問題は!」

 アル様も笑いを堪えていたけれど、こほん、と咳払いをしてエルドラン様に向かい合った。

「エルドランとはあまり会話らしい会話もしたことはなかったが、お前の目の色は、お前のお父上とよく似ていると思っていた」
「……!」
「それと眉の形もだ。髪の色は側妃様と同じだが、遺伝というのは髪や瞳の色だけではなく、爪の形、耳の形、骨格にも反映される」
「「「「は……?遺伝?」」」」

 全員が声を合わせて怪訝な顔をしたことで、失言に気がついた。

「あ、しまった、これはまだ早かったな」
「ダメですよ、アル様。情報は時代に合わせて小出しにしないと」
「すまん。つい熱くなってしまって。まあ、つまり、何が言いたいかというとエルドランの顔は、よく見ればそこの男によく似ているということだ」
「!!」

 エルドラン様は、はっとして護衛騎士の顔を見る。そこで何か気付いたのだろう。彼はがくりと膝を付いた。

「それじゃあ僕が今までしてきたことは…」
「無駄にはならないから、安心しろ?」

 確かにこれまで黙っていたことは、王を謀ったことになるかもしれないが、節操なくおっぱいポロリに飛びついたのは王の方だ。畏れ多くて言えなかった側妃様は、きっと毎日いつバレるかと気が気でなかったに違いない。でもだったら少なくとも子供に真実を伝えるくらい、

「はいはい、また口に出てるから」
「しまった!」

「ああ、おかしい!あなたいいわ、最高よ」

 とうとう王妃様までが口に出した。

「ナリエッタのいうとおり。わたくしも気付いておりましたし、王も気付いておりました。信頼する護衛がいつ名乗り出るか待っていたんですけどね。エルドランには申し訳なかったけれど、これも王の戒めとしてあなたをそばに置いたのです。こんなことになるのだと。ただ、今になって明らかにしたのは、うちの子を差し置いて、エルドランが王座を望んだからなのです」
「お、王妃陛下……」

 うちの子を差し置いてって、めっちゃ私情挟んでますよ、王妃様。

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