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第8章 海峡の男
第128話 東へ
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「東、ですか!?」
エレミアが少し驚いた反応をした。
「そうです。アンモスから聞きました。この城から南のエリアはどうなっているのか全く分からないそうですが、東の方は北の大陸に相当近づくところもあるとか」
エレミアは暫く黙って考えていたが、やがて付き人に何か伝え始めた。
付き人が部屋を出て行くとエレミアが口を開いた。
「エルフの歴史に最も詳しい者を呼びにやりました。とは言え私たちに伝わる情報は大変に限られているのですが」
すぐに長老格のエルフがエレミアの私室に現れた。
「陛下、お話とは?」
「ノトスから東のエリアがどうなっているか教えてほしいのです。特に北の大陸との関係について」
長老格のエルフが答えた。
「承知しました。まずはノトスから見た地理についてお話しするのがよいでしょう。ノトスの東側には大河が流れています。ノトスから大河にかけては緩やかな傾斜になっていて、そこから大河に向けて急激な崖になっています。大河はその崖の下を流れています。
「一方ノトスから見て大河の反対側は低地になっていて、川の支流がいくつも分岐しています。その流域は湿地帯にもなっていて、通り抜けるのが極めて困難です」
「ですがこれが我々に味方しました。ノトスの東側に大きな段差と大河・湿地帯があったことが天然の防壁となりました。ノトスの西側は山脈、南側は砂漠ですので、唯一北側が手薄でした。かつてのノトスの戦いでは、この海に面した北側が狙われたのです」
ここで長老格のエルフは言葉を切って我々の反応を確かめた。そしてさらに話を続けた。
「北の大陸とおっしゃいましたな? 誰が申しておりました? そう、アンモスが。いえ、先ほども申しましたように、このデルタ地域を越えて、東へ行った者はおりません。湿地帯の中程までが我らの探索範囲でした。なのになぜ北の大陸の話が出てくるのかというと、それは我々がノトスに来る前、いまだ北の大陸に暮らしていた時代に、南の大陸へ渡る手段を見つけ出していたからです」
「そこは北の大陸と南の大陸の間の距離が非常に狭くなっているところでした。我々の祖先は海峡の南北それぞれの岬に塔を建て、その間を橋で繋ぎました。つまり北の大陸から南の大陸まで、歩いて渡ることができたのです。
「しかしそれははるか昔のこと。モンスターの圧迫を受けるにつれ、その橋は使われなくなり、やがて風化して海峡に崩れ落ちたとのことでございます」
長老格のエルフは話を続けた。
「ではなぜノトスから東へ進むと北の大陸へ行けると思ったのか? その頃記された書物の中に、二つの塔を超えて南の大陸に入り、それから西へ進むと、先ほど申したような大河や湿地帯があったという記録が残っていたからです。つまり我らの祖先は東側からノトスのすぐ近くまで来ていたかもしれないのです。
「もちろん記録に残る大河がノトスの東を流れる大河と同じものであるという保証はございません。我らの祖先の記録も大河までとなっていて、その先に今のノトスが置かれた入り江があったかどうかは分からないからです。
ですがこれらの情報を繋ぎ合わせると、確かにノトスから東へ進めば、北の大陸へと行けるかもしれません。しかしそのためには大河と湿地帯を越える必要がありますし、仮にその先で二つの塔を見いだしたとしても、塔の間の橋はとうの昔に海の藻屑と消えております」
エレミアが少し驚いた反応をした。
「そうです。アンモスから聞きました。この城から南のエリアはどうなっているのか全く分からないそうですが、東の方は北の大陸に相当近づくところもあるとか」
エレミアは暫く黙って考えていたが、やがて付き人に何か伝え始めた。
付き人が部屋を出て行くとエレミアが口を開いた。
「エルフの歴史に最も詳しい者を呼びにやりました。とは言え私たちに伝わる情報は大変に限られているのですが」
すぐに長老格のエルフがエレミアの私室に現れた。
「陛下、お話とは?」
「ノトスから東のエリアがどうなっているか教えてほしいのです。特に北の大陸との関係について」
長老格のエルフが答えた。
「承知しました。まずはノトスから見た地理についてお話しするのがよいでしょう。ノトスの東側には大河が流れています。ノトスから大河にかけては緩やかな傾斜になっていて、そこから大河に向けて急激な崖になっています。大河はその崖の下を流れています。
「一方ノトスから見て大河の反対側は低地になっていて、川の支流がいくつも分岐しています。その流域は湿地帯にもなっていて、通り抜けるのが極めて困難です」
「ですがこれが我々に味方しました。ノトスの東側に大きな段差と大河・湿地帯があったことが天然の防壁となりました。ノトスの西側は山脈、南側は砂漠ですので、唯一北側が手薄でした。かつてのノトスの戦いでは、この海に面した北側が狙われたのです」
ここで長老格のエルフは言葉を切って我々の反応を確かめた。そしてさらに話を続けた。
「北の大陸とおっしゃいましたな? 誰が申しておりました? そう、アンモスが。いえ、先ほども申しましたように、このデルタ地域を越えて、東へ行った者はおりません。湿地帯の中程までが我らの探索範囲でした。なのになぜ北の大陸の話が出てくるのかというと、それは我々がノトスに来る前、いまだ北の大陸に暮らしていた時代に、南の大陸へ渡る手段を見つけ出していたからです」
「そこは北の大陸と南の大陸の間の距離が非常に狭くなっているところでした。我々の祖先は海峡の南北それぞれの岬に塔を建て、その間を橋で繋ぎました。つまり北の大陸から南の大陸まで、歩いて渡ることができたのです。
「しかしそれははるか昔のこと。モンスターの圧迫を受けるにつれ、その橋は使われなくなり、やがて風化して海峡に崩れ落ちたとのことでございます」
長老格のエルフは話を続けた。
「ではなぜノトスから東へ進むと北の大陸へ行けると思ったのか? その頃記された書物の中に、二つの塔を超えて南の大陸に入り、それから西へ進むと、先ほど申したような大河や湿地帯があったという記録が残っていたからです。つまり我らの祖先は東側からノトスのすぐ近くまで来ていたかもしれないのです。
「もちろん記録に残る大河がノトスの東を流れる大河と同じものであるという保証はございません。我らの祖先の記録も大河までとなっていて、その先に今のノトスが置かれた入り江があったかどうかは分からないからです。
ですがこれらの情報を繋ぎ合わせると、確かにノトスから東へ進めば、北の大陸へと行けるかもしれません。しかしそのためには大河と湿地帯を越える必要がありますし、仮にその先で二つの塔を見いだしたとしても、塔の間の橋はとうの昔に海の藻屑と消えております」
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