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第4章:聖地アードグイ編
第97話:策士なのか無謀なのか
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クルトが切れた。
==========
「わたし一人で行ってくる」
「「「は?」」」
ミヤがおかしなことを口走って、僕達は呆気にとられて口を開いた。一人で行く?どこへ?
「何、言って……?」
「おい、おい、嬢ちゃん。ふざけてる場合じゃねえぞ」
「ミヤ嬢、落ち着くんだ。あなただけで解決できることではないだろう」
次いで、アイザックもガーネットも呆れたように声をあげた。
「だって。カリプソの言う通り、ガーネットさんはウスカーサの加護、受けていないでしょ。火の聖地は息もできないほどだって言うし、どうしたって四人で海峡を渡るのは無理だし。カリプソの喧嘩を買ったのはわたしだし。みんな、国のことだけでも大変なのに、私が精霊王の孫娘でいろいろ無理難題押し付けられてるし。わざわざ、わたしのためにみんなの命を危険にさらすこともないでしょう?」
「ミヤ、僕らがここまで一緒に来たのは何も君を一人で聖地へ送り込むためじゃないんだよ?」
「それはわかってるし、すごく助かってる。みんながいなかったら、オワンデル屋敷の魍魎にも対処できなかったし。でも」
「ミヤ、それ以上言ったら怒るよ?」
僕は、自分は割と気が長い方だと自負していた。頭の悪い連中は、すっぱり割り切る質ではあったが、自分の部下がバカなことを言ったとしても、最後まで聞いてやるだけの度量はあったはずだ。ミヤに対しては、声を荒げたことすらない、はずだ。意外と短気で喧嘩っ早い彼女が可愛いとすら思っている。気が強くて我慢強い、キレるととんでもない行動力を持ったミヤの、くるくる変わる表情が好きだと思った。
でも、これはダメだ。喧嘩っ早いとか、短気とかの範囲じゃない。
「だって、みんなが犠牲になることはない」
「ミヤ、ちょっと来い」
「えっ」
「おっおい、ハルクルト…」
「アイザックとガーネットはルノーに連絡を取ってくれ。あいつと一緒に王都へ戻れ」
「な、なん…」
「命令だ!」
「…っ!」
「ここから先は僕とミヤで行く。お前たちでは海峡は渡れないのは確かだから、あとはルノーに従え。もしくはあいつを使え。ミヤは必ず連れて帰る」
「ちょ、ちょっと、クルトさ…」
僕はミヤの腕を乱暴に掴んで崖から離れ、風魔法で宙に飛んだ。アイザックたちには有無を言わさず命令という形をとった。一言でも不満が出たら、その場で殴りつける自信もあったが、幸いアイザックもガーネットも一言も言わず引き下がった。
*****
ハルクルトがキレた。
「ア、アイザック…ミヤ嬢は大丈夫だろうか…?」
「……まあ、大丈夫だろう。あいつは女を殴るようなやつじゃないし…」
「な、殴るって、ミヤ嬢死んでしまうぞ?」
「だから、殴るわけねえって。っていうか、あそこで一言でも発したら、俺たちが死んでただろーが。おっそろしい殺気放ちやがって」
「息の仕方を忘れたかと思った…」
「あれが本来のハルクルトなんだ……嬢ちゃんに会ってからが、おかしかっただけで…」
瘴魔に出会った時よりやべえと思った。確かに嬢ちゃんの一言は、俺も怒鳴りつけようかと思ったけれど。あれじゃ、ウスクヴェサールと時と変わらないじゃないか。
全く。バカとしか言いようがない。
小さな体で、言うことだけは聖女並だ。両手をいっぱいに広げて全てを守ろうとする。たとえそれが不可能で、なんの手立ても案も立てられなくても、なんとかしようとするところは見上げた根性だが、策もなくむざむざ死にに行くのは無謀で、ただのバカのすることだ。俺たちが全然役に立たないみたいな言い方をすれば、ハルクルトが怒るのもわかるだろう。なんだってわざわざ口に出すんだ、あれは。
………いや、待てよ…。
「まさか、それが手なのか?」
「なんだ?」
「あいつ…ハルクルトを怒らせて、俺たちを追っ払うつもりだったのか」
「はあ?まさか。ミヤ嬢にそんな策士みたいな真似ができるわけ…」
だよな。あいつは単純で怒りっぽく、悔しければ泣きわめくし、すぐに突っかかってくる子供だ。
「…だが、カリプソを目の前にしてもやけに度胸が座っていやがったし……もしかして、俺、か?」
「どういうことだ?」
「カリプソは、俺を狙っていた。うまそうだとかなんとか言ってただろう。カリプソにとって、ハルクルトはおそらく警戒するレベルで、俺はそれほどでもない。アンタに限っていえば、水の加護もないから当然海峡を渡るのは難しい。かといって一人でここに残すわけにもいかねえし」
「……それじゃあ、ミヤ殿はそれを考えた上で…ハルクルト殿を挑発したのか?あるいは、彼もその案に乗って…?」
「いや、ハルクルトは踊らされただけだ。あんな殺気、あいつは今まで嬢ちゃんに向けたことなんか、一度たりともない」
俺は乾いた唇を舐めた。まさか、あの短い時間でそんなことを考えていたわけ、ねえよな。単純に、単純な頭のまま、ああなったのか。
「もし。もし、アイザックの言う通りなら、さすがに愛し子だと思うべきなのか?それとも、ミヤ嬢は軍師ほどの策士なのか」
「あ~、ちくしょう。わかんねえよ。わかんねえけど、ここはあいつらに任せるしかねえんじゃないか?俺達が足を引っ張るわけにはいかねえだろう?ルノーに連絡取るわ」
「……そうだな。私はあまり役には立たなかったから…」
「バーカ。これから役に立つんだよ。ハルクルトと嬢ちゃんに大精霊と聖地を任せるとなると、次は生き残ったルブラート教の連中と、モンドと、ミラート神国の内戦を抑えなきゃなんねえ。じゃなきゃ、あいつらが精霊を助けても国民は助けられねえだろ」
「私たちは、私たちの仕事をしろということか。……わかった。私は、お前たちについていくぞ」
「おう。大船に乗ったつもりでいろ。国を立て直す」
*****
「ク、クルトさん、痛い…」
掴まれた腕が、キリキリと締まりうっ血しそうだとミヤコは思った。そしてそれ以上に、冷凍庫の中にいるような冷たい空気がクルトから発されて凍りそうだ。
空中に浮かび上がったと思ったら、とんでもない高さの大木の枝に降ろされた。崖ははるか下方にあり、聖地アードグイの火山が良く見える。あまりの高さにちょっとビビるミヤコだったが、クルトは腕を掴んだまま聖地を睨みつけている。
「どういうつもりだ?」
そう静かに言ったクルトの声は冷ややかで、ミヤコはごくりと喉を鳴らした。口調がまるで違った。いつもの優しくて甘いクルトの声ではない。
———怒ってる。
「あ、あの、ね。だって」
「だって?一人で死にに行くような真似を僕がさせるとでも?ミヤ一人で何ができると?」
そう言ったクルトはパッとミヤの腕を離し、バランスを失ったミヤはぎくっとして慌てて木の幹にしがみ付いた。
「く、クルトさん」
「そこにずっといてもいいんだよ?自力で降りるかい?落ちたら間違いなく死ねるよ?」
「死…?」
「死にたいのなら、カリプソじゃなくても僕が殺してあげるよ。溺れ死にしたい?酸欠で死ぬのはメチャクチャ苦しいって知ってる?それともいじめ抜いてあげようか」
「ちょ、ちょっと待って。クルトさん?」
「それとも、どこかに閉じ込めて心ゆくまで僕だけのものにしてもいい。大精霊だろうと、ミラート神だろうと僕にはどうでもいいことだし?」
———待って!?クルトさんが、ヤンデレになった!?
「え?えっと、あのクルトさん、落ち着いて。ええと、違うの!ちゃんと聞いて?」
「ミヤこそ、ちゃんと聞いてくれ。何度も何度も!どうして同じことをするんだ!君を愛してると!二度と離さないと何度言えば、わかってもらえる?!緑の砦でも、ウスクヴェサールでも、日本の君の家でも!何度君を失うかと思って、気が狂いそうになったか、君はわかってるか!?」
「そ、そんなに死にそうになってはいないと……」
「それだけじゃない!アイザックにだってルノーにだって、どれだけ体を許した!あの君の国の男にも…。僕がどれだけ…」
クルトの感情とともに暴風が吹き荒れ、ミヤコは必死で木の枝にしがみつきながら、冷や汗をかいていた。
———体を許した覚えはないけど!?誤解?それとも、やきもちなの!?どこに怒ってるのかわからないんだけど!?
「待って!クルトさん!こ、これ作戦!そう、作戦だから!」
「……作、戦?」
本当は、違う。ミヤコは本当に自分でなんとかしちゃおうと思っていた。ウスカーサの力を借りて海さえ渡れれば、なんとかなるんじゃないかと思ったのだ。精霊王の孫という立場も使えるのなら使うし、言霊の力で強制的になんとかなるのではないか、と軽く考えていたのは確かだ。だが、この状態はヤバイ。クルトが暴走している。初めて、この人は敵に回すべきではないとミヤコの本能が警鐘を鳴らした。マジで監禁。やばい。
「そう、作戦なの!だから落ち着いて!」
「……作戦……」
「だって、ほら!か、カリプソがアイザックさんが美味しそうだって言ってたでしょ!だからアイザックさんとガーネットさんをこっちに残しておくのに、ええと、いい言い訳になるかなって、思って」
「カリプソ…」
「うんっ!そう。カリプソ!」
風がピタリと止まる。それまで風で宙に浮かんでいたクルトもミヤがしがみ付いている木の枝に腰を下ろした。
「クルトさんを怒らせるつもりはなかったのだけど…ガーネットさんは加護を受けていないでしょう。かといって一人で残すわけにもいかないし、アイザックさんはきっと自分犠牲にしてもついてくるに決まってる。あの人、ウスクヴェサールでもついてきたし…」
「……ああ…アイザックは、確かに……」
「だ、だから、それならクルトさんも一緒に残ってくれれば、アイザックさんを引き留めてくれると思っ…」
全てを言い終える前にミヤコの唇が食いつくようにクルトに塞がれた。歯がぶつかったがクルトはお構いなしだ。
「んっ…ク、クルトさ…」
「一人で行くなんて、二度と言わせない。思い知らせてやる」
猛獣のように、クルトは容赦なくミヤコに襲いかかった。足元のおぼつかない木の上で、下手に逃げてバランスを崩して落下したら、とちらりと下を見れば、到底助からないであろう高さだった。結果として、ミヤコはクルトにしがみ付いた。そんなミヤコにますます勢いついたクルトは、木の幹にミヤコを押し付け荒々しくその首筋に噛み付いた。
もちろん風の結界を作り、落ちないようにしたことは言うまでもない。
==========
R15ってどこまで許されるのか、ちょっと不安。書いてる作者は迷走中。
==========
「わたし一人で行ってくる」
「「「は?」」」
ミヤがおかしなことを口走って、僕達は呆気にとられて口を開いた。一人で行く?どこへ?
「何、言って……?」
「おい、おい、嬢ちゃん。ふざけてる場合じゃねえぞ」
「ミヤ嬢、落ち着くんだ。あなただけで解決できることではないだろう」
次いで、アイザックもガーネットも呆れたように声をあげた。
「だって。カリプソの言う通り、ガーネットさんはウスカーサの加護、受けていないでしょ。火の聖地は息もできないほどだって言うし、どうしたって四人で海峡を渡るのは無理だし。カリプソの喧嘩を買ったのはわたしだし。みんな、国のことだけでも大変なのに、私が精霊王の孫娘でいろいろ無理難題押し付けられてるし。わざわざ、わたしのためにみんなの命を危険にさらすこともないでしょう?」
「ミヤ、僕らがここまで一緒に来たのは何も君を一人で聖地へ送り込むためじゃないんだよ?」
「それはわかってるし、すごく助かってる。みんながいなかったら、オワンデル屋敷の魍魎にも対処できなかったし。でも」
「ミヤ、それ以上言ったら怒るよ?」
僕は、自分は割と気が長い方だと自負していた。頭の悪い連中は、すっぱり割り切る質ではあったが、自分の部下がバカなことを言ったとしても、最後まで聞いてやるだけの度量はあったはずだ。ミヤに対しては、声を荒げたことすらない、はずだ。意外と短気で喧嘩っ早い彼女が可愛いとすら思っている。気が強くて我慢強い、キレるととんでもない行動力を持ったミヤの、くるくる変わる表情が好きだと思った。
でも、これはダメだ。喧嘩っ早いとか、短気とかの範囲じゃない。
「だって、みんなが犠牲になることはない」
「ミヤ、ちょっと来い」
「えっ」
「おっおい、ハルクルト…」
「アイザックとガーネットはルノーに連絡を取ってくれ。あいつと一緒に王都へ戻れ」
「な、なん…」
「命令だ!」
「…っ!」
「ここから先は僕とミヤで行く。お前たちでは海峡は渡れないのは確かだから、あとはルノーに従え。もしくはあいつを使え。ミヤは必ず連れて帰る」
「ちょ、ちょっと、クルトさ…」
僕はミヤの腕を乱暴に掴んで崖から離れ、風魔法で宙に飛んだ。アイザックたちには有無を言わさず命令という形をとった。一言でも不満が出たら、その場で殴りつける自信もあったが、幸いアイザックもガーネットも一言も言わず引き下がった。
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ハルクルトがキレた。
「ア、アイザック…ミヤ嬢は大丈夫だろうか…?」
「……まあ、大丈夫だろう。あいつは女を殴るようなやつじゃないし…」
「な、殴るって、ミヤ嬢死んでしまうぞ?」
「だから、殴るわけねえって。っていうか、あそこで一言でも発したら、俺たちが死んでただろーが。おっそろしい殺気放ちやがって」
「息の仕方を忘れたかと思った…」
「あれが本来のハルクルトなんだ……嬢ちゃんに会ってからが、おかしかっただけで…」
瘴魔に出会った時よりやべえと思った。確かに嬢ちゃんの一言は、俺も怒鳴りつけようかと思ったけれど。あれじゃ、ウスクヴェサールと時と変わらないじゃないか。
全く。バカとしか言いようがない。
小さな体で、言うことだけは聖女並だ。両手をいっぱいに広げて全てを守ろうとする。たとえそれが不可能で、なんの手立ても案も立てられなくても、なんとかしようとするところは見上げた根性だが、策もなくむざむざ死にに行くのは無謀で、ただのバカのすることだ。俺たちが全然役に立たないみたいな言い方をすれば、ハルクルトが怒るのもわかるだろう。なんだってわざわざ口に出すんだ、あれは。
………いや、待てよ…。
「まさか、それが手なのか?」
「なんだ?」
「あいつ…ハルクルトを怒らせて、俺たちを追っ払うつもりだったのか」
「はあ?まさか。ミヤ嬢にそんな策士みたいな真似ができるわけ…」
だよな。あいつは単純で怒りっぽく、悔しければ泣きわめくし、すぐに突っかかってくる子供だ。
「…だが、カリプソを目の前にしてもやけに度胸が座っていやがったし……もしかして、俺、か?」
「どういうことだ?」
「カリプソは、俺を狙っていた。うまそうだとかなんとか言ってただろう。カリプソにとって、ハルクルトはおそらく警戒するレベルで、俺はそれほどでもない。アンタに限っていえば、水の加護もないから当然海峡を渡るのは難しい。かといって一人でここに残すわけにもいかねえし」
「……それじゃあ、ミヤ殿はそれを考えた上で…ハルクルト殿を挑発したのか?あるいは、彼もその案に乗って…?」
「いや、ハルクルトは踊らされただけだ。あんな殺気、あいつは今まで嬢ちゃんに向けたことなんか、一度たりともない」
俺は乾いた唇を舐めた。まさか、あの短い時間でそんなことを考えていたわけ、ねえよな。単純に、単純な頭のまま、ああなったのか。
「もし。もし、アイザックの言う通りなら、さすがに愛し子だと思うべきなのか?それとも、ミヤ嬢は軍師ほどの策士なのか」
「あ~、ちくしょう。わかんねえよ。わかんねえけど、ここはあいつらに任せるしかねえんじゃないか?俺達が足を引っ張るわけにはいかねえだろう?ルノーに連絡取るわ」
「……そうだな。私はあまり役には立たなかったから…」
「バーカ。これから役に立つんだよ。ハルクルトと嬢ちゃんに大精霊と聖地を任せるとなると、次は生き残ったルブラート教の連中と、モンドと、ミラート神国の内戦を抑えなきゃなんねえ。じゃなきゃ、あいつらが精霊を助けても国民は助けられねえだろ」
「私たちは、私たちの仕事をしろということか。……わかった。私は、お前たちについていくぞ」
「おう。大船に乗ったつもりでいろ。国を立て直す」
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「ク、クルトさん、痛い…」
掴まれた腕が、キリキリと締まりうっ血しそうだとミヤコは思った。そしてそれ以上に、冷凍庫の中にいるような冷たい空気がクルトから発されて凍りそうだ。
空中に浮かび上がったと思ったら、とんでもない高さの大木の枝に降ろされた。崖ははるか下方にあり、聖地アードグイの火山が良く見える。あまりの高さにちょっとビビるミヤコだったが、クルトは腕を掴んだまま聖地を睨みつけている。
「どういうつもりだ?」
そう静かに言ったクルトの声は冷ややかで、ミヤコはごくりと喉を鳴らした。口調がまるで違った。いつもの優しくて甘いクルトの声ではない。
———怒ってる。
「あ、あの、ね。だって」
「だって?一人で死にに行くような真似を僕がさせるとでも?ミヤ一人で何ができると?」
そう言ったクルトはパッとミヤの腕を離し、バランスを失ったミヤはぎくっとして慌てて木の幹にしがみ付いた。
「く、クルトさん」
「そこにずっといてもいいんだよ?自力で降りるかい?落ちたら間違いなく死ねるよ?」
「死…?」
「死にたいのなら、カリプソじゃなくても僕が殺してあげるよ。溺れ死にしたい?酸欠で死ぬのはメチャクチャ苦しいって知ってる?それともいじめ抜いてあげようか」
「ちょ、ちょっと待って。クルトさん?」
「それとも、どこかに閉じ込めて心ゆくまで僕だけのものにしてもいい。大精霊だろうと、ミラート神だろうと僕にはどうでもいいことだし?」
———待って!?クルトさんが、ヤンデレになった!?
「え?えっと、あのクルトさん、落ち着いて。ええと、違うの!ちゃんと聞いて?」
「ミヤこそ、ちゃんと聞いてくれ。何度も何度も!どうして同じことをするんだ!君を愛してると!二度と離さないと何度言えば、わかってもらえる?!緑の砦でも、ウスクヴェサールでも、日本の君の家でも!何度君を失うかと思って、気が狂いそうになったか、君はわかってるか!?」
「そ、そんなに死にそうになってはいないと……」
「それだけじゃない!アイザックにだってルノーにだって、どれだけ体を許した!あの君の国の男にも…。僕がどれだけ…」
クルトの感情とともに暴風が吹き荒れ、ミヤコは必死で木の枝にしがみつきながら、冷や汗をかいていた。
———体を許した覚えはないけど!?誤解?それとも、やきもちなの!?どこに怒ってるのかわからないんだけど!?
「待って!クルトさん!こ、これ作戦!そう、作戦だから!」
「……作、戦?」
本当は、違う。ミヤコは本当に自分でなんとかしちゃおうと思っていた。ウスカーサの力を借りて海さえ渡れれば、なんとかなるんじゃないかと思ったのだ。精霊王の孫という立場も使えるのなら使うし、言霊の力で強制的になんとかなるのではないか、と軽く考えていたのは確かだ。だが、この状態はヤバイ。クルトが暴走している。初めて、この人は敵に回すべきではないとミヤコの本能が警鐘を鳴らした。マジで監禁。やばい。
「そう、作戦なの!だから落ち着いて!」
「……作戦……」
「だって、ほら!か、カリプソがアイザックさんが美味しそうだって言ってたでしょ!だからアイザックさんとガーネットさんをこっちに残しておくのに、ええと、いい言い訳になるかなって、思って」
「カリプソ…」
「うんっ!そう。カリプソ!」
風がピタリと止まる。それまで風で宙に浮かんでいたクルトもミヤがしがみ付いている木の枝に腰を下ろした。
「クルトさんを怒らせるつもりはなかったのだけど…ガーネットさんは加護を受けていないでしょう。かといって一人で残すわけにもいかないし、アイザックさんはきっと自分犠牲にしてもついてくるに決まってる。あの人、ウスクヴェサールでもついてきたし…」
「……ああ…アイザックは、確かに……」
「だ、だから、それならクルトさんも一緒に残ってくれれば、アイザックさんを引き留めてくれると思っ…」
全てを言い終える前にミヤコの唇が食いつくようにクルトに塞がれた。歯がぶつかったがクルトはお構いなしだ。
「んっ…ク、クルトさ…」
「一人で行くなんて、二度と言わせない。思い知らせてやる」
猛獣のように、クルトは容赦なくミヤコに襲いかかった。足元のおぼつかない木の上で、下手に逃げてバランスを崩して落下したら、とちらりと下を見れば、到底助からないであろう高さだった。結果として、ミヤコはクルトにしがみ付いた。そんなミヤコにますます勢いついたクルトは、木の幹にミヤコを押し付け荒々しくその首筋に噛み付いた。
もちろん風の結界を作り、落ちないようにしたことは言うまでもない。
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R15ってどこまで許されるのか、ちょっと不安。書いてる作者は迷走中。
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