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ウェスと共に転移した場所はだだっ広い草原。大きなスクリーンが空に浮かんでいて、私とウェスが映っていた。東京ドームとかで時々映し出される観客席みたいなものだ。思わず、手を振ってピースサインを出した。
「ウェス、ウェス。私たち映ってるよー!」
「はい、えっとレースは全国に中継されるので。まずは登録を済ませますね!」
「登録?」
「はい、桃華さんとわたしがチームを組んでレースに挑むと言うことでパートナー登録をします。でも、桃華さんは心配せずわたしに乗ってくれればいいですからね」
「はあ?」
乗る?と言うのは車か何かに乗ってレースに挑むと言うことかな?ル・マンみたいな感じ?とか思っていたら、登録を済ませたウェスが戻ってきて、上半身裸になった。脱いだシャツはきちんと畳んでバッグにしまう。
「ぎょえ!?ちょっと、ウェス!?」
結構筋肉質な体をしている、兄達には負けるけど。ってそこじゃなくて!
いきなり脱がれても目のやりどころに困るんですけど!?とアワアワしていたら、ウェスの身長がぐんと高くなったと思ったら、下半身が馬になっていた。
「えっ?」
うま?馬だよ、馬!馬に人間の体がくっついてる。あ、映画で見たことある。オリンポスのなんか。
「あ、言い忘れましたね。わたし、ケンタウリ族なので。ええと、半人半馬なんです。桃華さん、乗馬の経験は?」
「な、ナイデス」
「あー、じゃあ、初めはゆっくり走るのでまずは背に乗ってください」
足をたたんでしゃがんでくれるので、恐る恐るウェスの背に跨った。え、なんかエッチいんだけど。え、そんなこと考えるわたしが変なの?
「すみませんね、サドルとかないので裸馬の背ですけど、落ちないように太ももでボディ締めててくれますか?」
「ひぃ……」
下半身裸馬で上半身裸ってことは、全裸!?え、それに跨るの、私!?ちょっと待って!?何でシャツ脱ぐ必要が!?え?シャツの裾がぴらぴらして余計に半裸な気がするから?それは、まあ。パンツ履いてないからね。
「抱きついてもらっても大丈夫です。じゃ行きますよ?」
抱きつくって、その服着てない上半身に!?とはいえ、捕まってないと危ない。結構高いし怖い。し、仕方ないよね!腕を回すと、ポックポックと私を乗せて、ウェス馬がゆっくり歩き出した。
「あの、あの、重くないですか?私102kgあるんですけど」
「余裕ですよ。乗り方が上手なので、重さも感じませんよ」
「重さも感じませんって、私に対しての言葉じゃないよね!?」
「そろそろギャロッピングしますね。リズムがあるので、慣れればフルスピードでも桃華さんならオッケーだと思います」
ポックポックからパッカパッカに変わり、そのうちドカラッドカラッと猛スピードで走り出した。風を切って走る気持ちの良さに思わず両手を広げてワハハっと笑う。乗馬ってすごい楽しい!
「ウェス、すごい!こんなの初めて!気持ちいい!」
「わたしに乗せたのは、あなたが初めてですよ!わたしも全力を出せて気持ちいいです、このまま最後まで二人でいきましょう!」
そんな会話を聞いていた全世界の人々は、顔を赤らめて沈黙した。言葉だけ聞くとやけに生々しい。まるで若い恋人達のゴニョゴニョの情事である。何を見せられているのだか。
薄汚い大人の思考は二人の間にはなかった。何せウェスはずっと賢者の弟子として奴隷のように働かされていたせいで、とんと恋愛に疎い。女の子と会話をしたのも実は、初めてに近い久しぶり度だったりする。奥手も奥手、手が見えないほど奥に仕舞い込んであった。
しばらく草原を駆け抜けていくと、並走して走る黒い影が見えた。
「ウェス、何かいます!」
「チッ、魔獣の群れですね。大丈夫。わたしは弓使いでもあるので対処します。桃華さんは振り落とされないよう、わたしの背にしがみついていてください」
ウェスは背に回していたマジックバッグから大きな弓を取り出した。弓を引くと自動で矢が出現し、つがわれる魔導の弓である。ちなみにこれもウェスが作ったものである。シュパッ、シュパッと魔力で作った矢を撃ち放し魔獣を落としていくが、数が多い。しかも後ろからも迫ってくる。
「ウェス、私に貸して!あなたは走るのに専念して」
「えっ、でもこの弓は魔道具で」
桃華はウェスの弓を強引に取り上げ、後ろから迫り来る魔獣に向かって弓を引いた。魔力のない人間には到底引ける代物ではないはずなのに、桃華が引くと矢が現れた。しかも数本の束になって。
ウェスはギョッとして目を疑ったが、確かに弓は引かれ、しかも数本の矢は同時にその弓を離れ、次々と魔獣に命中していく。
「馬鹿な」
魔力を持たない人間、しかも異世界人がウェスの作った魔道具を易々と使っている。この時、ウェスは知らなかったが、このレースに参加するにあたりパートナーとして登録をした桃華に、ウェスの魔力が相乗されていた。魔道具はウェスの魔力を感じとり桃華に従ったわけだが、桃華の腕力はウェスのそれよりも強く、弓の能力を最大限に引き出していたのだ。
弓は得意だ。弓道も、アーチェリーも学んだし、ゲームでも遊んだことがある。スパパン、スパパパン、と早業で弓を打ち鳴らしていくのを見て、目を剥くウェス。しかも後ろから飛びかかろうとした魔獣に対し、桃華は張り手で対処し、威嚇した。数頭の魔獣は圧に押されて尻込みし、横っ面を張られた魔獣は首が1回転して息耐え、塵となって消えた。
「桃華さん、本当に人族ですよね!?」
ケンタウリ族としての矜持が、わずかに傷付いたウェスである。
「ウェス、ウェス。私たち映ってるよー!」
「はい、えっとレースは全国に中継されるので。まずは登録を済ませますね!」
「登録?」
「はい、桃華さんとわたしがチームを組んでレースに挑むと言うことでパートナー登録をします。でも、桃華さんは心配せずわたしに乗ってくれればいいですからね」
「はあ?」
乗る?と言うのは車か何かに乗ってレースに挑むと言うことかな?ル・マンみたいな感じ?とか思っていたら、登録を済ませたウェスが戻ってきて、上半身裸になった。脱いだシャツはきちんと畳んでバッグにしまう。
「ぎょえ!?ちょっと、ウェス!?」
結構筋肉質な体をしている、兄達には負けるけど。ってそこじゃなくて!
いきなり脱がれても目のやりどころに困るんですけど!?とアワアワしていたら、ウェスの身長がぐんと高くなったと思ったら、下半身が馬になっていた。
「えっ?」
うま?馬だよ、馬!馬に人間の体がくっついてる。あ、映画で見たことある。オリンポスのなんか。
「あ、言い忘れましたね。わたし、ケンタウリ族なので。ええと、半人半馬なんです。桃華さん、乗馬の経験は?」
「な、ナイデス」
「あー、じゃあ、初めはゆっくり走るのでまずは背に乗ってください」
足をたたんでしゃがんでくれるので、恐る恐るウェスの背に跨った。え、なんかエッチいんだけど。え、そんなこと考えるわたしが変なの?
「すみませんね、サドルとかないので裸馬の背ですけど、落ちないように太ももでボディ締めててくれますか?」
「ひぃ……」
下半身裸馬で上半身裸ってことは、全裸!?え、それに跨るの、私!?ちょっと待って!?何でシャツ脱ぐ必要が!?え?シャツの裾がぴらぴらして余計に半裸な気がするから?それは、まあ。パンツ履いてないからね。
「抱きついてもらっても大丈夫です。じゃ行きますよ?」
抱きつくって、その服着てない上半身に!?とはいえ、捕まってないと危ない。結構高いし怖い。し、仕方ないよね!腕を回すと、ポックポックと私を乗せて、ウェス馬がゆっくり歩き出した。
「あの、あの、重くないですか?私102kgあるんですけど」
「余裕ですよ。乗り方が上手なので、重さも感じませんよ」
「重さも感じませんって、私に対しての言葉じゃないよね!?」
「そろそろギャロッピングしますね。リズムがあるので、慣れればフルスピードでも桃華さんならオッケーだと思います」
ポックポックからパッカパッカに変わり、そのうちドカラッドカラッと猛スピードで走り出した。風を切って走る気持ちの良さに思わず両手を広げてワハハっと笑う。乗馬ってすごい楽しい!
「ウェス、すごい!こんなの初めて!気持ちいい!」
「わたしに乗せたのは、あなたが初めてですよ!わたしも全力を出せて気持ちいいです、このまま最後まで二人でいきましょう!」
そんな会話を聞いていた全世界の人々は、顔を赤らめて沈黙した。言葉だけ聞くとやけに生々しい。まるで若い恋人達のゴニョゴニョの情事である。何を見せられているのだか。
薄汚い大人の思考は二人の間にはなかった。何せウェスはずっと賢者の弟子として奴隷のように働かされていたせいで、とんと恋愛に疎い。女の子と会話をしたのも実は、初めてに近い久しぶり度だったりする。奥手も奥手、手が見えないほど奥に仕舞い込んであった。
しばらく草原を駆け抜けていくと、並走して走る黒い影が見えた。
「ウェス、何かいます!」
「チッ、魔獣の群れですね。大丈夫。わたしは弓使いでもあるので対処します。桃華さんは振り落とされないよう、わたしの背にしがみついていてください」
ウェスは背に回していたマジックバッグから大きな弓を取り出した。弓を引くと自動で矢が出現し、つがわれる魔導の弓である。ちなみにこれもウェスが作ったものである。シュパッ、シュパッと魔力で作った矢を撃ち放し魔獣を落としていくが、数が多い。しかも後ろからも迫ってくる。
「ウェス、私に貸して!あなたは走るのに専念して」
「えっ、でもこの弓は魔道具で」
桃華はウェスの弓を強引に取り上げ、後ろから迫り来る魔獣に向かって弓を引いた。魔力のない人間には到底引ける代物ではないはずなのに、桃華が引くと矢が現れた。しかも数本の束になって。
ウェスはギョッとして目を疑ったが、確かに弓は引かれ、しかも数本の矢は同時にその弓を離れ、次々と魔獣に命中していく。
「馬鹿な」
魔力を持たない人間、しかも異世界人がウェスの作った魔道具を易々と使っている。この時、ウェスは知らなかったが、このレースに参加するにあたりパートナーとして登録をした桃華に、ウェスの魔力が相乗されていた。魔道具はウェスの魔力を感じとり桃華に従ったわけだが、桃華の腕力はウェスのそれよりも強く、弓の能力を最大限に引き出していたのだ。
弓は得意だ。弓道も、アーチェリーも学んだし、ゲームでも遊んだことがある。スパパン、スパパパン、と早業で弓を打ち鳴らしていくのを見て、目を剥くウェス。しかも後ろから飛びかかろうとした魔獣に対し、桃華は張り手で対処し、威嚇した。数頭の魔獣は圧に押されて尻込みし、横っ面を張られた魔獣は首が1回転して息耐え、塵となって消えた。
「桃華さん、本当に人族ですよね!?」
ケンタウリ族としての矜持が、わずかに傷付いたウェスである。
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