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第4章:聖地アードグイ編
第102話:瓶詰めのカルラ
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火の大精霊アガバは、ヒクリと頬を引きつらせた。
ミヤコは内心、直球すぎたかなと思いつつも表情には出さず、涼しい顔でアガバを見つめた。火の聖地は問題なく浄化できた。海に流れ出た不浄な魂も泡の精霊たちが処理してくれたし、溶岩はすでに火の精霊たちが生まれたことで通常運転しているはず。あとは、この怠け者の火の大精霊さえちゃんと聖地を管理してくれれば、ミヤコたちは用済み、のはず。もし嫌だだのダメだだの文句を言おうものならば、カリプソの言う通り、この瓶詰めのアガバの奥さんを出して脅してやろう、とミヤコは考えた。
そして、その想像通り、アガバは駄々をこねた。
『俺は大精霊だぞ!?二つもお強請りができると思っているのか!』
「聖地の管理を怠ってカリプソさんだけでなく、海の精霊たちにまで迷惑をかけていたじゃないですか。もちろん、私とクルトさんがお手伝いさせていただいて、水域も浄化しましたが。おまけに自分の眷属たちすら既に居なくなっていたんですよ?私たちがここに来た時、火の精霊の姿を一体も見てないんですから。大精霊としてどうなんですかね、それ。職務怠慢って言葉、知ってます?」
「ミ、ミヤ…」
ミヤコの強気な発言に、クルトは控えめに「抑えろ」と助言するが、ミヤコは知っているのだ。精霊は強気な発言に弱いということを。
精霊王しかり、ナイアド達もこちらが強気に出るとタジタジになってしまう。それはミヤコだからなのか、誰が言ってもそうなのかはわからないが、キミヨを見てミヤコは学んだのだ。
所詮、大精霊は引きこもりだ。自分の聖地で他者との関わりを持たないため、自分に強く出る相手を知らない。箱庭の神様、猿山のボス。そんなものと変わりはあまりない、とミヤコは思っている。
しかも火の精霊たちにとってミヤコは、自分たちを復活させ、浄化まで手伝ってくれた生みの親、いわば命の恩人。聖地の恩人。アガバよりよほど頼りになる、しかも後ろ盾も強く、どうやらカリプソも背後に居る。何より自分達に優しいミヤコ。火の精霊たちの世界は弱肉強食であった。
『お、お前達っ!裏切り者め!』
クワッと怒りを示すアガバだが、ミヤコはすかさず追い詰める。
「しかも、なんですか。浮気をして夫婦喧嘩?いったい何十、何百の邪悪な魂が海に流れ込んだと思っているんです?いつからふて寝をしていたのが存じませんけど、まさかそのせいで、極悪非道の重罪人ルビラの魂も流れ出たというわけではないですよね?あの極悪非道の不浄の魂が、全ての聖地を汚したのだとしたら、もちろん責任はアガバ、あなたにあるって判ってますよね?」
『る、ルビラ…?』
「ええ、ルビラです。ルブラート教の始祖であり、ミラートの娘です。精霊王を逆恨みし戦争を起こし、死してなおも恨みを残し、私の住む世界にまで足を伸ばし私の母を乗っ取って、この世界の聖地を悉く穢した女の魂です。覚えがありますか?つい先日こちらに送り届けたはずなんですが?」
『……』
アガバは少し考えるそぶりを見せたが、あの顔は全然覚えがないと言っている。ルビラの怨念は水鏡の狭間から消え失せた。浄化することができたのか、逃げたのか。業の強い魂だから、シェリオルの水辺で浄化されてはいなかった。でも、あれからここにたどり着いたのだとしても、炎の聖地が管理されていなかったために、わからない。下手したら、また逃げ出したのかもしれない。アーラの業火で浄化されていないのだとしても、海に流れ出て泡の精霊たちに浄化された可能性も高いが、確実ではない。いったいいつから、この地は管理されていなかったのか。
「……オワンデル遺跡を知ってますか?」
『は?』
「モーグリス草原は?」
『し、知らん。俺がそんなものを知る必要はないであろう』
「そこで囚われた、大量の魑魅魍魎がいたことも、知らないんですよね?」
『え?』
「実験材料にされて死んでいった魂がそこに囚われて逃げ場を失って、魍魎になって苦しんでいたことも」
『!?』
死んだ魂が、シェリオルの水辺にたどり着かない場合、死霊になる。霊に確執があれば、それはいずれ瘴気を呼び、魂の格は落ち、瘴魔へと変わる。それを防ぐために火の精霊がいるのだ。水の精霊、火の精霊が導き、魂をあるべきところへ還す。それが全くと言っていいほど機能していなかった。水の大精霊は水鏡の狭間に囚われ、聖地は穢れ、ナイアドは人間を恨み、魂はシェリオルの水辺へ送られていない。そしてここ火の聖地では、あろうことか大精霊本人が浮気をして、夫婦喧嘩の後に不貞寝をしていたことが原因で、聖地が無法地帯に陥っていた。人間は全く関わっていないではないか。もちろん、怨念やら執念やらの、負の感情が聖地を穢したのは否めないが、それもこれもアガバが仕事をしなかったせいである。
「そのせいで、土地が穢されて瘴気を生み、瘴魔が発生していたことも、知らないんですね」
『い、い、いつの話だ、そんな』
「あなたが惰眠を貪っている間の話ですよ。私とクルトさん、仲間のアイザックさんとガーネットさんと被害にあったルノーさんで浄化をしました。大半が、彼らの元仲間で部下だったそうです。瘴魔になってしまった人たちは、シェリオルの水辺にもいけず、アーラの業火で焼かれることもなく、苦しんでいた。少なくとも15年。魂によってはもっと長く」
アガバがごくりと喉を鳴らした。
『そ、そんなもの。俺は浮遊している魂など集めることはない。ここにたどり着いた魂を浄化するだけだ!そういうのはチビどもが集めてくるものだ』
「その役割さえ放棄していたからこそ、火の精霊も消えていたんですよね?」
『ほ、放棄はしとらん!ちょっと寝過ごしただけだ!』
「ちょっと?火の精霊たちが全て消え失せて、あなたが大精霊の力を枯渇して幼体に戻るほどの時間が、ほんのちょっと?妖精王がデイダラボッチになって、水の大精霊が水鏡の狭間に閉じ込められていた時間が、ほんのちょっと?あなたの奥さんが瓶詰めにされて、カリプソに保存された時間がほんのちょっと?!」
ミヤコがニヤリと黒く笑って、収納から赤いボトルを取り出した。カリプソから受け取ったそれだ。
『えっ』
「ここに」
『そ、それはっ!!』
「奥様に聞いてみましょうか。どのくらいの時間が経ったのか」
『ま、待て!それはっ!!』
キュポン、と音を立てて赤い瓶の蓋が抜かれた。赤いガスのような液体のようなものが瓶から流れ出て、それが形付いていく。
『あ~な~た~~~……』
『ヒイィィィィッ!!?』
『キャーーーーーッ!!!』
瓶から出てきた液体はイフリートの女性版と言っていい巨体を模った。
奥さん、でかい。ものすごい迫力。山のような体がどうやってあの瓶に入りきっていたのか。まるでジーニーだ。魔法のランプ、もとい、魔法の小瓶?
『カルラ!』
それに比べるとマッチの灯火くらいのアガバに迫り、カルラはアガバを片手で握り潰した。ぶわり、と熱気があたりを立ち込め、ミヤコとクルトの周りに水蒸気が立ち上がる。精霊たちも悲鳴をあげて、ミヤコの後ろに隠れてしまった。水の加護があって本当に助かった。ミヤコは額の汗を無意識に拭う。
『よくも!よくも、このわたくしをこんな小汚い瓶につめてくれたわねっ!!覚悟なさい!……って、あらっ?あなた、なんでそんなに可愛らしくなっているのかしら?』
アガバの元々のサイズを知らないミヤコは目を丸くした。
その巨体に掴まれて、アガバの小さな体はぷちゅっと握りつぶされて、指の間からはみ出した体の一部が見えていた。
え?アガバ死んだ?
そう思ったのもつかの間、カルラが手を広げると、アガバはよろよろと立ち上がり、コキコキと首を鳴らす。その手のひらでハッと気がついて、両手を広げ笑顔を振りまいた。
『か、カルラ愛しの我が妻っ!どこへ行っていたんだああ俺は心配で夜も眠れなかったんだよダーリンマイスウィートパイ!』
アガバの体当たり演技に、ハルクルトもミヤコも絶句した。
『あなたが私をこの瓶に詰め込んだんじゃないの!あんな海の精霊の小娘ごときに騙されてっ!キイィィィ!悔しいっ!』
『ままま、待て待て待ってくれ!客人の前だ!精霊王の孫娘だそうだよ、スイートピー?』
『お客?』
ぎょろりと目を向かれ、ミヤコは思わずハルクルトの腕を掴んだ。ごくりと喉を鳴らす。
「カルラさん、精霊王の孫ミヤコと申します。こちらは私の、仲間のクルトです」
「ミヤの恋人です」
「ク、ク、クルトさんっ!」
(カルラは嫉妬深くて有名なんだ。あらかじめ、言っておいたほうが誤解がなくていい)
「……そ、そう、なのね」
こそこそと話し合う二人を交互に見て、カルラはポンと手を叩いた。
『あら~。あなたたちね、カリプソから私を救い出してくれたのは!』
「え?えっと…」
『いいのよ、いいのよ!どんな理由であれ、私を助け出してくれたんだもの~!アナタッ!わかっているわね?!可愛いこのチビちゃんたちのお願いは、ちゃんと聞いてあげて!私からも一つプレゼントするわ!何がいいかしら!』
『ハ、ハニー。そうはいってもね、こいつら、ゲフンゲフン、この人間どもは俺の加護と風の聖地までの道標が欲しいそうなんだよ。幾ら何でも』
『そのくらい、簡単だわ!ねえ、あなた?ん、でもあなた大精霊の力どこへ放っぽり出してきたの?それじゃ、加護くらいは与えられても、道標は無理ねえ。……そうだわ、私のフェニックスちゃんを貸したげる!』
「えっ」
「フェニックス?」
『カ、カルラッ、マイハニー・クランペット!フェニックスは幾ら何でも』
『あなた?』
『うっ』
『この子。赤毛の子は、あなたの管轄よね?』
『うう』
『私がわからないとでも思ったのかしら?』
『か、カルラ、それ以上は』
『ガルシアの子でしょう。ちゃんと面倒見てあげなさいな』
クルトがぴくりと眉を跳ね上げた。
「今、なんて…?」
『あら?』
『カルラ、それは内緒だって…』
『あら、やだ。そうだったかしら…』
「あの、ガルシアって、クルトさんのお父さん…?」
「どういうことだか、詳しく教えてくれますか」
カルラがしまったというように口に手を当て、アガバがハルクルトから視線を外した。
ミヤコは内心、直球すぎたかなと思いつつも表情には出さず、涼しい顔でアガバを見つめた。火の聖地は問題なく浄化できた。海に流れ出た不浄な魂も泡の精霊たちが処理してくれたし、溶岩はすでに火の精霊たちが生まれたことで通常運転しているはず。あとは、この怠け者の火の大精霊さえちゃんと聖地を管理してくれれば、ミヤコたちは用済み、のはず。もし嫌だだのダメだだの文句を言おうものならば、カリプソの言う通り、この瓶詰めのアガバの奥さんを出して脅してやろう、とミヤコは考えた。
そして、その想像通り、アガバは駄々をこねた。
『俺は大精霊だぞ!?二つもお強請りができると思っているのか!』
「聖地の管理を怠ってカリプソさんだけでなく、海の精霊たちにまで迷惑をかけていたじゃないですか。もちろん、私とクルトさんがお手伝いさせていただいて、水域も浄化しましたが。おまけに自分の眷属たちすら既に居なくなっていたんですよ?私たちがここに来た時、火の精霊の姿を一体も見てないんですから。大精霊としてどうなんですかね、それ。職務怠慢って言葉、知ってます?」
「ミ、ミヤ…」
ミヤコの強気な発言に、クルトは控えめに「抑えろ」と助言するが、ミヤコは知っているのだ。精霊は強気な発言に弱いということを。
精霊王しかり、ナイアド達もこちらが強気に出るとタジタジになってしまう。それはミヤコだからなのか、誰が言ってもそうなのかはわからないが、キミヨを見てミヤコは学んだのだ。
所詮、大精霊は引きこもりだ。自分の聖地で他者との関わりを持たないため、自分に強く出る相手を知らない。箱庭の神様、猿山のボス。そんなものと変わりはあまりない、とミヤコは思っている。
しかも火の精霊たちにとってミヤコは、自分たちを復活させ、浄化まで手伝ってくれた生みの親、いわば命の恩人。聖地の恩人。アガバよりよほど頼りになる、しかも後ろ盾も強く、どうやらカリプソも背後に居る。何より自分達に優しいミヤコ。火の精霊たちの世界は弱肉強食であった。
『お、お前達っ!裏切り者め!』
クワッと怒りを示すアガバだが、ミヤコはすかさず追い詰める。
「しかも、なんですか。浮気をして夫婦喧嘩?いったい何十、何百の邪悪な魂が海に流れ込んだと思っているんです?いつからふて寝をしていたのが存じませんけど、まさかそのせいで、極悪非道の重罪人ルビラの魂も流れ出たというわけではないですよね?あの極悪非道の不浄の魂が、全ての聖地を汚したのだとしたら、もちろん責任はアガバ、あなたにあるって判ってますよね?」
『る、ルビラ…?』
「ええ、ルビラです。ルブラート教の始祖であり、ミラートの娘です。精霊王を逆恨みし戦争を起こし、死してなおも恨みを残し、私の住む世界にまで足を伸ばし私の母を乗っ取って、この世界の聖地を悉く穢した女の魂です。覚えがありますか?つい先日こちらに送り届けたはずなんですが?」
『……』
アガバは少し考えるそぶりを見せたが、あの顔は全然覚えがないと言っている。ルビラの怨念は水鏡の狭間から消え失せた。浄化することができたのか、逃げたのか。業の強い魂だから、シェリオルの水辺で浄化されてはいなかった。でも、あれからここにたどり着いたのだとしても、炎の聖地が管理されていなかったために、わからない。下手したら、また逃げ出したのかもしれない。アーラの業火で浄化されていないのだとしても、海に流れ出て泡の精霊たちに浄化された可能性も高いが、確実ではない。いったいいつから、この地は管理されていなかったのか。
「……オワンデル遺跡を知ってますか?」
『は?』
「モーグリス草原は?」
『し、知らん。俺がそんなものを知る必要はないであろう』
「そこで囚われた、大量の魑魅魍魎がいたことも、知らないんですよね?」
『え?』
「実験材料にされて死んでいった魂がそこに囚われて逃げ場を失って、魍魎になって苦しんでいたことも」
『!?』
死んだ魂が、シェリオルの水辺にたどり着かない場合、死霊になる。霊に確執があれば、それはいずれ瘴気を呼び、魂の格は落ち、瘴魔へと変わる。それを防ぐために火の精霊がいるのだ。水の精霊、火の精霊が導き、魂をあるべきところへ還す。それが全くと言っていいほど機能していなかった。水の大精霊は水鏡の狭間に囚われ、聖地は穢れ、ナイアドは人間を恨み、魂はシェリオルの水辺へ送られていない。そしてここ火の聖地では、あろうことか大精霊本人が浮気をして、夫婦喧嘩の後に不貞寝をしていたことが原因で、聖地が無法地帯に陥っていた。人間は全く関わっていないではないか。もちろん、怨念やら執念やらの、負の感情が聖地を穢したのは否めないが、それもこれもアガバが仕事をしなかったせいである。
「そのせいで、土地が穢されて瘴気を生み、瘴魔が発生していたことも、知らないんですね」
『い、い、いつの話だ、そんな』
「あなたが惰眠を貪っている間の話ですよ。私とクルトさん、仲間のアイザックさんとガーネットさんと被害にあったルノーさんで浄化をしました。大半が、彼らの元仲間で部下だったそうです。瘴魔になってしまった人たちは、シェリオルの水辺にもいけず、アーラの業火で焼かれることもなく、苦しんでいた。少なくとも15年。魂によってはもっと長く」
アガバがごくりと喉を鳴らした。
『そ、そんなもの。俺は浮遊している魂など集めることはない。ここにたどり着いた魂を浄化するだけだ!そういうのはチビどもが集めてくるものだ』
「その役割さえ放棄していたからこそ、火の精霊も消えていたんですよね?」
『ほ、放棄はしとらん!ちょっと寝過ごしただけだ!』
「ちょっと?火の精霊たちが全て消え失せて、あなたが大精霊の力を枯渇して幼体に戻るほどの時間が、ほんのちょっと?妖精王がデイダラボッチになって、水の大精霊が水鏡の狭間に閉じ込められていた時間が、ほんのちょっと?あなたの奥さんが瓶詰めにされて、カリプソに保存された時間がほんのちょっと?!」
ミヤコがニヤリと黒く笑って、収納から赤いボトルを取り出した。カリプソから受け取ったそれだ。
『えっ』
「ここに」
『そ、それはっ!!』
「奥様に聞いてみましょうか。どのくらいの時間が経ったのか」
『ま、待て!それはっ!!』
キュポン、と音を立てて赤い瓶の蓋が抜かれた。赤いガスのような液体のようなものが瓶から流れ出て、それが形付いていく。
『あ~な~た~~~……』
『ヒイィィィィッ!!?』
『キャーーーーーッ!!!』
瓶から出てきた液体はイフリートの女性版と言っていい巨体を模った。
奥さん、でかい。ものすごい迫力。山のような体がどうやってあの瓶に入りきっていたのか。まるでジーニーだ。魔法のランプ、もとい、魔法の小瓶?
『カルラ!』
それに比べるとマッチの灯火くらいのアガバに迫り、カルラはアガバを片手で握り潰した。ぶわり、と熱気があたりを立ち込め、ミヤコとクルトの周りに水蒸気が立ち上がる。精霊たちも悲鳴をあげて、ミヤコの後ろに隠れてしまった。水の加護があって本当に助かった。ミヤコは額の汗を無意識に拭う。
『よくも!よくも、このわたくしをこんな小汚い瓶につめてくれたわねっ!!覚悟なさい!……って、あらっ?あなた、なんでそんなに可愛らしくなっているのかしら?』
アガバの元々のサイズを知らないミヤコは目を丸くした。
その巨体に掴まれて、アガバの小さな体はぷちゅっと握りつぶされて、指の間からはみ出した体の一部が見えていた。
え?アガバ死んだ?
そう思ったのもつかの間、カルラが手を広げると、アガバはよろよろと立ち上がり、コキコキと首を鳴らす。その手のひらでハッと気がついて、両手を広げ笑顔を振りまいた。
『か、カルラ愛しの我が妻っ!どこへ行っていたんだああ俺は心配で夜も眠れなかったんだよダーリンマイスウィートパイ!』
アガバの体当たり演技に、ハルクルトもミヤコも絶句した。
『あなたが私をこの瓶に詰め込んだんじゃないの!あんな海の精霊の小娘ごときに騙されてっ!キイィィィ!悔しいっ!』
『ままま、待て待て待ってくれ!客人の前だ!精霊王の孫娘だそうだよ、スイートピー?』
『お客?』
ぎょろりと目を向かれ、ミヤコは思わずハルクルトの腕を掴んだ。ごくりと喉を鳴らす。
「カルラさん、精霊王の孫ミヤコと申します。こちらは私の、仲間のクルトです」
「ミヤの恋人です」
「ク、ク、クルトさんっ!」
(カルラは嫉妬深くて有名なんだ。あらかじめ、言っておいたほうが誤解がなくていい)
「……そ、そう、なのね」
こそこそと話し合う二人を交互に見て、カルラはポンと手を叩いた。
『あら~。あなたたちね、カリプソから私を救い出してくれたのは!』
「え?えっと…」
『いいのよ、いいのよ!どんな理由であれ、私を助け出してくれたんだもの~!アナタッ!わかっているわね?!可愛いこのチビちゃんたちのお願いは、ちゃんと聞いてあげて!私からも一つプレゼントするわ!何がいいかしら!』
『ハ、ハニー。そうはいってもね、こいつら、ゲフンゲフン、この人間どもは俺の加護と風の聖地までの道標が欲しいそうなんだよ。幾ら何でも』
『そのくらい、簡単だわ!ねえ、あなた?ん、でもあなた大精霊の力どこへ放っぽり出してきたの?それじゃ、加護くらいは与えられても、道標は無理ねえ。……そうだわ、私のフェニックスちゃんを貸したげる!』
「えっ」
「フェニックス?」
『カ、カルラッ、マイハニー・クランペット!フェニックスは幾ら何でも』
『あなた?』
『うっ』
『この子。赤毛の子は、あなたの管轄よね?』
『うう』
『私がわからないとでも思ったのかしら?』
『か、カルラ、それ以上は』
『ガルシアの子でしょう。ちゃんと面倒見てあげなさいな』
クルトがぴくりと眉を跳ね上げた。
「今、なんて…?」
『あら?』
『カルラ、それは内緒だって…』
『あら、やだ。そうだったかしら…』
「あの、ガルシアって、クルトさんのお父さん…?」
「どういうことだか、詳しく教えてくれますか」
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