9 / 13
9. エドヴァルドの交渉術
しおりを挟む
「ようやく動き出したか」
ナリエッタにつけていた護衛から、アナスタシアが動き出したことを聞きつけた。ナリエッタは割と図太いから心配はしていなかったが、商売人根性がすごい。公爵令嬢にロールキャベツを売りつけるとは。まあ、アナスタシアは蝶よ花よと育てられ、王妃になるべく教育をなされている。王妃の器か、と聞かれると微妙なところだが、おそらくこのままエルドランに近づき、小説どおり恋に落ちるんだろうな。男慣れしてないし。
「それで。殿下はどうされるおつもりですか?」
「どうって?前にも言った通り、戦争は交易路をつなげることで回避。婚約者殿はエルドランとよろしくやってもらい、俺は……まあ臣下に降りて辺境伯でも作り上げて、国境でも守るか?」
「そううまくはいきませんよ」
チラリとエドを見ると、こちらをみて眉を顰めている。エドヴァルドからすれば、面白くはないだろうなと思う。次期国王だから側に付けと言われた男が、王位に興味はなく、しかも転生者だのなんだのと訳のわからんことを言い、平民の女と商会を立ち上げようとしているんだから。
「あなたが王にならなければ、交易路を広げようと和解しようと、第二王子がいずれ戦を仕掛けるでしょう。鉱石が手に入り武器を作り、今度はどこを攻めるかわかったものではない。あなた以上の功を立てようと躍起になり、周りが見えていない視野の狭い男ですから」
「とは言ってもな」
「それに、ナリエッタの知識は国の宝となりえるでしょう。あなたが権力を持たなければ、彼女は守れませんよ?今でさえ、貴族からの申し出が溢れてるそうですから」
「……なに?」
「彼女はまだ14歳ですからね、親の庇護下にあり、我々の契約のお陰で婚約は止められていますが、成人すれば親の意思に関係なく婚姻も結べてしまう」
「えっ、親の承諾はいらないのか」
「平民ですからね。国の承諾も要りません」
「でも、あいつは、」
「国を出ていく可能性もありますね」
「……っ!」
「最近ますますキレイになりましたしね。人柄も良いし、頭も良い。アイデアの宝庫で引き手数多。伯爵以下の次男三男たちの間でも噂が上がっているようで、護衛も気を抜けないと言ってましたよ」
「………」
真顔になったアルフレッドの顔を見て、内心ほくそ笑むエドヴァルド。
5歳で毒を盛られてから、少しずつ生き急ぐようになっていったアルフレッドに付き添いながら、エドヴァルドは逐一を王妃に報告していた。
エドヴァルドをアルフレッドにつけたのは王妃で、唯一の王子だから必ず守れと言付かった。エドヴァルドの家は代々王家の影として支えている。主を守りながら手を汚すのは自分の仕事でもあるが、ナリエッタに出会う前までの主は、どこか人を寄せ付けず、陛下を親の仇でも見るかのような目で見つめ、自棄になっていたようにも見えた。
数年前、我が主が転生者だのとおかしなことを言い出した時は、どうしたものかと思ったが、ナリエッタに出会い二人ともが転生者だということで意気投合し、目標を持ったおかげか、目に見えて生気を取り戻した。ナリエッタは謙ることなく対等にアルフレッドと会話をする。それがおそらく心地よいのだろう。
だけど、彼は王になる人間だ。責を放って自由に商人になれるなどとは、きっと考えてはいないはず。王妃陛下もおそらくそんなことはさせないだろう。彼だけが正統な王の血を引く王子なのだから。
となると、考えられるのは、ナリエッタを引き揚げるか、消すかのどちらか。
「ナリエッタを私の妻にすることもできますが」
「な!?」
「我が家は代々王家に仕える伯爵家です。王妃陛下も彼女に使った国費を考えれば、悪くないとおっしゃってくださっていますし」
「なんで母上が、王妃がここで出てくる」
「殿下お一人で、全てを動かせたとでもお思いですか?国費は民の血税からできているのです。王太子でもない一王子の一存で、あれほどの金を動かせるわけがないではないですか。物語の通りのお馬鹿さんではないのでしょう?」
今更ながらに気が付いたのですか。王と王子には大きな差があるのですよ。随分気が大きくなっていたとみえる。まだまだですね。それとも、彼らの言う物語の強制力が働いて、殿下を考えなしの馬鹿にさせてしまったのかもしれませんね?
「そうでなければ、交易路が成功し次第、彼女にはどこかの貴族があてがわれます。金の卵をみすみす逃すわけありませんからね。王命で、ですよ。もし失敗すれば、王子を誑かし国庫を荒らした平民として一族郎党死罪が待っています」
「馬鹿な!今の売上だけでも国の経済は動き、新風を起こした功績はあるだろう!」
「それ以上に使ってもいますからねえ。借金奴隷として返すのなら別ですが」
「巫山戯るな!そんなこと……っ!!」
「では、あなたの妃に迎えますか?この貿易がうまくいけば、彼女の家にも彼女にも叙爵の機会が与えられます。とはいえ、せいぜい男爵位ですが、それからの功績に応じて陞爵も考えられますし、養子に入ることもできますね。我が家でしたら、養子の受け入れも万全ですよ?」
「お前っ………!最初からそれを分かってて俺に黙っていたのか!」
ほら、やっぱりアルフレッド殿下には、激情がお似合いだ。彼は脳筋と馬鹿にしますが、その血が国を纏めてきたのですからね。侮れませんよ。転生者だのなんだのと言っても、策略や色恋に鈍く、世界平和などと夢を見がちだ。まだまだこの世界をよく理解していない。まあそれも若さゆえ、と言えるのかもしれませんが。
あと四年もあれば、おそらくはもう少し理解も深まるでしょうか。私の力量にも関わってきますがね。
「奸計が、ございます。聞きますか?」
「………クソが!聞かせろ!」
いやはや。平民と関わると口も悪くなるのでしょうか。いや、元からか。
ナリエッタにつけていた護衛から、アナスタシアが動き出したことを聞きつけた。ナリエッタは割と図太いから心配はしていなかったが、商売人根性がすごい。公爵令嬢にロールキャベツを売りつけるとは。まあ、アナスタシアは蝶よ花よと育てられ、王妃になるべく教育をなされている。王妃の器か、と聞かれると微妙なところだが、おそらくこのままエルドランに近づき、小説どおり恋に落ちるんだろうな。男慣れしてないし。
「それで。殿下はどうされるおつもりですか?」
「どうって?前にも言った通り、戦争は交易路をつなげることで回避。婚約者殿はエルドランとよろしくやってもらい、俺は……まあ臣下に降りて辺境伯でも作り上げて、国境でも守るか?」
「そううまくはいきませんよ」
チラリとエドを見ると、こちらをみて眉を顰めている。エドヴァルドからすれば、面白くはないだろうなと思う。次期国王だから側に付けと言われた男が、王位に興味はなく、しかも転生者だのなんだのと訳のわからんことを言い、平民の女と商会を立ち上げようとしているんだから。
「あなたが王にならなければ、交易路を広げようと和解しようと、第二王子がいずれ戦を仕掛けるでしょう。鉱石が手に入り武器を作り、今度はどこを攻めるかわかったものではない。あなた以上の功を立てようと躍起になり、周りが見えていない視野の狭い男ですから」
「とは言ってもな」
「それに、ナリエッタの知識は国の宝となりえるでしょう。あなたが権力を持たなければ、彼女は守れませんよ?今でさえ、貴族からの申し出が溢れてるそうですから」
「……なに?」
「彼女はまだ14歳ですからね、親の庇護下にあり、我々の契約のお陰で婚約は止められていますが、成人すれば親の意思に関係なく婚姻も結べてしまう」
「えっ、親の承諾はいらないのか」
「平民ですからね。国の承諾も要りません」
「でも、あいつは、」
「国を出ていく可能性もありますね」
「……っ!」
「最近ますますキレイになりましたしね。人柄も良いし、頭も良い。アイデアの宝庫で引き手数多。伯爵以下の次男三男たちの間でも噂が上がっているようで、護衛も気を抜けないと言ってましたよ」
「………」
真顔になったアルフレッドの顔を見て、内心ほくそ笑むエドヴァルド。
5歳で毒を盛られてから、少しずつ生き急ぐようになっていったアルフレッドに付き添いながら、エドヴァルドは逐一を王妃に報告していた。
エドヴァルドをアルフレッドにつけたのは王妃で、唯一の王子だから必ず守れと言付かった。エドヴァルドの家は代々王家の影として支えている。主を守りながら手を汚すのは自分の仕事でもあるが、ナリエッタに出会う前までの主は、どこか人を寄せ付けず、陛下を親の仇でも見るかのような目で見つめ、自棄になっていたようにも見えた。
数年前、我が主が転生者だのとおかしなことを言い出した時は、どうしたものかと思ったが、ナリエッタに出会い二人ともが転生者だということで意気投合し、目標を持ったおかげか、目に見えて生気を取り戻した。ナリエッタは謙ることなく対等にアルフレッドと会話をする。それがおそらく心地よいのだろう。
だけど、彼は王になる人間だ。責を放って自由に商人になれるなどとは、きっと考えてはいないはず。王妃陛下もおそらくそんなことはさせないだろう。彼だけが正統な王の血を引く王子なのだから。
となると、考えられるのは、ナリエッタを引き揚げるか、消すかのどちらか。
「ナリエッタを私の妻にすることもできますが」
「な!?」
「我が家は代々王家に仕える伯爵家です。王妃陛下も彼女に使った国費を考えれば、悪くないとおっしゃってくださっていますし」
「なんで母上が、王妃がここで出てくる」
「殿下お一人で、全てを動かせたとでもお思いですか?国費は民の血税からできているのです。王太子でもない一王子の一存で、あれほどの金を動かせるわけがないではないですか。物語の通りのお馬鹿さんではないのでしょう?」
今更ながらに気が付いたのですか。王と王子には大きな差があるのですよ。随分気が大きくなっていたとみえる。まだまだですね。それとも、彼らの言う物語の強制力が働いて、殿下を考えなしの馬鹿にさせてしまったのかもしれませんね?
「そうでなければ、交易路が成功し次第、彼女にはどこかの貴族があてがわれます。金の卵をみすみす逃すわけありませんからね。王命で、ですよ。もし失敗すれば、王子を誑かし国庫を荒らした平民として一族郎党死罪が待っています」
「馬鹿な!今の売上だけでも国の経済は動き、新風を起こした功績はあるだろう!」
「それ以上に使ってもいますからねえ。借金奴隷として返すのなら別ですが」
「巫山戯るな!そんなこと……っ!!」
「では、あなたの妃に迎えますか?この貿易がうまくいけば、彼女の家にも彼女にも叙爵の機会が与えられます。とはいえ、せいぜい男爵位ですが、それからの功績に応じて陞爵も考えられますし、養子に入ることもできますね。我が家でしたら、養子の受け入れも万全ですよ?」
「お前っ………!最初からそれを分かってて俺に黙っていたのか!」
ほら、やっぱりアルフレッド殿下には、激情がお似合いだ。彼は脳筋と馬鹿にしますが、その血が国を纏めてきたのですからね。侮れませんよ。転生者だのなんだのと言っても、策略や色恋に鈍く、世界平和などと夢を見がちだ。まだまだこの世界をよく理解していない。まあそれも若さゆえ、と言えるのかもしれませんが。
あと四年もあれば、おそらくはもう少し理解も深まるでしょうか。私の力量にも関わってきますがね。
「奸計が、ございます。聞きますか?」
「………クソが!聞かせろ!」
いやはや。平民と関わると口も悪くなるのでしょうか。いや、元からか。
125
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
私、女王にならなくてもいいの?
gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
夜会の夜の赤い夢
豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの?
涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる