37 / 194
第4章 幽霊船
第37話 ロイヤル・クラウン
しおりを挟む
マストの上から骸骨を下ろしたのは翌朝になってからだった。
真っ暗な中では気持ち悪いし、夜風に当てればあのドロドロの体液も乾くだろう。
くじで負けた船員がマストを登り、必死の思いで骸骨を下ろした。
そしてあらためてマストの根本に骸骨を坐らせた。
ずっとクラーケンの体内にあったにも関わらず、骨には欠けたところがなかった。
そして額の王冠も輝きを失ってはいなかった。
「これは略式の冠だと思う」
ゲネオスが言った。
「略式?」
「そう。旅行や出征中に着ける王冠。普通の王冠だと移動中邪魔だから」
ゲネオスは王冠に手を掛けてそれを骸骨の頭から抜き取った。
略式とゲネオスが称するだけあって、それほど厚みのあるものではない。
しかし金でできたベースの部分は極めて精巧な細工が施され、小粒だが色も良く傷のない宝石が、ごく僅かではあったものの金の冠に嵌め込まれていた。
「この紋章、どこかで見たような……」
ゲネオスがつぶやいた。
オレも王冠の意匠を見てみたが、変わったデザインだなと思っただけで、その形に特に心当たりはなかった。
そのとき骸骨の右手が動いた。
それはゆっくりな動きであったが、右手を前に持ち上げ、人差し指の骨だけ残して折り畳むと、丁度どこかを指さしているような形になった。
その方向は、登ったばかりの太陽に対して、やや右側だった。
「船長、この方向には何があるんですか?」
ゲネオスが尋ねた。
「この船の目的地を指さしているのようだが、少しずれているような気がする。あの方向だともう少し内陸、、、そう、砂漠の方だな」
「砂漠……」
ゲネオスが骸骨に振り返った。
「陛下は砂漠の方から来られたのですか?」
ゲネオスは骸骨を王として扱った。骸骨は頷いたように見えたが、それは頭蓋骨が前方に落ちていく動きの一部だった。
既に骸骨は風化を始めており、頭蓋骨だけでなくそれ以外の骨も崩れ始めた。
崩れた骨はやがて亀裂が入り、粉々になって風に吹き飛ばされていった。
「その王冠はゲネオスが預かっておけよ」
オレはゲネオスに言った。
真っ暗な中では気持ち悪いし、夜風に当てればあのドロドロの体液も乾くだろう。
くじで負けた船員がマストを登り、必死の思いで骸骨を下ろした。
そしてあらためてマストの根本に骸骨を坐らせた。
ずっとクラーケンの体内にあったにも関わらず、骨には欠けたところがなかった。
そして額の王冠も輝きを失ってはいなかった。
「これは略式の冠だと思う」
ゲネオスが言った。
「略式?」
「そう。旅行や出征中に着ける王冠。普通の王冠だと移動中邪魔だから」
ゲネオスは王冠に手を掛けてそれを骸骨の頭から抜き取った。
略式とゲネオスが称するだけあって、それほど厚みのあるものではない。
しかし金でできたベースの部分は極めて精巧な細工が施され、小粒だが色も良く傷のない宝石が、ごく僅かではあったものの金の冠に嵌め込まれていた。
「この紋章、どこかで見たような……」
ゲネオスがつぶやいた。
オレも王冠の意匠を見てみたが、変わったデザインだなと思っただけで、その形に特に心当たりはなかった。
そのとき骸骨の右手が動いた。
それはゆっくりな動きであったが、右手を前に持ち上げ、人差し指の骨だけ残して折り畳むと、丁度どこかを指さしているような形になった。
その方向は、登ったばかりの太陽に対して、やや右側だった。
「船長、この方向には何があるんですか?」
ゲネオスが尋ねた。
「この船の目的地を指さしているのようだが、少しずれているような気がする。あの方向だともう少し内陸、、、そう、砂漠の方だな」
「砂漠……」
ゲネオスが骸骨に振り返った。
「陛下は砂漠の方から来られたのですか?」
ゲネオスは骸骨を王として扱った。骸骨は頷いたように見えたが、それは頭蓋骨が前方に落ちていく動きの一部だった。
既に骸骨は風化を始めており、頭蓋骨だけでなくそれ以外の骨も崩れ始めた。
崩れた骨はやがて亀裂が入り、粉々になって風に吹き飛ばされていった。
「その王冠はゲネオスが預かっておけよ」
オレはゲネオスに言った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる