サルダドは +3 ウォーハンマー《星砕きのミョルニル》を手に入れた

マツノポンティ さくら

文字の大きさ
上 下
119 / 194
第7章 砂漠のエルフ(下)

第119話 遠雷

しおりを挟む
レイモンを含む部隊は、第二防壁まで防衛ラインを下げて戦っていた。
戦いのかなめであったレイモンが討ち死にしたことは、この防衛戦の成否に大きな影響を与える。
オレたちは東側の櫓も放棄し、第二防壁の守りに加勢する方向に戦術を転換せざるを得なかった。

その後も戦いは続いた。
東側の櫓の中にはもう4人しか残っていなかった。
オレとゲネオスとパマーダにアンモスの4人。ほかの仲間は滑車を使って第二防壁の櫓、もしくは館に隣接する第三防壁まで撤退していた。
しかしこの4人はもう逃げられない。
というのも滑車の役割に気付いたダーク・メイジが、櫓と櫓の間の金属線を魔法で撃ち落としてしまったからだ。

パマーダは背中からトライデントを降ろした。
「パマーダ、どうしたんだ?」
「もう治癒ヒールは打ち止めよ」
パマーダは手を差し出して、オレたちにマナ・ストーンを見せた。
本来赤紫色をしているはずのマナ・ストーンは、すっかり輝きを失って灰色の石ころになっていた。
「治療ができなくなった癒し手ヒーラーもまだやれることはあるわ」
アンモスは腕を負傷していたが、剣を握った状態で包帯をグルグル巻きにしてもらい、がっちりと剣を固定していた。これはつまりパマーダの治癒ヒールの魔法が間に合わなかったことを意味する。
「パマーダ殿は後ろへ。まだまだ私も戦えます」
アンモスはパマーダを制した。

ゲネオスがフラフラと固く閉ざした櫓の扉の方へ向かっていった。
「あれ? ゲネオス。どうした?」
ゲネオスは返事をしない。
オレは慌ててゲネオスを追った。しかしゲネオスは相変わらず無反応だ。
一体どうしたのかと、前に回ってゲネオスの全身を観察した。そしてなんだか妙なことに気付いた。
「あれ? お前、瞳が大きいな。……そうだ、エレミア妃のように。おい! どこへ行くんだ!」
ゲネオスは黙って扉のかんぬきを外すと、そのまま外に出ていこうとした。ゲネオスは剣をさやに収めたままだ。
オレはゲネオスの腕をつかんだが、ゲネオスはあっさり振りほどきそのまま外に出ていった。オレは残る二人に対して声を上げた。
「パマーダ、アンモス、お前たちはここへ残ってくれ!」
「サルダドは!?」
「オレはゲネオスを援護する。何かおかしいんだ」

オレたちが櫓の外に出ると、数体のモンスターがオレたちに気づき、早速攻撃を仕掛けてきた。
オレはゲネオスの前に回って、その攻撃を打ち払った。

ビカッ

かなり近くで稲光がした。

ゴロゴロゴロ

わずかに遅れて雷が鳴った。

ゲネオスを振り返ると、何やら呪文の詠唱えいしょうを始めているようだった。
薄い光がゲネオスの身体を包み、ぼんやりと輝いていた。

そのとき、城塞の内側の方から声がして、その後すぐに何かが飛んできた。
それは巨大なマナ・ストーンだった。
人間の頭ほどの大きさがあり、ゲネオスの側で浮かんでいる。
表面は赤紫色に輝き、何百ものカットが加えられた表面は、それぞれが波のない湖面のように滑らかだった。

マナ・ストーンからは何本もの光の線が放射され、それがゲネオスにつながっていた。
ゲネオスを包む光が強くなり、ゲネオス自身も大きくふくらんだように見えた。
次の瞬間、ゲネオスが叫んだ。

「ライトニング・ストライク!!!!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

処理中です...