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5. お前を愛することはない
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物語では、第一王子はバカである。
考えなしのお馬鹿さんで、城下に降りては、遊び歩き王子ということを隠しもせずあちこちの女性に手を出し、そして運命のヒロインと出会うのだ。
とはいえ、それはヒロインが16歳の頃の話なのだが、ヒロインが違う行動を取ったために物語が変わってしまったのだろうか、王子との出会いは早まってしまった。
まさか12歳の王子と10歳のヒロインでは、間違いなど起きようもなく、王子もバカではなかった。
そう。王子はバカではなく、転生者だった。
私よりも物語の内容を把握していて、王家のいろいろな暴露話もあるらしく、「教えてあげようか」と言われたけど、遠慮した。私、現実見てる常識ある平民なので、そんな恐ろしいことに首突っ込みませんと言うと、とても黒い笑みを浮かべていた。こわ。
アルフレッド様は物語を黒歴史として語り、戒めにしているという。
だから敵情視察として市井に下りて来た。敵情って私のこと!?
「だからお前を愛することはない」
「何、その定番のセリフ!?」
「だからお前、俺に協力しろ」
「その『だから』の意味がわかりませんが!?」
手駒が欲しい腹黒王子は私を雇い、市井を把握したいという。
まあ、私も商人の娘なんで、情報の取り扱いについてはそれなりに学んできた。
同じ転生者同士だし、「俺が王になった暁には、王家御用達の店にしてやってもいい」なんて言われたらね。当然セクハラ親父は飛びついた。こんなのでよければ、いつでもご自由にどうぞって、親父!
後で、貴族に売れるとは思っていたが、まさか王子を釣り上げるとは!でかしたぞ!と大口開けて笑う親父がいた。これで恩は返した。残念だけど、私は独立するからね。
アルフレッド様は、大人しく王座に鎮座するような性格でもなかった。血の気の多い王家に生まれ、血の気の多い教育係に躾けられた、いわゆる脳筋。どちらかというと血を好む性格をしていたのだ。
「脳筋いうな!血を好んでもおらんわっ。俺は頭脳派で通す!」
どうやら自覚はあるようなので、ただの脳筋ではなさそうだ。アルフレッド様も私も転生者で、物語とは違う行動を起こしている。とはいえ、世界の流れにあまり大差はないようにも思えた。
ナリエッタの物語の記憶では、戦争が起こるのがこれから五年後。
継承権争いで、第一王子が利を挙げようと敵国に宣戦布告も無く、猪のように突っ込んで行く。
ここにいるアルフレッド様は物語の王子像とは違うのに、敵国とのきな臭さは相変わらずで、双方睨み合いを続けていた。
「俺はね。今のところ、自分から物語を大幅に変えようとは思わないんだ」
「え、なんで?」
「幼い頃は色々考えたんだけどさ。俺の行動が大きく歴史を変えることはないように思えて。それにあまり物語を変えてしまったら予想がつかなくなるでしょ。だったらある程度、物語に沿って行った方が攻略もしやすい」
「私は死にたくないです」
「それはわかってる。俺から戦争は仕掛けないし、エドもお前も死なせない」
私は、アルフレッド様の後ろに影のように立っている青年に視線を投げかけた。
エドヴァルドは、第一王子の補佐官として登場する伯爵令息だ。幼少の頃からアルフレッドにつき、尻拭いに奔走し、戦争でアルフレッドを庇い捕虜にされる可哀想な男である。敵国で何があったのかは分からないが、第二王子に助けられた時には絶望を背負った男になっていて、冷酷にアルフレッドを断罪した。流刑だけど。ナリエッタもね。こっちは死刑だったけど。
もちろん、エドヴァルドも物語の話は聞いていた。ナリエッタがダバダバ泣きながら暴露した時に、アルフレッドの後ろに立って聞いていたから。「私は何があろうと殿下を裏切りません!」と怒っていたけど。忠誠を尽くした相手に裏切られると、心も折れるというものよ。
彼は初め、全く私を信用していなかったし、何なら敵国のスパイなんじゃないかと疑っていたのも彼だ。「アタシ、王子様と結婚するのぉ」と思ってたと言われた方が、まだ信憑性があるってもんだよ。
「話の中で戦争になるのはアゼンドラ公国だ。あそこはツンドラ地帯で食糧に乏しいがため、この国に目をつけている」
「うん。その代わり、鉱山に囲まれてるのよね」
「そう。エルドランが終戦に持ち込んだのも、そこだ。こちらから食料を輸出する代わりに鉱石を輸入する貿易条約を結びつけた。ただ、俺がやらかしたことで、割合比がこちらに不利になった。小麦10に対し、鉱石1といった具合にだ。それに加えて、現国王夫妻を下がらせて第二王子が国王になると取り決めた。これも向こう側に有利になるように仕向けるためだ」
「なるほど」
「だけど、今のエルドランを監視して、あいつの腹黒さが目についた」
「んー?」
「わかるかな?」
「まあ、普通に考えれば、第二王子は王様になりたかったんだよね?公女様と恋に落ちるわけだし、兄になり代わって公女様と結婚できてハッピーエンド?だし?私は巻き込まれて、処刑されるけど。自業自得ともいうけどさ」
「ふふ。お前は簡単には死なせんから大丈夫だ。あいつは腹黒く策略家でもあるけれど、やはり脳筋でね。婚約者も権力も名声も手に入れて、敵国にも味方だと思わせる。それで鉱石を手に入れて軍を強化して、攻め込むつもりでいる」
「えっ、それって銃とか、ミサイルとか核とか、そういうやつ?」
「……いや、核!?それはいくらなんでも。百年くらい先じゃね?あと、銃はまだ火薬がないから無理だろう」
あ、そうなんだ。鉄も鍛冶場もあるからもうあるのかと思ったけど、そういえばまだ騎馬で剣とか槍とか持ってたね、うちの軍部。騎士と言わないのは、脳筋だから?
「今あいつが力を入れているのが、所謂チャリオットと、全身鎧だね。鎖帷子も構想に入れているかな」
「ああ…なるほど」
考えなしのお馬鹿さんで、城下に降りては、遊び歩き王子ということを隠しもせずあちこちの女性に手を出し、そして運命のヒロインと出会うのだ。
とはいえ、それはヒロインが16歳の頃の話なのだが、ヒロインが違う行動を取ったために物語が変わってしまったのだろうか、王子との出会いは早まってしまった。
まさか12歳の王子と10歳のヒロインでは、間違いなど起きようもなく、王子もバカではなかった。
そう。王子はバカではなく、転生者だった。
私よりも物語の内容を把握していて、王家のいろいろな暴露話もあるらしく、「教えてあげようか」と言われたけど、遠慮した。私、現実見てる常識ある平民なので、そんな恐ろしいことに首突っ込みませんと言うと、とても黒い笑みを浮かべていた。こわ。
アルフレッド様は物語を黒歴史として語り、戒めにしているという。
だから敵情視察として市井に下りて来た。敵情って私のこと!?
「だからお前を愛することはない」
「何、その定番のセリフ!?」
「だからお前、俺に協力しろ」
「その『だから』の意味がわかりませんが!?」
手駒が欲しい腹黒王子は私を雇い、市井を把握したいという。
まあ、私も商人の娘なんで、情報の取り扱いについてはそれなりに学んできた。
同じ転生者同士だし、「俺が王になった暁には、王家御用達の店にしてやってもいい」なんて言われたらね。当然セクハラ親父は飛びついた。こんなのでよければ、いつでもご自由にどうぞって、親父!
後で、貴族に売れるとは思っていたが、まさか王子を釣り上げるとは!でかしたぞ!と大口開けて笑う親父がいた。これで恩は返した。残念だけど、私は独立するからね。
アルフレッド様は、大人しく王座に鎮座するような性格でもなかった。血の気の多い王家に生まれ、血の気の多い教育係に躾けられた、いわゆる脳筋。どちらかというと血を好む性格をしていたのだ。
「脳筋いうな!血を好んでもおらんわっ。俺は頭脳派で通す!」
どうやら自覚はあるようなので、ただの脳筋ではなさそうだ。アルフレッド様も私も転生者で、物語とは違う行動を起こしている。とはいえ、世界の流れにあまり大差はないようにも思えた。
ナリエッタの物語の記憶では、戦争が起こるのがこれから五年後。
継承権争いで、第一王子が利を挙げようと敵国に宣戦布告も無く、猪のように突っ込んで行く。
ここにいるアルフレッド様は物語の王子像とは違うのに、敵国とのきな臭さは相変わらずで、双方睨み合いを続けていた。
「俺はね。今のところ、自分から物語を大幅に変えようとは思わないんだ」
「え、なんで?」
「幼い頃は色々考えたんだけどさ。俺の行動が大きく歴史を変えることはないように思えて。それにあまり物語を変えてしまったら予想がつかなくなるでしょ。だったらある程度、物語に沿って行った方が攻略もしやすい」
「私は死にたくないです」
「それはわかってる。俺から戦争は仕掛けないし、エドもお前も死なせない」
私は、アルフレッド様の後ろに影のように立っている青年に視線を投げかけた。
エドヴァルドは、第一王子の補佐官として登場する伯爵令息だ。幼少の頃からアルフレッドにつき、尻拭いに奔走し、戦争でアルフレッドを庇い捕虜にされる可哀想な男である。敵国で何があったのかは分からないが、第二王子に助けられた時には絶望を背負った男になっていて、冷酷にアルフレッドを断罪した。流刑だけど。ナリエッタもね。こっちは死刑だったけど。
もちろん、エドヴァルドも物語の話は聞いていた。ナリエッタがダバダバ泣きながら暴露した時に、アルフレッドの後ろに立って聞いていたから。「私は何があろうと殿下を裏切りません!」と怒っていたけど。忠誠を尽くした相手に裏切られると、心も折れるというものよ。
彼は初め、全く私を信用していなかったし、何なら敵国のスパイなんじゃないかと疑っていたのも彼だ。「アタシ、王子様と結婚するのぉ」と思ってたと言われた方が、まだ信憑性があるってもんだよ。
「話の中で戦争になるのはアゼンドラ公国だ。あそこはツンドラ地帯で食糧に乏しいがため、この国に目をつけている」
「うん。その代わり、鉱山に囲まれてるのよね」
「そう。エルドランが終戦に持ち込んだのも、そこだ。こちらから食料を輸出する代わりに鉱石を輸入する貿易条約を結びつけた。ただ、俺がやらかしたことで、割合比がこちらに不利になった。小麦10に対し、鉱石1といった具合にだ。それに加えて、現国王夫妻を下がらせて第二王子が国王になると取り決めた。これも向こう側に有利になるように仕向けるためだ」
「なるほど」
「だけど、今のエルドランを監視して、あいつの腹黒さが目についた」
「んー?」
「わかるかな?」
「まあ、普通に考えれば、第二王子は王様になりたかったんだよね?公女様と恋に落ちるわけだし、兄になり代わって公女様と結婚できてハッピーエンド?だし?私は巻き込まれて、処刑されるけど。自業自得ともいうけどさ」
「ふふ。お前は簡単には死なせんから大丈夫だ。あいつは腹黒く策略家でもあるけれど、やはり脳筋でね。婚約者も権力も名声も手に入れて、敵国にも味方だと思わせる。それで鉱石を手に入れて軍を強化して、攻め込むつもりでいる」
「えっ、それって銃とか、ミサイルとか核とか、そういうやつ?」
「……いや、核!?それはいくらなんでも。百年くらい先じゃね?あと、銃はまだ火薬がないから無理だろう」
あ、そうなんだ。鉄も鍛冶場もあるからもうあるのかと思ったけど、そういえばまだ騎馬で剣とか槍とか持ってたね、うちの軍部。騎士と言わないのは、脳筋だから?
「今あいつが力を入れているのが、所謂チャリオットと、全身鎧だね。鎖帷子も構想に入れているかな」
「ああ…なるほど」
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