記憶にございません

里見知美

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4. ヒロイン?

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 気がついたら、転生してた。

 生まれる前に、狭いな苦しいなって考えてたら、激流に呑まれて慌てて顔を上げて息を吸い込んだ。

 そこで出てきた息継ぎが「オギャア」だったもんだから、自分で驚いた。それからあれこれお世話されている間も、恥ずかしいからやめてとか、自分で出来ますとか心の中で叫び続けて。

 半年くらい経ってようやく気がついたのだ。あ、私転生してるって。なんでそんなに時間がかかったのかって言われても、知らんがな。赤ちゃんの脳みそシナプス少な過ぎて、たくさんのこと考えられなかったんじゃないかなと思う。

 ともかく何となく転生したんだなあ、と思って鏡の前に立った自分を見て愕然とした。

 ピンク色の髪がものすごくインパクトがあった。と言うか違和感と言ってもいい。こんな色どうやったら出せるのか。自然に生まれる色じゃないだろって。

 で、前世で読んだざまぁ小説の世界だと気がついた。

 私の名前はナリエッタ。バロー商会の一女だ。

 このまま行くと頭お花畑の尻軽女で、王子に恋慕して断罪される役目である。飛ばし読みをしたのか、詳細まであまり覚えていないのだけど、どこかしらで王子に出会い、恋をする。アホっぽい王子だったのを覚えていて、私の好みじゃないなと思ってた。

 やたらベタベタするし、金遣いも人使いも荒く、言うことなすこと馬鹿っぽい。これじゃ断罪されても仕方ないよな、と言うテンプレのノータリン王子だった。

 それに惚れて共に断罪されたヒロインも大概だけど。

 でも。

 私は極めて普通の商人の娘である。

 馬鹿っぽいピンクの髪をしていようとも、顔の半分くらい目なんじゃないのって言うくらい大きくても。って言うか、この目ちょっと怖い。拳が入りそうなので、細目で生きる努力をしよう。よくいるよね糸目の人。

 普通の商人の子供としてお手伝いに励み、「アタシ可愛いからぁ。将来は王子様のお嫁さんになるのぉ」みたいな行動は取らず、控えめにその他大勢に紛れ込む事に成功した。

 目を細めて歩いていたら目が悪いのかと勘違いされて、メガネを装着された。

 ま、いっか。

 商人根性丸出しの父は、「お前は可愛いからきっと貴族にも見初められるはず」だからもっと美容に気をつけろだの、愛想良くしろだの、セクハラっぽいことを言ってきたが、無視だ。

 年端もいかない少女に何言ってやがる。使われる前に家を出ていく勢いで勉学に励んで、腰を低くして目立たないように、だけど役立たずとは思われないように生きた。

 ちなみに前世の記憶はおくびも出していない。

 いずれ家を出て一人で生きるために、さまざまなアイデアは隠し持っておくことにした。幼女がアイデアを出したところで、すべての名声はこのセクハラ親父が持っていくし、その所為で目をつけられて、どこぞのヒヒジジイに高く売られてもかなわないからね。

 そしてナリエッタ10歳。

 そこそこ努力はしたが、物語の強制力なのか、実家である商会の手伝いをしている時、王子にばったり出会ってしまったのである。

 小説の表紙と同じ顔。いや、ちょっと子供っぽいけど見間違いじゃない。黒髪黒目の王子様は見目麗しく、思わず見惚れてしまったのが運の尽き。

 第一王子殿下だ、と呟いてしまった。

 お忍びとして市井に降りていた王子を一目見て見抜いてしまったものだから、警戒され敵国のスパイなのではと捕まり、あっという間に連れ去られた。

 っていうかさ、見つかりたくなかったら変装とかしろよ!って今なら思う。平民にそんなキレイな顔と肌した男いないんだよっ!

 まだ10歳かそこらだったナリエッタは、ダバダバ泣きながら全てを暴露した。

 前世でも警察とか牢屋とか無縁の生活だったし、怖かったんだよ!頭がおかしいと思われた方が、敵国のスパイだと言って拷問されるよりマシだよ。

 だけど、王子からはとんでもない返答が来た。

「そっか、お前も転生者だったんだな」
「え”?」

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