砕魔のミョルニル

松山さくら

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第8章 海峡の男

第123話 デーモンの階級

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「デーモンを倒したということは、ここも安全ではないな」
マスキロが言った。
「どういうことですか!?」
とアンモスが反応した。
オレたちもマスキロの話に耳をそばだてた。
「魔王とその隷下れいかについては、ワシもまだ分からぬことが多い。ずっと魔王の痕跡こんせきを追ってきたが、いまだ魔王の在処ありかの手がかりをつかむことすらできんのだ。しかしこの世界にはびこるモンスターは全て魔王の手によって作られたことは間違いないようだ。ただ一つ、デーモンを除いて」

マスキロは続けた。
「オークのたぐいも巨大な昆虫も、魔王の魔力によって生み出された、ないし改造されたクリーチャーだ。しかしデーモンは違う。デーモンは魔王が魔界から呼び寄せたもので、だからこそ我々の常識を超えた力を持っている」
「デーモンというのはそんなにも凄い奴なのか?」
オレはここで口を挟んだ。
「サルダド、それはデーモン全体のことを言っているのか? それとも階級の中でのデーモンの位置付けか? デーモンは強いぞ。レッサー・デーモンとは比べものにならんくらいにな。レッサー・デーモンは高位の魔法使いであれば召喚することもできるだろう。それくらい”ありふれた”モンスターと言うこともできる。しかしデーモンクラスとなると、魔王をもってしても数百年に一体呼び寄せられるかどうかだ。ワシの知る限りデーモンは6体しかいない。うち2体はエルフが倒した。こやつは3体目だ。しかしまだ3体残っている。魔王が追加召喚に成功していなければな」

そこにゲネオスが質問を繰り出した。
「ええっと、マスキロ。そうだ、この砦に来る途中だ。確かマスキロは『グレーター・デーモン』と言っていたよね。あの迷子になったオークたちと会ったとき。あれは……」
マスキロはゲネオスの方に振り返って答えた。
「そうだ。グレーター・デーモンがいる。1体だけだ。しかしそれが謎なのだ。デーモンを将軍クラスに例えれば、グレーター・デーモンは王や皇帝に匹敵する強さを誇る。それがなぜ魔王に付き従っているのか」

「マスキロ、魔王というのは一体どういった存在なんだろう。一度マスキロがその名前を口にしたことは覚えているが」
オレが尋ねると、マスキロは少しの間黙ってしまった。
やがてマスキロは口を開いた。
「分からぬ。何百年にも渡る探索を経ても、これだけはどうしても分からなかった。グレーター・デーモンを従わせるほどの力があることは分かっている。世界の全ての支配、それも完全な支配も狙っているようだ。この点は明らかだ。エルフの力がこれほどまでに衰えても(エルフの殿方とのがた、悪く思わないでくれ)、決して攻撃の手を緩めたりしないのだから。しかしその実体が何か、何処にいるのか、皆目見当が付かないのだ」

オレたちは言葉を失って静まった。
やがて先ほどの長命のエルフが口を開いた。
「エレミア妃に伝えなければなりません。包囲軍の全滅と、新たな危機について」
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