美人の姉妹三人、血が繋がっていなかったし何なら妖魔の類だった

紫積分

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新月

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「ハーギーーーー!!!!!!」
「尊様、先程は申し訳ありませんでした」
「構わないんだぞ!ハーギー!ハーギー!」
「ハーギーで御座います」


おお。
尊が高萩さんに抱き付いている。
平和で、平穏で、凄い良い感じだ。
腹の底からハッピーな再会劇、映画にしたら興行収入三桁億超え間違いなしだ。
それにしても、尊が心底嬉しそうにしていると、此方も嬉しい。

本当に良かった、うむ、本当に。
最後は折れてくれるだろうと信じていたが、受け入れてくれて。
まぁバレたくないならもっと離れた場所で経営しよう、という話だが、そんな簡単な話でも無いのだろう。
マリアナ海溝より深いて深い理由があるに違いない。


「深玲様も、こんなはしたない格好で申し訳ありません」
「いえ、素敵だとは思いますよ。ただ・・・・・」
「雑に散りばめられたハートの刺繍は流石にダサい、ですか?」
「自覚はあったんですね?」


ダサいとは薄々気付いていたのか。
別に高橋さん、ファッションに疎過ぎるということは無い。
センスも人並み以上にある、少なくとも自分よりは上だ。
しかし、何故分かっていながら、そんな都条例に引っ掛かりそうな服を?


「メイドカフェでは、これが正装だと学びましたから。どうやら、過剰だったようですが」
「相変わらずですね、読心術」


吃驚仰天。
あの頃から何も変わらない。
肌年齢も、料理技術も、そして読心術も。
伝統的日本妖怪、サトリを思い出す。
実際、何処まで見通しているのだろうか。

にしても、掟破りの地元走りくらいギリギリを責めた服で諸々騙されていたが、本当に綺麗な人だ。
いや、言うほど騙されていないな。
徹頭徹尾、ずーっと。
うぉ、スッゴイ美人・・・・・、としか考えられなかった。
服装に関しては、後から面食らった。


「人の心を読むなんて、人間ならば誰もが行ったことがある筈です。それが人より巧いだけですよ」
「人より巧い、だけでは片付けられ無いぞ!ハーギーは実質サイキッカーだぞ!」
「高萩さんの前では、隠し事とかも効きませんからね・・・。何度、怒られたんでしょうか」


此の十七年、彼女以上の美人には遭ったことがない。
目も眩むくらい整った顔立ちに、硝子細工のように透き通ったボイス。
懐かしい・・・・・。
子供の頃、高萩さんと出逢い、幼いながらも恋というのを学んだのだ。
一目惚れであった。
それで、公園から摘んできたチューリップを渡して、将来結婚して下さい、なんて告白したり。
いやはや、恥ずかしい限りだ。


「あ、高萩さん、コレを」
「・・・・・え?」


今回は告白では無いが。
花束をプレゼントさせて頂こう。
胡蝶蘭。
花言葉は、幸せを運ぶ。
さて、どうしよう。
小癪なプレゼントとか言われたら。
号泣するかも。


「兄さん!?何か、こう、もっとタイミングとか・・・・・」
「ゴメンね!でも、うかうかしてたらバレちゃうかと思って!」
「だったとしても、だぞ!」


目を点にして、目を丸くして、面食らっている。
珍しい表情だ。
ククク、幾ら読心術があったとしても、読むことが出来なかっただろう!
何てったって、今しがた思い出したのだから。
電車に乗る前、もし高萩さんが居たらサプライズしたいという事で、花束を購入していたということを!

記憶領域をちょいとばかし弄り、高萩さんと出会ってランダムなタイミングでこのことを思い出すよう、セッティングを行った。
なので、こんなロマンもクソもない感じで渡すことになってしまった。
でもこうでもしなければ、表情の機微でサプライズを用意していることがバレてしまう。

思い出したら直ぐに渡す、これが驚きを誘うのにベストだ。
そして、作戦自体は成功だ。
作戦自体があまり良いものでは無かったかもしれない、という事除けば、大成功だ。
バレてしまうことになったとしても、もうちっと環境作りやタイミングに気を遣った方が良かったかもしれないなぁ・・・・・。
反省。


「・・・・・これをワタクシに、ですか?」
「はい。これからの幸せを、強く祈っています」


まあ、言い訳になるだろうが。
この作戦により、三人で高萩さんのこんな表情を見ることができた。
なので、許して欲しい。
許してくりゃれ。

春風が揺れた。
鉄仮面を僅かに歪ませ、ほのかな笑顔を模る。
数ミリ、口角が上がっただけだと言うのに。
何故だか、少し泣きたくなってしまった。


「ありがとう、御座います。生を受けて、今の今まで生きてきて。漸く、人生であった嬉しいことランキングの二位が決まりそうです」
「一位じゃないか~」
「一位ではないです」


一位奪還は叶わなかったが、こんなに言われるなんて。
成果は上々、作戦成功。
万事解決大団円。
嬉しすぎて、嬉しすぎて、死んでしまいそうだ。


「よぉし、折角だから新しい洋服をプレゼントするんだぞ!レミレミ、デザインを頼むだぞ!」
「あら、兄さんに対抗するつもりですか?」
「そうだぞ!兄貴ばっかに良い顔させないんだぞ!ハーギー、少し待って欲しいんだぞ!」


来るか・・・・・!
高萩直伝菅木尊流特技其の一、即席裁縫。
彼女は常日頃から大量の布と裁縫道具を持っており、いつ何時でも、何処にいようとも、服飾をこさえることが可能。
精度もそこんじょそこらのミシンよりも高く、速度に至っては高萩さんにも勝る。

具体的には、ちょっとしたハンカチなら二秒で完成させられるし、無地の布を撫でるだけで柄物に変化させるこたができる。
後者に関しては、絶対妖術とか何か使ってる・・・!


「ワタクシ、こんなに幸せでいいのでしょうか?」
「モチのロンだぞ!人生は楽しむ為にあるんだぞ!存分楽しんだヤツが一等賞だぞ!」
「ええ、今日は再会記念日です。骨の髄まで幸せになって下さい。この中だと、どのデザインが好みでしょうか?」
「承知しました。それと、この中であれば、この服が良いですね。リボンの造形が好みです」


にしても、手早い。
既にデザイン案を三つほど書き上げ、三人でどれがいいか話しあっている。
流石、ファッションデザイナーの娘。
脈々とその系譜が繋がれていくのを感じる。
連綿してんねぇ・・・・・。


「ところで、だぞ」
「何でしょうか?尊様」
「どんな理由があって、こんな所にカフェを経営するに至ったんだぞ?」
「・・・秘密にして下さいね?」


切り込まれた質問を優しく受け止め、人差し指を立て、口元へと運ぶ。
普遍的な動作も、彼女が行えば妖艶にすら写る。
さぁて、如何なる理由を以て、此処で働くことになったのだろうか。
少し心を躍らせながら、耳を傾ける。




「御墓参りがしやすいからです」




明日の献立を話すが如く。
彼女は、そう答えた。


——————————


「へぇ、そうしてブラザーたちは無事に高萩さんへ感動の再会を果たした、と」
「今度の休日、一緒に行く?」
「トーゼン、しかし三人がそんな大層なプレゼントしたとなると、此方も中々のものを用意しなくといけなくなるじゃないか」


現在、時刻八時頃。
コンビニへアイスを買いに行った、その帰り道。
今日あったハッピーな出来事を美月へ報告していた。


「何も用意しなくとも喜ぶと思うけど、ねぇ。カップケーキでも作る?」
「いやいや、それは尊の得意分野でしょ。素人が作っても、稚拙なものしか生まれないよ」
「料理は愛情だよ、少なくとも自分は美月から貰ったら、銀河一嬉しいよ」
「・・・・・・・・はは。そーいうの、ホント嫌いだよ」


不満気に口を尖らせ、夜空を仰ぐ。
首の後ろへ腕を組み、きらりと髪を光らせた。
明るい夜に照らされ、ラムネを想起させるような爽やかな笑顔を浮かべる。
悪戯っぽく、鼻を鳴らしながら。

四人でじゃんけんをして、負けた二人で購入へ繰り出した訳である。
本来は一人だけが行く予定であったが、一緒になって負けてしまったので、折角だから二人で行くことにしたのである。
夕食時に粗方の内容を話したが、まだ話し足りないということで。
楽しい話は、幾らしても楽しいものである。


「・・・・・ブラザーは、さ」
「ん?」
「私たちがバケモノだって知って、どうだと思った?」
「どう、だと」


捨てられた子猫特有の涙目で、美月は疑問を投げ掛けた。
心なしか、月明かりが少なくなったように感じる。
きっと、雲が吹いてきたのだろう。
そうに違いない。

さて、どうだと思ったか、である。
どう思ったのだろうか。
幾千回も擦られ続けた金言だが、自分のことは意外と分からない、というものがある。
それの典型例だ。


「ごめんね、卑怯な聞き方しちゃった」
「・・・・・構わないよ。でも、自分は」


凄いと思ったし。
これからどうしようと思ったし。
カッコいいと思ったし。
教えてくれて良かったのにと思ったし。
辛かっただろうと思ったし。
属性がさらに増えたと思ったし。
思考がごった煮してしまっており、答えを一つに絞れない。
だが、言えることが一つある。


「今自分はそんな皆んなが大好き!これでどうにかならない?」
「ブラザーも大概卑怯者だね」
「長男だからね」
「それじゃあ、長男に免じて今回は見逃すよ」


今は、これで誤魔化す。
何言っても角が立ちそうだったので、これが一番だと思った。
少なくとも、最善では無いだろう。
それにしても、こんな雑に物事を有耶無耶にするなんて。
自分ってホント、悪い人間だ。
アンドロイドだけど。


「あ、そうだ、私買い忘れがあるんだ」
「それじゃあ、先に食わせとくね。早く届けないと、とやかく言われるだろうし」
「頼むよ、ブラザー」


そう言って、曲がり角の奥へ行ってしまった。
まぁ、仔細は兎も角、今日は良い日であった。
墓参り云々は気にしない気にしない。
きっと、明日はもっと良い日になるよね!
ヘッ!!!!!!!!!

















「よぉ、嬢ちゃん」
「・・・・・誰、ですか?」


夜より、黒い毛色で。
渓谷より、深い声色で。
水死体より、青い瞳孔で。
文化包丁より、鋭い奥牙で。

狼が獲物を見定めた。
美しき月へ、鋭利な眼光を向ける。
新月の日の出来事である。
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