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魅了の威力
しおりを挟む「一つだけ忠告をしよう」
ムスターファが私に向き直って真剣な顔になったので、私も少し気を引き締めた。
「忠告?」
「警戒結界は常に張っていろ。ミミは警戒心が薄いから心配だ」
「……私、警戒心は高い方だと思うけど?」
ムスターファだって見たはずだ。ジャハールが吹き飛ばされたのを。
「お前言ったよな。俺とは今日出会ったばかりだからできないと。だけど、俺への警戒心はこの部屋に来る前からなかった。俺を見て安心して、すぐに部屋へと引き入れた。俺から男を感じなかったから、お前は安心したんだろう」
言われてみれば、確かに。出会ってすぐ、ムスターファと話し始めてからすぐに警戒はしなくなった。なぜか。彼だけは、私を警戒していなかったからだ。赤の他人というより、家族に近い親近感を持った。裏表のない視線で、砕けた調子で話されて、喧嘩腰に相手をしたにもかかわらず、笑っていたこの人に打ち解けた。いや、本能的にこの人は私を保護してくれると察した。頼れるのは、この人だけだと思ったんだ。もちろん好みのタイプであったことも多分に影響しているとは思うのだけど。
愕然としてムスターファを見ると、彼はニヤリと笑って頭をクシャクシャと掻いた。
「俺は仕事柄、警戒の内側に寄り添うのを得意とする。警戒心の強い野生動物の討伐や、魔獣を扱うからな」
ちょっと待て。私は野生動物と同じだとでも?あんたは、猛獣使いか?
「お前の魅了は強い。修行を積んだ神官たちですら、お前の一挙一動に翻弄されているのに、気がついたか?」
「み、魅了?」
「ああ。念魔を祓った時、すっ転んでいただろう?あの時、そこにいた全員が色めき立った。何人かはすぐにも襲いかかろうとしていた。お前の素足を見たせいで、ジャハールでさえ一瞬我を忘れたようだ」
「ええ、足っ!?」
「あれは、お前の警戒結界が途切れたからだ。ミミは自分の魅力を知っておくべきだと思うぞ」
ちょっと待って!マジ野生動物じゃあるまいし!私がフェロモンを振りまいて歩いているとでも?まさか。そんなわけ、あるはずがない。
「まあ、聖女の力は得てしてそういうものだ。ミミは警戒結界で自衛していたから心配はなかったが。どうやらお前自身が『安全』と思った人間には、警戒をすぐさま解いてしまうきらいがある。今の所、俺だけだからいいものの、ここでそれはまずい。他の男連中は俺ほど自制力はないから、安心して懐に入れればすぐさま奪われるぞ」
「ま、待って……。私、あなたを魅了してたの……?」
「まあ。感情がだだ漏れだったから……わかりやすかったな。」
「え、ええ?」
「キスが好きとか、ここがいいとか、そこはダメとか。すごくわかりやすい。」
「う…嘘……」
「俺の胸筋見てうっとりしてたし。基本、俺の体型は好みなんだろ」
「嘘!そんなの!顔に出してない!」
顔に熱が集中するのがわかった。きっと赤くなっているに違いない。そういった私を見て、ムスターファはフッと口角を上げた。悔しい!なにその勝ち誇った顔!
「………絶対そんなことない!」
「まあ、そういうことにしとくよ」
「違うったら!」
「……じゃあ、拒否してみるか?」
「え?」
「俺が嫌だったら拒否してみろよ」
「…え?」
そういったムスターファは大きく一歩踏み込んで私の腰に手を回し、後頭部を支えて唇をふさいで荒々しく、強引に自分の体を密着させた。
「ふっ……んん」
「俺の魔力を受け取っておきながら、拒否できるのはお前くらいだ」
「ど、どういう…?」
「さっきまで、少しずつ魔力を流して翻弄させてやろうとしていたのに、中途半端なところで拒否して」
ちゅ、と喉元にキスを落とし、押し倒す勢いで体をくの字に曲げたせいで、私の上半身はのけぞり彼の足が私の両足の間に割り込んでくるのを阻止できなかった。私の体を軽々と持ち上げ、ムスターファの太ももに私の股間が滑り落ちた。ムスターファの足にまたがって座るような形でつま先立ちになった私は、不安定な体型でムスターファの背に回した手に体重をかけた。
なけなしの腹筋に頑張って力を入れるが、頭を支えていたムスターファの手が肩を撫で着物の襟を肩から落とすとその手で私の太腿を撫で、着物の裾をはだけさせ、直にお尻をグッとつかまれた。彼の股間の熱が伝わって、私の秘裂がムスターファの腿に触れ蜜をこぼす。無理強いはしないって言ったくせに!
「ほら、拒否してみろよ」
「っ、やめ」
意地悪そうに片眉をあげて、鎖骨を舐められて腰が砕けそうになった。魔力を流すって、どういうこと?私に何をしたの?
ハクハクと息を吐くが、言葉が出てこない。ずり落ちた着物をそのままにムスターファの大きな手が素肌に触れ、肩甲骨をするりと撫でて背を支える間に、反対側の手が動き両肩から着物がずり落ちた。双方の丘が露わになってムスターファの視線が私の胸に落ちた。
「こんなにうまそうな果実は見たことも味わったこともない」
「は……、や、やめ、て。ムスターファ」
「なんで」
拒否してみろと言ったくせに、拒否をしてもやめてくれない。代わりに私の乳房を撫でるように触り、手のひらに包み込んだ。ゆるゆると揉まれて、は、と息が上がる。その様子を見て、ムスターファはぐっと乳首を親指で圧迫する。アッと声を上げて体を震わすと親指と人差し指で乳首をギュッと引っ張った。嬌声をあげまいと唇をかみしめると、口に含まれて甘噛みされ、我慢ができなくなってしまった。
「あっ、ああっ!やあん!」
「俺の足が湿ってきたんだが?」
「し、自然現象よっ!やめてったら」
「本当に強情だな」
呆れたように呟くと、ムスターファは私を解放した。突然、支えを失ってよろめきながら床に足をつけるとムスターファはニヤリと笑った。
「ようやく解けた」
「え?」
見るとその手で何かを掴んでいる。何を手にして?と訝しみながらその先をたどると、それは私の腰につながっていた。それが帯だと気がついたときには、ムスターファは力一杯帯を引っ張っていた。
帯回し!
私は勢いよく駒のようにくるくると舞い、4メートルもある帯が私を解放した。勢い余って私は目を回し、ベッドの天蓋の柱にぶつかり、「よよよ」と泣きしなだれる女のようにばったり倒れた。帯回しって本当に意図しなくても回るんだと、頭のどこかで冷静に考えたが、体は突然の回転でクラクラだ。「あ~れ~」と言わなかっただけマシだと思いたい。
驚いたのはムスターファの方で、ぎょっと目を大きく開けると、大慌てで私を抱き起こした。
「す、すまん!大丈夫か?まさかこんなに巻きついているとは思いもしなくて!何でこんな長いベルトが必要なんだ!?」
「そういうものなのよ!バカ!放してよっ!」
そう言いながらも助け起こされた腕に縋り付く。矛盾している。袋帯が解けて、腰ひもだけが着物を抑えているものの、既に形も何もあったものではない。
「一体何本ベルトを締めているんだ。拷問か?」
「そうよ!大変なんだから!一日中締め付けて苦しいのよ!」
「だったらとっとと脱げばよかったんだ」
あ、と思った時はもう遅く、腰ひもも取り払われて、振袖は床に落ちた。長襦袢と肌襦袢ははだけ、かろうじて借り腰ひもで繋がれてはいるものの、太ももを半分以上晒し下着姿と変わらない。私は涙目になってしまった。
こんな風に襲われるのは、嫌だ。なのに、このまま押し倒されたら私は溺れてしまう。止められない。体が反応して、口でどういったところで好奇心が疼いているのがわかる。だって、嫌いじゃないんだもの。嫌だと口で言っても体が期待しているのだ。私の馬鹿げた矜持と習慣と常識が邪魔をしているだけ。本能の前にそれらは脆すぎる柵なのだ。
乱れた着物から伸びる生足に、手を伸ばしたムスターファだったが、私の表情を見て固まった。すっと半歩下がると、落ちた着物を私の肩からかけてくるりと私を包み込んだ。
「すまない。少し悪戯が過ぎた」
「ムスターファ……?」
「同意なしに奪うことはしないから」
しょぼんと眉を下げ、本当にすまなそうに頭をさげると、ムスターファは立ち上がった。その際に目に入った彼の中心が盛大に盛り上がっているのは、さりげなく目をそらして無視したが。
「あー、なんだ。今日のところは引く。だけど俺の気持ちはお前の魅了とは関係なく、本気だから。嫌なら今すぐ言ってくれ」
私は言葉に詰まってしまった。こんなに熱烈に迫られたのは初めてで、こんなに昂ぶったのも初めてで、どうしていいのかわからなくなってしまった。私はこの人に抗えるのかと本気で考えた。
「ひとまず、風呂に入るといい。それから、今日は軽食しか出せなかったけど、明日はちゃんと朝食も用意する。部屋には俺以外誰も入れるなよ。明日動きやすい服を持ってくるから。」
「あの、し、下着もお願いします…」
「……下着」
「ブ、ブラもパンティもつけてないんで…その、着物だとそういうのつけられないから…」
チラッと顔を見上げると、ムスターファは真っ赤になって口を片手でふさいでいた。ちょっと待てよ、と思わず突っ込みそうになった。女慣れして脱がせることはできるくせに、下着の話で赤くなるな、と。いや、もしかしたら何もつけてないというのを想像して、赤くなったのかもしれないが。
「わかった……それも、持ってこよう」
そういうと、ムスターファはそっと部屋を出て行った。ドアを閉める前に、絶対他に誰も入れるなよと念を押して。
私はほっと息を吐き、天井を見上げた。
「今晩は一人エッチか……」
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