砕魔のミョルニル

松山さくら

文字の大きさ
上 下
109 / 175
第7章 砂漠のエルフ(下)

第109話 パマーダの生き様

しおりを挟む
「ヴォラスというのは私たちのふるい言葉で『北へ』という意味なんです」
スピーチの後、エレミアがオレたちに説明してくれた。
エルフたちの歓声の中にあった「ヴォラス」という言葉は、彼らの故郷への想いが込められていた。

オレたちはエレミアの私室に招かれ、情報の交換や明日の作戦について話し合った。
この私室は作戦本部の役割を担うことになり、その後エルフの中でもリーダー格の戦士たちが入れ替わり立ち替わりやってきて、それぞれの持ち場と役割を確認していった。とは言っても総勢300名程度の戦力だ。基本的には全ての戦士が戦闘に加わるしかない。
オレたちが関係するところで言うと、ゲネオスとオレは最前線に陣取り、城壁まで上がってくるモンスターを瞬殺しゅんさつする役割を引き受けた。
パマーダは前線のやぐらこもって負傷者の回復係。マナ・ストーンが可能な限り支給される。
マスキロは前線から多少離れた館付近まで下がり、支援魔法に特化する。ファイヤー・ボールは今回お休みか。

作戦の確認が一段落したところでオレたちは退室し、実際の持ち場を点検しに行った。
「パマーダ、すまなかった」
歩廊ほろうの上でオレはパマーダに謝った。
「別にエルフたちに加勢かせいする義理はなかったんだけど、なんとなく流れで防衛戦に参加することになってしまった」
あんなところでミョルニルを見せびらかしてしまった以上、後には引けないよな、とオレは思った。
「ゲネオスやマスキロは元からやる気だと思うけど……」
二人は昨日打ち上げられたオークがどのようであったか、当時持ち場についていたエルフに質問して回っていた。
パマーダは首を振ってこう言った。
「ワタシだってエルフに加勢するつもりよ。たとえパーティのメンバーが下山すると言ったとしてもね」

パマーダは真剣な顔でオレに問いかけた。
「ねえサルダド、私たち人間はエルフと違っていずれ死ぬんだから、どうせなら意味のある死に方をしたくない?」
意味のある死に方? オレは今までそんなことを考えたことがなかった。
オレが返答に詰まっていると、パマーダは続けて言った。
「実際には何の意味もない死に方っていうのはあるのよ。ひょっとしたらワタシたちがノトスに着く前に出会ったエルフの王も、その死に方自体は何の意味もなかったかもね。結局プエルトから援軍は来なかったんだし」
パマーダは一呼吸置いた。
「まあ彼はその後執念しゅうねんでクラーケンの中にとどまり、ゲネオスに大切な品を渡すことはできたんだけど」
パマーダはオレの目を見た。
「だからこそ私は意味のある生き方にこだわる! この戦いでは結果としてあっさり死んでしまうかもしれないし、そのことを誰にも伝えてもらえないかもしれないけど(ここでみんな全滅したらね)、少なくともモンスターの大群を前に一歩も引かず、追い詰められたエルフを助けようとした、という生き様は意味のあるものだと思う」
言い終えると、パマーダは胸の前で印を結んだ。

「まあワタシはそんなに簡単には死なないよ。サルダドもゲネオスも鉄壁の防御でワタシたちを守ってくれるんでしょ?」
パマーダはニコリと笑って言った。
「もちろん!」
オレは力強く答え、ゲネオスたちのところへ行って、今度は胸壁きょうへきのチェックに加わった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...