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8. えっ、私臭い?
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さて、そうこうするうちに、公女様も動き出した。アル様が平民に夢中だと聞きつけたのに違いない。
アル様は敵国との交易準備で忙しく滅多に王宮にいないため、多分私と逢瀬を交わしているのだと誤解しているんだろうけれど、私は私で缶詰工房と瓶詰めの商品管理に忙しい。まだレシピ公開をしていないため、限られた人数で出荷納品をしているからしょうがないのだけど。
実際のところアル様より、エドヴァルド様の方がよく会っていたりする。
「あなた、第一王子殿下と仲がよろしいようだけど、そろそろ立場を弁えていただけるかしら?」
そう。
今まさに私の目の前に大きな黒塗りの馬車を乗り付けて工房の前に降り立ったこの人。とても煌びやかで美しいお人形のような人だ。アル様と同じ年でアル様の婚約者。……今のところは。
私はほとんど工房街に潜んでいて、街にはあまり顔を出さない。何度かエド様が公女が嗅ぎ回っているから気をつけて、と忠告をくれた。一応アル様からも護衛をつけられているから、無体なことはされないだろうけど、貴族様は結構過激派が多いから、あまり煽らないようにと注意された。
えー、何言ってんですかー?私は無害な平民デスヨー。煽ったりしませんヨー。
「どちら様でしょうか?」
白々しく小首をかしげると同時に、商品の売り込みもしてみた。もちろん、買うとは思ってない。いや、ちょっぴりいけるかなと期待したけど。
「瓶詰めの商品でしたら、こちらは工房なので取り扱っていませんが。発注でしたら承りますよ?」
「お黙り。平民の食べ物なんか興味はないわ。わたくしが言いたいのは第一王子殿下のことです。殿下はお優しいので、あなたのような平民にもお声をかけているようですけれど、所詮平民は平民。わたくしたち貴族とは相入れないものです。最近調子に乗った平民が王城付近をうろちょろして困ると聞いておりますの。そろそろ、立場を弁えなければどうなることか、わかっているのかしら」
えー。平民の食べ物ですか。最近は軍人にも人気なんですけどねえ。
お貴族様の食べ物だって、元を正せば平民が作ってますけどねえ。お野菜もお肉もねー。ひょっとしたらデザートのケーキのトッピングにうちの瓶詰め使ってるかもしれませんよー?……なんて言いませんよ?
「えっと。第一王子様は庶民の食べ物も大好物で、我がバロー商会のパトロンでもありますね。瓶詰めのマンゴーが大好きだそうですよ?最新作のロールキャベツも召し上がりますが?おひとつ如何です?」
わざわざお昼時にやってきたんですものね、お腹空いてませんかね。いい匂いでしょ。トマトとニンニクの。
「い、いらないといっているでしょう!全く、これだから平民は、言葉も理解できないようなので、はっきり言いますわ。邪魔なのよ、あなた。小汚い小娘が王城に近づくんじゃありません。わかったわね。二度と、わたくしの婚約者の周りをうろうろしないでちょうだい!」
言いたいことだけ言って、公女様は扇子でパタパタと仰ぎながら、また馬車に乗り込んで走り去っていった。この凸凹道を馬車で進むのって結構きつい気がするなあ。公道の整備もお願いしたいなあ。
うーん。悪い人ではないのかもしれない。ちょっと世慣れしていないのか、お子様っぽい発言だけど。けどまあ世の中の16歳ってあんなもんなのかな。とりあえず、注意勧告だけだったし、まあ問題ないけど。問題なのは、最後の扇子。何かしらあの仕草。……。
「も、もしかして、私くさい?」
よし。石鹸だ。花の香りのする石鹸を作ろう。うん。
アル様は敵国との交易準備で忙しく滅多に王宮にいないため、多分私と逢瀬を交わしているのだと誤解しているんだろうけれど、私は私で缶詰工房と瓶詰めの商品管理に忙しい。まだレシピ公開をしていないため、限られた人数で出荷納品をしているからしょうがないのだけど。
実際のところアル様より、エドヴァルド様の方がよく会っていたりする。
「あなた、第一王子殿下と仲がよろしいようだけど、そろそろ立場を弁えていただけるかしら?」
そう。
今まさに私の目の前に大きな黒塗りの馬車を乗り付けて工房の前に降り立ったこの人。とても煌びやかで美しいお人形のような人だ。アル様と同じ年でアル様の婚約者。……今のところは。
私はほとんど工房街に潜んでいて、街にはあまり顔を出さない。何度かエド様が公女が嗅ぎ回っているから気をつけて、と忠告をくれた。一応アル様からも護衛をつけられているから、無体なことはされないだろうけど、貴族様は結構過激派が多いから、あまり煽らないようにと注意された。
えー、何言ってんですかー?私は無害な平民デスヨー。煽ったりしませんヨー。
「どちら様でしょうか?」
白々しく小首をかしげると同時に、商品の売り込みもしてみた。もちろん、買うとは思ってない。いや、ちょっぴりいけるかなと期待したけど。
「瓶詰めの商品でしたら、こちらは工房なので取り扱っていませんが。発注でしたら承りますよ?」
「お黙り。平民の食べ物なんか興味はないわ。わたくしが言いたいのは第一王子殿下のことです。殿下はお優しいので、あなたのような平民にもお声をかけているようですけれど、所詮平民は平民。わたくしたち貴族とは相入れないものです。最近調子に乗った平民が王城付近をうろちょろして困ると聞いておりますの。そろそろ、立場を弁えなければどうなることか、わかっているのかしら」
えー。平民の食べ物ですか。最近は軍人にも人気なんですけどねえ。
お貴族様の食べ物だって、元を正せば平民が作ってますけどねえ。お野菜もお肉もねー。ひょっとしたらデザートのケーキのトッピングにうちの瓶詰め使ってるかもしれませんよー?……なんて言いませんよ?
「えっと。第一王子様は庶民の食べ物も大好物で、我がバロー商会のパトロンでもありますね。瓶詰めのマンゴーが大好きだそうですよ?最新作のロールキャベツも召し上がりますが?おひとつ如何です?」
わざわざお昼時にやってきたんですものね、お腹空いてませんかね。いい匂いでしょ。トマトとニンニクの。
「い、いらないといっているでしょう!全く、これだから平民は、言葉も理解できないようなので、はっきり言いますわ。邪魔なのよ、あなた。小汚い小娘が王城に近づくんじゃありません。わかったわね。二度と、わたくしの婚約者の周りをうろうろしないでちょうだい!」
言いたいことだけ言って、公女様は扇子でパタパタと仰ぎながら、また馬車に乗り込んで走り去っていった。この凸凹道を馬車で進むのって結構きつい気がするなあ。公道の整備もお願いしたいなあ。
うーん。悪い人ではないのかもしれない。ちょっと世慣れしていないのか、お子様っぽい発言だけど。けどまあ世の中の16歳ってあんなもんなのかな。とりあえず、注意勧告だけだったし、まあ問題ないけど。問題なのは、最後の扇子。何かしらあの仕草。……。
「も、もしかして、私くさい?」
よし。石鹸だ。花の香りのする石鹸を作ろう。うん。
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