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第10章 ノトス海戦
第174話 崖下の戦い
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「彼は貴重な情報をもたらしてくれました。崖の向こう、湿地帯の奥では土地が大陸とほぼつながっており、そこからモンスターが押し寄せてきたこと。彼の街はその攻撃によって消滅したこと。街を滅ぼしたモンスターは徐々に西進し、間もなく私たちが住む領域にまで迫っているということでした」
キューマの話が続く。
「しかし一つだけ朗報がありました。ええ、私たちはそれを朗報と見なしました。あなた方が無事に湿地帯を抜け、デーモン1体を倒した後、北の大陸へと旅立っていったことです。ですから私たちは緊張の中にも士気は低くなかったのです」
オレたちは顔を見合わせた。滅ぼされた街というのは高地の街のことだ。
これでハッキリした。帰還の魔法でノトスに来てしまったは、それまでに立ち寄った街が全て消滅していたからだ。だからつまり森の街もモンスターの攻撃で消滅したのだろう。
オレたちが時の歪みの塔で10年を過ごしていた間に何と多くのことがあったのか!
「私たちは差し当たり崖のあるところを防衛線に定めました。幸運にも石材(サルダド様のおかげで持ち運びが可能な重さのものです)はまだ余っていましたので、崖に沿って物見台と砦を築きました。崖も普通なら上り下りできないと思われるかもしれませんが、エルフの敏捷性と、私たちが編んだロープを使えば、見かけよりは簡単に移動ができるのです。私たちが用いるロープはとても細くて頑丈です。さらにエルフのマントは見かけは地味ですが、背景に溶け込んでしまう力があるので、垂直に切り立った崖を移動する私たちは、常人には透明であるかのように感じるでしょう。勿論パランクスの砦と同様、階段を築き、それを魔法で隠したりもしました」
「アルギュロス・ブラキオンはここでもまた貴重な情報を私たちに知らせてくれました。彼は自分たちの街が襲われたとき、そのモンスターたちの構成を正確に記憶していたのです。話を聞くとそれもあなた方のアドバイスだったようですね。モンスターの襲来を予期していた人々はあらかじめすぐに逃げられるようにしていたそうです。勿論そうでない人々もたくさんいたようですが......」
「モンスターの情報さえあれば、エルフには対策があります。私たちは歴史だけは長いのですから。あのワイバーンに対してさえ有効な長槍を製作し、砦から発射できるようにしました。この戦いで我々は二体のワイバーンを討ち取ったのです。亜種とはいえドラゴンの種族を! 二体も!」
エルフにしては珍しく、キューマは興奮した口調でワイバーン討伐の様子を語った。これもパランクスにいた頃からは想像もできないことだ。
キューマの話が続く。
「しかし一つだけ朗報がありました。ええ、私たちはそれを朗報と見なしました。あなた方が無事に湿地帯を抜け、デーモン1体を倒した後、北の大陸へと旅立っていったことです。ですから私たちは緊張の中にも士気は低くなかったのです」
オレたちは顔を見合わせた。滅ぼされた街というのは高地の街のことだ。
これでハッキリした。帰還の魔法でノトスに来てしまったは、それまでに立ち寄った街が全て消滅していたからだ。だからつまり森の街もモンスターの攻撃で消滅したのだろう。
オレたちが時の歪みの塔で10年を過ごしていた間に何と多くのことがあったのか!
「私たちは差し当たり崖のあるところを防衛線に定めました。幸運にも石材(サルダド様のおかげで持ち運びが可能な重さのものです)はまだ余っていましたので、崖に沿って物見台と砦を築きました。崖も普通なら上り下りできないと思われるかもしれませんが、エルフの敏捷性と、私たちが編んだロープを使えば、見かけよりは簡単に移動ができるのです。私たちが用いるロープはとても細くて頑丈です。さらにエルフのマントは見かけは地味ですが、背景に溶け込んでしまう力があるので、垂直に切り立った崖を移動する私たちは、常人には透明であるかのように感じるでしょう。勿論パランクスの砦と同様、階段を築き、それを魔法で隠したりもしました」
「アルギュロス・ブラキオンはここでもまた貴重な情報を私たちに知らせてくれました。彼は自分たちの街が襲われたとき、そのモンスターたちの構成を正確に記憶していたのです。話を聞くとそれもあなた方のアドバイスだったようですね。モンスターの襲来を予期していた人々はあらかじめすぐに逃げられるようにしていたそうです。勿論そうでない人々もたくさんいたようですが......」
「モンスターの情報さえあれば、エルフには対策があります。私たちは歴史だけは長いのですから。あのワイバーンに対してさえ有効な長槍を製作し、砦から発射できるようにしました。この戦いで我々は二体のワイバーンを討ち取ったのです。亜種とはいえドラゴンの種族を! 二体も!」
エルフにしては珍しく、キューマは興奮した口調でワイバーン討伐の様子を語った。これもパランクスにいた頃からは想像もできないことだ。
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