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第1章:東の魔の森編
第34話:家族会議
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精霊王と祖母がミヤコに笑顔で近づき、そろそろ帰らないとね、といった。
それもそうだ、幽体離脱してこちら側に来てからそろそろ一週間。ミヤコの体もちょっと心配になってきたし、叔父夫婦も淳もきっと心配しているに違いない。帰ったら火葬済みとか冗談でも嫌だし、死んでなくてもげっそり痩せていたら、ただでさえない胸も尻もへこんでしまう。仕事も中途半端にしてしまった。
私の居場所はまだあるのだろうか、と少しばかり不安もある。
過去についても思い出したし、いろいろ叔父たちにも謝らなければ。ミヤコのことを思って何も言わず育ててくれたのだ。逃げてばかりいても仕方がない。きっちり向き合うべきだろう。
「ミヤ」
ぐっと気合を入れたところで、クルトがミヤコを呼び止めた。不安そうな顔のクルトを見てミヤコは安心させるように笑った。
「ひとまず本体に戻って、今度はちゃんと扉側から来ますよ」
とミヤコは笑うが、クルトは瞳を泳がせて言い淀むとミヤコの光に包まれた手を取った。しばらくその手を見つめてから、思い切ったように顔を上げてミヤコに向き合った。
「一方通行のドアはもう嫌だ。今回のことでは胃に穴が開くかと思った」
「ご、ごめんなさい」
「……僕から君に会いに行くことはできないのだろうか」
祖母が頬に手を当てながら、にこやかにクルトとミヤコに近付いた。
「あらあら。そのことなら私が」
そういうと、祖母はクルトにミヤコと同じ鍵を手渡した。
「これは…」
「この鍵は精霊王から。ミヤコが家にいるときだけ、この鍵は反応するから。でも入る前にノックはしてね。一応女の子の部屋だしね」
「あ、ありがとう、ございます」
クルトがちょっと赤くなってしどろもどろでお礼を言った。
「それから、ミヤコもうお供えもお線香もいらないわよ。あれは一種の安全装置だったからもう解除してあるの。ミヤコが向こうの植物をこちら側に持ち込んだ地点でね」
あれ、そういえば。ちょっと待って。
「一つ聞きたいんだけど。おばあちゃん、お葬式あげた、よね?」
そう。色々有り過ぎてお座なりになってたけど、なんで普通に会話してるの?
生きてるの?
あれは嘘なの?
それとも異世界転移なの?
「ああ、それはね。私も精霊になったからよ」
え?
「ほら、私はおじいちゃんと婚姻を結んだでしょ。精霊の契約と言ってね、血肉と精神を分けることができるのよ。肉体は滅びてしまうから仕方がないのだけど、精霊体は時間の干渉がないから。精霊王はこっちの人だし、私の体が持たなくなってこっちに来たの。ミヤコも成人したし、いつかこちらにつながる扉も見つけるだろうと思ってね。そうすればまた会えるし。あんまり遅かったら私から会いに行ってただろうけど。思ったより早くてびっくりよ」
「うわー…」
「ミヤコにも素質はあるわよ」
素質って、精霊になる素質?まあそれは身をもって今体験してますものねえ。幽体離脱。
「ま、まあ。それじゃクルトさん。私病院にいるらしいので、帰ってきたらまたこっち来ますね」
そう言ったミヤコに、クルトはつと近づくとおもむろにギュッと抱きしめた。
「…前に、君が来たい時にいつでも来ればいいと言ったけど」
耳元でクルトが囁くと、ミヤコは心臓が跳ね上がる思いで全身が真っ赤になる。
「本当は、毎日顔が見たい」
*****
「ふおおおおおっ!?」
心臓麻痺を起こすのではないかと思うほど跳ね上がる心臓を押さえて、ミヤコは飛び起きた。
「なんなの!なんなのっそれっ!!」
はた、と気がつくとそこは病院のベッドの上。
椅子から転げ落ちた淳と、花を活けようとして手に持っていた花瓶を落とした和子が、目を皿のようにして硬直してミヤコを見つめた。
「あ、あれ?」
一瞬の空白の後、歓喜してミヤコに抱きついた淳とパニックに陥った和子が雄叫びをあげ、看護婦が病室に飛び込んできた。
「ミヤッ、ミヤッ、ミヤコーーーー!!!!」
「生き返った、生き返った、生き返った!お父さんっ、お父さーーん!!」
「ぐっ!く、苦しっ!淳にいっ!死ぬっ!!シヌーーッ」
「何事ですかっ!真木村さん?どうしました!?」
***
「ええと、お騒がせしまして。すみません」
天地をひっくり返すような騒動が落ち着いた後、医者の精密検査を受けてミヤコは次の日無事、家に戻ってくることができた。
珍しく全員揃っているということで少し早いが、お昼ご飯を一緒に食べようということになり、叔父宅でカニ雑炊を土鍋で作り、それを囲んでの家族会議になった。
「全部、思い出しました」
「全部って…全部?」
「はい。両親のことも、私がやらかした事も、全部」
哲也がひゅっと息を飲み、全員が顔を見合わす。
「両親の件で叔父さんたちにも、おばあちゃんにも大変迷惑をかけました。それなのに都合よく忘れてしまって…ごめんなさい」
「ミヤコ、お前のせいじゃないんだよ。終わったことはもういい。辛いだろうが、事実を知ったのはよかったと思う」
哲也が絞り出すように声を出す。和子も今回ばかりは黙って手の中のお椀に目を伏せている。
「子供のお前にしてみれば、無邪気に母親を喜ばせようとしただけだ。花咲か爺さんみたいにな」
「5歳かそこらの子供をジジイにすんなよ、親父…」
少しの沈黙の後、プッと淳が笑い出す。
「よかったじゃんか。終わったことは戻せないけど、記憶が戻ったんならそこから新たに学べばいい。あの異世界の扉もクルトとかいう男のこともけじめつけるんだろ?」
ミヤコは一瞬気を張りつめたような面持ちになったが、フッと肩の力を抜くと、雑炊を一口すくった。一週間ぶりの温かい食事が腹にじわりとしみる。
「意識をなくしたのは、わたしの意識が向こう側にいたからなの。向こうで、おじいちゃんとおばあちゃんに会いました」
全員が怪訝な顔をする。和子がおずおずと口を開く。
「それは、夢の中で、ということ?」
「…ううん。向こうの世界で」
「お袋と親父、生きてんのか?」
震える手で哲也が箸を置いた。ミヤコの答えを食い入るように見ている。
「生きてるというか、精霊として、かな。おじいちゃんは向こう側の精霊王だから、おばあちゃんも精霊になったって。肉体は滅びてしまったけど、精霊体は時間の関与が物理的に違うから」
「そう、か。よくわからんけど、生きてんだな?」
「若返ってたよ、おばあちゃん」
「はあ?」
「精神の適応年齢に姿形が取れるんじゃないかなあ。30歳くらいになってた。中身が若かったからね、あの人」
これには皆ぽかんとしていたが、哲也がくくっと笑い、和子がずるいわね、と呟くと、あとはなし崩しに大笑いになった。淳だけはまだ腑に落ちない感じだったが。さすが、あの祖父母の子供だけあってあまり動じてないあたり、叔父とそれを夫に持つ叔母はすごいなと思う。
ミヤコの体が惰眠を貪っている間、向こうで何が起きたのかミヤコが何をしでかしたのかも包み隠さず伝えた。もう隠し事はいらない、したくないと思ったからだ。そしてこれからのことも相談をした。
「わたし、クルトさんのお店、手伝いたいの。収入についてはまだ考えていないんだけど、昔向こうで魔性の森とか創っちゃってて、なんか迷惑かけてきたみたいなんだ、忘れていた20年くらいの間。今はわたしの作る料理が向こうでは回復薬とかになるから役に立ちたいの」
「なんだよその魔性の森って。お前、魔王みたいだな」
淳が呆れてガハハと笑う。
「本当に。魔王で聖女で精霊の愛し子?めちゃくちゃだよ」
まあ、しばらくならいいんじゃないのと和子が言い、若いうちはやりたい事をやれと哲也が付け加えることで家族会議は終わった。のちに叔父夫婦は、定期的な状況報告と野菜を奉納することで、我が家の管理費は免除ということにしてくれた。
「俊則が見舞いに来てな」
そういえば、と取って付けた様に淳が言った。
「鈴木君が?」
「そうだった!あそこの酒屋にはわたしもう行きませんからね!可愛い娘をアバズレ呼ばわりされて、絶対許さないんだから!主婦をなめるんじゃないっていうのよ!」
思い出した様に和子がプリプリ怒りながら、おかわりの雑炊をミヤコに手渡す。
「殴ってやろうかとも思ったんだが、噂の元凶はあそこの親父らしい」
「ああ、そっか。自慢の息子だからね。わたしみたいなのが、うろちょろしてるのが嫌だったのかな」
「うろちょろしてたのはあっちだろ」
「うん、でもわたしも揺らいでたし…。なんだかんだいって、やっぱり聡の件で参ってたのかもしれない。ちょっとクラッとしちゃってね。告白されて、どうしようかなって。次の日に断っちゃったんだけどさ。もうちょっとちゃんと考えるべきだった」
そう、クルトさんと鈴木君を天秤に架けようとしてた。かまってくれて、愛してくれて居心地の良さを求めて。でもそれじゃ聡と一緒なんだって気づいたから、断ったんだけど。
期待させて傷つけたんだよね、また。
「どっちにしても、俊則にチャンスはないけどな。今の地点で、俺が許さん」
淳がへッと鼻で笑うと、とうとう酒を飲みだした哲也が口を挟んだ。
「なんだ、なんだ。男の一人や二人侍らせとけばいいだろが。ミヤコはいい女だからそのくらいでいいんだ」
「お父さん!やめてくださいよ、そんなふしだらな子に育てていないでしょ!」
「ミヤコは不器用なつくし型だから苦労するんだよ。遊べるうちに遊んどけ。あ、でも子供は作るなよ」
「親父、それは男の育て方だ。俺と美樹の子供には変なこと教えんなよ」
淳が呆れて雑炊をすする。
「あ、そういえば、美樹さんは?」
「今日は妊婦友達とウォーキング会だってさ」
「はあ。妊婦も大変だね」
「まあな。今の俺は下僕だ」
悩んでいた事も全てぶちまけて、すっきりしたミヤコが自宅に帰ったのは、夕方近くになってからだった。
==========
第1章 完。
読んでいただきありがとうございました。
それもそうだ、幽体離脱してこちら側に来てからそろそろ一週間。ミヤコの体もちょっと心配になってきたし、叔父夫婦も淳もきっと心配しているに違いない。帰ったら火葬済みとか冗談でも嫌だし、死んでなくてもげっそり痩せていたら、ただでさえない胸も尻もへこんでしまう。仕事も中途半端にしてしまった。
私の居場所はまだあるのだろうか、と少しばかり不安もある。
過去についても思い出したし、いろいろ叔父たちにも謝らなければ。ミヤコのことを思って何も言わず育ててくれたのだ。逃げてばかりいても仕方がない。きっちり向き合うべきだろう。
「ミヤ」
ぐっと気合を入れたところで、クルトがミヤコを呼び止めた。不安そうな顔のクルトを見てミヤコは安心させるように笑った。
「ひとまず本体に戻って、今度はちゃんと扉側から来ますよ」
とミヤコは笑うが、クルトは瞳を泳がせて言い淀むとミヤコの光に包まれた手を取った。しばらくその手を見つめてから、思い切ったように顔を上げてミヤコに向き合った。
「一方通行のドアはもう嫌だ。今回のことでは胃に穴が開くかと思った」
「ご、ごめんなさい」
「……僕から君に会いに行くことはできないのだろうか」
祖母が頬に手を当てながら、にこやかにクルトとミヤコに近付いた。
「あらあら。そのことなら私が」
そういうと、祖母はクルトにミヤコと同じ鍵を手渡した。
「これは…」
「この鍵は精霊王から。ミヤコが家にいるときだけ、この鍵は反応するから。でも入る前にノックはしてね。一応女の子の部屋だしね」
「あ、ありがとう、ございます」
クルトがちょっと赤くなってしどろもどろでお礼を言った。
「それから、ミヤコもうお供えもお線香もいらないわよ。あれは一種の安全装置だったからもう解除してあるの。ミヤコが向こうの植物をこちら側に持ち込んだ地点でね」
あれ、そういえば。ちょっと待って。
「一つ聞きたいんだけど。おばあちゃん、お葬式あげた、よね?」
そう。色々有り過ぎてお座なりになってたけど、なんで普通に会話してるの?
生きてるの?
あれは嘘なの?
それとも異世界転移なの?
「ああ、それはね。私も精霊になったからよ」
え?
「ほら、私はおじいちゃんと婚姻を結んだでしょ。精霊の契約と言ってね、血肉と精神を分けることができるのよ。肉体は滅びてしまうから仕方がないのだけど、精霊体は時間の干渉がないから。精霊王はこっちの人だし、私の体が持たなくなってこっちに来たの。ミヤコも成人したし、いつかこちらにつながる扉も見つけるだろうと思ってね。そうすればまた会えるし。あんまり遅かったら私から会いに行ってただろうけど。思ったより早くてびっくりよ」
「うわー…」
「ミヤコにも素質はあるわよ」
素質って、精霊になる素質?まあそれは身をもって今体験してますものねえ。幽体離脱。
「ま、まあ。それじゃクルトさん。私病院にいるらしいので、帰ってきたらまたこっち来ますね」
そう言ったミヤコに、クルトはつと近づくとおもむろにギュッと抱きしめた。
「…前に、君が来たい時にいつでも来ればいいと言ったけど」
耳元でクルトが囁くと、ミヤコは心臓が跳ね上がる思いで全身が真っ赤になる。
「本当は、毎日顔が見たい」
*****
「ふおおおおおっ!?」
心臓麻痺を起こすのではないかと思うほど跳ね上がる心臓を押さえて、ミヤコは飛び起きた。
「なんなの!なんなのっそれっ!!」
はた、と気がつくとそこは病院のベッドの上。
椅子から転げ落ちた淳と、花を活けようとして手に持っていた花瓶を落とした和子が、目を皿のようにして硬直してミヤコを見つめた。
「あ、あれ?」
一瞬の空白の後、歓喜してミヤコに抱きついた淳とパニックに陥った和子が雄叫びをあげ、看護婦が病室に飛び込んできた。
「ミヤッ、ミヤッ、ミヤコーーーー!!!!」
「生き返った、生き返った、生き返った!お父さんっ、お父さーーん!!」
「ぐっ!く、苦しっ!淳にいっ!死ぬっ!!シヌーーッ」
「何事ですかっ!真木村さん?どうしました!?」
***
「ええと、お騒がせしまして。すみません」
天地をひっくり返すような騒動が落ち着いた後、医者の精密検査を受けてミヤコは次の日無事、家に戻ってくることができた。
珍しく全員揃っているということで少し早いが、お昼ご飯を一緒に食べようということになり、叔父宅でカニ雑炊を土鍋で作り、それを囲んでの家族会議になった。
「全部、思い出しました」
「全部って…全部?」
「はい。両親のことも、私がやらかした事も、全部」
哲也がひゅっと息を飲み、全員が顔を見合わす。
「両親の件で叔父さんたちにも、おばあちゃんにも大変迷惑をかけました。それなのに都合よく忘れてしまって…ごめんなさい」
「ミヤコ、お前のせいじゃないんだよ。終わったことはもういい。辛いだろうが、事実を知ったのはよかったと思う」
哲也が絞り出すように声を出す。和子も今回ばかりは黙って手の中のお椀に目を伏せている。
「子供のお前にしてみれば、無邪気に母親を喜ばせようとしただけだ。花咲か爺さんみたいにな」
「5歳かそこらの子供をジジイにすんなよ、親父…」
少しの沈黙の後、プッと淳が笑い出す。
「よかったじゃんか。終わったことは戻せないけど、記憶が戻ったんならそこから新たに学べばいい。あの異世界の扉もクルトとかいう男のこともけじめつけるんだろ?」
ミヤコは一瞬気を張りつめたような面持ちになったが、フッと肩の力を抜くと、雑炊を一口すくった。一週間ぶりの温かい食事が腹にじわりとしみる。
「意識をなくしたのは、わたしの意識が向こう側にいたからなの。向こうで、おじいちゃんとおばあちゃんに会いました」
全員が怪訝な顔をする。和子がおずおずと口を開く。
「それは、夢の中で、ということ?」
「…ううん。向こうの世界で」
「お袋と親父、生きてんのか?」
震える手で哲也が箸を置いた。ミヤコの答えを食い入るように見ている。
「生きてるというか、精霊として、かな。おじいちゃんは向こう側の精霊王だから、おばあちゃんも精霊になったって。肉体は滅びてしまったけど、精霊体は時間の関与が物理的に違うから」
「そう、か。よくわからんけど、生きてんだな?」
「若返ってたよ、おばあちゃん」
「はあ?」
「精神の適応年齢に姿形が取れるんじゃないかなあ。30歳くらいになってた。中身が若かったからね、あの人」
これには皆ぽかんとしていたが、哲也がくくっと笑い、和子がずるいわね、と呟くと、あとはなし崩しに大笑いになった。淳だけはまだ腑に落ちない感じだったが。さすが、あの祖父母の子供だけあってあまり動じてないあたり、叔父とそれを夫に持つ叔母はすごいなと思う。
ミヤコの体が惰眠を貪っている間、向こうで何が起きたのかミヤコが何をしでかしたのかも包み隠さず伝えた。もう隠し事はいらない、したくないと思ったからだ。そしてこれからのことも相談をした。
「わたし、クルトさんのお店、手伝いたいの。収入についてはまだ考えていないんだけど、昔向こうで魔性の森とか創っちゃってて、なんか迷惑かけてきたみたいなんだ、忘れていた20年くらいの間。今はわたしの作る料理が向こうでは回復薬とかになるから役に立ちたいの」
「なんだよその魔性の森って。お前、魔王みたいだな」
淳が呆れてガハハと笑う。
「本当に。魔王で聖女で精霊の愛し子?めちゃくちゃだよ」
まあ、しばらくならいいんじゃないのと和子が言い、若いうちはやりたい事をやれと哲也が付け加えることで家族会議は終わった。のちに叔父夫婦は、定期的な状況報告と野菜を奉納することで、我が家の管理費は免除ということにしてくれた。
「俊則が見舞いに来てな」
そういえば、と取って付けた様に淳が言った。
「鈴木君が?」
「そうだった!あそこの酒屋にはわたしもう行きませんからね!可愛い娘をアバズレ呼ばわりされて、絶対許さないんだから!主婦をなめるんじゃないっていうのよ!」
思い出した様に和子がプリプリ怒りながら、おかわりの雑炊をミヤコに手渡す。
「殴ってやろうかとも思ったんだが、噂の元凶はあそこの親父らしい」
「ああ、そっか。自慢の息子だからね。わたしみたいなのが、うろちょろしてるのが嫌だったのかな」
「うろちょろしてたのはあっちだろ」
「うん、でもわたしも揺らいでたし…。なんだかんだいって、やっぱり聡の件で参ってたのかもしれない。ちょっとクラッとしちゃってね。告白されて、どうしようかなって。次の日に断っちゃったんだけどさ。もうちょっとちゃんと考えるべきだった」
そう、クルトさんと鈴木君を天秤に架けようとしてた。かまってくれて、愛してくれて居心地の良さを求めて。でもそれじゃ聡と一緒なんだって気づいたから、断ったんだけど。
期待させて傷つけたんだよね、また。
「どっちにしても、俊則にチャンスはないけどな。今の地点で、俺が許さん」
淳がへッと鼻で笑うと、とうとう酒を飲みだした哲也が口を挟んだ。
「なんだ、なんだ。男の一人や二人侍らせとけばいいだろが。ミヤコはいい女だからそのくらいでいいんだ」
「お父さん!やめてくださいよ、そんなふしだらな子に育てていないでしょ!」
「ミヤコは不器用なつくし型だから苦労するんだよ。遊べるうちに遊んどけ。あ、でも子供は作るなよ」
「親父、それは男の育て方だ。俺と美樹の子供には変なこと教えんなよ」
淳が呆れて雑炊をすする。
「あ、そういえば、美樹さんは?」
「今日は妊婦友達とウォーキング会だってさ」
「はあ。妊婦も大変だね」
「まあな。今の俺は下僕だ」
悩んでいた事も全てぶちまけて、すっきりしたミヤコが自宅に帰ったのは、夕方近くになってからだった。
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第1章 完。
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