異世界耐久レースに借りだされたようです。え、私でいいんですか?

里見知美

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「『人族の体重100kg以上の腹面女子高生』?」

 四年に一度の中央大陸アイドランド耐久レース。ウェスが引いた異世界パートナーは『人族の体重100kg以上の腹面女子高生』だった。

 レースに勝利すれば、『勇者』の称号と欲しいものを一つ願うことができるというこのレース。

 出場するのは世界各国から集まった腕に自信のある強者共数百名だ。

 中央大陸アイドランドの全七カ国が共同で出資し、開催される過酷な耐久レースの開催期間は1ヶ月。全世界が注目する最も大きなイベントでもある。

 出発地点は、中央大陸の中心に位置する俗名<心臓破りの坂国>と呼ばれるアルゴアル王国の天空門。竜人族がまとめる国にある、空気の薄い山の頂上にある天空門から、坂を延々と降るところから始まる。その距離5700キロ。

 登録されている魔法を使うことは許されているが、決められた魔道具以外の道具や魔法陣は使うことはできない。魔法使いは杖、戦士は剣などそれぞれの得物を持つことを許されていて、挑戦者同士の私闘は御法度とはいえ、事故はつきものだ。魔獣や魔物も当然出没するため、まさに命懸け。規則に触れない限り、マジックバッグや結界石などは使用できるものの、基本は体力、気力、魔力と頭脳。そして協力者パートナーとの相性が鍵を握る。

 心臓破りの坂を降りるとスフィンクス・ゲートがあり、そこで挑戦者にランダムで、協力者パートナーの特徴の書かれた紙が渡される。その協力者の能力によってこの先の耐久レースがどう有利に進むか決まるのだが、運も実力のうち。

 そこで、ウェスに与えられた異世界パートナーは『人族の体重100kg以上の腹面女子高生』だったのだ。

 過去レースの勇者はチャガマという魔獣を連れて優勝した。ヘソで茶を沸かすという変わった魔物だったと聞く。人語を話すとても腰の低い魔獣だったとお袋が言っていた。

 でかい頭の石像が協力者だったことも過去にはあったようで、指示された特徴は『石頭』だったとか。黒海の中心で「我が祖国ムー」と呟いて沈んだきり、戻ってこなかったとか。彼は無口なやつだった、と連れてきた敗戦者は言っていたが、いやあ、石だしなあ、と皆が思ったことだろう。その『石頭』は無事、元の世界に戻っていることを祈る。

 協力者の生存は何より大切で、途中協力者が死んでしまったり脱落すれば、自身も脱落する運命共同体となるため、勝ち抜くためには神様のように扱わなければならない。

 ちなみに能力のある挑戦者は、全国民が見守る中、結婚相手として目をつけられることにもなるので、独身で結婚相手を望むものは、男女種族を問わずこぞって挑戦する。勝者には一生贅沢しても余るほどの金銀財宝と、勇者の称号肩書きがもれなくついてくるから。

 ちなみにその栄光を手に入れたのは、過去に両手で数えるほどしかいない。誰もが自国から英雄を生み出したいがため、この大会は全国民が注目するイベントなのだ。

 もちろん生きて帰ってくる人間の方が少なく、脱落者は続出するが、参加することに意義があるとばかりに揃って出場するのだ。故郷の名誉のために潔く死んでこい、と言われているようなものだが。

 肝心の異世界からの協力者は、脱落した地点、あるいは死亡した地点で強制的に本来の世界に帰され、こちらでの記憶は失うのが常だという。自分が死んだ時のことは覚えていたくもないだろうから、妥当だと思う。

 昨今のレースでは、異世界から帰ってきた者は若干22名。しかし連れて帰ってきた協力者がゴール前に恐れを成して逃げてしまったり、心が折れて死んでしまったりして勝者はゼロ。

 なので今年は前回の分も上乗せ倍額ドン!と言うわけで皆張り切って応募した。


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