65 / 127
第3章:聖地ウスクヴェサール編
第61話:西獄谷の湖
しおりを挟む
アイザックはミヤコからもらった桃の酎ハイの効果に目を白黒とさせていた。
「な、なんて効き目だ、これは!」
ぶるりと体を震わせて、全快になった魔力と体力を実感する。
「おっそろしいもん、持ってたんだな嬢ちゃん…これも異界からの代物か…っとそんなことに感動してる場合じゃなかった」
我に戻ったアイザックは、精霊達を睨み付ける。
「おい!お前らがどう思おうと俺は嬢ちゃんを守るって決めてんだ。邪魔すんなよ!」
精霊達はキャーキャーと文句を言う。自分たちは『ミヤコに頼まれて、お前を助けてやったんだ』と言っているらしい。
「ハン。で?水の大精霊を救えだって?そりゃ嬢ちゃんを助けた後だ」
ミヤコが戦っているであろう方に走り出すアイザックだったが、その時ミヤコの澄んだ声が森に響いた。
「洗 礼!!」
その瞬間、辺りが真っ白に染まり、アイザックの体に白い光の刃が突き刺さった。
「ぐぁっ!?」
視界を光に奪われ、耳がキーンとなる。思わず体を丸め、防御体制になるが光の刃は容赦なく周囲を焼き付けていく。体の芯を焦がされたように、震えが走る。脂汗が背中を伝い、肺が焼け付くような痛みに悲鳴をあげた。体ごと消滅するかと思うほどの光を浴びて吹き飛んだアイザックだったが、精霊達が盾になりアイザックを守りきった。
凍るほどの冷たい水の中に突き落とされたような、痺れる感覚が身体中を巡る。はっはっ、と短く息を継ぎ、頭を左右に振るアイザック。
(な、なんだ今のは?)
気がつけば、精霊達がキューキューとアイザックを心配そうに見守っている。
「た、助かった。お前達守ってくれたのか…今の光はなんだ?」
『キャー…』
「妖精王を浄化した…?」
瘴気化した妖精王を浄化したのは確かにミヤコの言霊だった。妖精王の力の元は純粋な光。聖なる力。それは陰と陽を備え持つ人間には純粋すぎて肉体も精神も耐えられたものではないという。陰を強く持つ人間は魂を焼かれ、存在そのものを打ち消されてしまうし、そうでないものも、その衝撃はかなり強い。
「危険ってのは、こういうことか…」
アイザックのように神官の血を引き、聖の魔力を持つ者ですら、精霊の保護がなければ今この地点で意識があるかも怪しい。いや、生きていたかどうかもわからないほどだ。いかにミヤコが精霊王の孫といえど、あれを至近距離でまともに受けて、無事であるかはわからない。
ましてやミヤコは生身の人間なのだ。
アイザックは顔を上げ駆け出そうとして、はっと固まった。
目の前に広がるのはもはや森ではなく。
ざわざわと成長を続ける薬草の群れ。
大きなクレーターに流れ込む川の水が精霊によって浄化され、朝日を浴びて輝いている。
その先に浮かぶ小さな赤。
ハルクルトの髪と同じ色の炎鼠のショールと、そこから水に押され離れていく小さなバックパック。半分沈みかけた小さな体はボロボロになり、意識はない。
「嬢ちゃんっ!」
アイザックは思うより早く川に飛び込み、ミヤコに向かって泳いだ。
精霊たちが半分石化したミヤコの体を支えているが、クレーターに流れ込む水は勢いを増して中心に向かって渦を巻いていく。
「引き込まれる!」
アイザックは必死になってミヤコの体を抱きかかえるが、水圧に対抗しきれず岸が遠ざかる。
息を大きく吸い込み息を止め、水中に備えるが、突然目の前に現れた大きな水で出来た手に掴まれ、水中に引きずり込まれてしまう。
(水魔⁉︎)
アイザックは必死にミヤコを守りながら足掻くが、水中となれば部が悪く大剣すら振れない。
(息が続かねえっ!)
ゴボっと空気が漏れアイザックは、ミヤコの体を取り逃がしてしまう。
(しまった…!嬢ちゃん…!)
ミヤコの体がそのまま水泡に包まれ深く沈んでいくのを、アイザックは手を伸ばしながらも薄れ行く意識の中で見つめて、視界は暗転した。
*****
西獄谷の様子は一変し、薄暗く生い茂っていた木々は薙ぎ倒され、差し込んだ朝日があたりをやわらかく照らしている。精霊たちが残したミヤコの歌声がわずかに、かすかに残っているような気がして、クルトは囁く風に耳を傾けた。
「ミヤ…ミヤ、どこだ?」
締め付けられる胸に拳を当ててぎゅっと目を瞑り、気配を探る。
わずかな動きでもいい、どうか。
暴力的に破壊された山や薙ぎ倒された木々が、クルトの血を凍らせる。目を覚ました時には、既に谷は跡形もなく、地図上では沼地と記されていた場所には大きな湖ができていた。
山から流れ出る鉱泉が湖を満たしていく。精霊たちがキラキラと水面で踊る。泉の中心にはこんもりとできた山があるが、それすらもミントで覆われている。ミヤコが持ち込んだものに違いない。薬草の成長は未だに止まっていない。まるで傷ついた大地を癒していくかのように静かに覆い尽くしていく。
瘴気はもう完全に消え失せて、谷には柔らかな朝日が差し込んでいた。
「瘴気が消えた…。いったい何が起こったんだ…」
辺りを見渡しながら、湖に沿って足を踏み入れる。土肌はすでにミントや他の薬草や雑草に埋もれ、そこで何があったのかさえ隠してしまう。ミヤコの足跡もマロッカの足跡も、邪悪な何かも全て飲み込んでしまった。
ルブラート教のアジトがあるとモンドが言っていた。
まさか、奴らにさらわれたのでは。
そう考えて、クルトは頭を振った。
「この惨状で人が生きているようには思えない。ルブラート教の者がたとえここに潜んで居たとしても…」
そう言って、グッと息がつまる。
何 人 も 生 き て い る よ う に は 思 え な い。
「ハルクルト隊長!」
はっと頭を上げると、先に奥地を探索に行っていたルノーが戻ってきた。
「アイザックを見つけたっス!」
クルトは風魔法を使ってルノーと先を急いだ。
果たして、見つけたアイザックはあちこちにひどい傷を作ってはいたものの、生きていた。
「アイザック!」
クルトは自分の持っていた桃の酎ハイを開けると、アイザックの口へ流し込んだ。
最初はゴフッと吐き出したアイザックだったが、ゆっくり目を開き口に当てられた完全回復薬を飲み込んだ。
みるみるアイザックの瞳に色が戻る。
ふうっと長い息を吐くとアイザックは体を起こして座り込んだ。コキコキと首を鳴らし、ぼんやりと目の前の風景を見つめる。
「……ハル、クルト、か。すまん……」
「何があったのか話せるか」
「ああ……」
アイザックはクルトたちを眠らせてから、自分が気を失うまでの出来事をすべて伝えた。
「俺自身、瘴魔にあって時間を取られて…それから光の爆発があって……嬢ちゃんがどんな状態だったのかわからん。だが、あれは妖精王の浄化の光だったんだと思う」
アイザックはうなだれて拳を握りしめた後、苦々しく言い添えた。
「湖に浮かぶ嬢ちゃんを…見た…。助けようとして、飛び込んだんだが、嬢ちゃんの半身が石化してて…それから大きな手の形をした水の塊が俺たちを飲み込んで……気がついたら、俺だけが…」
「石化……ミヤは、瘴気をまともに浴びたのか…」
まさか。そんな事があってたまるか。
ミヤが、いなくなるなんて。あり得ない。信じない。
目の前が暗くなり、魔力が溢れ出しそうになる。
『ダ イ ジョ ウ ブ』
唇を噛み締めながら話を聞いていたクルトははっとして、顔を上げた。
「……精霊?」
くすくすと笑い声が聞こえる。
周りにふわふわと飛ぶ光は精霊よりも少し大きくひらひらと飛び回る。
『チガウヨー』
『デモ、チカイー』
これは、なんだ?
精霊じゃない。もっとはっきりした形のあるもの…。
「ミヤはどこだ?どこにいる?」
「ど、どうしたんっすか、ハルクルトさん」
ルノーが訝しげにクルトを見る。
「ハルクルト、精霊が見えるのか?」
「……いや、精霊ではない、何か。アイザック、お前に見えないのか?」
アイザックが首を振る。
「妖精、か?」
「妖精!?視えるんっすか?」
『ミヤコ ボクラノ王様 タスケタ』
『ダカラ ボクラ ミヤコ タスケル』
「…っ!」
ミヤは生きてる。
震える声を押し殺しながら、クルトの瞳に生気が宿った。
「妖精が、ミヤを保護したようだ」
「マジか!」
「ハルクルトさん、妖精と会話してるんっすか!?」
『人間、水ノ王様、タスケテ』
「水の王…!わかった。ルノー!アイザック!」
クルトは新たな使命を目の前にして、ルノーとアイザックに向き直る。
「水の大精霊を救うぞ」
「アイ、アイ!聖地っスね」
アイザックは残った桃の酎ハイを飲み干して、スクッと立ち上がった。
「俺が案内する!」
*****
グレンフェールの街に残された討伐隊員とモンドの率いる戦士が、ミヤコが残した新たな森を伐採しながら進み西獄谷へと向かう。生い茂った薬草を薙ぎながらの行路は遅々として進まないが、討伐隊員たちは新鮮な空気を吸い込みながら、ミヤコたちの作戦がうまくいったことを確信していた。
「あの女、余計なことを…!」
ただ一人、苛々しく歯ぎしりをするモンドであったが、アッシュたち討伐隊員はそんなモンドを冷めた目で見張りながら口を噤み、黙々と道を作りながら考える。この森があったからこそ、街が瘴気に包まれるのを塞いだし、あの強烈な光を遮断できたのだ。それぞれが、悪態をつくモンドに憎悪の炎を燃やす。誰もがあの時の神々しいとも言える光にひれ伏した。
――あの光は過去に東の魔の森を払った力とは違うものだった。ミヤさんの歌ではない、もっと暴力的で神々しい何か。あるいは、彼女が隠し持っていた本来の力か。詳細はわからないが、あの4人だからこそこんな無茶な方法が取れたのだ。瘴気を留めたのがミヤさんなら、隊長もルノーもアイザックも大丈夫だ。きっと。
アッシュはモンドを背後から睨みつけながら、次の行動を考えた。
――だが、これがモンドの作戦に影を差したのは間違いないようだ。ルブラート教に関してか。一体この男は何を狙っているのか…。
討伐隊が西獄谷にたどり着いたのは、昼も過ぎた頃だった。
「な、なんて効き目だ、これは!」
ぶるりと体を震わせて、全快になった魔力と体力を実感する。
「おっそろしいもん、持ってたんだな嬢ちゃん…これも異界からの代物か…っとそんなことに感動してる場合じゃなかった」
我に戻ったアイザックは、精霊達を睨み付ける。
「おい!お前らがどう思おうと俺は嬢ちゃんを守るって決めてんだ。邪魔すんなよ!」
精霊達はキャーキャーと文句を言う。自分たちは『ミヤコに頼まれて、お前を助けてやったんだ』と言っているらしい。
「ハン。で?水の大精霊を救えだって?そりゃ嬢ちゃんを助けた後だ」
ミヤコが戦っているであろう方に走り出すアイザックだったが、その時ミヤコの澄んだ声が森に響いた。
「洗 礼!!」
その瞬間、辺りが真っ白に染まり、アイザックの体に白い光の刃が突き刺さった。
「ぐぁっ!?」
視界を光に奪われ、耳がキーンとなる。思わず体を丸め、防御体制になるが光の刃は容赦なく周囲を焼き付けていく。体の芯を焦がされたように、震えが走る。脂汗が背中を伝い、肺が焼け付くような痛みに悲鳴をあげた。体ごと消滅するかと思うほどの光を浴びて吹き飛んだアイザックだったが、精霊達が盾になりアイザックを守りきった。
凍るほどの冷たい水の中に突き落とされたような、痺れる感覚が身体中を巡る。はっはっ、と短く息を継ぎ、頭を左右に振るアイザック。
(な、なんだ今のは?)
気がつけば、精霊達がキューキューとアイザックを心配そうに見守っている。
「た、助かった。お前達守ってくれたのか…今の光はなんだ?」
『キャー…』
「妖精王を浄化した…?」
瘴気化した妖精王を浄化したのは確かにミヤコの言霊だった。妖精王の力の元は純粋な光。聖なる力。それは陰と陽を備え持つ人間には純粋すぎて肉体も精神も耐えられたものではないという。陰を強く持つ人間は魂を焼かれ、存在そのものを打ち消されてしまうし、そうでないものも、その衝撃はかなり強い。
「危険ってのは、こういうことか…」
アイザックのように神官の血を引き、聖の魔力を持つ者ですら、精霊の保護がなければ今この地点で意識があるかも怪しい。いや、生きていたかどうかもわからないほどだ。いかにミヤコが精霊王の孫といえど、あれを至近距離でまともに受けて、無事であるかはわからない。
ましてやミヤコは生身の人間なのだ。
アイザックは顔を上げ駆け出そうとして、はっと固まった。
目の前に広がるのはもはや森ではなく。
ざわざわと成長を続ける薬草の群れ。
大きなクレーターに流れ込む川の水が精霊によって浄化され、朝日を浴びて輝いている。
その先に浮かぶ小さな赤。
ハルクルトの髪と同じ色の炎鼠のショールと、そこから水に押され離れていく小さなバックパック。半分沈みかけた小さな体はボロボロになり、意識はない。
「嬢ちゃんっ!」
アイザックは思うより早く川に飛び込み、ミヤコに向かって泳いだ。
精霊たちが半分石化したミヤコの体を支えているが、クレーターに流れ込む水は勢いを増して中心に向かって渦を巻いていく。
「引き込まれる!」
アイザックは必死になってミヤコの体を抱きかかえるが、水圧に対抗しきれず岸が遠ざかる。
息を大きく吸い込み息を止め、水中に備えるが、突然目の前に現れた大きな水で出来た手に掴まれ、水中に引きずり込まれてしまう。
(水魔⁉︎)
アイザックは必死にミヤコを守りながら足掻くが、水中となれば部が悪く大剣すら振れない。
(息が続かねえっ!)
ゴボっと空気が漏れアイザックは、ミヤコの体を取り逃がしてしまう。
(しまった…!嬢ちゃん…!)
ミヤコの体がそのまま水泡に包まれ深く沈んでいくのを、アイザックは手を伸ばしながらも薄れ行く意識の中で見つめて、視界は暗転した。
*****
西獄谷の様子は一変し、薄暗く生い茂っていた木々は薙ぎ倒され、差し込んだ朝日があたりをやわらかく照らしている。精霊たちが残したミヤコの歌声がわずかに、かすかに残っているような気がして、クルトは囁く風に耳を傾けた。
「ミヤ…ミヤ、どこだ?」
締め付けられる胸に拳を当ててぎゅっと目を瞑り、気配を探る。
わずかな動きでもいい、どうか。
暴力的に破壊された山や薙ぎ倒された木々が、クルトの血を凍らせる。目を覚ました時には、既に谷は跡形もなく、地図上では沼地と記されていた場所には大きな湖ができていた。
山から流れ出る鉱泉が湖を満たしていく。精霊たちがキラキラと水面で踊る。泉の中心にはこんもりとできた山があるが、それすらもミントで覆われている。ミヤコが持ち込んだものに違いない。薬草の成長は未だに止まっていない。まるで傷ついた大地を癒していくかのように静かに覆い尽くしていく。
瘴気はもう完全に消え失せて、谷には柔らかな朝日が差し込んでいた。
「瘴気が消えた…。いったい何が起こったんだ…」
辺りを見渡しながら、湖に沿って足を踏み入れる。土肌はすでにミントや他の薬草や雑草に埋もれ、そこで何があったのかさえ隠してしまう。ミヤコの足跡もマロッカの足跡も、邪悪な何かも全て飲み込んでしまった。
ルブラート教のアジトがあるとモンドが言っていた。
まさか、奴らにさらわれたのでは。
そう考えて、クルトは頭を振った。
「この惨状で人が生きているようには思えない。ルブラート教の者がたとえここに潜んで居たとしても…」
そう言って、グッと息がつまる。
何 人 も 生 き て い る よ う に は 思 え な い。
「ハルクルト隊長!」
はっと頭を上げると、先に奥地を探索に行っていたルノーが戻ってきた。
「アイザックを見つけたっス!」
クルトは風魔法を使ってルノーと先を急いだ。
果たして、見つけたアイザックはあちこちにひどい傷を作ってはいたものの、生きていた。
「アイザック!」
クルトは自分の持っていた桃の酎ハイを開けると、アイザックの口へ流し込んだ。
最初はゴフッと吐き出したアイザックだったが、ゆっくり目を開き口に当てられた完全回復薬を飲み込んだ。
みるみるアイザックの瞳に色が戻る。
ふうっと長い息を吐くとアイザックは体を起こして座り込んだ。コキコキと首を鳴らし、ぼんやりと目の前の風景を見つめる。
「……ハル、クルト、か。すまん……」
「何があったのか話せるか」
「ああ……」
アイザックはクルトたちを眠らせてから、自分が気を失うまでの出来事をすべて伝えた。
「俺自身、瘴魔にあって時間を取られて…それから光の爆発があって……嬢ちゃんがどんな状態だったのかわからん。だが、あれは妖精王の浄化の光だったんだと思う」
アイザックはうなだれて拳を握りしめた後、苦々しく言い添えた。
「湖に浮かぶ嬢ちゃんを…見た…。助けようとして、飛び込んだんだが、嬢ちゃんの半身が石化してて…それから大きな手の形をした水の塊が俺たちを飲み込んで……気がついたら、俺だけが…」
「石化……ミヤは、瘴気をまともに浴びたのか…」
まさか。そんな事があってたまるか。
ミヤが、いなくなるなんて。あり得ない。信じない。
目の前が暗くなり、魔力が溢れ出しそうになる。
『ダ イ ジョ ウ ブ』
唇を噛み締めながら話を聞いていたクルトははっとして、顔を上げた。
「……精霊?」
くすくすと笑い声が聞こえる。
周りにふわふわと飛ぶ光は精霊よりも少し大きくひらひらと飛び回る。
『チガウヨー』
『デモ、チカイー』
これは、なんだ?
精霊じゃない。もっとはっきりした形のあるもの…。
「ミヤはどこだ?どこにいる?」
「ど、どうしたんっすか、ハルクルトさん」
ルノーが訝しげにクルトを見る。
「ハルクルト、精霊が見えるのか?」
「……いや、精霊ではない、何か。アイザック、お前に見えないのか?」
アイザックが首を振る。
「妖精、か?」
「妖精!?視えるんっすか?」
『ミヤコ ボクラノ王様 タスケタ』
『ダカラ ボクラ ミヤコ タスケル』
「…っ!」
ミヤは生きてる。
震える声を押し殺しながら、クルトの瞳に生気が宿った。
「妖精が、ミヤを保護したようだ」
「マジか!」
「ハルクルトさん、妖精と会話してるんっすか!?」
『人間、水ノ王様、タスケテ』
「水の王…!わかった。ルノー!アイザック!」
クルトは新たな使命を目の前にして、ルノーとアイザックに向き直る。
「水の大精霊を救うぞ」
「アイ、アイ!聖地っスね」
アイザックは残った桃の酎ハイを飲み干して、スクッと立ち上がった。
「俺が案内する!」
*****
グレンフェールの街に残された討伐隊員とモンドの率いる戦士が、ミヤコが残した新たな森を伐採しながら進み西獄谷へと向かう。生い茂った薬草を薙ぎながらの行路は遅々として進まないが、討伐隊員たちは新鮮な空気を吸い込みながら、ミヤコたちの作戦がうまくいったことを確信していた。
「あの女、余計なことを…!」
ただ一人、苛々しく歯ぎしりをするモンドであったが、アッシュたち討伐隊員はそんなモンドを冷めた目で見張りながら口を噤み、黙々と道を作りながら考える。この森があったからこそ、街が瘴気に包まれるのを塞いだし、あの強烈な光を遮断できたのだ。それぞれが、悪態をつくモンドに憎悪の炎を燃やす。誰もがあの時の神々しいとも言える光にひれ伏した。
――あの光は過去に東の魔の森を払った力とは違うものだった。ミヤさんの歌ではない、もっと暴力的で神々しい何か。あるいは、彼女が隠し持っていた本来の力か。詳細はわからないが、あの4人だからこそこんな無茶な方法が取れたのだ。瘴気を留めたのがミヤさんなら、隊長もルノーもアイザックも大丈夫だ。きっと。
アッシュはモンドを背後から睨みつけながら、次の行動を考えた。
――だが、これがモンドの作戦に影を差したのは間違いないようだ。ルブラート教に関してか。一体この男は何を狙っているのか…。
討伐隊が西獄谷にたどり着いたのは、昼も過ぎた頃だった。
10
お気に入りに追加
858
あなたにおすすめの小説

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」
ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」
美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。
夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。
さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。
政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。
「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」
果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる