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エピローグ
しおりを挟む「ど、どこにそんな証拠がある!!私が、ここにいる令息達がそのような破廉恥なことをしたと言う証拠があるのか!貴様は男爵令嬢の分際で公爵令息である私を貶めたのだ!証拠がないならば、不敬で裁かなければならないな!なんなら私のあいじ、」
「ありますよ、証拠」
スティーブンの言い分の途中でぶった斬り、ラズはニヤリと笑った。愛人などと学生の間で言おうものならブーイングの嵐に合うだろう。それを止めてあげただけでも感謝してもらいたい。第3王子もその言動に目を細めてスティーブンを見つめていた。
全ての出来事は残念ながら収録されていないが、全員の行動はこの手の中にある小さな薄いシートにある。隠しカメラに内蔵されていた収録カードだ。
セッテイングをしてくれたロシナンテに大感謝である。
とはいえ、どこにどこまでの情報が入っているかはラズもまだ未確認である。とにかく大急ぎで全ての収録カードを集めてきたので、これで全てなのかもまだわかっていない。ロシナンテは影の人間だから、隠蔽もうまいのだ。
もしかしたら、誰かにとってとても不利になる恥ずかしい情報が収納されている可能性もある。全てを見せても良いものか、迷うところではあるが。しかもロシナンテによってラズと関わりのあるものだけが収録されるようセッティングされている。
と言うようなことを伝えたのち、それでも見たいかと確認をとる。もしかすると致命的な一瞬が収録されてるかもしれないよと念を押したが、もとより疑ってかかっていたスティーブンの鶴の一声で全てを全校生徒と教師が閲覧することになった。
ちょっと大事になってきたな、とラズは学院長に視線を送ったが、素知らぬ顔をされた。後で責任を追求されるのを逃れるためだろうか、それとも現実逃避だろうか。
ともかく。全校生徒は第3講堂から第1講堂へと移動。そこにある大スクリーンで放映されることになった。
結果として。
第3講堂にいた十数人の男子生徒は有罪。筆頭をスティーブン・デブッチ公爵令息、名指しにされたエロス・ペッチオ伯爵令息、ロメオ・グリコ侯爵令息、マオリッツオ・ベックス伯爵令息の犯行はしっかり収録されており、女子寮に忍び込もうとしていた子爵と男爵の令息たちの覗きも映し出されており、女子生徒から大変なブーイングを浴びせられた。
それ以外にも、ちょっとした嫌がらせをした女生徒の姿もあり、土下座をしてラズの足に縋り付くシーンも見られた。結構な数の婚約解消も免れない状況に陥り、一時講堂内は異常な状況に包まれたものの。
第3王子の痴態が放映されて、場は一転した。偶然とも言うべきか、その時たまたま天井裏にラズがいたせいなのか、それとも第3王子がラズをオカズにしていたせいなのか、王子の行動は全校生徒と教師陣に衝撃を与えた。見たくもないものが赤裸々に、はっきりと映し出されている。恍惚とした王子の表情と喘ぐ姿に講堂は阿鼻叫喚に包まれ、途中で放映を禁止される羽目にもなった。そしてそれを盗み聞きしているカルメーラとスティーブンの姿も別の映像で映し出され、その後のクラーラとの婚約破棄を奸計する姿もしっかり収納されていた。
うそだぁぁぁ!ヤラセだぁーーーっ私は関係ないぃぃぃ!と叫んでいた王子だったが、最後には首を吊ろうとして教師陣に止められ、王宮へ急ぎ運ばれていった。
学院史上最上級のトラウマ事件である。
「乱れてたんだな、貴族学院……」
1ヶ月後。王宮に呼び出されたラズマリーナとロシナンテはちょっと項垂れていた。まさかここまで酷いとは思っても見なかったのである。単なるイジメの現場が証拠として残せれば、と思っていたのに、大惨事。しかもクライマックスの主役は全く関係ないと思われていた第3王子だ。
思春期のちょっとした妄想を全校生徒に暴露された第3王子アダルベルトは、引きこもりになってしまった。当然、カルメーラとの婚約も解消し、そう言う事は王宮の自室でしろこの恥晒しが、と兄たちには後ろ指を刺され、妹たちには不潔だの気持ちが悪いだのと言われ、学院を中退した後、コソコソと逃げるように三つ隣の国へ婿に出されることになった。ちょっと不憫である。
婚約を破棄されたカルメーラも公爵令嬢、否、ムリーノ公爵を貶めた罪、公爵家同士の婚約を破綻させた罪で伯爵籍を抜かれ、北の修道院に入れられた。ストーキン伯爵家の長男でありカルメーラの弟であるアダムは、責任をとってスティーブンの代わりにムリーノ家に婿養子に入ったものの、肩身の狭い思いを強いられることになる。そしてカルメーラの起こした事件の責任をとって大臣は職を辞任、領地を含むほとんどの財産を売り捌き、第3王子の個人財産も合わせて保証人としての補償金を分割で支払うことになり、爵位は伯爵から子爵へ落とされた。
事件の発端となったスティーブン・デブッチ公爵令息は、個人財産から慰謝料としてムリーノ公爵に違約金を支払い、迷惑料としてラズ個人にも200万マールを支払うことが義務付けられ、破産した。公爵家では個人の責任としてスティーブンに全てを負わせて逃げ切ったが、全校生徒の知るところとなった事件により、今後の盛り返しは厳しいものと見ている。何せ、ムリーノ公爵家とフロランテ商会を敵に回したのだ。社交界では相手にされず、国に関わる事業も商売もこの国ではできないだろう。次の三年を生き残れるかどうか、密かに賭けられている。
騎士団を任されていたはずのグリコ侯爵も、今となっては傲慢脳筋男と呼ばれ、家庭内暴力で奥方から訴えられている。ロメオ・グリコ侯爵令息に至っては、婦女暴行未遂罪に合わせて500万マールの慰謝料を払うため南の辺境へ売られ、蛮族と魔獣の戦いの前線に駆り出された。剣を女性に向けるほど愚かなら、ここで発散しろと連れて行かれたらしい。聖女と戦婦も派遣されているので、欲求は満たされるかもしれない。
インクをぶち撒け続けたエロス・ペッチオ伯爵令息は廃嫡され、そんなにインクが好きならばとインク工場で魔石潰しの臼石を回す仕事を強いられているという。結構な肉体労働なので、ヒョロリとしたエロス氏には大変かもしれない。こちらも200万マールの慰謝料をコツコツとラズに支払っている。クリーニング代さえ払っていればこんなことにもならなかったのに、とラズもため息をついた。45マールもあれば足りたはずだから。
靴を盗んだマオリッツオ・ベックス伯爵令息は次男だったため、家を追い出され、靴屋で働きながら働きながらマーヤというSMの店で働き始めたそうだ。おかしな方向に目覚めたらしく、本人はちょっと嬉しそうに女性のハイヒールに踏まれていた。ちょっとラズには理解できない店だったりする。彼からは、迷惑料100万マールを受け取る予定である。返してもらった靴は、何に使ったのかとても汚れていたので、完全焼却処分にした。
女子寮へ忍び込もうとした子息たちは、一年間の教会での奉仕でことはすんだ。結局のところ何と言って被害は被らなかったのが幸いした。とはいえ、派遣されたのは、ラズマリーナの実父のいる教会である。神父といえど元聖騎士である。やらかした少年らの事実を知る神父がどう出るかは、神のみぞ知る。アーメン。
その他、全部で五件の婚約破棄あるいは解消によって、派閥が国王派に良い様に動いた。王家にとっては第3王子の失態はあったものの、ストーキン伯爵の衰退で国内の派閥の懸念が薄れ、終わりよければすべてよしの態度を貫いている。学院長は他になる人がいないという理由もありいまだにその座に座り続けているものの、ストレスですっかり禿げ上がってしまったのはご愛嬌である。
さて、早々に卒業試験を受け、一年で貴族学院を卒業したラズは、生まれて数ヶ月の双子にメロメロになっていた。男の子はクレメンテ(クレム)。女の子はクレマリナ(クレマ)という、ロシナンテとドルシネアを足して二で割ったような色合いの双子だった。
ふと、自分だけ色合いが違うことを気にするんじゃないかとロシナンテが気を遣ったが、ラズは満面の笑みを見せた。
「アタシ、おねえちゃんだから!」
と母性本能爆裂である。ミルクもおむつ替えもあっという間にマスターし、一緒に寝かしつけまでもしてくれる。スーパーナニーの出来上がりだ。
カルメーラが別に居た件で、ドルシネアもようやく落ち着いたらしく、娼館の話も出なくなりロシナンテも安堵のため息をついている。
全ての慰謝料やら迷惑料やらが支払われる頃にはラズマリーナも成人を迎える。商人になるか、影として働くかはラズ次第。
美しくも賢く、狡賢く腹黒ではあるが、家族にはとても優しく愛情たっぷりのラズが一人のスパイに恋をして、それが実は隣国の不遇な王子だったなんて近い未来があったり、ラズの生みの親が神父と聖女だとバレたり、双子の弟妹たちが聖霊の加護を受けたり、神獣に懐かれたり。
その度にロシナンテが頭を抱え、だんだん精神が研ぎ澄まされて信じていなかった神に好かれたりしながら、おかしな方向に有能になっていくのはまた別の話である。
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