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第9章 追憶
第166話 ゲネオスが見た夢
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ゲネオスは夢を見ていた。
「ゲネオス、この先はちょっとやばい気がする」
洞窟の中を先行していた盗賊が帰ってきて、パーティのメンバーに自身の直感を伝えた。
「行こう」
ゲネオスが盗賊の言葉を無視するかのように答えた。
「大丈夫だ。この先には確実に財宝があるんだ。確実に」
洞窟内の次の急なカーブはパーティ全員で曲がった。そういうときは盗賊も皆と同じ位置まで下がり、不意打ちのリスクを分散するようにしている。
目の前は巨大なフロアが開けていて、そこには財宝がぎっしりと保管されていた。金貨や宝石がまばゆく輝いている。
「おおおぉぉぉぉ」
しかしそこにあったのは財宝だけではなかった。
「竜だ……」
ゲネオスは竜と目が合った。ある種の強力な負の魅力に捕らわれて、合った目を離すことができなかった。しかし次の瞬間目の前が真っ白になった。
「ゲネオス……帰還の呪文を唱えるんだ……」
一瞬何が起こったのか分からなかった。
しかしすぐに、エンカウント直後の先制攻撃で竜が放ったドラゴンブレスをくらっていたことが分かった。目の前にいた盗賊が黒焦げになって、目の前に転がっていたからだ。
「ゲネオス……帰還呪文……」
虫の息の盗賊が再びつぶやいた。
「無理だ! ボクには魔法は使いこなせない」
「だからってこのままじゃ全滅だ! ゲネオス! 頼む!」
相当のダメージを負ったほかのメンバーも言ってきた。
竜の尾がゲネオスを横殴りにした。
ゲネオスは20歩以上の距離を吹き飛ばされた。
頭を振りながら起き上がったときには、もう竜の爪が後衛のメンバーを襲っていた。
僧侶と魔法使いから血しぶきがあがった。
ゲネオスは剣を振りかぶり大声で叫びながら竜のところへ向かった。
竜はこちらを向くと、その口を再び大きく開いた。
「ゲネオス……魔法を……」
瀕死の盗賊がもう一度声を絞り出した。
ゲネオスはハッと我に返ると、呪文の詠唱を始めた。
すぐに自分の身体が空間を移動する感覚がした。
と、その感覚は自分自身が四方八方からねじられる感覚に変わり、やがて自身の身体がバラバラになる感触をまともに味わった。
「うわあああぁぁぁぁ」
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
ゲネオスは暗い森の中で目覚めた。
周りには仲間の姿はなく、そして竜もいなかった。
手にしていた剣は失っていた。
周囲で低いうなり声がした。狼だ。
ゲネオスは愛用の剣がないことに気づくと、近くを転がっていた太い枝を手に取った。そして腰に差した短刀で細かい枝や葉を払い落としていった。
狼のうなり声が迫ってきた。ゲネオスは枝を構えた。
最初の1匹が突然飛び上がってゲネオスを襲ったとき、躊躇することなくゲネオスはその枝を振り回した。狼が血を吹き出しながら地面に突っ伏した。
残りの狼も次々にゲネオスを襲った。ゲネオスはそのたびに手にした枝を振り下ろして、狼に致命傷を与えていった。
やがて戦いが終わると、ゲネオスは手にした棒を眺めた。
「棍棒……」
ゲネオスは作ったばかりの棍棒を腰のベルトに吊り下げると、森の出口を目指して歩き始めた。
・
・
・
竜の潜む洞窟の奥、ゲネオス愛用の剣アンドゥリルは、今も主の還りを待って、暗闇の中で静かに輝いている。
第9章 追憶 ~完~
「ゲネオス、この先はちょっとやばい気がする」
洞窟の中を先行していた盗賊が帰ってきて、パーティのメンバーに自身の直感を伝えた。
「行こう」
ゲネオスが盗賊の言葉を無視するかのように答えた。
「大丈夫だ。この先には確実に財宝があるんだ。確実に」
洞窟内の次の急なカーブはパーティ全員で曲がった。そういうときは盗賊も皆と同じ位置まで下がり、不意打ちのリスクを分散するようにしている。
目の前は巨大なフロアが開けていて、そこには財宝がぎっしりと保管されていた。金貨や宝石がまばゆく輝いている。
「おおおぉぉぉぉ」
しかしそこにあったのは財宝だけではなかった。
「竜だ……」
ゲネオスは竜と目が合った。ある種の強力な負の魅力に捕らわれて、合った目を離すことができなかった。しかし次の瞬間目の前が真っ白になった。
「ゲネオス……帰還の呪文を唱えるんだ……」
一瞬何が起こったのか分からなかった。
しかしすぐに、エンカウント直後の先制攻撃で竜が放ったドラゴンブレスをくらっていたことが分かった。目の前にいた盗賊が黒焦げになって、目の前に転がっていたからだ。
「ゲネオス……帰還呪文……」
虫の息の盗賊が再びつぶやいた。
「無理だ! ボクには魔法は使いこなせない」
「だからってこのままじゃ全滅だ! ゲネオス! 頼む!」
相当のダメージを負ったほかのメンバーも言ってきた。
竜の尾がゲネオスを横殴りにした。
ゲネオスは20歩以上の距離を吹き飛ばされた。
頭を振りながら起き上がったときには、もう竜の爪が後衛のメンバーを襲っていた。
僧侶と魔法使いから血しぶきがあがった。
ゲネオスは剣を振りかぶり大声で叫びながら竜のところへ向かった。
竜はこちらを向くと、その口を再び大きく開いた。
「ゲネオス……魔法を……」
瀕死の盗賊がもう一度声を絞り出した。
ゲネオスはハッと我に返ると、呪文の詠唱を始めた。
すぐに自分の身体が空間を移動する感覚がした。
と、その感覚は自分自身が四方八方からねじられる感覚に変わり、やがて自身の身体がバラバラになる感触をまともに味わった。
「うわあああぁぁぁぁ」
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ゲネオスは暗い森の中で目覚めた。
周りには仲間の姿はなく、そして竜もいなかった。
手にしていた剣は失っていた。
周囲で低いうなり声がした。狼だ。
ゲネオスは愛用の剣がないことに気づくと、近くを転がっていた太い枝を手に取った。そして腰に差した短刀で細かい枝や葉を払い落としていった。
狼のうなり声が迫ってきた。ゲネオスは枝を構えた。
最初の1匹が突然飛び上がってゲネオスを襲ったとき、躊躇することなくゲネオスはその枝を振り回した。狼が血を吹き出しながら地面に突っ伏した。
残りの狼も次々にゲネオスを襲った。ゲネオスはそのたびに手にした枝を振り下ろして、狼に致命傷を与えていった。
やがて戦いが終わると、ゲネオスは手にした棒を眺めた。
「棍棒……」
ゲネオスは作ったばかりの棍棒を腰のベルトに吊り下げると、森の出口を目指して歩き始めた。
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竜の潜む洞窟の奥、ゲネオス愛用の剣アンドゥリルは、今も主の還りを待って、暗闇の中で静かに輝いている。
第9章 追憶 ~完~
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