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第7章 砂漠のエルフ(下)
第86話 山の城への道
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翌朝、オレ達はクレーネの街を出て、再び砂と石と岩の世界に足を踏み入れた。
「マスキロ、昨日は何の魔法を唱えようとしてたんだ?」
俺は道すがらマスキロに近付いて尋ねた。
「カウンターマジックだ。あれは危なかったぞ」
マスキロは真っ白なローブの下から答えた。
「あのままゲネオスに魔法を撃たせていたら、宿屋が建物ごと吹き飛んでいただろう。せめてカウンターマジックで被害を減らそうと思ったが、ゲネオスが途中でやめてくれて助かった」
魔法が使えないオレでさえ、ゲネオスが呪文を唱え始めたとき、周囲が急に不穏な雰囲気に包まれたのを感じた。
「勇者の魔法というのは、その、そんなにもヤバイのか?」
「いや、そんなことはない。補助魔法が主体だし、その補助魔法も僧侶のものより劣る。攻撃魔法も魔術師の方が強い。ただ高位魔法になると、勇者特有の強力なものはあるがな」
「その強力な魔法をゲネオスが唱えようとした?」
マスキロは何も答えなかった。
「ゲネオスはなんでそんな強力な魔法を使えたんだろう?」
「使えるとは限らんが。いや、ひょっとすると使えるのだけれども……」
マスキロの言葉は最後に独り言のようになり、その先は聞き取れなかった。
山の城に向かう道の途中までは蠍の狩り場へ行くルートと同じだ。
やがて遠くに山脈が見えてくると、砂丘地帯を横手に取って、今度はその山の方向へ針路を取った。
砂の割合が減り、石や岩が増え始めた。
道は緩やかに傾斜し始め、気付いたときには山道と言えるほどになっていた。
それでも道幅はしっかりあり、ミラヤが立ち往生することはなかった。
「確かパランクスの山城はエルフたちの防衛の拠点だったよな?」
オレはゲネオスに話しかけた。
「ああ、おそらくそうだろう。街の長老によるとオアシスの街ができる以前からエルフたちが築いていたそうだ」
「それなのに妙に道が整っていて歩きやすい。これで守りになるのかな?」
砂漠から続く山道に植物の影は僅かで、単調な茶褐色に染められている。
道の両サイドは少しずつ盛り上がり始め、やがてその盛り上がりが壁のようになった。
その高さが我々の背丈を超えると、道は山を切り通して作られているのが分かった。
頭上を遮る木々はないため、上方を仰ぎ見ると空が見えたが、道が続く角度によっては太陽の光が遮られ、涼しく感じられるところもあった。
「まるで迷路みたいね」
パマーダがつぶやいた。
急に開けた場所に出た。山の中にできた天然のパティオで、20メートル四方が収まる空間はありそうだ。
その先に切り通しの道が三つ続いていた。
オレたちは顔を見合わせた。
「パマーダの言うとおりだ。本格的な迷路が始まったぞ」
「マスキロ、昨日は何の魔法を唱えようとしてたんだ?」
俺は道すがらマスキロに近付いて尋ねた。
「カウンターマジックだ。あれは危なかったぞ」
マスキロは真っ白なローブの下から答えた。
「あのままゲネオスに魔法を撃たせていたら、宿屋が建物ごと吹き飛んでいただろう。せめてカウンターマジックで被害を減らそうと思ったが、ゲネオスが途中でやめてくれて助かった」
魔法が使えないオレでさえ、ゲネオスが呪文を唱え始めたとき、周囲が急に不穏な雰囲気に包まれたのを感じた。
「勇者の魔法というのは、その、そんなにもヤバイのか?」
「いや、そんなことはない。補助魔法が主体だし、その補助魔法も僧侶のものより劣る。攻撃魔法も魔術師の方が強い。ただ高位魔法になると、勇者特有の強力なものはあるがな」
「その強力な魔法をゲネオスが唱えようとした?」
マスキロは何も答えなかった。
「ゲネオスはなんでそんな強力な魔法を使えたんだろう?」
「使えるとは限らんが。いや、ひょっとすると使えるのだけれども……」
マスキロの言葉は最後に独り言のようになり、その先は聞き取れなかった。
山の城に向かう道の途中までは蠍の狩り場へ行くルートと同じだ。
やがて遠くに山脈が見えてくると、砂丘地帯を横手に取って、今度はその山の方向へ針路を取った。
砂の割合が減り、石や岩が増え始めた。
道は緩やかに傾斜し始め、気付いたときには山道と言えるほどになっていた。
それでも道幅はしっかりあり、ミラヤが立ち往生することはなかった。
「確かパランクスの山城はエルフたちの防衛の拠点だったよな?」
オレはゲネオスに話しかけた。
「ああ、おそらくそうだろう。街の長老によるとオアシスの街ができる以前からエルフたちが築いていたそうだ」
「それなのに妙に道が整っていて歩きやすい。これで守りになるのかな?」
砂漠から続く山道に植物の影は僅かで、単調な茶褐色に染められている。
道の両サイドは少しずつ盛り上がり始め、やがてその盛り上がりが壁のようになった。
その高さが我々の背丈を超えると、道は山を切り通して作られているのが分かった。
頭上を遮る木々はないため、上方を仰ぎ見ると空が見えたが、道が続く角度によっては太陽の光が遮られ、涼しく感じられるところもあった。
「まるで迷路みたいね」
パマーダがつぶやいた。
急に開けた場所に出た。山の中にできた天然のパティオで、20メートル四方が収まる空間はありそうだ。
その先に切り通しの道が三つ続いていた。
オレたちは顔を見合わせた。
「パマーダの言うとおりだ。本格的な迷路が始まったぞ」
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