【R18】鏡の聖女

里見知美

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公衆便所からこんにちは

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 ああ。

 やっぱりお見合いなんて、やめとけばよかった。




「わあ、宮崎さん、結構良いガタイしてますねえ。僕、個人的にはこじんまりした人が好きなんですが。まあ、背の高さは仕方ないですよね、遺伝もあるし。まあ、胸と尻があれば安産型というから、宮崎さんは大丈夫っぽいですね。ああ、下世話ですみません。でも大事なところなんですよね、これ。
 あ、僕ねえ、女性は派手じゃないほうがいいんですよ。あと、控えめで料理がうまくて。あ、魚を三枚に下ろせない女はちょっと無理かなあ。母を早くに亡くしているので、包容力のある女性に憧れます。それから……」

 出会って、五分で笑顔が引き攣った。

 良いガタイって女性に使わねえだろが!胸も尻も普通だよ!安産型ってなんだよ、今時。子供産むだけの道具だとでも思ってんのか、あぁ”?人の体型に口出す前に、あんたは座高が高いんじゃないの?座ってても立ってても、変わんないんじゃないの?
 その魚顔は遺伝なの?職業病なの?
 目の位置、横すぎない?ちゃんと前見て、私のこと見えてるの?
 唇がたらこなんですけど、魚に恨まれてるんじゃないの?
 女は派手じゃない方がいいって、自分のその首にぶら下がるゴールドチェーンはないよね?
 どこのチンピラ?
 黒のシャツに白のスーツって、マジで魚屋なの?成金なの?ゴッドファーザーなの?
 魚屋だから肉が食いたいって、どういう理屈?
 肉屋だからベジタリアンっていうのと同じくらい、訳わからんわ。
 魚くらい自分でおろしてよ、魚屋なんでしょ?
 包容力?私の方が、それ求めてるわよ!

 あ、つい思考が乱れたわ。笑顔笑顔。営業スマイル、今大事。

 犬を飼っている人が飼ってる犬と良く似てくるのと同じで、魚ばかり釣っている人は魚顔になるのだろうか。
 お見合い相手は死んだマグロのような顔をしていた。えら呼吸でもしてるんじゃないかと思うほど、エラが張ってて、生理的に受け付けなかった。

 おばさん、ごめん。でも私、コレは無理。もう、悪口しか出てこない。

 脳内で言いたい放題してる間、私は出てきたランチを笑顔で口に掻き込んだ。


「すみません、やはりこの話はなかったことに」

 ポカーンと私の食べっぷりを見つめる相手を余所目に、デザートまで全て完食し、最後のお茶をずずーっと音を出してすすると、私は店を後にした。あ、支払いは任せたわ。ありがとう。ご馳走様。









「ざけんな。時代錯誤ヤローめ」

 イライラしながら地下鉄に乗り、最寄駅近くになって地上に出た時には、私の心を反映してか、雨が降り出していた。

「あ~。雨なんて予報してなかったよね?傘持ってないし」

 お見合いだからとわざわざ和服を着せられて来たのに、男はサイアクで天気もサイアクときた。飛騨牛が美味しかったのだけがせめてもの慰めだ。占い雑誌を立ち読みしたら、今年はきっと男運がない年に違いない。それなら金運か仕事運をあげて欲しいところなんだけど。

 私はため息をつき、帰りはバスよりタクシーだな、とケータイを取り出した。スクリーンに反射する私の顔は疲れ切っていて、そういえば、食後の化粧直しもしていなかったとため息をついた。

 改札を出るまでにタクシー状況をチェックしようと再びケータイを出したが、電波が繋がらなかった。雨は止んでいたが、霧が濃くなって、どこかで電波妨害を受けたのかも知れない。

 駅のトイレでせめて口紅だけでも直そうと、鏡の前に立った。それほど長い時間お見合いをしていたわけでもなかったので、口紅以外はそれほど崩れていない。
 最近の鏡は、公衆便所でもちょっと綺麗に見えるように、手を加えてあるのだろうか。肌の色も思ったほど悪くないようにみえる。巾着から口紅を取り出して紅を直し、笑顔の自分を映し出す。

 と、不意に視界がブレた。一瞬眩暈がして俯き、ぎゅっと目を瞑る。

 ———ストレスのせいで立ちくらみまで!

 ゆっくり目を開けると、鏡に白い服を着た男が笑って私を見ていた。

「ひっ!?」

 飛び上がって驚いて振り返ってみたが、誰もいない。

 幽霊!? 
 ドレスっぽい服なのか、呪いの白装束だったのかわからないけど、今の何!?

 心臓がばくばくと音を立て、思わぬホラー展開に脂汗が出た。

 そしてゆっくり鏡に向き直ろうとしたところで、目の前に白い腕が伸びてきたと思った次の瞬間——。








「あれ?」

 私は白い空間に一人で立っていた。

「え」

 ひやっとした。
 ぐるりと見渡すと、そこは神殿のような大理石の広間だったのだ。

「ええ……?」

「おお!こちらにいらっしゃいましたか!ようこそ聖女様!」


 回廊から現れた人々はそれぞれに白いローブに赤と金の縁取りのあるローブを纏っていた。

 鏡に映っていたあの男だった。

「出たああああぁぁぁ!!!」

 私はありったけの声を張り上げて、しゃがみ込んだ。









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