記憶にございません

里見知美

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7. 商品ラインアップ

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 12歳の王子が10歳の平民を友と呼び、時間を費やしていると噂が流れ始めた。

 その一年後には、王子が現を抜かし財産まで費やしている、とまことしやかに囁かれ、第二王子が動き始めた。

 第二王子も馬鹿ではないから、第一王子が何やら大きなことをし始めたと気付いているのだろう、慌ててチャリオットの具体的な構想を軍部に持ち込んだようだ。鎖帷子チェインメイルも具体案が上がっている。

 だが、材料の鉄が不足しているため、なかなか思うようには進まず、イライラしているようだ。そして、それを煽るように、第一王子が保存用の食品を作り始めた、画期的な技術だ、栄養もよく味も良いと、俄に褒め称えるような噂が流れ込んだ。

「エド様、すごいですねえ」
「アイツは頭がいいからな」
「かっこいいですねえ、出来る大人の男って感じで」
「……エドはやらんぞ?」
「何、その『ワシの娘はやらんぞ』的なセリフは!?要りませんけどね!?」

 こういった情報操作はすべてエドヴァルドが担っているようだ。 



 あの日から四年が経ち、アルフレッドにはアナスタシア・レーノン公爵令嬢という小説どおりの婚約者がつき、ナリエッタは14歳になった。

 15になれば成人で、着実に商人としての腕を上げて、独立に向けて精を出している。バロー商会も初の交易に向けて販路を広げつつ、ナリエッタの瓶詰め商品がラインアップされている。後追いで、香辛料や穀物、甘くないビスケット、乾パン、干した果物やワイン樽やウイスキーも用意されている。

 バロー商会は今や飛ぶ鳥を落とす勢いで成長して、そろそろ貴族家にも商品が届きそうで親父様はウハウハだ。

「瓶詰めは順調に生産されています。ここ最近は、ザワークラウトとピクルスが人気ですね。桃やマンゴーの瓶詰めは不動の1位と2位を誇っていますが。新商品としてトマトピューレ、ロールキャベツのトマト煮込みも上がってきてます」
「おお、三年でずいぶん商品が増えたな」
「最初の一年は瓶作りで手間がかかりましたからね。追い込んでいかないと交易に差し障りがあるでしょ」
「というか、お前。前世で商売してたのか?ずいぶん手際がいいし、ガラス瓶の作り方なんてよく覚えてたな」
「どうでしょうねぇ。元々、前世のことあんまり覚えてないんです。今思えば工場とかで働いていたのかも。そういうアル様も、なんですかこの携帯食カロリーバー。前世まんまじゃないですか」

 穀類とナッツを蜂蜜で固めた携帯食は旅人や商人、軍人に大人気になった。

 持ち歩きは簡単だし、栄養も抜群だ。動物の皮で作った水袋も、最近になってブリキで出来たフラスクを作り人気を呼んでいる。このブリキも使えなくなった盾や穴の空いた鍋を再利用して作っているため、材料に不足はない。

 二年前に、すず石が発掘されて以来、鉄の再利用が始まった。錫石なんてよくわかったなあと驚きつつ、多分前世で関わってきたのだと割り切った。そんなわけで、私はただいまブリキの缶詰を開発中だ。肉や魚の缶詰も考案中で、ツナ缶やコンビーフも現実味を帯びてきた。

 これはバロー商会ではなく、私が立ち上げる商会で売る予定。瓶詰めなんて一世を風靡するような商品をあげたんだから、十分親孝行したでしょう?でも、その地位に甘んじていると商会廃れちゃうから、気をつけてね。

 だって、私、瓶詰め商品のレシピも売る予定だから。

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