掌 ~過去、今日、この先~

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六章 裏

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・・・・・・!!
サマシテヨ
―――――
め、さまして
・・・そーま
――――――
  そーま!!
・・・そーま!しっかりして!
ねぇ!目を開けなさいよ!!
ガーベラ、落ち着いて!
死なないで!!
だめだ、全然血が止まらない!
なに弱音はいてんのよ、なんとかしなさい!
いたいよ、手を離して。
じゃあなんとかしなさいよ!
落ち着いて!
・・・・・・
コスモス・・・。
気持ちは分かるけど、ここでわめいてたって意味がないよ。
でも、コスモス・・・想真が・・・
大丈夫だよ、なんとかなるよ。
―――あんたが死んだらこの先どうするのよ!
・・・とりあえず落ち着こうよ、ガーベラ。
―――コスモス。 なんであんたは落ち着いてられるのよ、想真がこんなふうになってるのに!
まだ死んじゃいない。落ち着けば何とかなるはずだよ。
何とかなる?この荒地でどうやってこの傷を治せるのよ!
・・・・・・・
薬もない、治療器具もない。病院とかの施設もこわされたし・・・
だけどまだあきらめるのは早いよ。
でもどうすればいいのよ!?
・・・とりあえず少し遠いけど、壊れた病院があるからそこに行こう。
動かしちゃだめよ!
だけどこのままここに置いといて殺すわけにはいかないだろ。
でも!
でもじゃない!やるしかないんだ。
・・・・・
僕がやれるだけやってみる。ちょっとだけ知識があるから・・・僕だって想真がこんなふうになってつらいよ。でも、今はやれることはやってみるべきだと思う。
・・・・・わかった。
大丈夫、僕だって想真は大事な人だから死なせたりしないよ。
コスモス、おねがい・・・なんとかして。
わかった。それじゃあ、運ぶのを手伝って。
ガタッ・・・カタン
この担架、二人じゃないと運べないからさ。運んだあとは僕一人でやるから。
・・・・・・
ほら、はやくしないと助かるのも助からなくなっちゃう。
・・・カタン
よし、急ごう。
――――――
想真はね、転校生だったの。
うん?
転校生といっても、近くから転校してきたんじゃなくて違う地域からきた人なの。
・・・・・
だから文化とか方言もあったりして全然なじめなくて、むしろ差別されてる感じだったわ。
私だって最初は違う世界から来た人みたいで距離をおいていたわ。
バカな話よね。違うとこから来ただけなのに嫌うなんて、同じ人間なのにね。それに、みんな人それぞれだし。でも、嫌っているって言うよりも、無視しているっていう感じだったわ。実際、彼の前では直接悪口や暴力とかはふるわななかった。みんな影でチクチク彼を攻撃してたの。
そんな中、あるとき想真がクラスのまとめ役のクラス長になったの。理由は単純で、誰もなりたい人がいなくて、くじで彼に当たったの。
決まったときは教室中が重い空気に包まれたわ。でも、だれも反対する人がいない、というか反対できる雰囲気じゃなかった。心の中では反対しているのにね。それであっさり彼に決まったの。
・・・それでどうなったんだい?
そりゃ彼は最初何もできなかったわ。まぁ、何かしても彼の言うことを聞く人は誰もいないし、彼が話し合おうとも言っても、用事があるから、とかありもしないウソをついてさけてたわ。
たぶんみんな、想真に全部責任がいくからそれを期待してさけてたのかもしれない。クラス長はクラスで何か悪いことが起きるとまずクラス長に責任が行くからね。
・・・想真。
そんなことが何ヶ月かは続いたわ。
予想通り、ほかのクラスともめ事を起こしたやつがいて、もちろん彼が一番責められたわ。前のクラス長ならみんなからいろいろとフォローしてもらって、もめ事を起こしたやつもクラス長にペコペコあやまってたんだけど・・・想真の場合、誰からも助けてもらえず、事を起こした本人もなにくわぬ顔をしてて、全く罪悪感がなかったわ。それでも彼は、何も言わずに責任を負って、彼が悪いわけでもないのにいろんな人に謝っていたわ。今思うとクラス長って、意味が分からない制度よね。
その時気づいたけど、結局みんな彼を追い出したかったのよ。だから嫌ってた。実際私もそうだった。
・・・・・
でもそんなの違う。今だから言えるけど、そんなことしても意味がなかった。
クラスの中でけっこうおとなしい男の子が一人、トスカっていう子が、想真とすこしづつだけど話しはじめるようになったの。
想真もうれしそうに話してたわ。もちろんその男子はまわりから冷たい視線をあびていたけど、もともとクラスの中では存在感が薄くてういてる人だったから、 べつに気にしてなかったみたい。
そんな二人が普通に話しているのを見て、わたしもね、ああ、なんだかんだいって彼も人間なんだって思ってね、想真を嫌うことに疑問をもつようになったの。だってそうじゃない?
ただ文化が違っているだけで、同じ人間であることは変わりはないし、同じ言葉も話せるんだし、想真の性格が悪いわけじゃないから、どこにも嫌う理由はどこにもないわ。
・・・そうだね。
だから、がんばって私も想真に話しかけてみたわ。
そしたら想真のやつ、最初なんて言ったと思う?
・・・?
あんたきびしそうで怖いやつかと思ったけど、けっこうイケてるやつだな。
とか笑いながら言って、正直カチンときたわ。
ははっ、想真らしいや。
あのねぇ、初対面の人に最初の一言がこれよ・・・あきれて声が出なかったわ。
がんばって話しかけてみた私がバカみたいに思ったわ。
でも不思議なことに、それを聞いても全然嫌いにならなかった。むしろ話しやすくなったような感じだったわ。
それから、私は彼と話すようになったわ。最初のころとはまったく違ってね。
でも、やっぱりみんなの目は厳しかったわ。
・・・ガーベラはなんでそんなに自分を犠牲にしてまで想真に話しかけたんだい?
そう、その通りなのよね。自分を犠牲になることは私もわかってたし、敵を増やすだけなのに。
・・・・・
でもやっぱり、何かおかしいと感じたのが大きかったと思う。
・・・それでその後、どうなったんだい?
すこしづつだけど、みんな彼と話すようになってきたの。
へー、すごいなぁ。
実はわたしがね、ちょっとづつクラスの人たちに説得したの。
ガーベラが?
うん。だってそうでしょ?さっき言ったように同じ人間なんだから、文化が違うだけで嫌うのはおかしいでしょ?だから、みんなにそう言ったの。そしたら、中には納得してくれた人もいれば、話すら聞いてくれない人もいたわ。でも、ちょっとづつ想真の友達がふえていった。
・・・・・・
実際彼はいい人だったわ。今まで冷たくされていたのに、そんなことなかったかのように受け入れてくれたわ。だから結局はクラス長になって正解だったわ。心なしかクラスも、今までで一番まとまってたもの。
さすが想真。
だから、コスモス・・・お願い!!
うわっ!!
お願いだから想真を死なせないで!
ちょっ、ちょっと苦しいよ・・・。首をつかまないで。
死んだらだじゃおかないんだから!!
わっ、わかったよ。
うっ、うう・・・
・・・・・・
せっかく・・・なかよく、なれた、のに・・・。
・・・わかった。やれるだけ、やってみるよ。
・・・うっ、ああ・・・そう、ま・・・
――――――――
想真・・・。
残念だが、勝手に助けるわけにはいかない。

たしか人間は血が半分くらいなくなれば致命的であったな。
このまま待てば、勝手に死ぬ。
・・・・・・
ガーベラ。
・・・・・・どうする、このまま見殺しにするか?

いや、彼は今までとは違う人だ。
彼ならきっと―――

まだ、試してみる価値はあるし、確かにこの先を見てみたくなったよ。
・・・あのとき、お前らと手を取り合う約束もしてしまったしな。

ふふっ、人間と手を取り合う・・・か。
すごい約束をしてしまったものだ。

―――――――

急に目の前がパッと明るくなった。
まぶしい。
・・・何も見えないわ。
目を閉じようにも閉じられない。
グチを言おうとした次の瞬間・・・
今度は、目の前がまっ赤になった。
  なんなの?
絵の具のように赤い。血の色にも似てる。
気持ち悪いわね。
妙に赤々しくて、ずっと見てたら気が狂いそうになる。
数分後、やっと目の前の赤いのが引いていった。
・・・・・
気づいたら、空の上。空を飛んでる。
地面は見える。ビルの10階くらいか。この高さから落ちたら死んでしまうと思う。
足元がゆれる。でも、しっかりと右手で角につかまる。
・・・角?
よく見たら、何かいる。というか、私は何かに乗ってる。
  なに、これ?
茶色の竜みたいなへんなものに乗ってる。
これって、ガーゴイルじゃない!?
あの恐ろしいガーゴイルの上に乗っている。ありえない。
足元がグラグラゆれる。なんとか振り落とされないように角につかまる。右手だけで。
「くそっ!」
人の声がした。きっと彼、想真の声だ。
ブンブンと首を振り、彼を振り落とそうとするガーゴイル。
想真はがっちりと角につかまる。左手は見当たらない。
体が左右にゆれて体が浮く。でも、落ちない。
落ちたら即死だ。
とその瞬間、
手が離れた。ふわりと体が宙に浮く。
―――振り落とされた!
この高さから落ちたら死は確実だ。
―――しっ、死ぬ!
「―――シッ!」
いや、違う。
想真は体勢を整え、刀をぐっと握る。
―――わざと飛んだ!?
落ちながら、刀を振りかぶり、
ズバッ!!
一瞬にして刀でガーゴイルの首を切った。
オォォォォォォン!!
ガーゴイルはうめき声をあげ、力がぬけていく。
―――はっ、はやい・・・。
首はつながってはいるが、ガクッと下を向くガーゴイル。どんどん落ちていく。
―――今度こそ死んじゃうわ!
彼はすぐに刀をおさめて、また角につかまる。
足が浮いていく。頭が下をむく。
ゴォォォォォォ!!
ジェットコースターみたいに風切り音しか聞こえない。
―――ううっ、気絶しそう・・・。
現実の世界ならとっくに気絶してる。
どんどん地面が近くなっていく。
このまま落ちたらひとたまりもない!
ただ彼は力いっぱい角につかまるだけ。
地面がすぐそこまで来た。
―――もうだめ!!
目の前がまっ暗になった。
ズドン!!
地面についたと同時に体がまた宙に浮く。
ゴロゴロゴロゴロ!
一回バウンドして転がっていく。
ドカッ!!
「うっ!」
背中に激痛がはしった。
「・・・ちっき、しょ」
壁にぶつかったみたい。
  ガーゴイルをクッションにしたのに・・・なんで壁があるんだよ。
―――いっ、生きてる!?。
彼が目を開けた。
目の前にはあのガーゴイルがいる。横たわっていて動かない。
―――すごい。やっつけたなんて・・・。
サァァと、ガーゴイルが砂のように溶け、風に飛ばされていく。
―――なに、あれ?
「うっ、ああっ・・・」
彼はまだ背中の激痛で動けない。
「想真、大丈夫!?」
タタッと、誰かががかけつけてきた。
「ああ・・・もうちょっと待てば、治る」
想真がその人に話す。
―――ガーベラ!?
「あんた頑丈だからって、今回のは無茶しすぎよ!」
ガーベラが怒ってる。
「仕方ないだろ、こうするしかなかったんだ」
やっと痛みが消えてきた。
「こうするしかなかったって・・・あんた、あんな上から落ちてきて生きてるのが不思議だわ!」
痛みがほぼなくなり、想真は立ち上がる。
―――そう言われるとそうね。それにこの回復力は早すぎるし。
「なんとかガーゴイルをクッションにしてみたけど、ダメだったな」
笑って答える想真。
「バカ!死んだらどうするのよ!?」
「ご、ごめん」
後ろを見ると、コンクリートの壁が鉄球が当たったかのように割れていたた。彼の背中の痛みは無傷だ。
「想真・・・もう、無茶はしないで」
ため息をつくガーベラ。しかし、
「俺がやんなきゃ誰がやる?」
想真はすぐに返す。
「・・・・・」
顔をそらすガーベラ。
「でも、想真・・・これ以上傷つく姿を見たくない」
「いいんだ俺は。気にしなくて。それになぜか体の調子が良いんだ」
確かに以前と比べ、体が軽く、力がみなぎっている感じが伝わってくる。
「あなた、傷の治りが早いのは知っているけど、いつまで続くか・・・左手だって失っているのに」
「大丈夫だって。今はこの片手だけでも何とかなっている。それに、みんなを守れるのなら右手がなくなってもいい」
ぐっと手を握る。
「・・・想真」
ガーベラは何か言いたそうではあったが、あきらめた様子。
「心配するな、俺はそう簡単に死なないよ」
「たしかに、あなたはいつの日かすごく強くなったわ。人間じゃないみたいに。だけど、無茶すれば、いつかは死ぬわ」
「心配しすぎだって。ガーベラらしくないぞ」
「本当に死んじゃいそうだから言ってるのよ!」
ついに怒鳴った。
「すまない。でも、俺が戦わなきゃ」
そういって、彼はガーベラを横目に去っていく。
ガーベラは何も言わず、立ちつくしていた。

・・・・俺は生きている。夢じゃない。

あの日、ガーゴイルの爪を突き刺され、もう死んだと思った。
でも、奇跡的に助かっている。あの痛みも覚えている。それなのに生きている。
気づいたら村に戻っていて、いつものベッドに横たわっていた。起きるとガーベラが泣いて抱き着いてきた。左手がないのはショックだったけど、その代わり、なぜか力がみなぎっていた。体が軽く、どんな重いものでも持ち上げられ、どんなに走っても疲れないようなそんな感覚があった。
もしかしたら、これは俺に残された時間、神がくれた力なのかもしれない。
  だから、きっと俺はそんな長くは生きていられないと思う。実際あの日、死んだからだ。

町は破壊され、人もたくさん死んだ。
しかし、また俺たちは必死で村を修復してる。亡くなった人たちのためにも何度でも何度でも、俺たちはあきらめないかった。
だから、俺はガーゴイルがやってきたら、その都度倒した。村やみんなに指一本触れさせなかった。
徐々に村の人たちから笑顔が見られた。やっとある程度平穏が戻ってきたと感じた。

・・・そう思ってた。
                                                    
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