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第3話:突如、思い出した過去〜ドルシネア視点〜
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その後、ドルシネアの実家の商会を訪ね、親子鑑定書を持って、ドルシネアに事情を説明しようとしたが門前払いされた。誤解だと、義両親に説明したものの、ドルシネアは荒れて未だ手に負えない状態なため、日を改めてほしいと言われ渋々引き下がった。ドルシネアの能力を知っているこの家には、結界の張られた部屋があり、魔法無効処置が施されていて、ドルシネアが暴れるとそこに監禁されるのだ。誰もとばっちりで感電死はしたくない。
「アタシのせいでごめん?」
「いや、ラズのせいではない。信じてもらえなかったのは俺の力量不足だし、疑われるような行動をとっていたのは俺なんだろう。聖女の資質があるからと妻の了承もなくお前を引き取ったのも俺だ。それより、お前はこれから5年の間にたくさん学ぶ事はあるからな。頑張れよ」
「わかったよ。ロシナンテさんのために頑張る」
「ふむ。これからはお父様と呼ぶべきかな。呼べるか?」
「お父様……。ふふ。嬉しい。お父様、ありがとう」
可愛らしく、十歳児の顔で笑うラズを見て、俺は自分の選択が間違っていなかったことを確信した。
***
「嘘よ、嘘よ、嘘よ」
その頃、実家に帰って(監禁部屋で)布団に潜り込んだドルシネアは青ざめて叫んでいた。夫の愛人が子供を連れてきたと聞いて目の前が真っ赤になった。あれほど愛していると口説いておきながら、この私を差し置いて10歳にもなる子供がいたなんて!
結婚して3年、子作りは蜜月を過ごした後でなんて言いながら、それより以前にちゃっかり女がいたということだ。馬鹿にしているわ!と憤慨したのも束の間、愛人だったにしてはあまりにも見窄らしい格好をした女を見て訝しみ、子供の顔を見て愕然とした。
前世で遊んでいた18禁乙女ゲーム『ラズマリーナの秘密の花園』を唐突に思い出したのだ。
聖女候補であるラズマリーナは15歳、ロシナンテ・ナンチャッテの隠し子で母親の死後、男爵家に引き取られる。そこで、継母であるドルシネアと義姉のカルメーラにいじめ抜かれるが、貴族学院に入ってからは、攻略対象である第3王子を含む5人の男性と仲良くなり……結果として、ドルシネアとカルメーラは、聖女を虐めた罪で娼館に送られるのだ。
「カルメーラもいないのに、なんでラズマリーナが現れるのよ!」
ドルシネアには、前世の記憶が子供の頃からあった。両親にも話したし、その頃から前世の恩恵は受けていた。ゲームの記憶はついぞ思い出した事はなかったが、前世の知識で商会を導いてきたと言っても過言ではない。キッチン用品から家電まで、電化製品を魔石や魔力で代替えし、画期的なものを作ってきたのだ。魔力も豊富で、ナイスバディ、器量だって悪くない。生まれが平民でなければ王子に見染められてもおかしくはなかったはず。この時代の男からは生意気で気が強いと思われていたのは知っていたし、その容姿や頭脳だけを求めてきた男性も貴族もたくさんいた。
だけど、大貴族なんぞとねんごろになっても問題しかない。どれほどの美貌があろうが記憶があろうが、ドルシネアは商人の娘である限り平民なのだ。下手に大貴族の仲間になっても薄汚い平民が!とか言っていじめられるのが関の山。貴族婦人になったらおちおち商売もできないし、大口を開けて笑うことも立ち食いもできない。その上、夫を立てろだのお茶会では格上、格下、腹黒対決なんかの面倒なことも沢山ある。ドルシネアは気楽にのびのびと平民生活を楽しみつつ、儲け話に花を咲かせ、1日の終わりに帳簿をつけるのが楽しみなのだ。
それに、いつか自分は運命の出会いを果たすのだと漠然とした思いがあったため、全てのお見合いを蹴り飛ばしてきて、恋愛もせず、仕事に打ち込み19年、ついに運命のロシナンテと出会った。
ビビッときたのだ。雷魔法が使えるようになったのもちょうどその頃だった。
頭の中でリンゴンガンゴン鐘が鳴り、天使が舞い、くす玉が割れて、花が咲きまくった。この人だと、運命の出会いを果たしたのだと、天にも昇る思いだった。貴族云々の問題なんかチリクズのように吹き飛んだ。男爵だもの、貴族と言っても端くれだし。
焦らしに焦らして、気のないふりして外堀を埋めて、ドルシネアだけを見るように2年もかけてじっくり飴と鞭を使い分けた。まあ、そんなことをしなくてもロシナンテはドルシネアしか見えていなかったが。
おしゃれで口髭が似合ってて、スマートで紳士的なロシナンテは、平民の中でも人気があった。口数は少なくも、ちょっと垂れ目が甘やかで優しげな雰囲気がダンディだと。そんな男がよそ見もせず、毎日ドルシネアいるの商会を訪ねては、時にはバラを一輪、時には高級チョコレートを一粒、演劇のチケットを2枚、などといったプレゼントを持って口説くのだ。どこぞの大貴族の御曹司のように処分に困るようなドレスや宝石を持ってくることもなく、大きな馬車を横付けにして偉そうに時間も構わず押し寄せてくることもない。
惚れるなという方が間違っている。
ともかくロシナンテとはお互い愛し合っていたし、ロシナンテはドルシネアを溺愛していたはずだ。浮気の「う」の字も仄めかした事はなかったし、ほぼ四六時中一緒にいるのだ。子供はもう少し二人きりを堪能した後で、と言われドルシネアもそれでいいと思っていた。見かけによらず絶倫で、夜通しの上に毎夜したがるロシナンテを止めるのに辟易するほどだ。子供を作るまでは週に3日だけという条件も作った。それでも手を替え品を替え、求めてくるのだからどこまで好きなんだって話なわけで。
商会の仕事も充実していたし、二人だけの甘い時間を過ごすのも心地よかった。前世の記憶から、子供は30頃までに産めばいいかと特に焦ってもいなかった。貴族は後継のためだけに結婚すると聞いていたけど、ロシナンテは違った。気の強い私でも、計算高い私でもニコニコと笑って「そんな君を心から愛してる」と言ってくれたから結婚したのだ。愛されて求められて、これぞ女の幸せだと思ったのに。
次の日の午後、わたしが泣き乱れている時に、ロシナンテが例の子供を連れて我が家にやってきたらしい。ラズマリーナには聖女の資質があると言い(知ってた!)、これも何かの縁だから養女にして真っ当に生きられるよう教育を施すが、断じて自分の隠し子ではないと、証拠の教会の親子鑑定書も持参してきたとか。夜になって部屋から出てきた私に、母が見せてくれた。
「アタシのせいでごめん?」
「いや、ラズのせいではない。信じてもらえなかったのは俺の力量不足だし、疑われるような行動をとっていたのは俺なんだろう。聖女の資質があるからと妻の了承もなくお前を引き取ったのも俺だ。それより、お前はこれから5年の間にたくさん学ぶ事はあるからな。頑張れよ」
「わかったよ。ロシナンテさんのために頑張る」
「ふむ。これからはお父様と呼ぶべきかな。呼べるか?」
「お父様……。ふふ。嬉しい。お父様、ありがとう」
可愛らしく、十歳児の顔で笑うラズを見て、俺は自分の選択が間違っていなかったことを確信した。
***
「嘘よ、嘘よ、嘘よ」
その頃、実家に帰って(監禁部屋で)布団に潜り込んだドルシネアは青ざめて叫んでいた。夫の愛人が子供を連れてきたと聞いて目の前が真っ赤になった。あれほど愛していると口説いておきながら、この私を差し置いて10歳にもなる子供がいたなんて!
結婚して3年、子作りは蜜月を過ごした後でなんて言いながら、それより以前にちゃっかり女がいたということだ。馬鹿にしているわ!と憤慨したのも束の間、愛人だったにしてはあまりにも見窄らしい格好をした女を見て訝しみ、子供の顔を見て愕然とした。
前世で遊んでいた18禁乙女ゲーム『ラズマリーナの秘密の花園』を唐突に思い出したのだ。
聖女候補であるラズマリーナは15歳、ロシナンテ・ナンチャッテの隠し子で母親の死後、男爵家に引き取られる。そこで、継母であるドルシネアと義姉のカルメーラにいじめ抜かれるが、貴族学院に入ってからは、攻略対象である第3王子を含む5人の男性と仲良くなり……結果として、ドルシネアとカルメーラは、聖女を虐めた罪で娼館に送られるのだ。
「カルメーラもいないのに、なんでラズマリーナが現れるのよ!」
ドルシネアには、前世の記憶が子供の頃からあった。両親にも話したし、その頃から前世の恩恵は受けていた。ゲームの記憶はついぞ思い出した事はなかったが、前世の知識で商会を導いてきたと言っても過言ではない。キッチン用品から家電まで、電化製品を魔石や魔力で代替えし、画期的なものを作ってきたのだ。魔力も豊富で、ナイスバディ、器量だって悪くない。生まれが平民でなければ王子に見染められてもおかしくはなかったはず。この時代の男からは生意気で気が強いと思われていたのは知っていたし、その容姿や頭脳だけを求めてきた男性も貴族もたくさんいた。
だけど、大貴族なんぞとねんごろになっても問題しかない。どれほどの美貌があろうが記憶があろうが、ドルシネアは商人の娘である限り平民なのだ。下手に大貴族の仲間になっても薄汚い平民が!とか言っていじめられるのが関の山。貴族婦人になったらおちおち商売もできないし、大口を開けて笑うことも立ち食いもできない。その上、夫を立てろだのお茶会では格上、格下、腹黒対決なんかの面倒なことも沢山ある。ドルシネアは気楽にのびのびと平民生活を楽しみつつ、儲け話に花を咲かせ、1日の終わりに帳簿をつけるのが楽しみなのだ。
それに、いつか自分は運命の出会いを果たすのだと漠然とした思いがあったため、全てのお見合いを蹴り飛ばしてきて、恋愛もせず、仕事に打ち込み19年、ついに運命のロシナンテと出会った。
ビビッときたのだ。雷魔法が使えるようになったのもちょうどその頃だった。
頭の中でリンゴンガンゴン鐘が鳴り、天使が舞い、くす玉が割れて、花が咲きまくった。この人だと、運命の出会いを果たしたのだと、天にも昇る思いだった。貴族云々の問題なんかチリクズのように吹き飛んだ。男爵だもの、貴族と言っても端くれだし。
焦らしに焦らして、気のないふりして外堀を埋めて、ドルシネアだけを見るように2年もかけてじっくり飴と鞭を使い分けた。まあ、そんなことをしなくてもロシナンテはドルシネアしか見えていなかったが。
おしゃれで口髭が似合ってて、スマートで紳士的なロシナンテは、平民の中でも人気があった。口数は少なくも、ちょっと垂れ目が甘やかで優しげな雰囲気がダンディだと。そんな男がよそ見もせず、毎日ドルシネアいるの商会を訪ねては、時にはバラを一輪、時には高級チョコレートを一粒、演劇のチケットを2枚、などといったプレゼントを持って口説くのだ。どこぞの大貴族の御曹司のように処分に困るようなドレスや宝石を持ってくることもなく、大きな馬車を横付けにして偉そうに時間も構わず押し寄せてくることもない。
惚れるなという方が間違っている。
ともかくロシナンテとはお互い愛し合っていたし、ロシナンテはドルシネアを溺愛していたはずだ。浮気の「う」の字も仄めかした事はなかったし、ほぼ四六時中一緒にいるのだ。子供はもう少し二人きりを堪能した後で、と言われドルシネアもそれでいいと思っていた。見かけによらず絶倫で、夜通しの上に毎夜したがるロシナンテを止めるのに辟易するほどだ。子供を作るまでは週に3日だけという条件も作った。それでも手を替え品を替え、求めてくるのだからどこまで好きなんだって話なわけで。
商会の仕事も充実していたし、二人だけの甘い時間を過ごすのも心地よかった。前世の記憶から、子供は30頃までに産めばいいかと特に焦ってもいなかった。貴族は後継のためだけに結婚すると聞いていたけど、ロシナンテは違った。気の強い私でも、計算高い私でもニコニコと笑って「そんな君を心から愛してる」と言ってくれたから結婚したのだ。愛されて求められて、これぞ女の幸せだと思ったのに。
次の日の午後、わたしが泣き乱れている時に、ロシナンテが例の子供を連れて我が家にやってきたらしい。ラズマリーナには聖女の資質があると言い(知ってた!)、これも何かの縁だから養女にして真っ当に生きられるよう教育を施すが、断じて自分の隠し子ではないと、証拠の教会の親子鑑定書も持参してきたとか。夜になって部屋から出てきた私に、母が見せてくれた。
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