記憶にございません

里見知美

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3. ヒロインは実在した

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 王妃が俺を妊娠中に、側妃を孕ませたという筋書きなんだけど、実はエルドランは王の近衛兵の子供だ。

 幸いというか、エルドランは側妃に瓜二つの上、側妃も黒髪の女性だからバレていないみたい。目の色が近衛兵なんだけど、まあ気付いてないなら、わざわざ教える必要もない。

 だって、俺が王になれば何も問題はないし、弱みはいざという時まで握っておいて損はない。

 物語のエンドで俺が流刑にされて、国王夫妻は離縁して別々に幽閉された。エルドランが王になり、王が心労から病床についた際、側妃が伝えるのだ。

 婚約者がいる身だったのに、無理矢理手篭めにされ側妃に迎えられた時から復讐に燃えていたのだと。王の血筋を途絶えさせるためだけに今まで生きてきたのだと。それを聞いた王は、あまりの怒りのため血圧が上がってぽっくり逝ってしまった。

 側妃は何食わぬ顔で「わたくしの役目は終わりました」と言って王の近衛兵だった男と共に王城を去る。近衛兵が元々の婚約者だったのかどうか、それはわからないけれど。

 今思うと、実は俺に毒を盛ったの、この人なんじゃ?

 やっぱロクでもないよな、俺の親。母王妃は「何のための人生だったのか」と寂しく呟いて、一人老生を送ったらしい。悲しきかな。



 まあ、それが物語の顛末なので、当然俺は態度も考えも改めた。

 親は反面教師だ。

 同じ轍を踏むものではない。それから俺は、毒殺されないように毒に慣れ、自己防衛のため肉体を鍛え、時勢を知る為に新聞を読み、勉強も頑張った。

 数字はあまり得意ではないが、何も完璧じゃなくても良いのだ。

 エドヴァルドの頭脳は明晰だし、実は剣術も優れている。脳筋の近衛たちも俺の身を守ってくれている。

 後、俺が欲しいのは影とか諜報員とかそう言う奴らかな。エドヴァルドに頼んで、一応側妃とエルドランの動向は監視させてもらうことにした。

 エドヴァルドは忠誠心の高い良い男だ。見殺しにした俺を最後まで信じていたのに、心折れて俺を断罪した。今の俺はそうならないように、エドヴァルドをそばに置いて決して裏切らないと決めた。

 まあ、あれこれ気をつけながら、小説とは違う行動をとっていたわけなんだが、俺が12歳の時、ヒロインとばったりあってしまった。

 いや、実は会いに行ったんだ。恋に落ちるとかそんなことは期待していなかったし、別に接点を作るつもりもなかった。ただ、物語では家族ごと滅ぼしてしまったから、なんとなく気になってたし、実在するなら避けるにしても相手を知っておくべきだと思って。

 もちろんヒロインは実在した。

 当時の彼女は10歳で、実家の商会の手伝いをしていた。

 ああ、ヒロインだなって納得できるふわふわしたピンク色の髪を揺らす美少女。

 けど、メガネをかけていた。あれ、そんな設定だったかな、と考えつつ見ていたら、あっちが先に気がついた。大きな目が顔から溢れんばかりに大きくなって、顔色を無くした。

「第一王子殿下だ」って呟いたから、ああバレた、と思った。
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